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第37話 古代の罠

第37話 古代の罠


「準備はいいですか?」


エリアが扉の前で振り返って、レオンとセレスに声をかける。朝食を済ませたばかりで、三人は遺跡への出発準備を整えている。テーブルには地図と記録用のノートが広げられていて、昨日までの調査結果が書き込まれている。


「魔力制御を強化する方法」


アルカナが魔核炉心から現れる。全身が工房の中に立つ。表情に、何か思いついた様子。


「昨夜、ずっと考えていたの」


「何か分かりましたか?」


レオンが期待を込めて身を乗り出す。


「一つ方法があるわ」


アルカナが両手を前に出して広げながら説明する。


「私の魔力をもっと集中させるの」


「集中?」


エリアが首を傾げながら尋ねる。どういうことか。


「今までは、遺跡全体の魔力を均等に抑えていたでしょう」


アルカナが手を動かして空間全体を覆うような動きをしながら説明する。


「でも、それだと力が分散してしまうの。だから、私たちが進む通路だけに集中して、魔力を抑えるようにするわ」


「なるほど」


レオンが頷いて理解する。範囲を狭めれば、効果が高まる。


「範囲を狭くすれば、制御が強くなる」


「その通りよ」


アルカナが微笑む。正解だ。


「試してみましょうか」


セレスがノートを閉じながら立ち上がる。やってみよう。


「また遺跡に行きましょう」


「そうですね」


エリアが椅子から立ちながら同意する。


「準備をしましょう」


四人は装備を整える。レオンが可視化装置を、エリアが灯りを、セレスがロープを、アルカナが調査機材を持ち、荷物を背負って工房を出発する。扉を閉めて鍵をかけ、山道に向かう。


山道を登って森の中を進み、一日目が終わると野営する。二日目も歩き続けて遺跡に到着する。


扉をくぐって広間を横切り、通路を進んで階段を一段ずつ降りる。地下の広間へと進み、巨大な装置を通り過ぎて第二階層への通路に入る。


「ここから」


アルカナが通路の入口、魔力の濃い場所で立ち止まる。


「集中制御を試してみるわ」


彼女が目を閉じて両手を前に向け、姿勢と呼吸を整えながら魔力を感じ取る。


「この通路だけに、魔力を集中させる」


アルカナの手のひらから青い光が溢れ出るが、前回とは違って光は広がらず、通路の方向だけに細い光の筋がレーザーのように伸びて通路を貫く。


「これでどうかしら」


アルカナが目を開けて青い瞳でレオンを見る。


レオンが慎重に通路に入り、一歩また一歩と進みながら体調を確かめる。頭の重さやめまいはあるが、前よりずっと軽い。


「大丈夫です」


彼が振り返って笑顔を見せる。


「前より楽です」


エリアとセレスも続いて通路に入り、体調を確認するが異常はない。


「本当ですね」


エリアが深呼吸をしながら言う。空気が軽い。


「頭の重さが軽減されています」


「それなら進みましょう」


アルカナが先頭に立って通路を進む。


四人は通路を十メートル、二十メートルと進み、前回の限界を超えるが体調は問題なく、頭も軽い。


三十メートル進んでも通路は続き、下り坂を慎重に足を進める。魔力は強いが、耐えられる範囲で制御が効いている。


「順調ですね」


セレスがノートに距離、方向、体調の記録を取りながら言う。


「このまま進めそうです」


通路はさらに下り、壁には淡い青白い光を放つ石が埋め込まれて道を照らしている。


四十メートル、五十メートルと進むと通路が広がり、小さな部屋のような空間になって天井が高くなり、壁が遠ざかる。


「ここは」


レオンが灯りを掲げて部屋を見回すと、光が壁を照らし出す。


壁には複雑な形の古代文字が刻まれ、床には円や三角、線などの幾何学的な模様が描かれている。そして天井には石でできた複雑な形状の装置が取り付けられている。


「装置?」


エリアが天井を見上げて首を伸ばし、装置を確認する。何に使うのか。


「これは」


アルカナが装置を見て目を細めながら警戒する。


「罠かもしれないわ」


「罠?」


セレスが声を上ずらせて驚く。危険なのか。


「はい」


アルカナが床の模様をしゃがみ込んで確認し、形や配置、意味を読み取ろうとする。


「この模様、見覚えがあるわ。古代の防衛システムよ」


「防衛システム?」


レオンが模様を見る。アルカナの隣にしゃがむ。


「どういう仕組みなんですか?」


「床を踏むと、天井の装置が作動するの」


アルカナが説明する。指で模様を辿る。危険な場所を確認する。


「魔力を使った攻撃装置ね」


「危険ですね」


エリアが床を見る。どこを踏んだら。どこが安全なのか。


「どこを踏んだら作動するんですか?」


「分からないわ」


アルカナが慎重に部屋を観察する。壁、床、天井。一つ一つ、確認する。


「模様が複雑で、どの部分が罠なのか判別できない」


「では」


セレスがノートを閉じながら提案する。危険なら引き返すべきだ。


「引き返しましょうか」


「待って」


アルカナが手を挙げる。まだ方法がある。


「魔力を感じ取ってみるわ」


彼女が目を閉じて手を前に伸ばし、静かに立って呼吸を整える。床から流れる魔力、模様に込められた魔力を一つ一つ確認していく。


時間が経つ。静寂の中、三人が息を潜める。


アルカナが目を開けて、青い瞳で床を見る。


「分かったわ」


彼女が床の一部を指差す。模様の中の特定の場所、三箇所の円形模様。


「ここ、ここ、それからここ」


「この三箇所だけが安全よ。他の場所を踏むと、罠が作動するわ」


「確実ですか?」


レオンが尋ねる。命にかかわることだ。


「ええ」


アルカナが確信を持った表情で頷く。


「魔力の流れが、この三箇所だけ違うの」


「それなら」


エリアが最初の安全な円形模様に足を置いて、慎重に体重をかける。


何も起こらない。静寂の中、装置は動かない。


「大丈夫です」


彼女が二つ目の円形模様へ飛び移って着地する。


また、何も起こらない。


セレス、レオン、アルカナも一人ずつ慎重に続き、安全な三箇所の円形模様だけを踏んで部屋を横切る。全員が無事に向こう側へ到達する。


部屋の向こうには通路が続いている。四人は通路に入って振り返り、無事に通過できた罠の部屋を見る。


「助かりました」


レオンが危険な罠の部屋を振り返る。


「アルカナさんの魔力察知能力のおかげです」


「古代の遺跡には、こういう罠がたくさんあるの」


アルカナが表情を引き締めて言う。


「気をつけて進みましょう」


四人は通路をさらに進み、一歩ずつ慎重に足元を確認しながら、壁を手で触れながら前に進む。


三十メートルほど進むと、また広間に出る。でも今度は床に模様がなく、天井に装置もない。普通の広間だ。


「ここは安全そうですね」


エリアが壁、床、天井を見回す。危険な要素が見当たらない。


「休憩しましょうか」


四人は広間で休憩を取り、床に座って荷物を降ろす。水を飲み、保存食を食べながら体力を回復させ、呼吸を整える。


「かなり深くまで来ましたね」


セレスがノートを確認して距離を計算する。


「第二階層に入ってから、百メートルほど進んでいます」


「まだ先があるんでしょうか」


レオンが暗闇の続く通路の奥を見る。


「もう少し進んでみましょう」


アルカナが立ち上がって荷物を背負う。


「でも、無理はしないで」


四人は広間を後にして通路に入り、さらに進む。


通路は左に曲がり、右に曲がる。複雑な構造で、迷路のように方向感覚が失われていく。


「迷いそうですね」


セレスがチョークで壁に印をつけ、線を引く。


「帰り道が分かるように」


二十メートル、三十メートルと曲がりくねった通路を進むと、大きな扉が見えてくる。石でできた扉で、高さは3メートルほど、幅は2メートル。重厚な作りだ。


「扉ですね」


レオンが扉に近づいて灯りを掲げ、扉を照らす。


扉の表面には古代文字が刻まれている。複雑な形だ。


「アルカナさん、読めますか?」


「待って」


アルカナが目を細めて文字を見て、一文字ずつ確認しながら記憶を辿る。


「これは『深層』という意味ね」


「深層?」


エリアが尋ねる。


「この先が、深層部ということでしょうか」


「そうかもしれないわ」


アルカナが両手を扉に当てて力を込める。


扉がゆっくりと重い音を立てて内側に開いていく。石が石を擦る音、ギィという音が響く。


扉の向こうには新たな空間が広がっている。暗闇だが、奥に何かがある。


「進みましょう」


レオンが扉をくぐって新たな空間へ入る。


四人は一人ずつ扉の向こうへ進む。レオン、エリア、セレス、アルカナ。


広い空間だ。天井は高く、見上げても見えない。壁は遠く、光が届かない。そして空間の中央に、何かが見える。巨大な影、構造物だ。


「あれは」


エリアが中央の巨大な影を指差す。


四人は灯りを掲げて、光で構造物を照らし出す。


巨大な構造物だ。石と金属でできた複雑な装置で、前に見た装置よりもはるかに大きい。高さは10メートル以上、幅は20メートル以上あり、部品が複雑に組み合わさっている。


「装置ですね」


レオンが近づいて装置の前に立ち、見上げる。


「でも、前のものより大きいです」


四人は装置に近づいて周囲を右から左へ歩き、一周しながら観察する。表面の質感、部品の形状、文字の有無を確認していく。


「これは何でしょうか」


セレスが首が痛くなるほど高い装置を見上げる。


「分からないわ」


アルカナが装置に触れて、手のひらで表面を撫でる。冷たい石だ。魔力を感じる。強い魔力が、この装置には込められている。


「でも、とても重要なものだと思うわ」


「今日はここまでにしましょうか」


レオンが提案する。疲労が溜まってきて、体力の限界が近い。


「かなり疲れましたし」


「そうですね」


エリアが頷いて額の汗を拭う。


「一度戻って、記録を整理しましょう」


四人は来た道を戻り、扉をくぐって通路を進む。壁の印を頼りに方向を確認しながら、曲がり角を戻っていく。広間を通過し、罠の部屋を慎重に通過する。安全な円形模様だけを踏んで、通路を登り、第二階層の入口まで戻る。


階段を一段ずつ息を切らせながら登り、地下の広間へ出る。巨大な装置を通り過ぎて最初の広間を横切り、扉の隙間をくぐって外に出ると、新鮮な空気が肺に広がる。


遺跡の前で四人は振り返る。巨大な石の建物、この奥に深層部がある。巨大な装置がある。


「罠を突破できました」


レオンが達成感と満足感を込めて言う。


「アルカナさんのおかげです」


「そして、深層部への扉を見つけました」


エリアが続ける。重要な発見だ。


「大きな進歩ですね」


「次はあの装置を調べましょう」


セレスがノートを閉じてしまう。


「きっと重要なものです」


「そうね」


アルカナが頷く。深層部の装置、あれが鍵だ。


「あの装置が、この遺跡の核心かもしれないわ」


四人は工房への帰路につき、森を抜けて山道を下る。一歩また一歩、前に進む。

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