第24話 二人目のお客様
第24話 二人目のお客様
朝の工房で、四人は二個目の【魔力視覚化装置】の制作に取り掛かっていた。
昨日の経験を活かし、作業は前回よりもスムーズに進んでいる。
「クリスタルの精製、完了です」
エリアが一個目のクリスタルを掲げる。
昨日の経験を活かし、今回はより効率的に作業を進めることができている。
透明度の高いクリスタルが朝日を受けて七色に輝き、その美しさに四人が見とれる。
「純度は前回と同等ですね」
セレスが測定器で確認する。
「うまくいったようです」
レオンが控えめに答える。
「二個目も同じ品質で作れそうです」
「三個目も順調です」
アルカナが三個目の精製を担当している。
古代技術の知識を活かし、現代では困難とされる高純度を実現している。
昼食までに、三個のクリスタルの精製が完了した。
「午後はフレームの制作ですね」
セレスが新しいデザインの設計図を確認する。
「今度は、より複雑な形状になりますが」
「頑張ってみます」
レオンが魔導金属のブロックに向かう。
「【古代視】で金属の内部まで見えるので、なんとかなるかもしれません」
工房の一角に設置された精密加工台で、レオンが慎重に金属を削り始める。
【古代視】の能力により、通常では困難な精度で加工が進む。
金属の削りカスが規則正しく落ち、美しい曲線が徐々に現れていく。
「まるで彫刻みたいですね」
エリアが感心しながら見守る。
「金属が意思を持っているかのよう」
「材料との対話ですから」
レオンが集中しながら答える。
彼の手は、まるで魔法を使っているかのように滑らかに動いている。
一時間後、花弁のような美しいフレームが完成した。
「これは芸術品ですね」
セレスが完成したフレームを手に取る。
精密な加工により、実用性と美しさが調和している。
「機能美の極致です」
アルカナが満足そうに頷く。
「古代技術の理念が現代に蘇ったわ」
午後二時頃、魔力回路の配線作業が始まった。
今回は、アルカナの提案による安定化回路も追加するため、より複雑な配線が必要になる。
髪の毛ほど細い銀線を、精密なパターンで配置していく作業は、まさに職人技の領域だった。
「安定化回路は、ここに配置します」
アルカナが設計図の特定の部分を指差す。
「メイン回路と干渉しないよう、絶縁層を挟みます」
「絶縁層?」
エリアが初めて聞く技術に興味を示す。
「特殊な魔導ガラスの薄膜よ」
アルカナが小さな容器から、ガラスの粉末を取り出す。
「これを魔力で溶かして、薄い膜を作るの」
「現代技術にはない方法ですね」
セレスが専門的な観点から評価する。
「確かに、画期的な技術だと思います」
魔導ガラスの加工は、アルカナが担当した。
古代の技術を現代に再現する、貴重な技術の伝承でもある。
彼女の小さな手から、青い魔力が流れ出し、ガラス粉末が美しい薄膜に変化していく。
「すごい……」
エリアが息を呑む。
「まるで魔法みたい」
「これが古代技術の真髄よ」
アルカナが誇らしげに言う。
「現代人には困難とされた技術」
絶縁層の形成が完了すると、本格的な配線作業が始まった。
メイン回路と安定化回路の二重構造は、想像以上に複雑だった。
しかし、四人の連携により、作業は順調に進んでいく。
「レオンさん、ここの交差部分をもう少し右に」
「セレスさん、その銀線、半ミリ上げてください」
「エリアさん、安定化回路の固定をお願いします」
レオンの【古代視】による指示が的確で、全体の作業効率が格段に向上している。
まるでオーケストラの指揮者のように、彼が全体をコーディネートしていく。
「チームワークが完璧ですね」
セレスが作業の手を止めずに言う。
「昨日より連携が良くなってる」
「場数を踏むことで、技術は向上するものです」
アルカナが指導者らしい観点で評価する。
「これも成長の証よ」
夕方近くになって、ついに二個目の【魔力視覚化装置】が完成した。
安定化回路を追加した新型は、従来型よりもさらに精密で美しい装置になっている。
三個のクリスタルが奏でるハーモニーも、より安定している。
「テストしてみましょう」
レオンが装置を手に取る。
装着した瞬間、その性能の向上が実感できた。
視覚化される魔力の映像が、従来型よりもさらに鮮明で安定している。
「いい感じかもしれません」
レオンが控えめに感想を述べる。
「安定化回路の効果があったようです」
「私も試させてください」
エリアが装置を受け取る。
装着すると、彼女の表情が驚きに変わった。
「前回よりも、さらに美しく見えます」
彼女が工房全体を見回しながら報告する。
「魔力の流れが、まるで生きているかのよう」
セレスとアルカナも順番に装置を試し、その性能向上を確認した。
「これは間違いなく成功ですね」
セレスが確信を持って言う。
「トーマスさんの仲間の方にも、きっと満足していただけるでしょう」
「技術的にも、大きな進歩ですね」
アルカナが技術者として評価する。
「安定化回路の追加により、適用範囲が格段に広がった」
完成の達成感に浸っている時、工房の扉がノックされた。
「お客様でしょうか?」
エリアが時計を確認する。まだ約束の時間には早い。
「どなたでしょう」
セレスが扉に向かう。
扉を開けると、そこには見知らぬ二人の人影が立っていた。
一人は昨日来たトーマス。そしてもう一人は、彼の仲間であろう若い女性だった。
女性は二十歳前後で、魔法使いらしい深い紫のローブを身にまとている。
ローブの袖や裾には、複雑な魔法陣の刺繍が施されており、相当な実力者であることが伺える。
しかし、その表情には困惑と不安が浮かんでいる。
「すみません、予定より早く来てしまいました」
トーマスが申し訳なさそうに頭を下げる。
「仲間のリナが、どうしても早く相談したいと言うので」
「リナと申します」
女性が丁寧に挨拶する。
彼女の声は美しいが、どこか不安定さを含んでいる。
「魔力制御の件で、お時間をいただければと思います」
「もちろんです」
レオンが温かく迎える。
「どうぞ、中へ」
工房に入ったリナは、その設備の充実ぶりに目を丸くした。
「すごい工房ですね」
彼女が感心する。
「こんな本格的な設備、見たことありません」
「ありがとうございます」
エリアが案内する。
「お茶をお出ししますね」
リナとトーマスが椅子に座ると、工房の雰囲気がより和やかになった。
【魔核炉心】の青い光が、二人を温かく照らしている。
「それで、どのような問題でお困りですか?」
セレスが相談内容を聞く。
「実は……」
リナが恥ずかしそうに俯く。
「魔力の制御が上手くできないんです」
「どんな風に?」
アルカナが専門的な観点から質問する。
「魔法を使うとき、意図した以上に強い魔力が出てしまって」
リナが詳しく説明し始める。
「火の魔法なら、小さな火炎のつもりが大きな炎になってしまったり」
「水の魔法なら、少量のつもりが大量の水になってしまったり」
「それは確かに困りますね」
エリアが同情する。
「日常生活にも支障がありそうです」
「はい」
リナが暗い表情で頷く。
「料理をしようとして、キッチンを燃やしてしまったことも」
「それは大変ですね」
セレスが心配そうに言う。
「でも、解決できる問題だと思います」
「本当ですか?」
リナの表情が明るくなる。
「実は、ちょうど良いタイミングなんです」
レオンが作業台の新型装置を指差す。
「今日、魔力過多症候群に特化した装置を完成させたばかりです」
「魔力過多症候群?」
リナが初めて聞く専門用語に戸惑う。
「あなたの症状の正式名称です」
アルカナが説明する。
「古代でも時々見られた症状で、適切な訓練により改善できるかもしれません」
「訓練……ですか」
「視覚化装置を使った、効果的な方法があります」
レオンが新型装置を手に取る。
「これを使えば、自分の魔力の状態が目で見えるようになるかもしれません」
「魔力が見える?」
リナが信じられないという表情を見せる。
「そんなことが可能なんですか?」
「百聞は一見に如かずです」
レオンが装置を差し出す。
「試してみませんか?」
リナが恐る恐る装置を受け取る。
その手は、不安で小刻みに震えている。
「大丈夫です」
エリアが励ますように言う。
「危険はありませんから」
リナが装置を頭に装着した瞬間、その表情が劇的に変化した。
「あ……あああ!」
彼女が驚愕の声を上げる。
「これは……これは信じられません!」
「何が見えますか?」
セレスが期待を込めて聞く。
「全てです!」
リナが興奮して報告し始める。
「皆さんの魔力が、美しい光として見えてます」
彼女がゆっくりと周囲を見回す。
「でも、一番驚いたのは……」
「何でしょう?」
「自分の魔力です」
リナが自分の手を見つめる。
「すごく不安定に揺れ動いてるのが分かります」
実際、装置を通して見ると、リナの魔力は激しく変動していた。
通常の人の魔力が穏やかな川のような流れを見せるのに対し、彼女の魔力は嵐の海のように荒れ狂っている。
「これが問題の原因ですね」
レオンが【古代視】で詳しく観察する。
「魔力の出力パターンが不規則のようです」
「でも、見えるということは……」
アルカナが希望を込めて言う。
「制御できるということよ」
「本当ですか?」
リナが期待を込めて聞く。
「たぶん」
レオンが控えめに答える。
「視覚的フィードバックがあれば、意識的に制御できるようになるかもしれません」
「試してみましょうか」
アルカナが指導を始める。
「まず、リラックスして、ゆっくりと魔力を集中させてみて」
リナが装置を着けたまま、恐る恐る魔力を集中させる。
最初は相変わらず不安定だったが、視覚的フィードバックにより、徐々に制御ができるようになってきた。
「おお!」
リナが感動の声を上げる。
「魔力が安定してきました!」
実際、装置を通して見ると、彼女の魔力の揺れが穏やかになっている。
「素晴らしいです」
セレスが成果を評価する。
「短時間でこれだけの改善とは」
「これが視覚化装置の効果だと思います」
レオンが控えめに答える。
一時間ほどの訓練で、リナの魔力制御は目に見えて改善した。
「これは本当に革命的です」
リナが装置を外しながら感動を込めて言う。
「こんな技術、他では絶対に見つからない」
「ありがとうございます」
アルカナが誇らしげに答える。
「古代技術の真価を理解していただけて嬉しいです」
「ぜひ購入させてください」
リナが真剣な表情で言う。
「いくらでも構いません」
「価格の方ですが……」
セレスが昨日決めた適正価格を説明する。
「冒険者の月収程度になります」
「月収!」
リナが驚く。
「それは……」
「高額に感じられるかもしれませんが」
レオンが技術的価値を説明する。
「これだけの技術は、他では手に入らないと思います」
「確かに、そうですね」
リナが納得する。
「この問題が解決できるなら、安いくらいです」
「分割払いも可能です」
エリアが優しく提案する。
「無理のない範囲で」
「ありがとうございます」
リナが深々と頭を下げる。
「本当に助かります」
支払いの手続きを済ませて、リナが新型装置を受け取る。
「使用方法は、トーマスさんと同じ説明書でも大丈夫ですか?」
セレスが確認する。
「はい、問題ありません」
「何か分からないことがあれば、いつでも相談してください」
レオンが親身に言う。
「アフターサポートも大切ですから」
「本当にありがとうございます」
リナが感謝を込めて言う。
「人生が変わりそうです」
二人が帰った後、工房には充実感が漂っていた。
「二人目のお客様も、大成功でしたね」
エリアが満足そうに言う。
「技術で人を助けるという実感が、ますます強くなります」
「安定化回路の効果も確認できました」
セレスが技術的成果を評価する。
「今後は、この仕様が標準になりそうですね」
「古代技術の復活が、また一歩前進したわね」
アルカナが誇らしげに言う。
「現代に失われた技術が蘇っている」
「でも、まだまだ改良の余地があります」
レオンが向上心を示す。
「もっと良いものを作りたいです」
『君たちの技術は、確実に人々の生活を改善している』
【魔核炉心】が評価する。
『リナの喜びの表情が、全てを物語っていた』
「ありがとうございます」
レオンが感謝する。
「これからも、技術で人を幸せにし続けたいです」
夕食の時間、四人は今日の成果を振り返っていた。
「今日は本当に充実した一日でした」
エリアが感慨深そうに言う。
「技術の進歩と、人との出会いと」
「リナさんの症状改善も素晴らしかったです」
セレスが医学的観点から評価する。
「短時間でこれだけの効果が出るとは」
「視覚化技術の可能性は無限大ね」
アルカナが技術者として期待を込める。
「まだまだ発展の余地がある」
「明日からは、三個目の制作ですね」
レオンが次への意欲を示す。
「今度は、どんな改良を加えましょうか」
「携帯性の向上はどうでしょう?」
エリアが実用的な提案をする。
「もう少しコンパクトにできれば」
「軽量化も重要ですね」
セレスが技術的観点から補足する。
「長時間の使用を考えると」
「材質の改良で可能かもしれません」
アルカナが古代技術の知識を活かした提案をする。
「より軽くて強い魔導合金の製法があったはず」
「それは興味深いですね」
レオンが技術者として食いつく。
「【古代視】で再現できるかもしれません」
「明日も頑張りましょう」
レオンが仲間たちを見回す。
「もっと多くの人に、僕たちの技術を」
「そうですね」
三人が声を揃えて答える。
「技術で世界をもっと良くしていきましょう」
「軽量化技術、楽しみですね」
エリアが明日への期待を込める。
「どんな魔導合金ができるのでしょう」
「きっと驚くようなものができると思います」
アルカナが控えめに答える。
「古代技術の力を見せてあげる」




