第36話 第二階層への道
第36話 第二階層への道
地下の広間に、レオンが掲げる灯りが巨大な装置を照らし出す。四人は装置の前に立ち、その巨大さに圧倒される。レオンが手を伸ばして表面に触れると、冷たい石の感触が指先に伝わる。複雑な形状をしている。何に使うのか。
「これは何に使う装置なんでしょうか」
レオンが装置の表面を見ると、歯車のようなものやレバーのようなものが複雑に組み合わさっているが、用途が分からない。
「分からないわ」
アルカナが装置に触れて手のひらで表面を撫で、魔力を感じ取ろうとするが、何も感じない。
「私も見たことがない構造ね」
エリアが装置の下部をしゃがみ込んで調べ、床との接続部分を見る。どうやって固定されているのか。どんな仕組みなのか。
「かなり重そうです」
彼女が装置を両手で押して力を込めるが、びくともしない。
「床に固定されているようです」
セレスがノートとペンを手に持って装置の周囲を歩き、一周しながら高さ、幅、表面の質感といった特徴を一つ一つ記録していく。
「高さは5メートル、幅は10メートル以上」
彼女がノートに書き込むと、ペンが紙の上を走って数字や図、メモが次々と記される。
「表面には文字のようなものが刻まれています」
「文字?」
レオンが近づいてセレスの横に立ち、装置を見る。
「どこですか?」
セレスが装置の側面を指差すと、そこには細かい文字がびっしりと刻まれている。古い文字で、見たことのない形だ。
「これは」
アルカナが文字を見て目を細め、一文字ずつ確認する。読めるか。意味は。
「古代文字ね」
「読めますか?」
エリアが立ち上がってアルカナの隣に来ながら尋ねる。
「少しだけ」
アルカナが指で一文字ずつ辿りながら確認していく。線の形、角度、配置を確かめ、記憶を辿って似た文字や昔見た文字を思い出そうとする。
「これは『力』という意味。こっちは『流れ』かしら」
「力と流れ」
レオンが腕を組んで考え、意味を組み合わせる。何を示すのか。
「魔力の流れに関係する装置でしょうか」
「そうかもしれないわ」
アルカナが頷くが、表情は曖昧で確信がない。
「でも、確証はないの」
四人は装置をさらに調べる。レオンが右側を、エリアが左側を、セレスが正面を、アルカナが背面を担当し、それぞれの位置で表面を撫でて文字を記録し、構造を確認する。時間が経つが、装置の用途は分からないまま謎のままだ。
「今日はここまでにしましょうか」
レオンが装置から離れながら言う。疲労が溜まってきた。
「工房に戻って、記録を整理してから、また来ましょう」
「待って」
セレスが広間の奥、装置の向こう側の暗闇を指差す。何かがある。
「あそこに何かあります」
四人は広間の奥へ向かい、装置を回り込んで壁際へと進む。灯りを掲げると、光が暗闇を照らし出す。
通路が口を開けている。幅は2メートルほどで、天井は低く3メートルほどだ。装置の陰に隠れていて、最初は見えなかった。
「通路ですね」
エリアが通路を覗き込んで灯りを奥に向けると、暗闇が続いている。
「さらに奥に続いているようです」
「行ってみましょうか」
レオンが通路に近づいて入口で立ち止まり、中を見る。
「どこに続いているんでしょうか」
四人は一人ずつ通路に入り、レオン、エリア、セレス、アルカナの順で灯りを掲げながら慎重に足元を確認して一歩ずつ進む。
通路は緩やかに下ってさらに地下深くへと続き、壁には淡い青白い光を放つ石が埋め込まれて通路を照らしている。
「また下るんですね」
セレスが足元を確認しながら慎重に下り坂を進む。
「どこまで続いているんでしょうか」
10メートル、20メートルと通路を進みながら、石の壁を手で触れる。冷たい感触だ。
レオンが足を止めて額に手を当てる。頭が重い。また圧迫感が襲ってくる。
「何か」
「また頭が重くなってきました」
「私もです」
エリアが壁に手をついて体を支える。めまいがして呼吸が乱れる。
「前より強い気がします」
「やはり」
アルカナがレオンから可視化装置を受け取って確認し、透明な部分を覗き込む。
装置の表示には青い光が濃く表示されている。前回の通路よりもはるかに濃く、密度が高い。
「魔力が強くなっているわ」
アルカナが装置を三人に見せると、青い光の濃密な色が確認できる。
「ここは上の階層より、魔力が濃いの」
「第二階層に入ったんでしょうか」
レオンが額に手を当てたまま尋ねる。重さが増してくる。
「そうね」
アルカナが装置を見つめながら頷く。青い光の濃さが物語っている。
「地下深くに行くほど、魔力が強くなっているみたい」
セレスが体調を確認する。頭が重くてめまいがするが、まだ立っていられる。前回ほどではない。
「前より楽ですね」
彼女がアルカナを見ながら言う。魔力の制御が効いている。
「アルカナさんの制御が効いています」
「でも」
アルカナが通路の奥を見る。暗闇。さらに深く。魔力の濃さ。
「この先はもっと強くなるかもしれないわ」
「どうしましょうか」
エリアが尋ねる。壁に寄りかかる。体力が削られる。
「このまま進みますか?」
「少し進んでみましょう」
レオンが提案する。諦めたくない。どこまで行けるか。
「どこまで耐えられるか、確認してみましょう」
四人は一歩また一歩と慎重に進み、魔力の濃さと体調を確認しながら頭の重さやめまい、呼吸の乱れに耐える。
一メートル、二メートル、三メートルとゆっくりと十メートルほど進むと、レオンが立ち止まる。足が動かない。限界だ。
「ここが限界かもしれません」
彼が深呼吸をして空気を吸い込むが、頭の重さは消えない。
「これ以上は危険な気がします」
「私もです」
エリアが額の汗を拭うと、手が震える。立っているのが精一杯だ。
「かなりきついです」
「戻りましょう」
アルカナが三人を見ると、三人とも顔色が悪く限界が近い。
「無理は禁物よ」
四人はゆっくりと慎重に通路を戻り、アルカナが三人を支えながら壁を伝って一歩ずつ進む。
広間に戻ると、広い空間で天井の高い場所に出て、三人の体調が回復してくる。頭の重さが薄れて呼吸が楽になる。
「やはり第二階層は危険ですね」
レオンが壁に寄りかかって額の汗を拭い、深呼吸を繰り返す。
「今の状態では、奥まで進めません」
「魔力の制御を、もっと強くする必要があるわ」
アルカナが腕を組んで視線を落とし、もっと強力な制御の方法を考える。
「でも、それには時間がかかるの」
「どのくらいですか?」
セレスがノートを開いて記録する準備をしながら尋ねる。
「分からないわ」
アルカナが首を振る。見当がつかない。
「魔力の制御は難しいの。すぐにできることじゃないわ」
「では」
エリアが提案する。体力が戻ってきて、まだ疲れは残るが動ける。
「一度工房に戻って、対策を考えましょうか」
「そうですね」
レオンが頷いて壁から離れる。足がしっかりしてきた。
「第二階層に進むには、もっと準備が必要です」
四人は広間を後にして装置の前を通り、通路へと向かう。階段を一段ずつ息を切らせながら登り、最初の広間に戻る。扉をくぐって外に出ると、新鮮な空気が肺に広がる。
遺跡の前で四人は振り返る。巨大な石の建物の奥に第二階層があり、さらに強い魔力が待っている。
「第二階層が見つかりました」
エリアが遺跡を見上げながら言う。達成感と同時に新たな課題が見えてきた。
「でも、進むにはまだ対策が必要ですね」
「次は必ず進みましょう」
レオンが遺跡を見上げて拳を握る。諦めない。
「もっと強力な魔力制御の方法を見つけて」
「そうね」
アルカナが決意の表情で頷く。
「工房で、方法を考えましょう」
四人は工房への帰路につき、山道を下って森を抜ける。一日目が終わると野営し、二日目も歩き続けて工房に戻る。荷物を降ろしてテーブルに向かう。
「記録を整理しましょう」
セレスがノートを開いて今回の記録、装置、通路、第二階層について確認する。
「今回の発見をまとめます」
四人はテーブルに座ってノートを広げ、地図を確認しながら記録を整理する。セレスがペンを走らせ、レオンが地図に書き込み、エリアが資料を読み、アルカナが記憶を辿る。
「地下の広間に、謎の装置」
エリアがセレスの書いた詳細な記述を読み上げる。
「装置の向こうに、第二階層への通路」
「第二階層は魔力が強い」
レオンが続けながら地図に印をつけ、第二階層の位置と魔力の強さを記す。
「現在の制御方法では、十メートルが限界」
「次の課題は、より強力な魔力制御」
セレスがノートに大きな文字で書き込み、重要な課題として下線を引く。
「それができれば、第二階層に進める」
「どうすれば、制御を強化できるでしょうか」
レオンが考え込む三人の顔を見回す。
「何か方法はないでしょうか」
「考えましょう」
アルカナが視線を上げて窓の外、遺跡のある方角を見る。
「魔力の制御は、私の得意分野よ。必ず方法を見つけるわ」
「期待しています」
エリアが信頼の表情で微笑む。アルカナなら。
四人は記録の整理を続け、今回の探索で得た装置の形状、文字の内容、通路の構造、魔力の濃さといった情報を一つ一つ丁寧にまとめていく。ノートに書き込み、地図に記入し、資料と照らし合わせる。
窓の外を見ると、空が赤く染まって太陽が沈み、影が長く伸びている。
「今日はここまでにしましょう」
レオンが立ち上がってノートを閉じ、ペンを置く。
「明日、また対策を考えましょう」
「そうですね」
エリアが椅子から立って背伸びをする。疲れが溜まってきた。
「ゆっくり休んで、明日に備えましょう」
四人は夕食の準備を始める。食材を取り出して火を起こし、鍋を置いて野菜を切り、水を沸かす。一つ一つの作業が日常の動きとして繰り返される。
食事を済ませて片付けをし、明日への準備を整える。




