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第62話 遠距離転移への挑戦

第62話 遠距離転移への挑戦


「この図面、もっと詳しく見てみましょう」


セレスが石版に刻まれた図面を指差して、四人は製作設備の部屋に集まる。第61話で発見した小型転移装置の図面で、昨日は疲れて詳しく読めなかったが、今日は時間をかけて解読する必要がある。


レオンが灯りを近づけて図面を照らすと、細かい文字と複雑な図形が浮かび上がる。


「これは一回限りの装置、と書いてありますね」


レオンが図面の端に刻まれた古代文字を読み上げて、アルカナが頷く。


「そうね。この装置は一度使うと、内部の魔力結晶が消耗して壊れるの」


「でも、一回使えれば十分です」


エリアが図面を覗き込みながら言って、その仕組みを理解しようとする。


「中心部に魔力結晶、その周囲に制御回路ですね」


図面には装置の構造が詳しく描かれていて、複雑な配線が記されている。


「これを工房に設置するんですね」


セレスが図面の説明文を読んで確認すると、アルカナが答える。


「そうよ。大型装置で遺跡から工房に転移した後、この小型装置を使って工房から遺跡に戻ってくるの」


「往復できるということですね」


レオンが理解して声に期待を込める。


「二日かけて歩く必要がなくなりますね」


研究の効率が格段に上がる。


「でも」


エリアが不安そうに尋ねる。


「まだ大型装置で工房まで転移できていませんよね」


「そうね」


アルカナが図面から目を上げて、装置群の空間の方を見る。


「昨日の実験では十キロメートルが限界だったわね」


工房の座標には遠く及ばなかった。


「まず、大型装置で工房の座標まで転移する方法を見つけないと」


「そうですね」


セレスがノートを開いて、昨日の実験記録を確認する。


「出力、強度、増幅、未知のボタンを二つ試しましたね」


それでも十キロメートルが限界だった。


「まだ試していない組み合わせがあるかもしれません」


レオンが提案して、四人は製作設備の部屋を出て装置群の空間に向かう。


「やはり百個の装置は圧巻ですね」


エリアが感嘆の声を上げると、百個の装置が規則正しく配置されていて、中央の制御パネルが淡く光っている。


アルカナが制御パネルの前に立って、ボタンの配置を見つめる。


「昨日は、出力、強度、増幅、それに未知のボタンを二つ試したわね」


アルカナが指でボタンを一つずつ指差しながら確認して、セレスがノートを見る。


「はい。その組み合わせでは限界がありました」


「では、他の未知のボタンも試してみましょうか」


エリアが制御パネルを覗き込んで、まだ押していないボタンを数える。


「二十個以上ありますね」


制御パネルには多くのボタンがあって、そのうち半分は用途が分かっていない。


「組み合わせは無数にありますね」


レオンが計算して頭を抱える。


「全て試すには何日もかかりそうです」


でも、その中に工房の座標まで転移を可能にする組み合わせがあるかもしれない。


「一つずつ試していくしかないわね」


アルカナが決意を込めて言って、装置を起動する。


「光り始めましたね」


装置群が光り始め、空間に微かな歪みが生まれる。


「では、この未知のボタンを押してみます」


レオンが制御パネルの端にある緑色のボタンを指差して、アルカナが頷く。


「いいわよ。出力と強度は最大にしたまま、そのボタンを追加で押しましょう」


アルカナが緑色のボタンを押すと、装置群の光が少し変化して色合いが青みを帯びる。


「色が変わりましたね」


セレスが小石を用意して、転移領域に投げ入れると、小石が一瞬で消える。


「転移先を探しましょう」


エリアが言って、四人は遺跡の外に出る。南西方向を探すと、小石が地面に落ちている。


レオンが測定機器を使って距離を測る。


「遺跡から南西に十二キロメートルの地点です」


「わずかに伸びたわね」


アルカナが確認して、セレスがノートに記録する。


「昨日より二キロメートル伸びました」


わずかだが確実に進歩している。


「もう一つ試しましょう」


エリアが提案して、四人は遺跡内に戻る。


「次は赤色のボタンを試しましょう」


アルカナが制御パネルを操作して、今度は赤色のボタンを押すと、装置群の音が変わって低い唸りのような音が響く。


「何か変わりましたね」


セレスが装置を見ながら言って、レオンが頷く。


「小石を投げます」


レオンが小石を投げ入れると転移して、四人は外に出て探す。


「南西方向に十五キロメートルです」


レオンが報告すると、アルカナが少し期待を込めた表情になる。


「少しずつ転移範囲が広がっているわ」


「でも、まだ工房の座標には遠いですね」


エリアが言って、セレスがノートを見る。工房までの道のりはまだ長い。


「では、複数のボタンを同時に押してみましょうか」


レオンが提案して、アルカナが考える。


「危険かもしれないわ。装置が予期しない動作をする可能性があるの」


「でも、試してみる価値はあるんじゃないでしょうか」


レオンが慎重に言って、アルカナがしばらく考えてから頷く。


「そうね。でも、小石で試してから判断しましょう」


アルカナが緑色と赤色のボタンを同時に押すと、装置群の光が激しく揺らぐ。空間の歪みが目に見えるほど大きくなって、四人は少し後ずさる。


「大丈夫でしょうか」


セレスが不安そうに尋ねると、アルカナが装置の状態を確認する。


「安定しているわ。転移してみましょう」


「小石を投げます」


セレスが小石を投げ入れると、今までより速く転移する。四人は外に出て探すが、なかなか見つからない。


「南西方向をもっと遠くまで探しましょう」


エリアが提案して、遠くまで歩いていき、ようやく小石を発見する。


「二十キロメートル地点です」


レオンが測定結果を報告すると、エリアが驚く。


「一気に転移範囲が広がりましたね」


「でも、まだ工房には届かないわね」


アルカナが冷静に判断して、四人は遺跡に戻る。


「他の組み合わせも試してみましょう」


セレスが提案して、アルカナが制御パネルを見る。まだ押していないボタンが十個以上あって、それぞれに異なる機能がありそうだ。


「この黄色いボタンはどうでしょうか」


エリアが指差すと、アルカナが頷いて緑色と赤色と黄色のボタンを同時に押す。装置群の光が三色に分かれて、複雑な模様を描く。


「綺麗ですね」


セレスが感嘆の声を上げると、レオンが小石を投げる。転移した小石を探すために四人は外に出て、南西方向をさらに遠くまで歩く。


「三十キロメートル地点です」


レオンが報告すると、エリアが目を見開く。


「かなり転移範囲が広がりましたね」


「でも、まだ工房の半分も届いていないわ」


アルカナが言って、四人は遺跡に戻る。実験を続けていくうちに、日が傾き始める。


「今日はここまでにしましょうか」


セレスが窓の外を見て言うと、アルカナが制御パネルを見つめる。


「もう少しだけ試させてください。何か感じるの」


「何かとは?」


レオンが尋ねると、アルカナが考え込む。


「装置の動作パターンに、何か規則性があるような気がするの。この青いボタンと紫のボタンを組み合わせたら、もっと距離が伸びるかもしれないわ」


「では、試してみましょう」


エリアが賛成して、アルカナが青いボタンと紫のボタンを他のボタンと組み合わせて押す。装置群の光が今までにない強さで輝いて、空間の歪みが大きく広がる。


制御パネルの数値が急激に上昇して、四人は驚いて装置を見る。


「これは」


セレスが声を詰まらせると、アルカナが装置の状態を確認する。


「安定しているわ。でも、今までとは明らかに違う出力ね」


「試してみましょうか」


レオンが小石を用意して、転移領域に投げ入れる。小石が光に包まれて消える。


「探しに行きましょう」


四人は遺跡の外に出て、南西方向を探す。


「見つかりません」


エリアが言って、四人は広い範囲を探す。遺跡を中心に円を描くように探索を続けるが、小石が見つからない。


「測定機器で探知してみましょう」


レオンが魔力測定機器を使って、転移した小石の残留魔力を探す。かすかな反応を検知して、その方向へ向かう。


「こっちです」


遺跡から南西方向へかなりの距離を進んでいくと、ようやく小石を見つける。レオンが測定機器で正確な位置を測定して、記録する。


「遺跡から南西に六十キロメートルの地点です」


レオンの報告に、四人は顔を見合わせる。


「工房まで、あと少しですね」


エリアが興奮気味に言うと、アルカナが頷く。


「そうね。もう少しで工房の座標まで転移できるかもしれないわ」


「でも、日が暮れてきましたね」


レオンが空を見上げて言うと、セレスが頷く。遺跡の外はすっかり暗くなっていて、星が見え始めている。


「今日はここまでにしましょう」


アルカナが提案して、四人は遺跡に戻る。装置を停止させて、今日の実験記録をまとめる。


「今日の結果を記録します」


セレスがノートに記録を書き込んで、エリアが実験結果を確認する。


「十二、十五、二十、三十、六十キロメートル」


エリアが転移範囲の変化を読み上げると、レオンが頷く。


「ボタンの組み合わせによって、転移範囲が大きく変わりますね」


「そうね」


アルカナが制御パネルを見ながら言う。


「でも、まだ規則性が完全には分からないわ。もっと実験を続ければ、工房の座標に到達できるはずよ」


「明日も続けましょうか」


セレスが提案すると、アルカナが考える。


「そうね。でも、明日は慎重に実験しましょう。かなり遠くまで転移できたということは、工房まであと少しだけど、万が一失敗したら危険だわ」


「失敗とは?」


エリアが尋ねると、アルカナが説明する。


「転移先の座標を正確にコントロールできるか分からないの。工房まで届いても、目標地点からずれてしまうかもしれないわ」


「なるほど」


レオンが理解して、ノートに書き込む。


「では、明日は転移範囲だけでなく、方向と精度も確認する必要がありますね」


「そうね」


アルカナが頷いて、四人は記録を仕上げる。


「最初は二百メートルでしたね」


レオンが初期の実験を思い出して言うと、エリアが頷く。


「今はかなり遠くまで転移できるようになりました」


「次は工房の座標です」


セレスが決意を込めて言うと、エリアが笑顔で頷く。


「工房まで一瞬で行けたら、研究がとても楽になりますね」


「そうね」


アルカナが窓の外を見て、工房の方向を思い浮かべる。


「ここから南西の方角ね」


その先に四人の工房がある。


「明日、必ず成功させましょう」


レオンが言って、四人は遺跡の外に出る。今夜は遺跡の近くで野営して、明日また実験を続けることにする。


「今日は疲れましたね」


エリアが焚き火を起こしながら言うと、セレスが頷いて夕食の準備を始める。


「かなり遠くまで転移できたのは大きな進歩ですね」


エリアが焚き火を見つめながら言うと、セレスが頷く。


「そうね。最初は近距離だったことを考えると、信じられない進歩だわ」


「アルカナさんのおかげです」


レオンが感謝を込めて言うと、アルカナが首を横に振る。


「私だけじゃないわ。みんなで協力して、少しずつ理解を深めてきた結果よ」


「でも」


エリアが心配そうに尋ねる。


「本当に工房の座標まで転移できるんでしょうか」


「できるわ」


アルカナが自信を込めて答える。


「今日の実験で、ボタンの組み合わせによって転移範囲が大きく変わることが分かったわ。明日はもっと細かく調整すれば、必ず工房の座標に到達できるはずよ」


四人は焚き火の温かさに包まれながら、遠距離転移への挑戦を続ける決意を新たにする。遠距離転移への挑戦は、確実に前進している。



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