第47話 距離の測定
第47話 距離の測定
四人は空が白む前に目を覚まして朝食を済ませる。今日は距離の測定実験だ。レオンは長いロープを荷物に詰めながら、百メートル以上あることを確認する。工房を出発して森を抜け、山道を登っていくと遺跡が見えてくる。入口から通路を進んで階段を下り、深層部の装置群の空間に到着する。
「では」
アルカナが制御パネルの部屋に向かって扉を開け、パネルの前に立つ。
「装置を起動するわ」
『起動』のボタンを押す。装置群が光る。『接続』のボタンを十回、二十回、三十回と押し続ける。四十回、五十回、六十回、七十回、八十回、九十回、百回、押し終える。
装置群の光が強まり、歪みが現れ、空気が揺らぐ。
「まず」
レオンが荷物からロープを取り出して提案する。
「現在の転移距離を正確に測りましょう」
ロープを広げる。長い、百メートル以上ある。
「そうね」
アルカナが制御パネルの部屋から出てきて装置群の空間に戻り、ロープを見る。
四人は測定を始める。歪みの位置、壁際、床から一メートルを確認して、そこから転移先までロープを伸ばす。レオンとエリアが一方の端を持ち、セレスが転移先まで歩いてロープを引っ張り、まっすぐに端から端まで伸ばす。
「四十八メートルです」
セレスがロープの印を確認して測定結果を報告する。
「昨日は五十メートルと言いましたが、正確には四十八メートルですね」
目測との差は二メートルだ。
「分かったわ」
アルカナが記録用の羊皮紙に「転移距離:48m」と書き込む。
「では」
エリアがロープと測定結果を見て考える。
「この距離を変える方法はあるんでしょうか」
制御パネルを見る。
「制御パネルで変えられるかもしれないわ」
アルカナが言って制御パネルの部屋に向かう。
「試してみましょう」
扉を開けて中に入り、パネルの前に立ってボタンを見る。『起動』『停止』『接続』、その他にもボタンがある。『出力』『減衰』『方向』だ。
「出力ボタンを押してみるわ」
『出力』に手を伸ばして押す。
装置群の光が変化し、強くなり、明るくなる。
「光が強くなりました」
レオンが装置群を見て報告する。
「では」
アルカナが制御パネルの部屋から言う。
「小石を投げてみて」
声をかける。
セレスが荷物から小石を取り出して歪みに近づき、投げる。
小石が消える。
四人は砂時計を見て待つ。砂が落ちる。十分経過。
小石が現れる。しかし、場所が違う。前より遠い、装置群のさらに奥だ。
「前より遠いです」
エリアが駆け寄って小石を拾い、確認する。
「測定してみます」
セレスとレオンがロープを持ち、歪みの位置から小石が現れた場所までまっすぐにロープを伸ばす。
「七十メートルです」
セレスが印を確認して報告する。七十メートルだ。
「出力を上げると、距離が伸びるのね」
アルカナが『出力』ボタンを見て制御パネルを理解する。
「では、減衰を押してみるわ」
『減衰』ボタンに手を伸ばして押す。
光が変化し、弱くなり、暗くなる。
「小石を投げてみて」
アルカナが声をかける。
レオンが小石を手に取って投げる。
消える。十分待って砂時計を見る。
近い場所、歪みのすぐ先に現れる。
「測定します」
エリアとセレスが歪みから転移先までロープを伸ばす。
「二十五メートルです」
エリアが印を確認して報告する。二十五メートルだ。
「出力を下げると、距離が短くなるのね」
アルカナが確認して「出力↑→距離↑、出力↓→距離↓」と記録する。
「では」
セレスが記録を見て考える。
「出力を調整すれば、好きな距離に転移できるんですね」
出力と距離の関係のグラフが頭に浮かぶ。
「そうね」
アルカナが頷いて制御パネルを見る。
「試してみるわ」
『出力』と『減衰』を調整して出力を上げる。押す、また押す。
「小石を投げて」
レオンが投げる、消える、十分待つ、現れる。
ロープを伸ばして測定する。
「三十メートルです」
セレスが報告する。
アルカナがさらに出力を上げて調整する。『出力』を何度も押す。
「投げて」
エリアが投げる、消える、待つ、現れる。
測定する。
「六十メートルです」
レオンが報告する。
何度か調整を繰り返す。出力を上げたり下げたり、様々な距離を試す。
「十メートル」
セレスが短い距離を報告する。
出力を最大近くまで上げて調整する。
「百メートル」
エリアがロープをいっぱいに伸ばして報告する。
また中程度の出力に調整する。
「五十メートル」
レオンが最初の距離に近い結果を報告する。
「出力を調整すれば」
アルカナが制御パネルの部屋から出てきて装置群の空間に戻る。
「自由に距離を変えられるわ」
様々な距離の記録を見る。全て成功している。
「すごいですね」
レオンが装置群と制御パネル、複雑な機構を見て感心する。
「では」
エリアが記録を見て、最大値がまだ不明なことに気づいて尋ねる。
「最大距離はどのくらいでしょうか」
どこまで遠くに転移できるのか。
「試してみましょう」
アルカナが制御パネルの部屋に戻って『出力』ボタンを何度も連続で押す。十回、二十回、三十回と押し続ける。
光がどんどん強くなる。装置群が眩しいほど明るく輝く。
「これ以上押せなくなったわ」
ボタンが反応しない。限界に達した。
「最大出力ね」
「最大出力」と記録に書き込む。
「小石を投げてみます」
セレスが小石を手に取って歪みに投げる。
消える。
四人で砂時計を見ながら十分待つと、砂が落ちきる。
時間が経過して十分が過ぎる。
現れない。装置群の空間を見回してもどこにもない。
「現れませんね」
レオンが周囲を見回しながら床を見て、壁を見て、奥を見る。
「装置群の空間にはありません」
探しながら歩き回る。
「空間の外かもしれないわ」
アルカナが通路を指しながら言う。
四人は空間を出て通路に出ると、薄暗い中を進んで階段の方へ、奥の方へと探しながら床を見る。
「ありました」
エリアが通路で床に転がっている小石を見つけて拾う。
「ここです」
小石を掲げて確認すると、間違いない。
装置群の空間から歪みの位置を起点に、通路を通ってエリアが見つけた場所までロープをいっぱいに伸ばして測定するが、足りないのでもう一本継ぎ足して伸ばすと届く。
「二百メートルです」
セレスが二本のロープを合わせた長さを報告する。二百メートルだ。
「最大出力で二百メートルね」
アルカナが羊皮紙に「最大距離:200m」と記録を書き込む。
「では」
レオンが次は反対だと考える。
「最小距離はどのくらいでしょうか」
どこまで短い距離か。
「試してみるわ」
アルカナが制御パネルの部屋に戻って装置群の空間に入り、制御パネルの前に立つ。
『減衰』ボタンを何度も連続で押して、十回、二十回、三十回と押し続ける。
光がどんどん弱くなって装置群が暗くなり、かすかに光る程度になる。
「これ以上押せないわ」
ボタンが反応せず、限界に達した。
「最小出力ね」
記録に「最小出力」と書き込む。
「小石を投げてみます」
セレスが小石を手に取って歪みに投げる。
消える。
砂時計を見ながら十分待つ。
歪みのすぐ先、数歩の距離という すぐ近くに現れる。
「測定します」
エリアがロープを伸ばすと短くてすぐに届く。
「五メートルです」
印を確認すると五メートルだ。
「最小出力で五メートルね」
アルカナが「最小距離:5m」と記録する。
「では」
セレスが記録を見ながら最小と最大を整理する。
「転移距離は、五メートルから二百メートルまで」
範囲を確認する。
「そうね」
アルカナが記録を見て両端の値を確認しながら頷く。
「出力を調整すれば、その範囲で自由に距離を変えられるわ」
中間の値も自由に。
「では」
レオンが記録を見て、まだデータが粗いことに気づいて提案する。
「出力と距離の関係を、もっと詳しく調べましょうか」
正確な関係式があれば予測できる。
「そうね」
アルカナが同意して制御パネルの前に立つ。
四人は様々な出力で試しながら距離を測定し、データを集める実験を続ける。
アルカナが『出力』を押す回数を一回、二回、三回と様々に変えて出力を調整し、レオンが小石を一つずつ投げ、エリアとセレスがロープを伸ばして印を確認しながら距離を測定して記録する。
十回、二十回、三十回と実験が続いてデータが増え、記録が増えて羊皮紙が埋まる。
「データが集まりましたね」
セレスがノートを見ると、出力の値と距離の値というたくさんの数字が並んでいる。
「出力と距離の関係が見えてきました」
数字を眺めるとパターンが見える。
彼女が新しい羊皮紙にグラフを描いて、横軸に出力、縦軸に距離を引いて目盛りを付ける。
一つ目のデータである出力十と距離二十五で点を打ち、二つ目のデータである出力二十と距離五十で点を打って、三つ目、四つ目、五つ目と次々に点を打っていく。
「ほぼ直線ですね」
レオンがグラフを見ると、点が一直線に近く並んでいる。
「出力が倍になると、距離も倍になります」
きれいな比例関係だ。
「比例関係ね」
アルカナがグラフを見て直線のパターンを確認しながら言う。
「出力に比例して、距離が伸びるのよ」
単純で予測しやすい関係だ。
「では」
エリアがグラフを見て直線の式を考える。
「計算で距離を予測できますね」
出力が決まれば距離が分かる。
「そうね」
アルカナがグラフを指しながら頷く。
「出力を決めれば、転移距離が分かるわ」
逆に距離を決めれば出力も分かる。
「便利ですね」
セレスが記録を見て実用的なデータだと言う。
「では」
レオンがグラフを見て提案する。
「正確に五十メートル転移させてみましょうか」
予測の検証とグラフの正確さを確かめるために。
「試してみるわ」
アルカナがグラフの五十メートルの位置から横に線を引いて直線と交わる点を見つけ、下に線を引いて出力の値を読む。
「五十メートルなら、この出力ね」
出力二十で『出力』を二十回押す。
「投げて」
レオンが小石を手に取って投げる。
消えて、十分待つと現れる。
ロープを伸ばして測定する。
「四十九メートルです」
エリアが印を確認して報告する。四十九メートルだ。
「ほぼ五十メートルですね」
わずかに短く、一メートル差がある。
「もう一度調整するわ」
アルカナが『出力』をもう一回押して出力を二十一回に変える。
「投げて」
セレスが小石を投げる。
消えて、待つと現れる。
ロープを伸ばして測定する。
「五十メートルちょうどです」
彼女が印を確認して報告すると、ぴったり五十メートルだ。
「完璧ね」
アルカナが記録に「予測成功」と書き込んで満足する。
「出力を調整すれば、正確な距離に転移できるわ」
グラフの有効性を確認した。
「では」
エリアが他に調べることを考える。
「他の要素はないでしょうか」
距離以外に何か制御できるものがあるかもしれない。
「他の要素?」
レオンが尋ねる。
「方向とか」
エリアが装置群の空間を見回しながら説明する。
「今は、決まった方向にしか転移していません」
いつも同じ方向で、装置群の奥だ。
「そうね」
アルカナが制御パネルを思い出しながら考える。
「制御パネルに『方向』というボタンがあったわ」
まだ試していないボタンだ。
「試してみましょう」
セレスが期待しながら言う。
「はい」
アルカナが制御パネルの前に立って『方向』ボタンを見て押す。
装置群の光が変化するが、色は変わらず、でも何かが違って空気の流れと振動のパターンが変わる。
「小石を投げて」
アルカナが声をかける。
レオンが小石を投げる。
消えて、十分待つと現れる。
「あれ」
エリアが驚いて声を上げる。
「反対側に現れました」
今までとは逆で、装置群の手前側、入口の方だ。
確かに違う方向で、反対だ。
「方向が変わったのね」
アルカナが『方向』ボタンの機能を理解する。
「もう一度押してみるわ」
『方向』をもう一回押す。
「投げて」
セレスが小石を投げる。
消えて、待つと現れる。
また違う方向で、横、装置群の左側だ。
「もう一度」
アルカナが『方向』ボタンを押す。
レオンが小石を投げる。
別の方向、装置群の右側に現れる。
「方向ボタンで」
セレスがパターンを理解する。
「転移方向を変えられるんですね」
奥、手前、左、右の四つの方向だ。
「そうね」
アルカナが制御パネルから出てきて頷く。
「東西南北、四方向に変えられるわ」
ボタンを押すたびに方向が変わる。
「では」
レオンがこれまでの発見を整理しながら考える。
「出力で距離を、方向で向きを制御できるんですね」
二つの要素が両方とも制御可能だ。
「そうよ」
アルカナが記録を見ながら答える。
「かなり自由に転移を制御できるわ」
距離も方向も思い通りに。
四人は様々な組み合わせを試す実験を続けて、短い距離で奥、長い距離で手前、中程度の距離で左、最大距離で右と様々な距離と方向を試す。
全て狙った通りに転移して成功し、誤差はわずかだ。
太陽が動いて時間が経ち、実験が続いてデータが増える。
「制御は完璧ですね」
セレスが全ての実験結果を確認すると、成功率は百パーセントだ。
「狙った場所に正確に転移します」
予測と実際がほぼ一致している。
「古代の技術は」
エリアが装置群を見回して複雑な機構に感心する。
「本当に優れていますね」
完璧な精度と完璧な制御だ。
「そうね」
アルカナが装置群を見回して一つ一つの装置、光る装置、動く装置を見る。
「この装置は、完璧に機能しているわ」
何千年も前の技術なのに、今も正確に動く。
「今日はここまでにしましょうか」
レオンが疲労を感じながら記録を見て提案する。
「かなりデータが集まりました」
たくさんの実験とたくさんの測定だ。
「そうね」
アルカナが制御パネルに向かって『停止』ボタンを押すと、装置群の光が消えて歪みが消え、空間が静かになる。
四人は荷物を背負ってロープを巻き、階段を一段ずつ上って通路を進んで入口へ向かい、外に出る深層部を後にする。
日差しが眩しくて目を細め、新鮮な空気を吸う。
「今日は距離と方向の制御を学びました」
レオンが工房への道を歩きながら言う。
「出力で距離を、方向ボタンで向きを変えられます」
二つの制御を組み合わせ自由に使える。
「そして」
セレスが記録を手に持って続ける。
「五メートルから二百メートルまで転移可能です」
広くて実用的な範囲だ。
「かなり実用的ですね」
エリアが森の中を歩きながら言う。
「そうね」
アルカナが頷くが表情が複雑だ。
「でも、まだ分からないことがあるわ」
原理は不明で、なぜ転移するのか、どうやって距離を制御しているのか、謎のままだ。
四人は森を抜けて道を歩き、太陽が傾いて影が長くなる工房への帰路につく。
工房に戻って扉を開けて中に入り、テーブルに向かって記録を広げる。
「転移距離の測定」
セレスがノートに大きな見出しを書き込んで、その下に詳細を書く。
「最小五メートル、最大二百メートル。出力に比例」
直線のグラフも書き写す。
「方向制御」
レオンが隣に座って記録を見ながら続ける。
「四方向に変更可能」
東西南北をボタン一つで切り替えられる。
「転移は正確」
エリアがペンを走らせながら記録する。
「狙った場所に正確に転移」
予測と実際の誤差はほとんどない。
「次は」
アルカナがノートを見てまだ調べていないことを考える。
「転移可能な物の条件を調べましょう」
どんな物まで転移できるのか。
「条件?」
レオンが尋ねる。
「重さとか大きさの限界よ」
アルカナが手を広げながら説明する。
「どこまで大きな物を転移できるのか」
小石は成功したが、大きな物はどうなのか。
「そうですね」
セレスが重要な問題だと同意する。
「明日、調べてみましょう」
次の実験課題だ。
四人は野菜を切って肉を焼き、スープを煮て夕食を作り、テーブルで食べながら今日の実験について話して食事を済ませる。
皿を洗ってテーブルを拭いて片付ける。
ノートに書き込んでグラフを清書して記録を整理し、大きな物を用意して測定道具を確認して明日の準備をする。
疲れた体で就寝の準備をしながら、明日への期待を感じる。




