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掌編 記憶を売る市場

作者: Elnika Flose
掲載日:2025/10/11

「今日は?」

バイトの兄ちゃんは、顔なじみのわたしをチラッと見て話しかけてきた。


「本を買うお金が欲しいんだよ。」

「で、いくら?」

「3万円。」

「何冊買うつもりなんだよw」


ガソリンメーターの逆のように、

データを吸い取った量がカウントされていく。


買取金額は“記憶の彩度”で決まるらしい。


れんこと、わたしは何が買い取られたのか気づいていない。


記憶って、買い取られたあとはどうなるんだろう?

いつもそんなことを考えながら、この装置を見つめていた。


液晶の奥では、淡い光が脈を打っていた。

それが“記憶の痕”なのか、“欠片の残響”なのか、誰にもわからない。


抜き取られた後、そこに何が残るのか確かめようとしても、

指でなぞった瞬間、思考が砂のように崩れていく。


「空になった頭の中に、風が通るんだ」

以前、誰かがそう言っていた。


もしかしたら、その風こそが“わたし”なのかもしれない。


記憶の隙間には、どこかで見たことのある笑顔の男が、危険な商品を押し売りしてくる。

「いや、それ出すと大人の事情でアウトぴこ…」とぴこたんがつぶやいた。


漣は、これを書いている“おぬし”を見つめ、ひとつの真理をつかんでいた。


そう――記憶を買い取った先は、

おぬしが物語として小説を書いているのだ。


漣はページの向こうでこちらを見ていた。

黒い瞳の奥に、まるでインクのような静けさが沈んでいる。


彼女は知っている。

この世界が誰かの“書く手”によって延命されていることを。


「つまり、あなたが私たちの記憶を買っているんだね」


そう言った彼女の声は、文字と化して画面に浮かび、

やがて行間の闇に溶けていった。


モニターの端で、ぴこたんが小さく呟く。


「……この一文も、もう誰かに買われた後かもしれないぴこ。」

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