第57話 影響の調査
第57話 影響の調査
「兎は元気ですか?」
レオンが檻に近づいて尋ねると、エリアが頷く。昨日転移実験を行った兎は、檻の中で元気に動き回っている。セレスとアルカナもテーブルから立ち上がって、兎の様子を観察しに来る。
「では」
「転移前の状態を詳しく記録しましょう」
四人は兎を調べる。セレスが兎を測ると体重は1.2キログラム、エリアが触れると温かく正常な体温だ。
「体重は」
「1.2キログラムです」
「体温は」
「温かいです。正常な体温ですね」
レオンが観察すると活発に動いて餌もよく食べ、アルカナが撫でると毛並みは滑らかで健康そうだ。
「行動は」
「活発に動いています。餌もよく食べます」
「毛並みは」
「滑らかです。健康そうですね」
セレスがノートに記録する。
「では」
「遺跡に行って、転移させましょう」
四人は兎を籠に入れて遺跡へ向かい、到着すると深層部へと進んで装置群の空間に入る。
「では」
アルカナが装置を起動する。
「転移させるわ」
籠を歪みに入れると消え、十分待って現れる。籠を開けて兎を取り出す。
「では」
「すぐに状態を確認しましょう」
四人は兎を調べる。セレスが測ると体重は1.2キログラムで変わらず、エリアが触れると温かく転移前と同じだ。
「体重は」
「1.2キログラム。変わりませんね」
「体温は」
「温かいです。転移前と同じですね」
レオンが観察すると活発に動いて変わりなく、アルカナが撫でると毛並みは滑らかで変化なしだ。
「行動は」
「活発に動いています。変わりありません」
「毛並みは」
「滑らかです。変化なしですね」
「では」
「転移直後、変化なしです」
「もう少し観察しましょう」
四人は兎を観察し続ける。三十分、一時間と経っても、兎は普通に動いて餌を食べ、水を飲む。
「変化はありませんね」
「では」
「もっと詳しく調べてみましょう」
「どうやって?」
エリアが尋ねる。
「心拍数を測るの」
四人は兎の心拍を測る。一分間に百八十回だ。
「一分間に百八十回です」
「では」
「もう一度転移させて、心拍数を比較しましょう」
兎を籠に入れて転移させ、取り出して心拍を測る。
「一分間に百八十回です」
「変わりませんね」
「呼吸数は?」
四人は兎の呼吸を測ると一分間に五十回だ。
「一分間に五十回です」
転移させて測っても同じ結果だ。
「一分間に五十回です」
「変わりませんね」
「では」
「反応速度を調べましょう」
「反応速度?」
「音に対する反応よ」
四人は手を叩くと、兎が反応して耳を動かす。
「すぐ反応しましたね」
転移させてまた手を叩くと、兎が反応する。
「転移前と同じですね」
「では」
「食欲は?」
四人は兎に餌をやると、兎が食べる。餌の量を測ると五十グラムだ。
「五十グラム食べました」
転移させてまた餌をやると、兎が同じ量を食べる。
「五十グラム食べました」
「変わりませんね」
「では」
「体重、体温、行動、心拍数、呼吸数、反応速度、食欲。全て変化なしね」
「そうですね」
「では」
「長距離転移ではどうでしょうか」
「試してみましょう」
アルカナが出力を最大にして二百メートル転移させる。兎を転移させて通路の先まで取りに行き、全ての項目を測定する。
「全て変化なしです」
「では」
「高さ方向の転移は?」
高さを調整して装置の上3メートルに転移させ、取りに行って調べる。
「変化なしです」
「では」
「連続転移ではどうでしょうか」
「試してみましょう」
兎を十回連続で転移させて調べる。
「変化なしです」
「では」
「保存機能は?」
兎を保存して一時間待ち、解放して調べる。
「変化なしです」
「では」
「全ての条件で、生物への影響はありませんね」
「そうね」
「転移は生物に無害よ」
「では」
「別の種類の動物でも確認しましょうか」
「そうね」
四人は小鳥を捕まえて同じ実験を繰り返す。体重、体温、行動、心拍数、呼吸数、反応速度、食欲を全て測定して転移させ、また測定する。
「全て変化なしです」
「小鳥でも影響ありませんね」
「では」
「虫ではどうでしょうか」
四人は蝶を捕まえて実験する。飛行速度、羽ばたき回数、反応速度を測定して転移させ、測定する。
「変化なしです」
「では」
「兎、小鳥、蝶。全ての生物で影響なしね」
「そうですね」
「では」
「もっと長期的な影響を調べましょうか」
「そうね」
「一週間観察してみましょう」
四人は遺跡を後にして工房に戻る。工房で兎を飼い続けながら毎日転移させ、一日目、二日目、三日目、四日目、五日目、六日目、七日目と転移させて調べても、全ての日で変化なしだ。
「一週間経ちましたね」
「全ての日で変化なしです」
「では」
「長期的にも影響ないわね」
「そうですね」
「では」
「次は人間の転移を検討しましょうか」
「まだ早いわ」
「もっと慎重に検討しないと」
「何を検討するんですか?」
「人間特有のリスクよ」
「意識、記憶、感情。動物では調べられないことがあるわ」
「そうですね」
「では」
「どうやって調べるんでしょうか」
「まず」
「転移のメカニズムをもっと理解しましょう」
「メカニズム?」
「転移がどうやって起きているのか」
「それを理解すれば、人間への影響が予測できるわ」
「でも」
「古代技術のメカニズムは分かりませんね」
「そうね」
「でも、観察から推測することはできるわ」
「今日はここまでにしましょう」
「そうね」
四人は記録を整理する。
「生物転移の詳細検証」
セレスがノートに書き込みながら実験結果をまとめる。
「兎、小鳥、蝶。全ての測定項目で変化なし」
「測定項目」
「体重、体温、行動、心拍数、呼吸数、反応速度、食欲」
「転移条件」
「短距離、長距離、高さ方向、連続、保存。全て影響なし」
「長期観察」
「一週間毎日転移。変化なし」
「次は」
「転移のメカニズムを調べましょう」
「どうやって?」
「装置の動作を詳しく観察するの」
「転移の瞬間に何が起きているのか」
「そうですね」
「明日、調べてみましょう」
四人は夕食を作って食事を済ませ、兎に餌をやり、明日への準備を整える。




