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第44話 現象の調査

第44話 現象の調査


「これで全部の道具が揃いました」


セレスが革袋の中身を確認しながら言って、赤く染めた布、色付きの小石、長いロープをテーブルに並べる。昨夜から準備していた調査道具で、今日の歪み現象の詳細調査に使う予定だ。レオンが一つ一つ手に取って状態を確認している。


準備を整えて荷物を背負い、四人は工房を出発する。山道を登って森を抜け、遺跡に到着する。


通路を進み、階段を降りて第二階層を抜ける。深層部への扉をくぐり、装置の中の階段を降りて通路を進む。地下深層に到達し、装置群の空間に入る。床の扉を開け、アルカナが魔力を流すと線が光り、床が沈んで階段が現れる。四人は一段ずつ降りていく。


「では」


アルカナが制御パネルの部屋に向かって階段を降りて部屋に入る。


「装置を起動するわ」


彼女が『起動』を押す。カチリと音がする。そして『接続』をカチリ、カチリ、カチリとリズミカルに連打して百回押す。


装置群が光り始める。青、緑、黄、赤、色とりどりの光で空間が明るくなる。空間の中央に歪みが現れる。揺らぐ空間、歪む空間だ。


アルカナが階段を登って装置群の空間に出る。


「現れました」


レオンが歪みを確認して近づき、目を凝らす。


「昨日と同じ場所です」


全く同じ場所で位置が固定されている。装置群の中央だ。


「では」


セレスが荷物から調査用に赤く染めた目立つ赤い大きな布を取り出す。


「これを投げてみます」


彼女が布を丸めて両手で歪みに向かって投げる。布が空中で広がって歪みに向かって飛ぶ。


布が歪みに触れる。ぱっと瞬時に音もなく消える。


「消えました」


エリアが確認しながら言う。布が完全に消えた。


「では、探しましょう」


四人は空間を探索する。装置の周りを見て、壁際を見て、床を見て、天井を見上げる。赤い布を探す、目立つ赤い布でどこかにあるはずだ。


一つ一つの装置を確認する。球体の装置、柱状の装置、板状の装置、それぞれの下を覗いて陰を確認する。でも赤い布はない。


壁際を歩いて一周し、壁を見て床を見る。でも赤い布はない、どこにもない。


時間をかけて丁寧に十分探す。しかし見つからない。


「この空間にはありませんね」


レオンが額の汗を拭いながら言う。疲れたが見つからない。


「別の場所に行ったんでしょうか」


「通路を確認してみましょう」


アルカナが提案する。この空間にないなら他の場所だ。


四人は深層部を出て階段を登り、床の扉を閉じる。装置群の空間を横切って通路を進み、階段を登って装置の中から出て深層部の扉をくぐる。


第二階層の通路を調べる。壁を見て床を見て天井を見上げる。赤い布を探すが、ない。


階段を一段ずつ上から下まで調べる。でもない。


広間、罠の部屋を調べる。安全な円形模様を踏んで渡り、床を見て壁を見る。でも赤い布はない。


しかし赤い布はどこを探してもどこにもない。


「見つかりませんね」


エリアが疲れた表情で言う。探し続けたが見つからない。


「遺跡の外でしょうか」


四人は階段を登って最初の広間を横切り、外に出る。遺跡の外に出て新鮮な空気で肺が広がる。


周囲を探す。遺跡の前、石の建物の周り、森の入口、地面を見て草の中を見て木の下を見る。赤い布を探す、目立つはずだが、ない。


時間をかけて丁寧に探す。でも見つからない。


しかし赤い布は見つからない、どこにも。


「どこにも見つからない」


セレスがノートを閉じて記録を確認しながら言う。赤い布、消えたが見つからない。


「どこに行ったんでしょうか」


「もっと遠い場所かもしれないわ」


アルカナが腕を組んで考え、推測する。


「歪みが、とても遠くに繋がっているのかも」


遠く、遺跡の外、さらに遠く、森の向こう、山の向こうだ。


「では」


レオンが次の実験、別の方法を提案する。


「別の実験をしてみましょうか」


四人は再び深層部に戻る。遺跡に入って通路を進み、階段を降りて第二階層を抜ける。深層部に到達して装置群の空間に入る。


歪みがまだある。揺らぐ空間で装置が光っている。


「歪みの性質を」


レオンが荷物から長い二十メートルのロープを取り出しながら言う。


「もっと詳しく調べてみましょう」


「どうするんですか?」


エリアが長いロープを見ながら尋ねる。


「ロープを使います」


レオンがロープを床に置いて端から端まで広げて伸ばす。長い。


「ロープの端を歪みに入れて、引っ張ってみます」


「それは危険では?」


セレスが心配してロープを見る。消えるかもしれない。


「ロープごと消えるかもしれません」


「そうね」


アルカナが考える。危険はある、でも。


「でも、試す価値はあるわ」


レオンがロープの片方の端をしっかりと握り、もう一方の端を腕を振って歪みに向かって投げる。ロープが空中を飛んで歪みに向かう。


ロープの端が歪みに触れる。


端がぱっと音もなく消える。しかしロープ全体は消えない。歪みに触れた部分だけが消えて残りは空中に浮いている。途中で切れたように見えるが切れていない。ロープは繋がっていて、ただ歪みの向こうに続いている。


「途中で切れたように見えます」


エリアが観察して近づき、ロープを見る。歪みの手前で終わっているが切れていない。


「歪みより先が見えません」


ロープの先、歪みの向こうは見えず、消えている。


レオンが手に力を込めてロープをゆっくりと引っ張る。


ロープは動いて手応えがあり、引っ張れる。しかし消えた部分は戻ってこず、歪みの中に留まったままだ。


「引っ張っても戻りませんね」


彼が手を伸ばしてロープをさらに歪みに近づけ、ロープを送って歪みに入れる。


ロープがさらに歪みに入って消えていく。1メートル、2メートル、どんどん消える。


「どんどん消えていきます」


セレスがペンを走らせて記録する。観察結果、ロープが一メートルずつ消える。


レオンが手に力を込めて引っ張る。


ロープに手応えがある。重く、何かに引っかかっている。でも何に。


「何かに引っかかっているような」


彼がさらに強く手に力を込めて引っ張る。


ロープが少し動く。でも歪みの中から何かが出てくるわけではない。ロープだけで、先は見えない。


「向こう側に何かがあるんでしょうか」


エリアが尋ねる。歪みの向こう、別の場所、何がある。


「分からないわ」


アルカナが揺れるロープ、緊張するロープを見る。


「でも、ロープは繋がっているわね」


切れていない、向こう側に続いている。


レオンが手を緩めてロープを離す。ロープは歪みの中に消えたままそのままの状態で空中で固定されたようだ。


「このままにしておきましょうか」


セレスがロープを残して後で確認することを提案する。


「後で確認してみましょう」


「そうね」


アルカナが頷いて同意する。


「次の実験をしましょう」


エリアが荷物から青く塗った目立つ色の小石を取り出す。


「これを投げてみます」


彼女が腕を振って小石を歪みに向かって投げる。小石が回転しながら飛んで歪みに向かう。


小石が歪みに触れる。ぱっと音もなく消える。


「やはり消えました」


レオンが確認しながら言う。小石が消えた。


「では」


アルカナが次の観察、別の角度からを考える。


「歪みの周囲を調べてみましょう」


四人は歪みの周囲をゆっくりと一周して歩く。様々な角度から、前から、横から、後ろから観察する。


「後ろから見ても」


エリアが歪みの後ろ側、反対側から見ながら言う。


「同じように歪んでいます」


揺らぐ空間、どの角度から見ても同じだ。


「球形ですね」


セレスがペンを走らせて記録し、スケッチを描く。球形の歪みだ。


「どの方向から見ても、同じ形です」


完全な球形、対称だ。


「では」


レオンが次の実験、上からを提案する。


「上から何かを落としてみましょうか」


アルカナが近くの柱状の高さ3メートルほどの装置に足をかけて手をかけて一歩ずつ登る。頂上に到達してその上から歪みを真上から見下ろす。


「小石を落としてみるわ」


彼女が小石を取り出して握り、歪みの真上に手を伸ばして手を開く。


小石が重力に従って真下に歪みに向かって落ちる。


小石が歪みに触れる。ぱっと音もなく消える。


「上からでも消えますね」


アルカナが装置から慎重に一歩ずつ降りてきて地面に着地する。


「方向は関係ないようね」


上から、横から、下から、どの方向でも同じだ。


「では」


エリアが観察結果をまとめて結論を導きながら考える。


「歪みは、あらゆる方向から物を受け入れるんですね」


全方向、制限なしだ。


「そうね」


アルカナが頷いて確認する。観察結果と一致する。


「球形の歪み空間なのよ」


三次元的な歪みで全方向に開いている。


四人は観察を続ける。歪みの大きさ、形状、性質を一つずつ詳細に確認する。


「温度は」


セレスが歪みの近く、でも触れない安全な距離に手を伸ばして手のひらで感じる。


「変わりませんね」


温度変化なし、冷たくなく、熱くなく、普通だ。


「音も」


レオンが静かに耳を澄まして集中する。歪みから聞こえる音、何か音がするか。


「何も聞こえません」


無音、静寂だ。歪みは音を出さない。


「光も」


エリアが手に持った灯りを歪みに向けて光を当て、歪みを照らす。


「吸い込まれませんね」


光が通過する。吸収されず、反射もせず、ただ通る。


「光は通過するのね」


アルカナが興味深い現象、特殊な性質を観察する。


「でも、物質は通過しない」


光は通り、物は消える。違う振る舞いだ。


「不思議ですね」


セレスがノートに特殊な性質を書き込んで記録しながら言う。


「光は通るのに、物は消える」


矛盾しているが、事実だ。


「物理法則が」


アルカナが腕を組んで物理、自然の法則について考える。


「通常と違うのよ」


普通じゃない、特殊で歪んでいる。


「通常と違う?」


レオンが尋ねる。通常と違う、どう違う。


「はい」


アルカナが物理の知識、古代の知識を元に説明する。


「普通、光が通るなら、物も通るはずなの。でも、この歪みは違う」


光と物質、通常は同じように振る舞うが、ここでは違う。


「では」


エリアが推測して結論を導きながら考える。


「歪みは、物質だけを選んで消すんですか」


選択的だ、光は通すが物質は消す。


「そうかもしれないわ」


アルカナが歪みを見つめる。じっと見る。理解しようとする。


「古代の技術は、物質と光を区別できるの」


高度な技術。精密な制御。


「すごい技術ですね」


セレスが感心する。驚く。声に驚きが混じる。


「私たちには理解できません」


四人は観察を続ける。様々な角度、様々な距離から。近づいて、離れて。見て、記録して。


「ロープを確認してみましょう」


レオンがロープに近づく。歪みの中に消えているロープ。手を伸ばす。掴む。


ロープは歪みの中に消えたまま。空中で固定されている。引っ張ってみる。手に力を込める。


手応えがある。重い。引っ張れる。ロープは切れていない。繋がっている。


「繋がっていますね」


彼が引っ張る。もっと強く。力を込める。


ロープが動く。少し。重い。抵抗がある。でも、出てこない。歪みの中に留まったまま。


「向こう側で何かに引っかかっているんでしょうか」


「もっと強く引っ張ってみて」


アルカナが言う。確かめる。どうなるか。


レオンが力を込めて引っ張る。全力で。体重をかけて。後ろに引く。


ロープが動く。引っ張られる。何かが抵抗している感触。重い。でも、動く。


そして。ロープが急に軽くなる。抵抗が消える。突然。


「あれ」


レオンがバランスを崩す。後ろによろける。でも、踏みとどまる。


ロープを引き寄せる。手繰り寄せる。一メートル、二メートル。


ロープが歪みから出てくる。消えていた部分が戻ってくる。空中に現れる。でも、端が切れている。途中で。断面が見える。


「切れましたね」


エリアがロープの端を見る。近づく。確認する。


「綺麗に切れています」


切断面は滑らか。鋭い。まるで刃物で切ったように。繊維が揃っている。引きちぎられたのではない。切断された。


「何かに切られたんでしょうか」


セレスが尋ねる。ロープに触れる。切断面を確認する。滑らか。


「分からないわ」


アルカナが切断面を調べる。指で触れる。感触を確かめる。鋭い。


「でも、鋭く切れているわね」


刃物のような切れ味。何かが切った。


「歪みの中で」


レオンが考える。歪みの向こう側。別の場所。


「何かが起きたんですね」


切断。ロープが切られた。何かに。


「そうね」


アルカナが頷く。確信する。証拠がある。


「歪みの向こう側には、何かがあるわ」


物体。障害物。何か。


四人は記録を取り続ける。歪みの性質、ロープの実験結果。セレスがノートに書き込む。レオンが測定する。エリアが観察する。アルカナが分析する。詳細に。丁寧に。


時間が経つ。疲労が溜まる。集中力が切れる。


「今日はここまでにしましょう」


アルカナが言う。限界が近い。休憩が必要。


「装置を停止させるわ」


彼女が制御パネルの部屋に戻る。階段を降りる。部屋に入る。『停止』を押す。カチリ、と音がする。


装置群の光が消える。全ての光。一斉に。暗闇が戻る。静寂が戻る。歪みも消える。揺らぎが止まる。普通の空間に戻る。


四人は深層部を後にする。階段を登る。床の扉を閉じる。装置群の空間を横切る。通路を進む。階段を登る。装置の中から出る。深層部の扉をくぐる。第二階層を抜ける。罠の部屋を通過する。階段を登る。最初の広間を横切る。遺跡の外に出る。新鮮な空気。肺が広がる。


遺跡の前で休憩する。地面に座る。水を飲む。保存食を食べる。体力を回復する。


「歪みの性質が」


レオンが言う。ノートを見る。記録を確認する。


「少し分かってきましたね」


「物質は消える」


エリアが続ける。リストを読み上げる。性質の一つ。


「でも、光は通る」


二つ目の性質。矛盾している。でも、事実。


「そして」


セレスが言う。三つ目の性質。重要な性質。


「向こう側に何かがある」


ロープが切れた。何かに。


「そうね」


アルカナが頷く。確信する。証拠がある。


「歪みは、別の場所に繋がっているのよ」


空間の歪み。別の場所への通路。入口。


四人は工房への帰路につく。森を抜ける。山道を下る。一日目が終わり、野営する。二日目も歩き続ける。工房に到着する。


荷物を降ろす。テーブルに向かう。記録を整理する。ノートを広げる。


「歪みの性質」


セレスがノートに書き込む。大きな文字。下線を引く。まとめる。


「物質を消す。光は通過。温度変化なし。音なし。球形。直径1メートル」


詳細に。一つずつ。性質を列挙する。


「そして」


レオンが続ける。重要な発見。追加する。


「ロープが切れた」


証拠。何かが存在する証拠。


「向こう側に何があるんでしょうか」


エリアが尋ねる。疑問。謎。歪みの向こう。


「分からないわ」


アルカナが答える。正直に。分からない。未知。


「でも、次はもっと慎重に調べてみましょう」


四人は記録を整理し続ける。図を描く。考察を書く。仮説を立てる。一つ一つ、丁寧に。


「物理法則が違う」


レオンが言う。重要な点。核心。


「それが一番重要ですね」


「そうね」


アルカナが頷く。同意する。確かに重要。


「古代の技術は、物理法則を変えることができるの」


空間を歪める。法則を変える。高度な技術。


「信じられませんね」


エリアが言う。驚く。圧倒される。


「そんなことができるなんて」


常識を超える。理解を超える。


「でも、事実よ」


アルカナが答える。真剣な表情。確信を持って。


「私たちは、それを目撃したわ」


証拠がある。観察した。記録した。事実。


四人は記録を整理し終える。ノートを閉じる。資料をしまう。


夕食の準備を始める。食材を取り出す。火を起こす。鍋を置く。野菜を切る。水を沸かす。料理をする。


食事を済ませる。片付けをする。明日への準備を整える。歪みの調査を続けるために。さらに詳しく。さらに慎重に。真実を見つける。


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