第十二話 勝負始まり早々に危機?
悪魔は召喚も行われていないのに朝早くからやってきた。
「 サリーちゃん、さーちゃん、素晴らしい夜は過ごせたかしら?」
今日の悪魔改めシアンの格好はレイヤードフリル半袖ボレロを上着に、その下に肩紐と胸元にサテン生地を使われ、それが柔らかなシフォンに切り替えられた胸元から下からふらしとした程良いフレアーなスカートがシルエットにメリハリをつけた紺のワンピース。胸元から覗く黒いレースと裾のレールが統一感を出し、胸元のサテン生地の大きなリボンがそのシアンの上品な華やかさを引き出していた。
その片手には大きめガマ口とカットガラスとパールのアクセントが光る気持の良さそうなシャンパン色のサテンが使われたクラッチバッグが持たれ、白い足にはサテン使いY字型の7㎝はあるヒールのストラップシューズが履かれていた。両耳には小さなパールとラインストーンが可愛い5弁花モチーフイヤリングが揺れ、同じモチーフのネックレスがその首元を飾っている。サリルトと同じ腰まである銀色の長い巻き毛は深めに下ろした黒いスウィートバングとふんわりとしたポニーテール。その緑色の瞳をキョロキョロと動かし部屋の中を見渡すと、そのままサリルトと斎鹿の座っていた中央の椅子まで優雅に歩いてくる。サリルトは、立ち上がり姉が座るであろう席の後ろに行くとその椅子を引いて姉を待つ。
「 おはようございます、姉上。 とても満ち足りた夜でした。 斎鹿とも深く色んな意味ですべてを知り尽くすことができました」
「 まぁ‼︎」
シアンは引かれて椅子に座りながら、嬉しそうにサリルトの言葉に笑みを浮かべる。サリルトもシアンを座らせると自分の席に戻り腰掛けた。そして、斎鹿の右手を取るとそっと両手で労わるようにシアンが握る。
「 サリーちゃんにとっては十分に満ち足りたようね。サーちゃんも素晴らしい夜だったかしらぁ?」
「 うぇ‼︎まぁ、はい…まぁ」
「 ふふ、可愛らしい。 照れているのね」
シアンの問いに視線を彷徨わせながらしどろもどろに答える斎鹿がシアンにはサリルトとの夜の話を聞かれ照れている、と受け取られたらしく、変な誤解はされたがこの時ばかりはシアンに感謝したいぐらいだった。
どうやら斎鹿に嘘を吐く才能はないし、演技力もほとんどないらしい。
「 姉上、斎鹿も私も昨日から湯にも入らず服もそのままなのですから、着替えに行ってもよろしいですか?」
サリルトは席から立ち上がると斎鹿の左手を掴み、引っ張り上げて立たせると、左手を掴んでいた手を離して斎鹿の肩を抱き寄せた。それを見たシアンは一瞬目を見張ったが、2人に向けて笑顔を見せそのまま右手を横に流すように動かす。シアンに握られていた手はそのまま離れた。
「 ありがとうございます」
サリエルと斎鹿はそのまま扉を抜け広い廊下を歩いていく。その様子を見ていたシアンは、1人残された部屋で大窓の外を見る。
その長く白い足を組み、左手で右の肘を支えるように持ち右手を顎に当てて悩んだように遠くを眺める。
「 シアン様」
そこに遅れてやってきたセバスチャンが昨日と変わらぬ正統派執事燕尾服で開けられたままの扉に現れた。
「 ねぇ、セバスチャン。 私を騙そうなんて100年早いと思わなくて?」
「 はい」
窓に顔を向けているシアンの顔をセバスチャンは窺い知ることは出来ないが、きっと穏やかではなく悪魔が獲物を見つけた時のように楽しげにその口角を上げているのだろうと察していた。
「 あなたはサリルトの方に行ってちょうだい? 斎鹿ちゃんは、私がちょっとした罰を与えてくるから」
「 かしこまりました」
シアンがサリルトを「サリーちゃん」ではなく「サリルト」と呼ぶ時はご機嫌斜めの証拠。
アルファイオス公爵家に大型台風到来の危機。
そんなことを知らないサリルトと斎鹿はまだ長い廊下をサリルトが斎鹿の肩を抱いて歩いていた。
「 姉上に手を握られただろう。大丈夫だったのだろうな?」
サリルトの言葉に斎鹿がキョトンと見上げる。
「 別にきつくは握られてないよ?」
サリルトは大きなため息を吐き、その場で立ち止まると周囲を確認し、斎鹿の肩から手を離した。
「 …馬鹿か」
「 誰が馬鹿じゃい」
「 昨日のマゼンタの話を聞いていなかったのか。 姉上には人の記憶を視る力がある」
斎鹿は歩みを止め、ポンと手を叩いた。
「あぁっ‼︎」
「 その耳は飾りだったらしいな」
首を左右に呆れてように振り歩きだすサリルト。
「 馬鹿もほどほどにしないと呆れてものも言えなくなるな。馬鹿だと思っていたが、これほどまで大馬鹿だとは思っていなかった。馬鹿は馬鹿なりに考えていると考えた私に非があるとしても、馬鹿は何も考えてもいなかったか」
「 すいませんねぇ。 馬鹿で馬鹿で大馬鹿でっ‼︎」
追いつこうと少し先を歩くサリルトに向かい斎鹿は走りながら早口で怒声にも似た声を上げる。
そして、こけてしまえっ!、と両手を前に出しその背を思い切り押すが斎鹿の方が弾かれてしまった。
「 何すんの!」
「 自分であたってきたんだろう。なぜ、私が責められなければならん。自己責任という言葉を知らないのか」
「はーらーたーつー‼︎」
廊下を2人で横に並びながら口論を続けていると、それを周りの使用人達は礼も忘れ目を疑ったように見ている。唯一笑顔だったのは、その声を1階から聞いていた執事マゼンタだけだった。
どうやらサリルトと斎鹿の声は隠す気もないほど大きく響いているらしい。
そして、サリルトと斎鹿のわずか10m後ろにセバスチャンが穏やかな笑みを浮かべてついてきているのをまだ2人は恐ろしいことに知らない。
ありがとうございました。
2014/10/24 編集致しました。