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第31話 新たな冒険への扉

第31話 新たな冒険への扉


「今日も順調ですね」


エリアが制御パネルの前でゆっくりと立ち上がる。数値を一つ一つ確認する彼女の指先は、もう完全に慣れた動き。魔力の流れを示す青い光が、パネルの表面で規則正しく明滅する。エリアは満足げに頷く。安定している。ルナの装置が完成してから一週間。彼女からの手紙が届いたのは、昨日。


「ルナさんからお手紙です」


セレスが手紙を掲げて振り返る。便箋には丸い文字がびっしりと並ぶ。感謝の言葉と近況報告。学校で友達ができたこと。ペンダントを褒められたこと。一つ一つの出来事が、丁寧な筆跡で綴られる。


「どれどれ」


アルカナが魔核炉心から現れて、セレスの肩越しに手紙を覗き込む。彼女の瞳が、文面を追いながら柔らかく細められる。


「友達ができたって」


「本当ですか」


エリアが制御パネルから離れて、セレスの側に歩み寄る。三人が手紙を囲む。ルナの喜びが、文字から伝わってくる。


「学校でね。ペンダントをつけているところを見られて、可愛いって言われたんですって」


「それは良かったです」


レオンが作業テーブルから顔を上げる。彼の前には技術資料が広げられる。ルナの装置を作った時の記録。あの時の試行錯誤が、全て書き留められている。


「技術が役に立って、本当に嬉しいですね」


「そうね。私も嬉しいわ」


アルカナが微笑む。四人は一瞬、黙って手紙を見つめる。ルナの幸せが、工房に温かい空気を運んでくる。


窓から差し込む光が、作業テーブルの上に斜めに伸びる。四人はテーブルを囲んで座る。テーブルの上には技術資料、設計図、ノート、ペンが散らばる。エリアが理論書を開いて、指で行を追う。セレスはノートにメモを取りながら、時折ペンを止めて考え込む。レオンは設計図を見つめて、腕を組む。アルカナは魔核炉心に半分入ったまま、四人の様子を見守る。


「保存技術の研究は進んでいますか?」


エリアがページをめくりながら尋ねる。彼女の指先が、理論書の図表で止まる。複雑な魔力回路の図。何度見ても、完全には理解できない部分がある。


「基本理論は理解できました」


レオンが頭を掻く。設計図に書き込まれた計算式。確かに、数字は合っている。でも、それを実際の装置にするのは、また別の話。


「でも、実際の応用となると、まだ先は長そうです」


「そうですか」


エリアがページを閉じる。理論と実践。二つの間には、まだ大きな隔たりがある。それを埋めるには、もっと時間が必要。


「理論と実践は違いますから。理解することと、実際に作ることは別なんでしょうね」


「個別対応の技術も、もっと磨きたいですね」


セレスがペンでノートの端を軽く叩く。ルナの装置を作った時、何度も設計を変更した。一人一人、必要なものは違う。それに合わせて、技術を調整する。簡単なことではない。


「一人一人に合わせた解決策を見つけられるように」


「古代の技術も、きっとそうだったのよ」


アルカナが魔核炉心から顔を上げる。彼女の記憶の中にある、古い時代の工房。職人たちが、一つ一つ丁寧に物を作っていた。その時代の人たちが必要としていたもの。それを、一つ一つ形にしていた。


「その時代の人たちが必要としていたものを作っていたんでしょうね」


「私たちも同じですね」


エリアが頷く。今の人たちのために。彼女たちにできることを。技術を使って、誰かの役に立つ。それが、四人の仕事。


「今の人たちのために技術を使う」


静かな時間が流れる。四人はそれぞれの作業に戻り、ページをめくる音やペンが紙に走る音、設計図を広げる音が工房に響く。レオンは資料に目を落とし、エリアは理論書の内容を確認し、セレスはノートに細かくメモを書き込んでいく。アルカナは魔核炉心の中で古い記憶を辿っている。レオンは小さく息を吐く。穏やかな時間だ。


セレスが手を止める。ペンを置いて、仲間たちを見回す。彼女の目が、何かを思い出したような色を帯びる。


「そういえば」


レオン、エリア、アルカナが一斉にセレスの方を向く。三人の視線が、セレスに集まる。


「面白い話を聞いたんです」


「どんな話ですか?」


エリアが資料を脇に置いて、身を乗り出す。セレスの表情には、興奮が滲む。何か、特別なことを知った時の表情。


「北の山奥に、大きな遺跡があるそうです」


レオンが設計図から目を離す。エリアが背筋を伸ばす。アルカナが魔核炉心から完全に現れる。工房の空気が、一瞬で変わる。遺跡。その言葉が、四人の関心を一気に引きつける。


「遺跡?」


レオンが繰り返す。彼の声には、驚きと興味が混じる。


「はい。街で会った行商人の方が教えてくれました」


セレスが両手を広げる。彼女の身振りが、大きな建物を示す。


「どんな遺跡なんですか?」


エリアが尋ねる。彼女の目が輝く。


「その方が言うには、偶然見つけたそうです。山道を歩いていたら、木々の向こうに大きな建物が見えたって」


「最初は目を疑ったそうです。こんな山奥に、こんな大きな建物があるなんて、って」


セレスの声に、興奮の色が混じる。行商人が語った話。その驚きが、今、セレスの言葉を通じて伝わってくる。


「私たちの工房より大きいんでしょうか?」


アルカナが尋ねる。この工房も、かなり大きい。古代の遺跡を改造したもの。それより大きな建物となると、相当な規模。


「それが、比べ物にならないくらい大きいそうです」


「何層もの建物が縦に積み重なっていて、遠くからでもはっきり見えるほどだったって」


「何層も?」


エリアが目を見開く。彼女の声が、少し上ずる。


「はい。その方は近づくのが怖くて、遠くから見ただけだそうですけど」


「人工のものだと分かったんですか?」


レオンが身を乗り出す。彼の目が、好奇心に満ちる。


「明らかに人が作ったものだったそうです。石を積み上げて作られていて、でもとても古いものだって」


「古代の遺跡なんでしょうか」


「たぶん。その方も、古い時代の建物だと思うって言っていました」


四人は顔を見合わせる。この工房も、もともとは古代の遺跡。そして今、別の遺跡が存在する。古代の人々が作った、別の建物。そこには、何が残されているのか。


「へえ」


レオンが資料から完全に目を離す。彼の手が、無意識にテーブルを叩く。興味が、抑えきれない様子。


「それは興味深いですね」


「見に行ってみない?」


アルカナが魔核炉心から身を乗り出すように言う。彼女の瞳が輝く。古代の遺跡。彼女の時代のもの。もしかしたら、知っている建物かもしれない。


「私たちの工房も古代遺跡だったのよ。他の遺跡を見れば、何か分かることがあるかもしれない」


「それはいいですね」


エリアが理論書を閉じる。彼女の手が、本の表紙を撫でる。理論の勉強も大事。でも、実際の遺跡を見ることも、同じくらい価値がある。


「別の遺跡を見学するのも勉強になりそうです」


「でも」


セレスがペンを置く。彼女の表情が、少し曇る。興味はある。でも、同時に不安も。


「遺跡探索って、危険じゃないでしょうか」


「確かに」


レオンが頷く。遺跡。古い建物。何があるか分からない。準備なしで行くのは、無謀。


「準備は必要でしょうね」


「慎重に検討した方が良さそうです」


エリアが言う。彼女の声は、冷静。でも、その目には、やはり興味の光が宿る。


「でも」


レオンが仲間たちの表情を見回す。三人とも、同じ表情。興味と不安が混じった、でも前向きな表情。


「見に行ってみる価値はありそうですね」


全員が頷く。古代の技術に直接触れる機会。それは、今の彼らにとって大きな意味を持つ。理論書を読むだけでは分からないこと。実際の遺跡を見れば、見えてくるかもしれない。


レオンが三人の顔を見回すと、エリアが頷き、セレスも頷き、アルカナが微笑む。言葉はいらない。レオンも頷き返す。行ってみよう。慎重に、でも確実に。


レオンがテーブルに地図を広げて、四人が地図を囲む。セレスの指が地図の上を滑り、北の山奥の位置で止まる。山の奥深く、そこに遺跡がある。


「北の山奥」


エリアが地図に指を置く。彼女の指が、山の奥深くを示す位置で止まる。等高線が密集した場所。険しい地形。


「ここですね」


「街から徒歩で2日程度でしょうか」


レオンが地図を覗き込む。距離を目測する。山道。平坦な道ではない。時間がかかる。


「装備はどうしましょう」


セレスがノートを開く。新しいページ。そこに、リストを書き始める。


「水と食料は必須ですね」


「野営道具も要りますね」


レオンが言う。二日の旅。途中で泊まる必要がある。テント、寝袋、調理道具。


「山道を2日歩くなら、途中で一泊する必要がありそうです」


「それから、万が一の時の道具も」


エリアがノートにメモを取る。リストが、どんどん長くなる。応急処置の道具、予備の食料、ロープ、灯り。


「応急処置の道具とか、予備の食料とか」


「でも」


レオンがテーブルから顔を上げる。彼の表情が、真剣になる。


「無理は禁物ですね」


「そうね」


アルカナが頷く。探索は興味深い。でも、命より大事なものはない。


「危険を感じたら、すぐに引き返しましょう」


「安全が最優先です」


セレスが確認するように言う。ノートにペンを走らせながら、何度も頷く。


「無事に帰ってくることが一番大事ですから」


「それでも」


エリアがノートを閉じる。彼女の目が、また地図に向けられる。北の山奥。そこにある遺跡。


「行ってみる価値はありそうですね」


「新しい知識が得られるかもしれません」


レオンが地図を見つめる。山道。険しい道。でも、その先に、何かがある。


「そうあるものではない機会ですから」


四人は再び地図を見つめる。北の山奥。そこに眠る古代の遺跡。何が待っているのか。それは、行ってみないと分からない。


「やってみませんか?」


レオンが仲間たちを見回す。三人の顔。それぞれに、決意の色が浮かぶ。


「せっかくの機会ですし」


「私も賛成です」


エリアが微笑む。彼女の声には、迷いがない。


「別の遺跡を見てみたいです」


「工房の技術との違いを確認できれば、研究にも役立つかもしれません」


セレスが頷く。彼女もまた、同じ気持ち。


「準備をしっかりすれば大丈夫でしょう」


「計画的に進めましょう」


「私も一緒に行くわ」


アルカナが魔核炉心から現れる。彼女の全身が、工房の中に立つ。


「古い遺跡なら、私の記憶が役に立つかもしれない」


「それでは決まりですね」


レオンが立ち上がる。彼の声に、力が込められる。


「古代遺跡探索に挑戦してみましょう」


全員が頷く。四人の合意が成立する。後は準備を整えるだけだ。


レオンが工房の床に荷物を並べ始める。地図、羅針盤、水筒、保存食、野営用の布、予備の衣類、応急処置の道具、ロープ、簡易的な調査機材。一つ一つが、丁寧に選ばれた品だ。


「地図、食料、道具類」


エリアが一つ一つ確認していく。リストと照らし合わせながら、荷物を点検する。チェックマークが、リストに次々と付けられる。


「全部揃っていますね」


「重さは大丈夫ですか?」


セレスが荷物を持ち上げてみる。ずっしりとした重み。でも、運べない重さではない。


「これなら運べそうです」


「よし」


レオンが荷物を背負ってみる。重量を確かめて、頷く。バランスも悪くない。


「準備完了ですね」


「明日出発しましょう」


アルカナが皆を見回す。四人の表情。それぞれに、期待と緊張が混じる。


「早朝に出れば、日中のうちにかなり進めるでしょう」


「そうですね」


エリアが窓の外を見る。空は晴れる。風もない。明日の天気は、良さそう。


「明日も天気は良さそうです」


四人は荷物を見つめる。明日からの探索に向けて、準備は整う。工房の中に、静かな興奮が満ちる。新しい冒険の始まり。

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