第9話 新しい日常
第9話 新しい日常
「レオンさん、朝食ができました」
セレスが仲間に加わってから三日が経った。
エリアが携帯コンロで作った食事を持ってくる。最近は三人分の食事を作るようになって、少し大変そうだが、どこか嬉しそうにも見える。
「ありがとうございます」
レオンが作業の手を止める。
「でも、セレスさんにも手伝っていただければ……」
「私は料理は苦手なの」
セレスが少し恥ずかしそうに苦笑いする。
「学院では食堂があったし、実家でも使用人が……」
「お嬢様だったんですね」
レオンが感心する。
「まあ、そんなところかしら」
セレスが頬を薄く染めて照れたように答える。
「でも、その代わり魔導工学の理論面では協力できるわ」
セレスが誇らしげに胸を張り、知的な輝きを瞳に宿す。
食事を済ませて、三人で今日の作業について話し合った。
「今日は何を作る予定ですか?」
セレスが興味深そうに聞く。
「そうですね……」
レオンが考える。
「もしよろしければ、エリアさんの装備をもう少し充実させてみたいのですが」
「装備?」
エリアが首を傾げる。
「冒険者用の魔道具のことです」
レオンが説明する。
「【魔力調整リング】だけでは、もしかしたら不十分かもしれません」
「不十分って」
エリアが驚く。
「これだけでも十分すぎるくらいですが……」
「でも、防御系の魔道具がありませんよね?」
レオンが心配そうに言う。
「防御系?」
「攻撃を受けた時に身を守る魔道具です」
レオンが立ち上がる。
「できれば、現代のものより効果的なものを作ってみたいのですが……」
セレスが身を乗り出す。
「防御系魔道具? 具体的にはどんな?」
「【魔力障壁ペンダント】なんていかがでしょうか?」
レオンが工房を見回す。
「常時展開型の防護結界を作れるかもしれません」
「常時展開型?」
セレスが驚く。
「それって、膨大な魔力が必要でしょう?」
「普通はそうですね」
レオンが困ったような顔をする。
「でも、効率を上げれば何とかなるかもしれません」
「効率を上げるって……」
エリアが小さく首を振りながらため息をつく。
「また『きっと大丈夫』の話ですね」
「大丈夫だと思うんですが……」
レオンが申し訳なさそうに笑う。
「理論的に可能だと思うので、作れるかもしれません」
セレスが頭を抱える。
「理論的に可能って……そんな簡単に言わないでください」
「すみません」
レオンが謝りながら作業台に向かう。
「とりあえず、やってみます」
レオンが材料を並べ始める。今度は青い魔石と、銀の細工が美しいペンダントの台座。
「これも【共鳴金属】を使うんですか?」
エリアが材料を見つめる。
「はい。でも今回は少し違う処理をしてみたいと思います」
レオンが金属を手に取る。
「防御に特化した魔力パターンに調整してみます」
「防御に特化?」
セレスが知的な好奇心を輝かせながら興味深そうに見つめる。
「【共鳴金属】にそんな機能が?」
「処理次第で、いろいろな特性を持たせられるみたいです」
レオンが金属に魔力を流し始める。
すると、金属の色が微妙に変化した。銀色から、淡い青みを帯びた色へ。
「色が変わった……」
エリアが驚く。
「魔力の性質が変化したからだと思います」
レオンが説明しながら加工を続ける。
「攻撃的な魔力を跳ね返すような構造にしてみています」
一時間ほどで、美しいペンダントが完成した。中央に青い魔石が埋め込まれ、周囲に複雑な魔法陣が刻まれている。
「できました」
レオンがペンダントを掲げる。
「もしよろしければ、試してみていただけますか?」
エリアがペンダントを首にかけると、すぐに薄い光の膜が彼女を包んだ。
「わあ……」
エリアが自分の体を見回す。
「光ってる……」
「常時展開型の防護結界のつもりです」
レオンが説明する。
「物理攻撃も魔法攻撃も、ある程度までなら自動的に防げるはずです」
「ある程度って、どのくらい?」
セレスが専門的な質問をする。
「そうですね……」
レオンが考える。
「計算上は、中級の攻撃魔法なら完全に無効化、上級魔法でも威力を半分以下に減らせるかもしれません」
「半分以下って……」
セレスが絶句する。
「そんな防御力の魔道具、聞いたことないわ」
「古代技術と現代技術を組み合わせてみたので……」
レオンが謙虚に答える。
「でも、魔力消費は大丈夫なんですか?」
エリアが心配そうに聞く。
「【魔力調整リング】と組み合わせていただければ問題ないと思います」
レオンがうなずく。
「むしろ、相乗効果で両方の効率が上がるかもしれません」
「相乗効果?」
「二つの魔道具が互いに補完し合うつもりで作りました」
レオンが指輪とペンダントを指差す。
「計算上は、魔力消費をさらに三割減らせるはずです」
エリアとセレスが目を見合わせた。
「三割も……」
セレスが息を呑む。
「もう魔力切れを心配しなくてよくなるわね」
「それが目的です」
レオンが嬉しそうに笑う。
『レオンよ』
【魔核炉心】の声が響く。
『良い仕事だ。だが、あまり高性能すぎると……』
「使う人が怠けてしまうんでしたね」
レオンがうなずく。
「でも、エリアさんはそんな心配はいらないと思います」
「そんな心配って……」
エリアが困った顔をする。
「どういう意味ですか?」
「エリアさんは真面目で、向上心があって、責任感の強い方ですから」
レオンが心から信頼する気持ちを込めて振り返る。
「だから、道具に頼らず、自分も成長し続けられると思います」
エリアの頬がほんのりと赤くなった。セレスもレオンの言葉に同意するように微笑んでいる。
「そ、そんなに褒められても……」
「褒めてるつもりはありません」
レオンが首を振る。
「事実だと思うので」
「事実って……」
エリアがもじもじする。
「レオンさんって、たまに恥ずかしいことを真顔で言いますね」
セレスがくすくすと笑う。
「エリア、顔が真っ赤よ」
「真っ赤じゃありません!」
エリアが慌てる。
「それにしても」
セレスが工房を見回す。
「こんなに楽しい研究生活は初めてかもしれないわ」
「研究って言うより、もう冒険みたいですね」
エリアが【魔力障壁ペンダント】の光を見つめる。
「毎日が驚きの連続です」
『私も久しぶりに楽しませてもらっている』
【魔核炉心】の温かい声が工房に響いた。




