第29話 小さな成功と大きな課題
第29話 小さな成功と大きな課題
共鳴増幅法の段階的改良が始まって一週間が経った。工房はこれまでにない集中状態に包まれていた。
「おはようございます、レオンさん」
エリアが朝食を持って工房に入ってきた。彼女の表情には疲労の色があるが、同時に達成感も見える。
「おはようございます、エリアさん。昨夜遅くまでお疲れ様でした」
レオンも疲れていたが、技術者としての充実感を感じていた。一週間の集中作業で、改良版の共鳴増幅法が形になりつつある。
「レオン、見て!」
セレスが興奮した様子で現れた。手には測定結果の資料を持っている。
「ついに改良が成功したんですか?」
「第一段階よ!」セレスが嬉しそうに資料を掲げる。「昨夜の最終実験で、ようやく安定した結果が出たわ」
その時、工房の中央からアルカナの声が聞こえてきた。
「みんな、やったわね!」
【魔核炉心】から現れたアルカナは、満面の笑みを浮かべていた。
「どうかしら、私の段階的改良法!」
「確かに一週間で結果が出たのは素晴らしいですね」セレスが素直に褒める。
「でも効果の方は大丈夫でしょうか?」エリアが期待そうに聞く。
レオンが資料を詳しく確認しながら答える。
「基本性能は向上しているようです。ただし…」
「ただし?」
「改良効果は予想より控えめかもしれません。10%向上の目標に対して、実際は7%程度かな」
アルカナが少ししょんぼりする。
「やっぱり控えめな結果になっちゃったのね…」
「でも段階的改良としては十分ですよ」レオンがフォローする。「一週間でここまで改良できたのは本当にすごいです」
午前十時、工房での成果確認会。
ダニエルとトーマスが、改良された共鳴増幅法の説明を受けていた。
「これが一週間で改良した技術です」
レオンが実験装置を指す。青い光を放つ改良された処理台は、見た目にも技術の進歩を感じさせる。
「効率が向上してるんですね」ダニエルが興味深そうに見る。
「はい。処理時間の短縮を重視しました」レオンが説明する。「品質を保ちながら効率化できています」
トーマスが質問する。
「改良の効果はどの程度でしょうか?」
「約7%の効率向上です。小さく見えますが、累積すると大きな差になります」
「7%…」ダニエルが考え込む。「学院での研究にはとても有益ですね」
アルカナが手を挙げる。
「それならもっと改良すればいいのよ!」
「もっと?」
「そうよ!第二段階の改良で、さらに効率を上げられるかもしれないわ!」
レオンが慎重に確認する。
「ちょっと待ってください。第二段階の改良って、どの程度時間がかかるでしょうか?」
「え?」アルカナがきょとんとする。
「改良には実験と検証が必要ですから、第一段階と同じくらいかかるかもしれません」セレスが技術的な問題を指摘する。
「それに材料費も考慮しないと」エリアが現実的な問題を提起する。「改良実験にもコストがかかりますよ」
ダニエルが理解を示す。
「段階的に進められるのは良いですね。確実性が高まります」
アルカナが再び手をぱたぱたと振る。
「大丈夫よ!同時改良すればいいのよ!」
「同時改良?」
「第一段階の量産と第二段階の改良を並行するの!」
レオンが現実的に考える。
「アルカナさん、それだと作業が複雑になりませんか?」
「それに人手も足りないわ」セレスが現実的な問題を列挙する。「改良実験と量産作業の両方は大変よ」
「あ…そうね」アルカナがしょんぼりする。
トーマスが提案する。
「でしたら、まず第一段階の成果で実用テストを行ってはいかがでしょう?」
「実用テスト?」レオンが興味を示す。
「はい。実際の作業で効果を確認したいのです」
ダニエルが同意する。
「それは良い案ですね。効果が確認できれば、第二段階改良の方向性も決められます」
レオンは技術者として、実用テストに期待を示した。
「分かりました。ただし、テストは慎重に行ってくださいね」
「もちろんです」ダニエルが請け合う。
午後、実用テストの詳細が決められた後、四人は工房で今後の計画を話し合っていた。
「第一段階が成功すれば、他からも改良依頼が来そうね」セレスが予想する。
「学院の他の研究室も気になるし」エリアが期待そうに言う。「一度に全部対応できるかしら」
レオンが技術者として考える。
「やはり作業効率の向上が必要かもしれません」
アルカナが目を輝かせる。
「そうでしょ!やっぱり改良しなくちゃ!」
「改良って言っても」セレスが現実的に考える。「段階的にね。いきなり大幅改良は無理よ」
「まずは第二段階を確実に?」エリアが提案する。
「それなら現実的ですね」レオンが頷く。
その時、工房の扉がノックされた。
「どちら様でしょうか?」エリアが扉に向かう。
扉を開けると、そこには見覚えのある人影が立っていた。
「こんばんは、レオンさん」
魔法学院の別の研究者、リナが現れた。彼女の表情には期待と関心が混じっている。
「リナさん、どうされましたか?」
「実は、私たちの研究室でも効率化の問題があるんです」リナが説明する。「実験装置の処理速度が遅くて、研究が進まないんです」
レオンが身構える。
「つまり…?」
「共鳴増幅法の技術を、私たちの装置にも応用していただけませんでしょうか?」
セレスが現実的な確認をする。
「第一段階の実用テストが終わってからになりますが…」
「並行して検討することはできませんか?」リナが期待する。
アルカナが手を挙げる。
「大丈夫よ!応用研究すればいいのよ!」
「また始まった」エリアが苦笑いする。
「でも今度は本当にできるかもしれないわ!」アルカナが控えめに言う。「応用技術は基本より簡単だから!」
「簡単って」レオンが慎重に考える。「装置の仕様調査から始めないといけないのに」
「調査は必要よね」アルカナが素直に認める。「でも基本技術は既にあるもの」
「え?」三人が興味を示す。
「応用の方法、分かってるんですか?」セレスが確認する。
「基本的な考え方は分かるわ」アルカナが控えめに答える。「各装置の特性に合わせて調整するの」
リナが興味深そうに身を乗り出す。
「装置特性の調整?」
「そうよ。私たちの技術をベースに、それぞれの装置に最適化するの」
レオンが技術者として質問する。
「それなら調査と設計が重要ですね?」
「そうね!」アルカナが嬉しそうに答える。「でも一から開発するより早くできるかもしれないわ!」
「どの程度早くなりますか?」リナが期待する。
レオンが現実的に考える。
「調査と設計に一週間、応用開発に一週間、テストと調整に数日…最低でも二週間はかかると思います」
「二週間でも十分早いです」リナが感謝する。
こうして、第一段階改良の実用テストと並行して、応用技術の開発も検討することになった。
夜、工房で四人は今後のスケジュールを確認していた。
「第一段階のテスト、応用技術の開発、第二段階の改良…」セレスが項目を数える。「本当に全部できるでしょうか?」
「やるしかないですね」エリアが前向きに考える。
「きっと大丈夫よ!」アルカナが相変わらず希望的だった。「段階的にやれば、きっと何とかなるわ!」
レオンは作業台を見ながら、これから始まる技術開発について考えていた。技術者として非常にやりがいのあるプロジェクトだが、果たして全てをこなすことができるだろうか。
「まあ、一つずつ確実にやっていきましょう」
レオンの言葉で、四人は新たな挑戦に向けて気持ちを引き締めた。小さな工房から始まった技術改良は、着実に周囲に良い影響を与え始めていた。
「でも、無理はしないで進めましょうね」
レオンが慎重に付け加える。
「確実に品質を保ちながら、一歩ずつ技術を向上させていけたらいいですね」
「そうですね」
三人が声を揃えて答える。
「焦らず、でも着実に進歩していきましょう」




