表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/62

第7話 思わぬ来訪者

第7話 思わぬ来訪者


「あと一時間で制限時間ですね」


商人フェリックスが去った翌日、古代工房にはいつもの穏やかな静寂が戻っていた。


エリアは指輪の魔石が淡く点滅しているのを見ながら呟く。【魔力調整リング】の時間制限機能を試しながら、いつものように魔法の練習に励んでいる。


「どうですか?」


レオンが作業の手を止める。


「制限があると不便ではありませんか?」


「いえ、むしろ良いかもしれません」


エリアが微笑む。


「『今のうちに集中して練習しよう』って気持ちになります」


確かに、無制限だと甘えが出てしまうのかもしれない。


「それなら良かったです」


レオンがうなずく。


「技術は使う人を助けるものであって、依存させるものではないと思いますから」


『良い考えだ、レオン』


【魔核炉心】の声が響く。


『古代でも、強力すぎる道具に頼りきりになった者たちがいた』


「頼りきりになると何が起きるんですか?」


レオンが振り返る。


『技術に使われるようになる』


【魔核炉心】の光が暗くなる。


『道具の奴隷となり、最終的には自分自身を見失う』


【魔核炉心】の言葉には、深い経験に基づく重みがあった。


「それは……怖いですね」


エリアが指輪を見つめて、複雑な表情を浮かべる。


「でも、適切に使えば問題ないでしょうか?」


レオンが慎重に尋ねる。


「適切にって……」


エリアが苦笑いする。


「レオンさんの『適切』は普通の人と違いそうですが」


「そうでしょうか……」


レオンが首を傾げる。


「一応、常識的に考えて……」


「レオンさんに常識を語られるとは思いませんでした」


エリアが笑いかけた時、工房の入り口から声がした。


「エリア? エリア・セルクライトはいるか?」


今度は女性の声だった。エリアがはっとした表情を浮かべる。


「あの声……まさか」


慌てて工房の入り口に向かうと、濃紺のローブを着た女性が立っていた。二十代半ばくらいで、知的な美貌と威厳のある雰囲気を持っている。


「やっぱりエリアね」


女性がほっとした表情を浮かべる。


「セレス先輩?」


エリアが目を丸くして驚く。


「なぜここに?」


「なぜって……」


セレスと呼ばれた女性が、エリアを見つめて心配そうに眉をひそめる。


「あなたが心配だからよ。魔法学院を卒業してから、全然連絡がないじゃない」


「こんな辺鄙な場所で何をしているの?」


セレスが工房を見回す。


「冒険者になったって聞いたけど……」


「はい、実戦経験を積むために……」


「実戦経験?」


セレスが首を傾げる。


「でも、ここは古代遺跡でしょう? 危険すぎないかしら」


「大丈夫です」


エリアがレオンを見る。


「一人じゃありませんから」


「こちらは魔道具職人のレオンさんです」


エリアが紹介する。


「レオンさん、魔法学院時代の先輩のセレス・ノードストロムさんです」


「はじめまして」


レオンが丁寧に頭を下げる。


「レオンと申します。よろしくお願いします」


「はじめまして……」


セレスがレオンを見つめて、少し困惑した表情を浮かべる。


「魔道具職人? こんな若い方が?」


「まだまだ勉強中ですが、一応職人として働かせていただいています」


レオンが謙虚に答える。


「勉強中って……」


セレスが戸惑う。


「普通、一人前の職人になるには十年以上かかるものでしょう?」


「おっしゃる通りです」


レオンがうなずく。


「僕はまだまだ未熟ですが、師匠や【魔核炉心】から色々と教えていただいて……」


「師匠と……【魔核炉心】?」


セレスが首を傾げる。


「【魔核炉心】って、あの伝説の……?」


「はい」


レオンが【魔核炉心】を指す。


「幸運にも、いろいろとご指導いただいています」


「そんな……」


セレスが目を丸くする。


「【魔核炉心】から直接指導を? そんなことが可能なんですか?」


「よく分からないんですが……」


レオンが困ったように頭を掻く。


「気がついたら話しかけられていて」


セレスが美しい眉をひそめて呆れたような顔をし、助けを求めるようにエリアを見る。


「エリア、この方は本当に普通の職人なの?」


「普通かどうかは分かりませんが……」


エリアが苦笑いする。


「とても優秀な方です」


エリアが言いかけた時、セレスの視線がエリアの指輪に向けられた。


「その指輪……」


セレスの視線が指輪に釘付けになり、眉をひそめる。


「見たことのない魔力の流れね」


「え?」


「魔力効率が異常に高い」


セレスが専門家の鋭い眼差しで指輪をじっと観察する。


「こんな魔道具、見たことないわ」


「どこで手に入れたの?」


「それは……」


エリアが困った顔をする。


「僕が作らせていただきました」


レオンが控えめに答える。


「作った?」


セレスが驚く。


「あなたが?」


「はい」


「まさか……」


セレスの声が上ずる。


「こんな高度な魔道具を?」


「高度かどうかは分かりませんが……」


レオンが遠慮がちに答える。


「一応、完成はしました」


レオンが工房の作業台を指差す。


「制作過程で使った材料などがまだ残っています」


そこには【魔力調整リング】の制作過程で使用した工具や材料が置かれている。


セレスが作業台に近づいて、材料を手に取った。


「これ……【共鳴金属】?」


「ご存知でしたか」


レオンが少し驚く。


「知識としては……」


セレスが材料をじっと見つめる。


「でも、現代では製法が失われているはず」


「そうなんですか」


レオンが困ったような表情になる。


「この工房にあったものなので、詳しいことは……」


セレスが【共鳴金属】を手に持ったまま、固まってしまった。


「ちょっと待って……これが本物なら……」


「本物だと思うんですが……」


レオンが近づく。


「もしよろしければ、触れて確認していただけますか?」


セレスが金属に魔力を流してみる。すると、金属が彼女の魔力パターンに反応して、淡く光った。


「本当に……【共鳴金属】……」


セレスが青い顔をする。


「エリア、あなたたち、一体何をしているの?」


「何って……」


レオンが困惑する。


「魔道具を作らせていただいているだけですが……何か問題でもありましたでしょうか?」


「問題じゃないわよ! 大問題よ!」


セレスが声を上げる。


「【共鳴金属】なんて、王国の宝物庫にも数個しかないのよ?」


「そんなに貴重なものだったんですか……」


レオンが申し訳なさそうに頭を下げる。


「知らずに使ってしまって、すみません」


「謝ることじゃないけど……」


セレスが頭を抱える。


「あなたたち、自分たちがどれだけ危険なことをしているか分かってる?」


「危険と言いますと?」


レオンが心配そうに尋ねる。


「【共鳴金属】の存在が知れたら、王国中が大騒ぎになるわ」


セレスの表情が深刻になる。


「研究者、貴族、軍部……みんなが欲しがる」


「それに、こんな場所で無防備に保管するなんて……」


セレスが工房を見回す。


「盗賊に襲われたらどうするの?」


「盗賊……」


レオンが考え込む。


「確かにそういう危険もあるかもしれませんね」


「もしかして、全然考えてなかったの?」


セレスがため息をつく。


「こんな価値のあるものが放置されているなんて……」


「申し訳ありません」


レオンが深く頭を下げる。


「価値について、よく理解していませんでした」


「エリア、あなたは魔法学院で何を学んだの?」


セレスがエリアを見つめる。


「【共鳴金属】の価値も知らないなんて……」


「価値は知ってますけど……」


エリアが困った顔をする。


「レオンさんと一緒にいると、だんだん感覚が麻痺してきて……」


「麻痺って……」


セレスがレオンを見る。


「あなた、【共鳴金属】をどこで手に入れたの?」


「この工房の材料保管庫にありました」


レオンが素直に答える。


「古代遺跡ですから、いろいろな材料が保管されているようで……」


「この工房に?」


「はい」


レオンがうなずく。


「【魔核炉心】に使っても良いか確認してから、使わせていただきました」


セレスが工房を見回した。その時、【魔核炉心】が青い光を放った。


「これは……【魔核炉心】?」


「ご存知でしたか」


レオンが振り返る。


「理論上は知ってるけど……」


セレスが息を呑む。


「実物は初めて見るわ」


セレスが【魔核炉心】に近づこうとした時、突然声が響いた。


『近づくな』


「え?」


『汝は継承者ではない』


【魔核炉心】の威圧感のある声に、セレスが後ずさりする。


「しゃ、喋った……」


「【魔核炉心】は古代文明の意識の集合体だそうです」


レオンが説明する。


「継承者以外とは基本的に対話されないと聞いています」


「継承者って……まさか、あなたが?」


「なぜか、そう認識していただいているようです」


レオンが謙虚に答える。


「理由はよく分からないのですが……」


セレスが完全に混乱した表情になった。


「ちょっと待って……整理させて……」


セレスが額を押さえる。


「あなたは古代遺跡の継承者で、【共鳴金属】を自由に使えて、【魔核炉心】と対話できる……」


「そうなるんでしょうか……」


レオンが困ったように答える。


「自分でもよく分からないのですが」


「よく分からないって……」


セレスが天を仰ぐ。


「エリア、あなたはとんでもない人と一緒にいるのよ」


「とんでもないと言いますか……」


エリアが苦笑いする。


「確かに常識の範囲を超えていますが……」


「それで、セレス先輩は何のために?」


エリアが話題を変える。


「何のためにって……」


セレスがため息をつく。


「あなたの様子を見に来ただけよ。でも、まさかこんな……」


セレスがまだ混乱している様子だった。


「とりあえず、お茶でも飲んでいただけませんか?」


レオンが遠慮がちに提案する。


「少し落ち着いていただければと思うのですが……」


「お茶って……こんな状況で?」


「状況と言いますと?」


レオンが首を傾げる。


「僕たちにとっては、いつもの日常なのですが……」


「いつもの日常って……」


セレスがまた頭を抱える。


「エリア、あなたの『普通』の感覚、完全に壊れてるわよ」


「そうでしょうか?」


エリアがきょとんとした顔で首を傾げる。


「まあ、とりあえずお茶を淹れますね」


エリアがのんびりと立ち上がる。


「セレス先輩、少し落ち着いてください」


「落ち着けって言われても……」


セレスが美しい顔に疲労の色を浮かべながらため息をつく。


「今日一日で人生観が変わりそうよ」


『人生とは常に変化するものだ』


【魔核炉心】の穏やかな声が響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ