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第38話 深層への道

第38話 深層への道


「装置を調べ直しましょう」


アルカナが提案して、四人は工房のテーブルに集まる。朝の光が窓から差し込んでいて、昨日までの記録が広げられている。深層部で見つけた巨大な装置についての詳細なスケッチと観察記録が、羊皮紙に書き込まれている。


扉をくぐり、広間を横切って通路を進む。階段を一段ずつ降りて地下の広間へ。巨大な装置を通り過ぎ、第二階層に入る。罠の部屋を慎重に通過しながら、安全な円形模様だけを踏む。深層部への扉をくぐると、再び広い空間が広がる。


レオンが灯りを掲げる。天井は見えないほど高く、壁は遠い。空間の中央に、巨大な装置が聳え立つ。


「この装置を、詳しく調べましょう」


レオンが装置に近づいて灯りを掲げ、光で装置を照らす。


装置の表面には石と金属が複雑に組み合わさっている。継ぎ目、接続部、突起、窪み、様々な部分に手で触れると、冷たい石と固い金属の感触が伝わってくる。


「これは何でしょうか」


エリアが装置の側面を歩きながら調べ、表面を観察して部品を確認する。


「歯車のような部分がありますね」


確かに円形の部品が見える。歯車だ。でも動いていない。


「動かないんでしょうか」


セレスが歯車に触れて手で回そうとするが、びくともしない。固定されている。


「固定されているようです」


アルカナが装置の下部をしゃがみ込んで観察する。何かがある。


「ここに制御盤のようなものがあるわ」


四人は下部に集まってしゃがみ込み、確認する。石でできた盤が装置に埋め込まれている。盤の表面には十個のボタンのようなものが並び、それぞれに記号が刻まれている。


「押してみますか?」


レオンがボタンに手を近づけながら尋ねる。


「危険かもしれないわ」


アルカナが慎重に盤を調べて、手を盤にかざして魔力を感じ取ろうとする。


「でも、これが装置を動かす仕組みかもしれない」


「可視化装置で確認しましょう」


エリアが装置を取り出してスイッチを入れると、装置が光る。


制御盤の周囲を照らして透明な部分を覗き込むと、青い光が制御盤から流れ出ている。魔力の流れだ。


「魔力が流れていますね」


エリアが装置を三人に見せる。青い光の筋が見える。


「このボタンを押すと、何かが起きるようです」


「押してみましょうか」


レオンが制御盤に手を伸ばして、ボタンに指を近づける。


「待って」


アルカナがレオンの手首を掴んで止める。


「順番があるかもしれないわ。間違えると、危険なことが起きるかも」


四人は制御盤を観察して、ボタンを見て、記号を一つ一つ確認する。


「この記号」


アルカナが目を細めて記号を見て、形、線の流れ、配置を確認する。


「古代の数字ね」


「数字?」


セレスがノートを開いて記号を書き写す。


「順番を示しているんでしょうか」


「そうかもしれないわ」


アルカナが記号を一つずつ指で辿りながら、意味を読み取る。


「一、二、三、四、五」


彼女が一番の記号、二番の記号、三番、四番、五番と指差していく。


「この順番で押せばいいのかもしれないわ」


「試してみましょう」


レオンが一番の記号が刻まれたボタンを指で押し込む。石が沈む。


カチリ、と内部で何かが動く音がする。


何も起こらない。静寂の中、装置は動かない。


「大丈夫そうです」


レオンが二番のボタンを同じように押し込む。


また音がする。カチリ。でも今度は装置が微かに震えて、振動が伝わってくる。


「動いている?」


エリアが装置を見上げて歯車を見る。まだ動かない。でも何かが変わった。


レオンが三番のボタンを押す。


四番を押す。


五番、最後のボタンを押す。


五番を押すと装置全体が震え始め、強い振動で足元が揺れる。


ゴゴゴ、と低い地鳴りのような音が空間全体に響く。


「動き出しました」


セレスが驚いて声を上げる。


装置の歯車がゆっくりと、しかし確実に回り始める。一つ、また一つと連鎖的に動き、金属が擦れる音がギィ、ギィと響き、石が動く音がガガガと鳴る。


装置の上部が蓋のように重い石の蓋が内側に開いて、内部が見える。暗闇だが、何かがある。


「中に何かあります」


エリアが身を乗り出して装置を覗き込み、灯りを中に向ける。


階段だ。装置の内部に、石でできた階段が下へと続いている。


「階段?」


レオンが驚く。予想外の展開だ。


「装置の中に階段が」


「これは入口ね」


アルカナが装置を見て、全体を見渡す。


「この装置は、深層部への入口だったのよ」


四人は顔を見合わせる。レオン、エリア、セレス、アルカナ。同じ考えだ。進むか、引き返すか。


「降りてみますか?」


セレスが階段を覗き込んで尋ねる。暗闇が続いている。


「はい」


レオンが決意の表情で頷く。


「ここまで来たんです。進みましょう」


アルカナが先頭に立って装置の中に入り、階段に足をかける。一段目、二段目と慎重に体重をかける。


「気をつけて」


彼女が振り返って三人を見る。


「階段は狭いわ」


四人は一段また一段と階段を降りる。一人ずつ、レオン、エリア、セレス、アルカナ。装置の内部は暗く、灯りを掲げて進む。壁が近くて圧迫感がある。


十段、二十段と降りていき、足元を確認しながら手で壁を触れながら進む。


通路に出る。装置の下を通る通路だ。石でできた通路で、天井は低い。


「こんなところに通路が」


レオンが灯りを掲げて通路を見回し、光で通路を照らす。


通路は真っ直ぐ遠くまで続いている。壁には光る石が埋め込まれ、青白い淡い光を放っている。


「進みましょう」


アルカナが先頭に立って通路を進む。


四人は一歩ずつ通路を進み、十メートル、二十メートルと足音を響かせながら進んでいく。


通路が左と右の二つに分かれる。分岐点だ。


「どちらに行きましょうか」


エリアが左を見て、右を見る。どちらも同じように見える。


アルカナがレオンから可視化装置を受け取って、透明な部分を覗き込む。左の通路、右の通路と青い光の濃さを比較する。


「右の方が魔力が弱いわ」


彼女が右の通路を指差す。


「右に行きましょう」


四人は一人ずつ右の通路に入る。レオン、エリア、セレス、アルカナ。


通路は左に曲がり、右に曲がりと曲がりくねる。迷路のように方向感覚が失われていく。


「また迷いそうですね」


セレスがチョークで壁に印をつけ、線を引く。帰り道の目印だ。


十メートル、二十メートルと曲がり角を曲がり、また曲がってさらに進む。


小さい広間に出る。天井は低く、壁は近い。そして広間の中央に何かがある。


石でできた柱だ。高さは2メートルほど、太さは30センチほど。柱の上部には透明な球体が乗っていて、中に光る何かが入っている。青白い光を放っている。


「これは」


レオンが柱に近づいて球体を見上げ、手を伸ばす。


球体は透明で、中に結晶のようなものが入って光を放っている。


「魔力の結晶ね」


アルカナが目を細めて球体を見て、魔力を感じ取る。


「古代の魔力が、結晶化したものよ」


「触れても大丈夫ですか?」


エリアが尋ねる。危険ではないか、爆発しないか。


「分からないわ」


アルカナが慎重に手を伸ばして指先を球体に近づけ、触れる。冷たくて滑らかな表面だ。


何も起こらない。爆発せず、魔力も暴走しない。


「大丈夫そうね」


彼女が球体を手で掴んで上に引いて持ち上げようとするが、動かない。固定されている。


「固定されているわ」


「そのままにしておきましょうか」


セレスが提案する。持ち出すのは危険かもしれない。


「そうね」


アルカナが手を離して球体から離れる。


広間の奥に通路が見える。さらに奥への道だ。


「先に進みましょう」


レオンが奥を目指して通路に向かう。


四人は一人ずつ通路に入る。通路は下り坂で、さらに深く地下へと下っていく。


魔力が強くなっていき、空気が重くなり、圧迫感が増す。可視化装置の表示が濃くなり、青い光が濃密になる。


「魔力が強くなっています」


エリアが装置を見て、青い光の濃さを確認する。


「大丈夫ですか?」


レオン、エリア、セレスの三人はまだ耐えられる。頭は重いが、立っていられる。アルカナの制御が効いている。


「何とか大丈夫です」


レオンが答える。額に汗が浮かぶが、まだ動ける。


「でも、限界が近いかもしれません」


「もう少しだけ進んでみましょう」


アルカナが通路の奥を見て言う。


「この先に何があるか、確認したいわ」


四人は一歩また一歩と進む。通路はさらに深く、深く下っていく。


通路が開けて、広い空間に出る。


巨大な空間だ。今までで一番広い。天井は見えず、壁も遠く、光が届かない。


そして空間の中に無数の装置が並んでいる。


大きな装置、小さな装置、石でできたもの、金属でできたもの、円形のもの、四角いもの、複雑な形状のもの。様々な装置が整然と規則正しく配置されている。まるで軍隊のように。


「これは」


レオンが声を震わせて息を呑む。圧倒される。


「装置群」


「地下深層ね」


アルカナがゆっくりと空間を見回し、一つ一つの装置を確認する。


「ここが、この遺跡の中心部よ」


四人は空間に入って装置の間を歩き、一つ一つの装置を近くで観察する。


「どれも動いていませんね」


エリアが装置に手で触れる。冷たく、静止している。


「起動していないようです」


「これだけの装置」


セレスが数を数える。十個、二十個、三十個。数え切れない。百個以上だ。


「何に使っていたんでしょうか」


「分からないわ」


アルカナが装置に触れて、手のひらで表面を撫でて魔力を感じ取ろうとする。でも微かな魔力しか感じない。休眠状態だ。


「でも、とても重要な施設だったはずよ」


四人は装置群を調査する。レオンが右側を、エリアが左側を、セレスが中央を、アルカナが奥を担当し、それぞれの場所で表面を見て構造を確認し、ノートに書き込んでスケッチを描く。


時間が経つ。十分、二十分、三十分。三人の体調が悪くなってくる。頭が重く、めまいがして、呼吸が乱れる。


「そろそろ限界です」


レオンが額の汗を拭う。手が震えて、立っているのが精一杯だ。


「戻りましょう」


「そうね」


アルカナが三人を見て頷く。顔色が悪く、限界が近い。


「今日はここまでにしましょう」


四人は来た道を戻り、壁の印を頼りに通路を進んで曲がり角を戻り、分岐点を通過する。階段を一段ずつ登って装置の中から出る。


深層部への扉をくぐり、第二階層を抜けて罠の部屋を通過する。階段を登って最初の広間を横切り、扉の隙間をくぐって外に出ると、新鮮な空気が肺に広がる。


遺跡の前で四人は振り返る。巨大な石の建物、この奥に装置群がある地下深層。


「地下深層に到達しました」


レオンが達成感と満足感を込めて言う。


「装置群を発見しました」


「大きな進歩ですね」


エリアが疲れた表情だが満足した表情で続ける。


「次はあの装置群を、詳しく調べましょう」


「そうね」


アルカナが頷く。装置群、あれが鍵だ。


「あの装置が何をするものなのか、解明しないと」


四人は工房への帰路につき、山道を下って森を抜ける。一日目が終わると野営し、二日目も歩き続ける。


工房に戻って荷物を降ろし、テーブルに向かって記録を整理する。今回の発見をまとめる。


「深層部への道が開けました」


セレスがノートに大きな文字で書き込み、下線を引く。


「これで、遺跡の核心部に近づいています」


四人は地図を広げて遺跡の構造を書き込む。入口、広間、通路、階段、第二階層、深層部、装置群。一つ一つ位置を記入し、線を引いてつなげる。


「かなり複雑ですね」


レオンが入り組んだ構造、迷路のような通路が描かれた地図を見る。


「でも、少しずつ分かってきました」


「次は装置群の調査ですね」


エリアが期待を込めて言う。


「楽しみです」


四人は記録を整理し続け、ノートに書き込み、図を描き、考察を記す。一つ一つ丁寧に、明日への準備を整える。

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