第3話 古代技術の覚醒
第3話 古代技術の覚醒
「これで最低限の装備です」
エリアが大きなリュックサックを背負いながら息を切らしている。回復薬、解毒薬、緊急脱出用の転移石、防護結界の巻物……。
探検準備は、レオンの予想を遥かに超える大荷物になっていた。
「そんなにたくさん必要ですか?」
レオンがのんびりと首を傾げる。
「古代遺跡の見学でしょう?」
「見学って……」
エリアの声が高く裏返る。
「レオンさん、遺跡探索は命がけなんです。罠があったり、魔物がいたり……」
「そうですね。危険なこともあるかもしれませんね」
レオンが真剣な表情になる。
「エリアさんがこれだけ準備してくれるなら安心です」
エリアは少し安堵の表情を見せた。
【忘却の森】の入り口に着くと、エリアが慎重に周囲を警戒し始めた。
「魔力の流れが不安定ですね」
エリアが杖を構える。
「やはり普通の場所ではありません」
「面白いですね」
レオンがきょろきょろと見回す。
「どんな魔法陣が組まれてるんでしょう?」
レオンは地面に手を置いて、魔力の流れを感じ取ろうとした。すると、頭の中に複雑な魔法陣の構造が浮かび上がってきた。
「あー、これは侵入者を弾く結界ですね」
レオンが立ち上がる。
「でも、設計が古いから迂回できそうです」
「迂回って……」
エリアが目を見開く。
「レオンさん、結界の解析ができるんですか?」
「なんとなく、ですけど」
レオンが歩き始める。
「こちらの方向から行けば、結界に引っかからずに済むと思います」
エリアは半信半疑ながらも、ついてきた。確かに、レオンが選んだルートでは結界の反応が起きない。
「すごい……」
エリアがつぶやく。
「魔法学院でも、こんな高度な結界解析は上級生でないと……」
「そんなに高度ですか?」
レオンが振り返る。
「なんとなく魔力の流れを追っただけですが」
森の奥に進むにつれて、古代の魔法技術の痕跡がより濃くなってきた。木々に刻まれた古代文字、空中に浮かぶ光の粒子、そして――
「あれです」
レオンが指差した先に、苔に覆われた石の建造物が見えた。
「本当に遺跡が……」
エリアが息を呑む。
「図書館の地図は正確だったんですね」
建造物の入り口には、巨大な石扉があった。扉には複雑な古代文字が刻まれている。
エリアがそれを見上げて困惑していると、レオンは何の躊躇もなく文字を読み上げた。
「『真なる技術者のみ、この地に眠る遺産を継承せよ。知識を求める者には試練を、技術を極める者には栄光を』……だと思います」
「え?」
エリアが驚いて振り返る。
「今、古代文字を読んだんですか?」
「読めたような気がします」
レオンがごく自然に扉に手を置く。
「で、どうやって開けるんでしょうね、この扉」
レオンは扉を調べ始めた。表面には魔法陣のような模様が刻まれているが、これも理解できる。
エネルギー回路、認証システム、そして――
「あ、これは魔力認証ですね」
レオンが手を扉に当てる。
「特定の魔力パターンを要求してます」
「特定の魔力パターン?」
「古代魔導工学を理解している人の魔力パターンです」
レオンが魔力を扉に流し込んだ。
「つまり……」
すると、扉の文字が青白く光り始めた。
「こんな感じでしょうか」
ゴゴゴゴ……という重厚な音と共に、石扉がゆっくりと開き始めた。
「うそ……」
エリアが後ずさりする。
「本当に開いた……」
「思った通りでした」
レオンが嬉しそうに笑う。
「さあ、中に入ってみましょう」
地下に続く階段の先に、淡い青光が見えた。レオンが足を踏み入れると、自動的に照明の魔法陣が起動した。
「自動照明システムですか」
レオンが感心する。
「三千年前の技術とは思えない精密さですね」
地下室は想像を遥かに超える、まさに奇跡のような光景だった。
浮遊する魔道具、自動で動作する機械装置、そして中央に荘厳に鎮座する巨大な青い結晶。
「これが……」
エリアが完全に息を呑む。
「古代魔導工学の工房……」
レオンは、まるで導かれるように中央の結晶に近づいた。それは【魔核炉心】と呼ばれるものだと、なぜか直感的に理解できた。
古代文明の魔導技術の究極の集大成。
『ようこそ、若き技術者よ』
突然、頭の中に声が響いた。【魔核炉心】から発せられる意識の声だった。
「あ、こんにちは」
レオンが手を振る。
「すごい工房ですね」
『汝は……興味深い』
声が続く。
『古代の叡智を理解しているようだが……』
「理解してます」
レオンが結晶に手を触れる。
「というか、これって現代の技術より効率的ですよね?」
『……』
しばらく沈黙があった後、声が再び響いた。
『汝の内に眠る【古代視】を覚醒させよう』
突然、レオンの頭の中に膨大な情報の洪水が押し寄せてきた。
魔導回路の設計図、失われた古代文字の意味、そして何より――この工房のすべての技術と、それを超える可能性。
「おお……」
レオンの瞳が青い光を帯びて輝く。
「これは本当にすごい知識ですね」
レオンの視界が完全に変化した。工房の設備一つ一つの機能、使い方、そして隠された真の可能性が、まるで長年親しんだ道具のように理解できる。
まるで古代の技術者の魂が彼の中で目覚めたかのように。
「レオンさん?」
エリアが心配そうに近づく。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
レオンが振り返る。その目には新しい光が宿っていた。
「むしろ、すごく調子がいいです。エリアさん、見てください」
レオンが工房を見回す。
「この工房の技術を使えば、今まで誰も作ったことがない魔道具が作れるかもしれません」
「誰も作ったことがない……」
エリアがつぶやく。
『汝はこの工房の新たな主となる』
【魔核炉心】の声が響く。
『古代の技術を現代に復活させるのだ』
「復活ですか……」
レオンが首を傾げる。
「でも、復活させるだけじゃもったいないですよね。もっと発展させたいです」
『発展?』
「古代の技術は確かに優秀ですが」
レオンが工房の装置を見回す。
「現代の知識と組み合わせれば、もっとすごいものが作れるかもしれません」
どれも素晴らしい技術だが、レオンの知識と組み合わせれば、さらに向上させることができる。
「エリアさん」
レオンが振り返る。
「ここを新しい工房にしませんか?」
「新しい工房って……」
エリアの声が震える。
「レオンさん、ここは古代遺跡ですよ? 勝手に使っていいんですか?」
「【魔核炉心】が許可してくれました」
レオンが結晶を撫でる。
「それに、ここの技術を現代に活用するのは、古代の人たちも喜んでくれると思います」
『その通りだ』
【魔核炉心】の声が響く。
『技術は使われてこそ価値がある』
エリアはレオンと【魔核炉心】を交互に見て、深いため息をついた。
「レオンさんと一緒にいると、本当に常識が通用しませんね……」
「新しいことを試すのは楽しいですよ」
レオンがにっこりと笑う。
エリアはまたため息をついたが、その表情には呆れと同時に、微かな期待も混じっているように見えた。




