第34話 遺跡の内部
第34話 遺跡の内部
レオンは鳥のさえずりで目を覚ます。空が白み始めている。焚き火の燃え残りから、細い煙が立ち上る。体を起こすと、エリア、セレス、アルカナもすでに起きている。
四人は荷物を整理しながら、保存食を取り出して簡単な朝食を済ませる。レオンが水筒の蓋を開けて水を飲む。喉を潤す。準備は整った。
扉の隙間が、昨日のまま開いている。内部から冷たい空気が流れ出る。古い、埃っぽい匂いがする。
「入りましょうか」
レオンが扉の隙間を見つめる。暗闇が奥に広がる。何があるのか。
「準備はできています」
エリアが荷物を確認する。調査機材、ロープ、灯り。背負い袋の紐を締め直す。肩に食い込む重さ。でも、運べる。
「気をつけて進みましょう」
セレスが皆を見回す。レオン、エリア、アルカナ。三人の表情。緊張と期待が混じる。
「何があるか分かりませんから」
「私が先に入るわ」
アルカナが扉の隙間に近づく。手を隙間にかけて、内部を覗く。暗い。でも、危険な気配はない。
「後について来て」
四人は扉の隙間をくぐる。アルカナが先頭。レオンが続く。エリア、セレス。一人ずつ、狭い隙間を抜ける。石の扉が体に触れる。冷たい感触。古い石の硬さ。
内部は暗い。四人は灯りを掲げる。炎が揺れて、光が広がる。石の壁が照らされる。表面は風化して、所々に苔が生える。
広い空間が広がる。天井は高く、見上げても上端が見えない。10メートル。いや、もっと。石の柱が何本も立つ。太い柱。直径は2メートル以上ある。床は平らで、埃が厚く積もる。足が踏み込むと、埃が舞い上がる。
「広いですね」
エリアが灯りを掲げて周囲を照らす。光が届く範囲。それでも、空間の全体は見えない。暗闇が、光の外に広がる。
「こんな空間が内部にあるなんて」
レオンが可視化装置を取り出す。スイッチを入れる。装置が淡く光る。でも、それだけ。いつものように、魔力の流れを示す表示が出ない。
「魔力を確認してみます」
彼が装置を見る。ボタンを押す。何度も。でも、反応がない。表示が出ない。装置が壊れたのか。
「あれ?」
レオンが装置を確認する。外観には問題がない。電源も入っている。でも、表示が出ない。
「魔力が強すぎるのか、装置が反応しません」
「古代の魔力は強力だから」
アルカナが言う。彼女の声は落ち着いている。でも、その目は空間を見回している。警戒している。
「装置では測定できないのかもしれないわ」
レオンが柱に近づく。柱の表面には文字のようなものが刻まれる。線が複雑に絡み合う。古代文字。見たことのない形。
「これも古代文字でしょうか」
彼が指で文字を辿る。線の流れ。角度。何を意味するのか。
「そうね」
アルカナが柱を見る。目を細めて、文字を読もうとする。でも、首を傾げる。
「でも、摩耗していて読みにくいわ」
セレスがノートを取り出す。ペンを走らせて、内部の様子を記録していく。空間の広さ、柱の数、床の状態。一つ一つ、丁寧に書き留める。
「この空間は何に使われていたんでしょうか」
彼女が周囲を見回す。柱、天井、床。広い空間。何かの目的があったはず。
「集会場でしょうか」
「分からないわ」
アルカナが奥を指差す。暗闇の向こう。何かがある。
「先に進んでみましょう」
四人は広間を横切る。足音が静かに響く。埃が舞い上がる。灯りが揺れて、影が動く。柱の影が、壁に大きく映る。
広間の奥に、通路が見える。幅は2メートルほど。天井は低く、3メートルほどしかない。狭い。
「通路ですね」
レオンが通路を覗き込む。暗闇が奥に続く。どこまで続くのか。
「奥に続いているようです」
四人は通路に入る。灯りを掲げて、慎重に進む。一歩、一歩。足を確かめながら。壁は石で作られる。表面は滑らか。何かで磨いたような質感。手で触れると、冷たく、硬い。
「この壁、きれいに仕上げられていますね」
エリアが壁に触れる。指で表面を撫でる。凹凸がほとんどない。平らで、滑らか。
「高度な技術です」
四人は通路を進む。10メートル、20メートル。通路は真っ直ぐ続く。途中で曲がることもなく、ただ真っ直ぐ。
レオンが足を止める。彼の手が、額に触れる。顔をしかめる。
「何か、変な感じがします」
彼が額に手を当てる。眉をひそめる。
「頭が少し重いような」
「私もです」
エリアが立ち止まる。灯りを持つ手が、少し震える。顔色が悪い。額に汗が浮かぶ。
「めまいがするような」
セレスも足を止める。壁に手をつく。体を支える。呼吸が荒くなる。
「気分が」
彼女が壁に手をつく。体重をかける。膝が震える。
「良くないです」
アルカナが振り返る。三人の様子を見る。顔色、呼吸、姿勢。異常がある。
「大丈夫?」
「はい」
レオンが深呼吸をする。空気を吸い込む。吐き出す。でも、頭の重さは消えない。違和感が残る。
「でも、何か変です」
「魔力かもしれないわ」
アルカナが通路を見回す。壁、天井、床。どこかに、魔力の源がある。強い魔力。古代の魔力。
「この遺跡には古い魔力が残っているの。それが影響しているのかもしれない」
「魔力?」
エリアが尋ねる。息が苦しい。話すのも辛い。
「それが原因ですか?」
「たぶん」
アルカナが壁に手を当てる。目を閉じる。魔力を感じる。壁の奥から、強い魔力が流れ出てくる。古い、重い魔力。
「この壁から、古い魔力を感じるわ。とても強い」
「危険なんでしょうか」
セレスが尋ねる。声が震える。不安が込み上げる。ここにいたら、危ないのか。
「分からないわ」
アルカナが答える。彼女は平気。でも、三人は違う。三人には、この魔力が合わない。
「でも、私は平気よ。私は魔力に慣れているから」
レオンが前に進もうとする。足を踏み出す。でも、足元がふらつく。体が傾く。バランスが取れない。
「すみません」
彼が壁に手をつく。体を支える。立っているのが精一杯。これ以上進むのは無理。
「少し休んだ方が良さそうです」
「戻りましょうか」
セレスが提案する。声が弱々しい。限界が近い。
「外に出て、少し休んでから」
「いや」
レオンが首を振る。ここまで来た。せっかくここまで。諦めたくない。
「せっかくここまで来たのに」
「でも、無理は禁物よ」
アルカナが三人を見る。三人とも、顔色が悪い。呼吸が荒い。限界が近い。これ以上は危険。
「体調が悪いなら、戻った方がいいわ」
「少しだけ」
エリアが言う。声を絞り出す。もう少し。あと少しだけ。
「もう少しだけ進んでみませんか」
四人はゆっくりと進む。アルカナが先頭。レオン、エリア、セレスが続く。一歩、また一歩。数メートル進む。でも、レオンが膝をつく。崩れ落ちる。
「すみません」
彼が額に手を当てる。頭が重い。立っていられない。視界が揺れる。
「立っていられません」
エリアとセレスも、壁に寄りかかる。体を預ける。足が震える。もう無理。
「やはり戻りましょう」
アルカナが三人を支える。レオンの肩を支えて、立たせる。エリアとセレスも、壁を伝って歩く。
「無理はしないで」
四人は通路を戻る。アルカナが三人を支えながら、ゆっくりと進む。一歩ずつ、慎重に。広間に戻る。広い空間。天井の高い場所。
レオンが床に座り込む。エリアとセレスも座る。三人は荒い呼吸を繰り返す。汗が顔を伝う。でも、少しずつ、体が楽になる。頭の重さが、薄れていく。
「大丈夫?」
アルカナが三人の顔を見る。顔色が、少し戻ってくる。呼吸が、落ち着いてくる。
「はい」
レオンが深呼吸をする。空気を吸い込む。吐き出す。通路にいた時より、ずっと楽。
「広間に戻ったら、少し楽になりました」
「私もです」
エリアが額の汗を拭う。まだ体はだるい。でも、先ほどよりはマシ。
「通路にいた時より、ずっと楽です」
「魔力の濃度が違うのかもしれないわ」
アルカナが通路を見る。暗闇が奥に続く。あの奥に、何かがある。強い魔力の源。
「通路の方が魔力が濃いのかも」
セレスがノートに記録する。通路で体調不良になったこと。広間に戻ったら回復したこと。魔力の影響と思われること。ペンが紙の上を走る。
「この魔力は、有害なんでしょうか」
彼女が尋ねる。ペンを止めて、アルカナを見る。
「有害というか」
アルカナが考える。言葉を選ぶ。正確な表現。
「あなたたちには合わないのよ。古代の魔力は、現代の人には刺激が強すぎるの」
「アルカナさんは平気なんですか?」
レオンが尋ねる。彼女だけ、何ともない。顔色も変わらない。
「ええ」
アルカナが頷く。彼女は古代の存在。魔核炉心の中で、二千年以上。古代の魔力に、ずっと触れていた。
「私は古代の魔力に慣れているから。魔核炉心の中で長い時間を過ごしていたでしょう」
「それで」
エリアが納得する。だから彼女だけ。彼女だけが、この魔力に耐えられる。
「アルカナさんだけ平気なんですね」
「そうね」
アルカナが三人を見る。三人はまだ、完全には回復していない。顔色は戻ったが、まだ疲労が残る。
「あなたたちが奥に進むのは難しそうね」
「でも」
レオンが立ち上がろうとする。手を床について、体を持ち上げる。でも、腕が震える。力が入らない。
「このままでは」
「無理しないで」
アルカナが手を差し出す。レオンの手を取って、支える。
「今は休みましょう。対策を考えてから、また挑戦すればいいわ」
三人は床に座る。背中を柱に預ける。呼吸を整える。体力が、徐々に戻ってくる。頭の重さが消えて、視界がはっきりする。めまいが止まって、体が軽くなる。
「だいぶ良くなりました」
レオンが立ち上がる。足がしっかりと床を踏む。もう大丈夫。
「外に出ましょうか」
四人は扉に向かう。広間を横切って、入口へ。扉の隙間をくぐって、外に出る。新鮮な空気を吸う。肺が広がる。体が楽になる。
「やはり外の方が楽ですね」
エリアが深呼吸をする。何度も、何度も。空気が美味しい。
「中の空気は重かったです」
「魔力の影響ね」
アルカナが遺跡を見上げる。巨大な石の建物。この中に、強い魔力が眠る。古代の魔力。
「この遺跡には、かなり強い魔力が残っているわ」
「どうしましょうか」
セレスが皆を見回す。レオン、エリア、アルカナ。三人の顔。
「このままでは、奥に進めません」
「対策を考えましょう」
レオンが言う。諦めない。必ず方法がある。
「何か方法があるはずです」
「魔力を遮断する方法」
エリアが考える。腕を組んで、視線を地面に落とす。工房の技術。あの知識で、何かできないか。
「工房の技術で、何かできないでしょうか」
「難しいかもしれないわ」
アルカナが首を振る。魔力の遮断。それは簡単なことではない。
「魔力を遮断するのは、簡単じゃないの」
「でも」
レオンが遺跡を見つめる。あの中に、何かがある。古代の技術。それを、見つけたい。
「何か方法を見つけないと」
四人は遺跡の前で、対策を話し合う。どうすれば奥に進めるか。魔力から身を守る方法はないか。言葉を交わして、考えを出し合う。
「少しずつ慣れるという方法は?」
セレスが提案する。ノートを見ながら、考える。
「毎日少しずつ、中に入る時間を増やしていけば」
「それは危険よ」
アルカナが反対する。彼女の声は強い。それは、駄目。
「魔力に慣れるには時間がかかるし、体に負担がかかるわ」
「では」
エリアが考える。別の方法。他に何か。
「アルカナさんだけが奥に進んで、私たちは外で待つというのは」
「それも考えたわ」
アルカナが頷く。でも、それも問題がある。
「でも、一人で奥に進むのは不安ね。何があるか分からないから」
「そうですね」
レオンが腕を組む。考え込む。どうすれば。
「やはり全員で進めるように、対策を考えないと」
「今日はここまでにしましょうか」
レオンが提案する。一度引く。準備を整えて、また来る。
「一度工房に戻って、対策を考えてから、また来ましょう」
「そうですね」
エリアが同意する。工房には資料がある。技術書がある。何か、ヒントがあるかもしれない。
「工房なら、資料もありますし」
「賛成です」
セレスも頷く。今は無理。でも、準備を整えれば。
「準備を整えてから、また挑戦しましょう」
「それがいいわ」
アルカナも同意する。無理はしない。安全第一。
四人は荷物をまとめる。扉を背に、山道を下り始める。遺跡が遠ざかっていく。森の中に、巨大な石の影が残る。
「必ず戻ってきます」
レオンが振り返る。遺跡を見つめる。
「対策を見つけて、必ず」
山道を下る。森を抜ける。工房への道のりは長い。しかし、四人の足取りには迷いがない。一歩、また一歩。前に進む。




