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第5話 日常の中の非日常

第5話 日常の中の非日常


「レオンさん、この指輪って本当にすごいですね」


【魔力調整リング】を作った翌日の朝食後、エリアが不思議そうに指輪を見つめていた。


「どうしました?」


レオンが顔を上げる。


「昨夜、いつものように魔法の練習をしたんですが……」


エリアが指輪をくるくると回しながら、嬉しそうに見つめる。


「普段の三倍は長く練習できました」


「それは良かったです」


「魔力が尽きないので、今まで苦手だった【光線魔法】も上手になってきたんです」


エリアの顔がぱあっと花のように明るくなる。


「でも……」


急に不安そうな表情になった。


「こんなに便利だと、だんだん指輪に頼りきりになってしまいそうで……」


「頼りきりって?」


「指輪なしでは魔法が使えなくなったらどうしようって」


なるほど、確かにそれは問題かもしれない。


「それなら、時々指輪を外して練習すればいいんじゃないでしょうか?」


「そうですね……」


エリアが指輪をくるくると回す。


「でも、一度この便利さに慣れてしまうと……」


エリアがため息をついた時、【魔核炉心】の声が響いた。


『エリアの心配はもっともだ』


【魔核炉心】の青い光がゆらめく。


『便利な道具は使う者を怠惰にする危険がある』


「そうですか?」


レオンが首を傾げる。


「でも、技術は人を助けるためにあるんじゃないでしょうか?」


『助けることと、甘やかすことは違う』


「なるほど……」


レオンが考え込む。


「確かに、技術が人の成長を妨げるなら本末転倒ですね」


レオンが立ち上がる。


「では、指輪に制限機能をつけてみましょうか」


「制限機能?」


エリアが首を傾げる。


「一日に使える時間を制限するんです」


レオンが作業台に向かう。


「たとえば、四時間使ったら自動的に効果が停止して、八時間後に復活するとか」


「そんなことできるんですか?」


「やってみます」


レオンが指輪の改良を始める。魔力回路に時間制限機能を追加するのは……よく分からないが、やってみる価値はありそうだ。


「こんな感じでしょうか」


三十分ほどで改良が完了した。


「試してみてください」


エリアが指輪をはめ直すと、指輪の魔石が淡く光った。


「あ、なんか温かくなりました」


エリアが指輪に触れて、驚いたような笑顔を浮かべる。


「それが時間計測機能です」


レオンが説明する。


「四時間経つと、自動的に効果が停止します」


「すごい……」


エリアが目を輝かせて感心する。


「こんな細かい制御まで……」


その時、工房の入り口から声がした。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」


振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。三十代くらいで、立派な服装をしている。貴族か商人のようだ。


「はい、何でしょうか?」


レオンが応える。


「私、王都で魔道具商を営んでおりますフェリックス・ネイラーと申します」


男性が丁寧に頭を下げる。


「この辺りで腕の良い魔道具職人がいるという噂を聞きまして……」


「噂?」


「はい」


フェリックスが辺りを見回す。


「最近、非常に高性能な魔道具を持った冒険者を見かけたという話が……」


フェリックスの視線がエリアの指輪に向けられた。


「もしかして、そちらの指輪が……?」


エリアが慌てて手を隠す。


「い、いえ、これは……」


「普通の装飾品ですが」


レオンが咄嗟にそう答えた。


「そうですか……」


フェリックスが残念そうな顔をする。


「実は、画期的な魔道具があるという話で、ぜひ取引させていただきたいと思ったのですが……」


「画期的って、どの程度の?」


「魔力効率が従来品の倍以上になるという……」


フェリックスが肩をすくめる。


「まあ、眉唾物の話でしょうが」


倍以上どころではない。エリアの指輪は三倍以上の効率を誇っている。


「そんな魔道具があったら面白いですね」


「ええ」


フェリックスの目が光る。


「もしそんな物があれば、王国中の魔法使いが欲しがるでしょうね。値段は……そうですね、一つ十万金貨でも安いくらいです」


十万金貨。庶民の年収の百年分に相当する金額だ。


「十万金貨ですか……」


レオンがつぶやく。


「もちろん、そんな魔道具は存在しないでしょうけどね」


フェリックスが苦笑いする。


「失礼いたしました。また何かございましたら、お声がけください」


商人が去った後、エリアが青い顔をしていた。


「レオンさん……」


「何ですか?」


「もう既に噂になってるんですね……」


エリアの声が震える。


「そのようですね」


「どうしましょう?」


エリアが両手を握り締める。


「このまま隠し続けられるでしょうか?」


レオンが腕組みをする。商人まで嗅ぎつけてくるということは、情報がかなり広まっているということだ。


『レオン、技術の秘匿は難しい』


【魔核炉心】が言う。


『優れた技術は必ず人の目を引く』


「そうですね……」


レオンが腕組みをする。


「それに」


エリアが不安そうに続ける。


「さっきの商人、なんとなく怪しくありませんでした?」


「怪しい?」


「普通の商人が、こんな辺鄙な場所まで一人で来るでしょうか?」


エリアが眉をひそめる。


「それに、話の内容も妙に具体的で……」


レオンが眉をひそめる。確かにエリアの言う通りかもしれない。


「偵察に来たってことですか?」


「可能性はあります」


エリアの表情が暗くなる。


「王国の研究機関とか、他国のスパイとか……」


エリアの表情がどんどん暗くなっていく。


「大丈夫ですよ」


レオンが立ち上がる。


「大丈夫って……」


エリアが見上げる。


「何かあったら、その時に考えればいいじゃないですか」


「その時って……」


エリアの声が裏返る。


「もう手遅れかもしれませんよ?」


レオンはエリアを見つめる。心配する気持ちは分かるが、起きてもいない事態を恐れていても仕方がない。


「エリアさんが心配するのも分かりますが」


レオンが優しく言う。


「とりあえず様子を見ませんか?何事もなければそれでいいですし」


「レオンさんって、本当に楽観的ですね……」


エリアがため息をつく。


「それにしても……」


エリアが指輪を見つめる。


「レオンさんがいると、なんだか安心できるんです」


「安心?」


「はい」


エリアが微笑む。


「どんな困難があっても、きっと解決してくれそうで」


『エリアの直感は正しい』


【魔核炉心】の声が優しく響いた。


『レオンには困難を乗り越える力がある』

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