第33話 古代遺跡の全貌
第33話 古代遺跡の全貌
「これが」
レオンが息を呑む。森を抜ける。視界が開ける。目の前に、巨大な石造りの建造物が聳え立つ。四人は足を止める。
「遺跡」
建物は何層にも積み重なる。一層、二層、三層。数えきれないほどの階層が、天に向かって伸びる。石の表面は風化して、所々に苔が生える。時間が経過した証。
エリアが首を上げて、建物の頂を見上げる。首が痛くなるほど高い。頂上が、はるか上にある。
「想像以上に大きいですね」
彼女が呟く。工房と比較する。あの工房でさえ、大きいと思っていた。でも、これは。
「私たちの工房の、何倍もあります」
セレスが建物の周囲を見回す。遺跡は広大な範囲に広がる。正面だけでなく、左右にも石造りの構造物が続く。どこまで続くのか。
「どのくらいの広さなんでしょうか」
彼女が地図を取り出す。地図を広げる。遺跡の位置を探す。しかし、記載がない。この場所は、地図に載っていない。未知の領域。
「地図にも載っていませんね」
アルカナが遺跡に近づく。石の壁に手を触れる。冷たい感触が手のひらに伝わる。古い石。何百年、いや何千年。
「古いわ」
彼女が石の表面を撫でる。風化した表面。削れた角。時間の重み。
「とても古い。私が知っている時代よりも、もっと昔のものかもしれない」
「それほど古いんですか?」
レオンが驚いて尋ねる。アルカナは二千歳以上生きている。その彼女が知らない時代。
「アルカナさんが知らないほど、昔の?」
「そうね」
アルカナが頷く。石を見る。構造を見る。作り方が違う。
「この石の質感、構造の作り方。私の記憶にある建築様式とは違うわ」
四人は遺跡を見上げる。巨大な建造物。古代の技術。未知の文明。
「まずは外観を調査しましょうか」
エリアが提案する。全体像を把握する。それが先決。
「全体の構造を把握してから、侵入口を探しましょう」
「そうですね」
レオンが頷く。焦らない。慎重に。
「慎重に進めましょう」
四人は遺跡の周囲を歩き始める。建物の外壁に沿って、ゆっくりと進む。石の壁は継ぎ目なく積み上げられる。どうやって作ったのか。一つ一つの石が巨大で、人の手で運べる大きさではない。クレーンもない時代に、どうやって。
セレスがノートを取り出す。遺跡の特徴を記録していく。石の大きさ、壁の高さ、建物の形状。ペンが紙の上を走る。
「壁の厚さは、かなりあるようです」
彼女がノートに書き込む。目測で測る。少なくとも2メートル。いや、もっとか。
「少なくとも2メートル以上はありそうですね」
「頑丈に作られているんですね」
エリアが壁を叩いてみる。重い音が響く。石の密度。しっかりと詰まっている。
「内部は空洞になっているんでしょうか」
「たぶん」
アルカナが答える。建物として使われていたなら、当然。
「建物として使われていたなら、内部に空間があるはずよ」
四人は歩き続ける。遺跡の周囲。一周するのに、どのくらいかかるか。建物は思った以上に広い。正方形ではなく、複雑な形状をする。角が多く、突起した部分もある。迷路のような構造。
レオンが窓のような開口部を見つける。しかし、そこには石が詰められる。塞がれている。
「窓でしょうか」
彼が開口部に近づく。手で触れる。石が、がっちりとはめ込まれる。
「塞がれていますね」
「防御のためかもしれないわ」
アルカナが開口部を見る。窓を塞ぐ。光を遮る。外から見えないように。
「何かから守るために、窓を塞いだのかもしれない」
「何から守るんでしょうか」
セレスが尋ねる。外敵。侵入者。それとも、別の何か。
「外敵でしょうか」
「分からないわ」
アルカナが首を振る。理由は不明。でも、何か。
「でも、何か理由があったはずよ」
さらに進む。大きな扉が見えてくる。石でできた扉。高さは5メートル以上ある。幅も3メートルはあるか。巨大な扉。入口。
「扉です」
エリアが指差す。ついに見つけた。
「入口でしょうか」
四人は扉に近づく。扉の表面には文字のようなものが刻まれる。しかし、読めない。見たことのない文字。複雑な形状。古代の言語。
「古代文字ですか?」
レオンが文字を見つめる。指で辿ってみる。線の流れ。角度。
「アルカナさん、読めますか?」
アルカナが文字に近づく。じっと見つめる。しばらく沈黙が続く。彼女の瞳が、文字を追う。記憶を辿る。似た文字。似た形。
「読めるわ」
彼女が言う。でも、完全ではない。
「でも、完全には理解できない」
「どういうことですか?」
「文字は読めるの。でも、意味が曖昧なのよ」
アルカナが指で文字を辿る。一つ一つ。確認しながら。
「これは『入口』という意味だと思う。そしてこっちは『注意』か『警告』かしら」
「警告?」
セレスが身を乗り出す。警告。何の。どんな危険が。
「何の警告でしょうか」
「それが分からないの」
アルカナが首を傾げる。文字が古すぎる。意味が変化している。
「文字が古すぎて、正確な意味が掴めないわ」
エリアが扉を押してみる。両手を扉に当てる。力を込める。しかし、びくともしない。動かない。
「重いですね」
彼女が両手で押す。全力で。でも、動かない。
「開きそうにありません」
レオンも加わる。二人で押す。それでも扉は動かない。重すぎる。何トンあるのか。
「鍵がかかっているのかもしれませんね」
レオンが扉の縁を調べる。何か仕掛けがあるはず。開ける方法。
「開ける仕組みがあるはずです」
四人は扉の周囲を調べる。何か仕掛けがないか。ボタンのようなもの、レバーのようなもの。手で触れて、目で見て、確認する。
セレスが扉の下部に、小さな窪みを見つける。人工的な形。何かの目的がある。
「これは何でしょうか」
彼女がしゃがみ込んで、窪みを覗く。内部は暗い。奥行きがある。
「何かはめ込む場所でしょうか」
アルカナが窪みを見る。しゃがんで、同じ高さから見る。窪みの形状。大きさ。
「鍵穴かもしれないわ」
彼女が手を窪みに入れてみる。手がすっぽり入る大きさ。でも、何もない。
「でも、鍵がないわね」
「別の入口を探しましょうか」
エリアが提案する。ここだけとは限らない。他にもあるはず。
「ここ以外にも入口があるかもしれません」
四人は再び遺跡の周囲を歩く。扉を探して、壁を調べて、開口部を確認する。しかし、他に入口らしいものは見つからない。一時間ほど歩いて、元の場所に戻ってくる。
「他に入口はなさそうですね」
レオンが額の汗を拭う。疲れが溜まる。でも、まだ諦めない。
「あの扉が唯一の入口でしょうか」
「そうみたいね」
アルカナが扉を見つめる。あれを開けるしかない。
「あの扉を開けるしかなさそうよ」
四人は再び扉の前に立つ。どうやって開けるか。鍵がない。仕掛けも見つからない。力で。
「力づくで開けるのは無理でしょうか」
セレスが尋ねる。でも、あの重さ。
「でも、あの重さですから」
「道具を使えば、開けられるかもしれませんね」
エリアが荷物を見る。ロープがある。テコの原理。支点、力点、作用点。
「ロープと、テコの原理を使えば」
「試してみる価値はありそうです」
レオンが頷く。やってみよう。
四人はロープを取り出す。レオンが扉の上部の突起にロープを引っかける。セレスがロープの端を持つ。エリアとアルカナも続く。四人が一列に並ぶ。
「せーの」
レオンが声をかける。呼吸を合わせる。
四人は一斉に引っ張る。ロープが張り詰める。四人の足が地面を踏みしめる。体重を後ろにかけて、全力で引く。腕に力を込める。でも、動かない。
「もう一度」
レオンが息を整える。諦めない。
「せーの」
再び引っ張る。腕に力を込める。足が地面に食い込む。体が後ろに傾く。
ギシリ、と音がする。何かが動く音。
「動いた?」
エリアが言う。確信はない。でも、今の音。
「もう一度、せーの」
四人は諦めずに引き続ける。額に汗が浮かぶ。腕が震える。呼吸が荒くなる。限界が近い。でも、あと少し。
ゴゴゴ、と重い音が響く。扉が動き始める。わずかに、しかし確実に。石が石を擦る音。
「動いています」
セレスが叫ぶ。本当に動いている。
「このまま」
四人は力を緩めない。少しずつ、扉が開いていく。隙間が広がる。10センチ、20センチ、30センチ。人が通れるほどの隙間が開く。
「開きました」
レオンが息を切らせて言う。やった。ついに。
「何とか開きましたね」
四人はロープを放す。扉は開いたまま、動かない。自重で固定される。
隙間から、内部の暗闇が覗く。冷たい空気が流れ出てくる。古い、埃っぽい匂いがする。長い間、閉じられていた空間の匂い。
「中に入りますか?」
セレスが尋ねる。空を見上げる。太陽の位置。
「もう日が傾いてきています。今日は外で野営して、明日入った方がいいのでは」
エリアが空を見上げる。西の空が赤く染まり始める。日没が近い。
「そうですね」
レオンが同意する。暗い中で入るのは危険。明るい時に。
「明日の朝、明るくなってから入りましょう」
「賛成よ」
アルカナが頷く。安全第一。
「暗い中で入るのは危険だわ」
四人は遺跡の前で野営の準備を始める。布を広げて、荷物を降ろす。保存食を取り出して、簡単な夕食を済ませる。
レオンが焚き火を起こす。火が揺れる。暖かい。空には星が輝き始める。四人は焚き火を囲んで座る。
「明日、いよいよ中に入るんですね」
エリアが焚き火を見つめる。明日。遺跡の内部。何があるのか。
「どんなものがあるんでしょうか」
「古代の技術が、何か残っているといいですね」
レオンが言う。工房で学んだ技術。それと比較できれば。
「工房の技術と比べられれば、勉強になります」
「気をつけて進みましょう」
セレスが皆を見回す。四人の顔。焚き火に照らされる。
「何があるか分かりませんから」
「そうね」
アルカナが頷く。古い遺跡。罠があるかもしれない。危険な場所があるかもしれない。
「古い遺跡には、危険なものもあるかもしれない。慎重に進みましょう」
焚き火の炎が揺れながら、四人の顔を赤く照らし出す。レオンは背後を振り返って遺跡を見上げる。暗闇の中、巨大な石の建造物が不気味な影となって聳え立っている。彼は焚き火に視線を戻して小さく息を吐く。明日は、あの中に入るんだ。どんなものが待っているのだろうか。




