第28話 現実という壁
第28話 現実という壁
共鳴増幅法の改良が始まってから一週間が経った。レオンの工房では連日、技術改良の実験が続いていた。
「おはようございます、レオンさん」
エリアが朝食を持って工房に入ってきた。彼女の表情には疲労の色が見える。この一週間、改良実験に集中して作業が続いていた。
「おはようございます、エリアさん。疲れてるみたいですね」
レオンも疲れていた。毎日のように実験データの分析を続け、改良案の検討が続いている。
「レオン、大変よ」
セレスが困った様子で現れた。手には厚い計算用紙の束を抱えている。
「何があったんですか?」
「改良実験の計算結果が出たの」セレスが深刻な表情で資料を広げる。「予想より複雑な結果よ」
レオンがその数字を見て、眉をひそめた。
「えーっと、これ、計算が間違ってませんか?」
「間違ってないわ」セレスがため息をつく。「共鳴パターンの最適化、理論計算、実験データ…全部合わせると、予想以上に時間がかかるみたい」
その時、工房の中央からアルカナの声が聞こえてきた。
「みんな、おはよう!今日も実験が楽しみね!」
【魔核炉心】から現れたアルカナは、相変わらず前向きだった。
「アルカナさん」エリアが困った顔で言う。「この改良実験、本当に大丈夫なんでしょうか?」
「実験?」アルカナが首をかしげる。「何か問題でもあるの?」
「時間のことよ」セレスが説明する。「あなたの提案した改良、実現するのに予想以上に時間がかかりそうなの」
「そんなの気にしなくていいじゃない」アルカナが軽やかに言う。「きっと何とかなるわよ!」
「何とかなるって」レオンが苦笑いする。「そう簡単にはいかないかもしれませんよ」
「大丈夫大丈夫!」アルカナが手をひらひらと振る。「実験を簡単にすればいいのよ!」
三人が同時に心配そうな顔をした。
「それは手抜きです!」エリアが慌てて止める。
「品質が下がりますよ!」セレスも同調する。
「え?そうなの?」アルカナがきょとんとする。「でも時間は短縮できるわよ…」
午前十時、工房での技術検討会。
四人が集まって改良実験の進捗を確認する会議が開かれた。議題は実験スケジュールの問題だった。
「みなさんにお集まりいただいたのは」レオンが重い口調で始める。「改良実験の進捗でご相談があるからです」
エリアが資料を確認する。「この実験期間は…確かに想定を大幅に上回ってますね」
「私たちの技術力では3週間かかりそうです」セレスが現実的な表情で言う。「とても2週間では終わりません」
アルカナが慎重に計算する。「改良実験だけでも、相当な時間がかかりそうね」
レオンも頭を悩ませる。「10台の納期を考えると、実験時間が足りないかもしれません」
工房に重い沈黙が流れた。
「あの…」レオンが恐る恐る口を開く。「もう少し実験を簡単にすることはできないでしょうか?」
「簡単に?」エリアが首をかしげる。
「はい。最初からそんなに複雑な改良ではなく、段階的に進めていくとか…」
その時、アルカナが手を挙げた。
「そんなことしなくても大丈夫よ!」
皆がアルカナを見る。
「実験時間を短くする方法があるわ!」
「どのような方法でしょうか?」セレスが期待を込めて聞く。
「簡易実験法を使うのよ!」アルカナが控えめに提案する。「詳細な測定は後回しにして、まず基本的な効果だけ確認するの!」
三人の目が興味深そうに光った。
「簡易実験?」エリアが興味を示す。
「そうよ!細かい数値は後で測定して、まずは改良が有効かどうかだけ確認するの!」
「それは良いかもしれません」セレスが前向きに考える。「実験期間も短縮されますね」
レオンが慎重に確認する。
「ちょっと待ってください。そんな実験方法、本当に有効なんでしょうか?」
「たぶん有効よ!」アルカナが控えめに答える。「昔はよく使っていた方法なの」
「でも精度は大丈夫なの?」エリアが心配する。
「えーっと…」アルカナが少し困った顔をする。「精度はちょっと下がるけど、大まかな効果は分かるかもしれないわ」
「大まかでも良いでしょうか」セレスが現実的に考える。
「でも品質は重要よ!」アルカナが慌てて付け加える。「基本的な効果が確認できれば、後で詳細実験をすればいいの!」
「それなら何とかなるかもしれません」レオンが希望を示した。
実験関係者の一人であるエリアが現実的な問題を指摘した。
「簡易実験の話は置いておくとして、現実的な解決策を考えませんか?」
「そうですね」セレスが同意する。「段階的実験という案はいかがでしょう?」
「最初は必要最小限の改良で始めて」エリアが続ける。「効果が出てから本格改良する」
アルカナも賛成した。「リスクを抑えながら進められるわね」
レオンが具体的な提案をした。
「まず第一段階として、現在の共鳴増幅法の10%改良から始めてはどうでしょう?」
エリアがほっとした表情を見せる。「それなら現実的な範囲ですね」
「10%なんて小さすぎるわ」アルカナが物足りなそうに言う。「せめて50%は改良したいわ」
「10%から始めて」セレスが現実的な提案をする。「うまくいったら段階的に向上しましょう」
三人が顔を見合わせて、頷いた。
「それでは、第一段階の改良から始めましょう」レオンが決定した。
午後、検討会が終わった後、四人は工房で話し合っていた。
「結局、現実的な改良に落ち着いたわね」セレスが安堵の表情を見せる。
「でも10%でも相当な改良ですよ」エリアが期待そうに言う。「本当にうまくいくでしょうか?」
レオンが技術者として考え込む。
「技術的には問題ないと思います。ただ、実験データが足りないかもしれません」
「実験データ?」
「改良効果の確認や検証、品質管理…今は基本的な測定しかしてませんが、改良が進めば、もっと詳細なデータが必要になるかもしれません」
アルカナが手をぽんと叩く。
「それなら測定を簡単にすればいいのよ!」
「また始まった」セレスが苦笑いする。
「簡易測定法なら時間も短縮できるわ!」アルカナが嬉しそうに説明する。「基本測定、効果測定、品質測定!」
「それは興味深いですが」レオンが冷静に考える。「そんな測定法を確立するのに、どのくらい時間がかかるんでしょうか?」
「えーっと」アルカナが指を数える。「一週間くらい?」
「ちょっと厳しいかもしれません」エリアが慎重に判断する。
「二週間?」
「それでも難しそうです」セレスが現実的な意見を言う。
「じゃあ、三週間!」アルカナが最終提案をする。
レオンが苦笑いしながら答える。
「測定法の改良も並行して進めましょう。ただし、期待はしすぎないで」
その時、工房の扉がノックされた。
「どちら様でしょうか?」エリアが扉に向かう。
扉を開けると、そこには見覚えのある人影が立っていた。
「こんばんは、レオンさん」
ダニエルが現れた。彼の表情は少し困ったような色を含んでいる。
「ダニエルさん、どうされましたか?」
「実は、学院での研究が予想以上に忙しくなりまして」ダニエルが申し訳なさそうに説明する。「納期を少し延ばしていただけませんでしょうか?」
レオンが安堵した。
「つまり…?」
「可能でしたら、納期を一週間延長していただけませんでしょうか?」
セレスが現実的な確認をする。
「期間はどのくらい延長でしょうか?」
「できれば3週間以内で…」
アルカナが手を挙げる。
「大丈夫よ!3週間もあれば余裕で作れるわ!」
「アルカナさん」エリアが嬉しそうに言う。「それなら改良実験にも時間をかけられますね」
「でも本当に改良できるのかしら!」アルカナが意欲的に言う。「段階的改良で確実に進めましょう!」
レオンが興味を示した。
「段階的改良?」
「品質を保ちながら、少しずつ効率を向上させる方法よ!」
「効率を保つって」セレスが期待そうに聞く。「どの程度?」
「えーっと」アルカナが控えめに答える。「少しずつかもしれないけど、確実に向上できるかもしれないわ」
結局、この日は現実的な解決策が見つかりそうだった。レオンは技術者として興味深い挑戦だと感じる一方で、確実に進めたいとも思っていた。
夜が更けていく中、四人は明日からの改良プロジェクトについて話し合い続けていた。
「明日から段階的改良を始めましょう」
レオンが前向きに言う。
「確実に一歩ずつ進めていけば、きっと良い結果になるでしょう」
「そうですね」
三人が声を揃えて答える。
「無理をせず、でも着実に技術を向上させていきましょう」




