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第十一話 勝負はこれから


 「 と、姉上に求婚の言葉が何か聞かれたら答えろ」


 斎鹿は求婚の言葉に先程の穏やかな笑みとは違い、般若のような形相でサリルトのように窓の縁にソーサーとカップを置くと、掴まれている手を乱暴に振り払い立ち上がるとそのままベットへと足を進めた。残されたサリルトは斎鹿の振る舞いに怒ることもなくその場で立ち上るとそのまま斎鹿の後を追った。先に壁側のベット横に着いた斎鹿は履いていたスニーカーの後ろの部分を片方ずつ踏み合い、足を振って乱暴に履き捨てた。哀れな靴の1足は裏を向いて少し離れたドレッサーの前へ、もう1足はベット脇の壁に一度ぶつかり横を向いている。それを気にすることなく、そのまま斎鹿はベットに入り込む。

 後を追ってきたサリルトは、斎鹿の靴をそれぞれ拾いに行くとベットの横に綺麗に揃えて置いた。

 そして、中央に置かれた椅子に黒いローブとスーツのような上着をその背に掛け、扉まで戻り菫色のパネルに手をかざして灯りを消すと、窓側のベット横まで行きベットの縁に腰をかける。やはり良いベットは違うのか、ギシリとも言わずにサリルトを受けとめる。そのまま靴を脱ぎ綺麗に揃えると、上から2番目までの釦を開けた白いカッターシャツと黒いスーツのズボンのような格好でサリルトもベットに入った。


「 ちょっと、何であんたまでベットに入ってくんのよ」


「この部屋にベットは1つしかない。 一緒に寝るほかあるまい」


「 ここは女性にベットを譲るところでしょうが!」


 斎鹿が思わず飛び起きるがサリルトはそのまま仰向けに横になったまま目を閉じている。

 

「 嫌だ」


 斎鹿はベットの上にサリルトに向かい直して座ると、下から持ち上げるようにサリルトを押す。しかし、抵抗もせずに押されていたサリルトだったが、斎鹿に187㎝もある男を多少揺らせたとしても到底ベットから落とすことは出来そうにない。

 懸命な頑張りも疲れるだけという結果が出てしまった。

 

「 どいてよ」


「 嫌だ」


「 どいて」


「 嫌だ」


「…んじゃあ、私が床で寝る」


 この押し問答に終止符を打ったのは斎鹿だった。サリルトに言っても聞かないのはここに来てからの今日1日で良く分かっていたからだ。斎鹿がサリルトに背を向けベットから降りようとする。

 すると、突然右腕を引かれそのまま重力に従って後ろに倒れ込んでしまい、そのままサリルトの胸に頭から飛び込んでしまった。

 そして、サリルトが斎鹿の腹に両手をまわし抱き込むと、仰向けから横向きにかえた。当然斎鹿はサリルトの胸から頭が滑り落ち、上半身と下半身が直角になってしまう。

 

「 ちょっ‼︎」


 斎鹿は足をジタバタさせたり、腹に巻かれた手を自身の手で解こうとしたがしっかりと抱き込まれていて外せそうになかった。


「 夜は冷える。 心配しなくとも手は出さん」


 目を閉じたまま斎鹿に告げるサリルトは明日まで開放する気はなさそうだ。

 サリルトは言ったことに嘘はない、それも今日1日で斎鹿が知ったことだった。

 斎鹿も無駄な抵抗は早々に諦め、手を伸ばして横になったままふわふわの掛け布団を取ると首元まで引っ張り上げた。


「…おやすみ」


「 おやすみ」


 互いに眠りの挨拶を交わし、目をつぶるが斎鹿は耳元に聞こえるサリルトの呼吸音と背中から伝わる体温でなかなか眠りにつくことが出来なかった。しばらくするとサリルトの規則正しい寝息が聞こえてきた。その様子からサリルトは斎鹿を気にせず安眠出来たらしい。


「 …ばぁか」


 そして、斎鹿もゆっくりと眠りに落ちていった。



 やがて穏やかな朝の光が部屋を照らした。

 

「 むぅ」

 

 先に目を覚ましたのは斎鹿だった。

 あまり眠れた気はしなかったが、それでも少し体力は回復しているようだった。

 そのままぼーっと寝ころんだままいると、昨夜腹に巻きつかれていたサリルトの手が外れていた。

 ゆっくりとその腕から抜け出し、サリルトに向き直る。

 

「 おーい、朝になったぞー」


 サリルトの横腹を右手で揺り動かし起こそうとするがまったく起きる気配がない。

 再び、今度は両手で思い切り揺り動かすがこれでも起きる気配がない。

 ここで斎鹿の悪戯心に蝋燭1本ほどの火がついてしまった。

 サリルトの顔に少し近付き耳元に口を寄せるとフーッと息を吹きかける。

 すると、サリルトが身体をわずかにビクッと震わせる。


「…何だ」


 まだ覚醒していないサリルトは横になったまま斎鹿を見上げる。

 

「おはよう」


「朝か‼︎」


 突然覚醒したサリルトは、勢いよく起き上がり焦ったように裸足のまま大窓に駆け寄ると空の様子をみる。その空は明るく澄んだ青空で横に並んだ白い月が3つ浮かんでいた。

 

「 まだ早天だな」


 サリルトは肩の力を抜き、ゆっくりと首を回した。

 

「 まだお姉さん来てないみたいだし、朝はゆっくり出来るかもね」


 斎鹿がベットの上で「うーっ」と両手の指を互い違いに組んで前に突き出し伸びをした。


「いや、勝負は朝から始まるらしい」


 外を眺めていたサリルトが遠くを凝視していた。サリルトの言葉に嫌な予感を感じた斎鹿は急いでベットから降りサリルトの横に駆け寄る。

 予想は的中した。

 遠くの方から2頭の馬が馬車を引いて駆けてくるのが見えた。

 

「 姉上だ」


 斎鹿がサリルトの言葉に頷く。


 さぁ、戦闘開始だ。



ありがとうございました。


2014/10/24 編集致しました。

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