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第22話 改良版の試行錯誤

第22話 改良版の試行錯誤


朝霧が工房の石壁に立ち込める中、レオンは一人で作業台に向かっていた。


昨夜からの三個クリスタル方式の設計に、頭を悩ませている。


「レオン、おはよう」


エリアが工房に入ってくる。


「おはようございます、エリアさん」


レオンが振り返ると、彼の緑の瞳には技術への集中が宿っていた。


「今日も改良版の開発ですか?」


「はい。でも、思った以上に難しくて」


レオンが困ったような表情を見せる。


「三個のクリスタルのバランスを取るのが、想像以上に大変なんです」


作業台には、昨日精製したばかりの三個の小型クリスタルが並んでいる。


従来の半分のサイズでありながら、純度は格段に向上している。


「クリスタルの品質は良さそうですね」


セレスが拡大鏡でクリスタルを確認する。


「透明度、魔力伝導率、どちらも基準値を上回ってます」


「うまくいったかもしれません」


レオンが控えめに答える。


「【古代視】で確認しながら精製できたので」


「それで、フレームの方はどうですか?」


アルカナが心配そうに聞く。


「魔導金属を使いましょうか」


セレスが材料を取り出す。


「加工は大変かもしれませんが、精度は保証できそうです」


魔導金属は、普通の金属より遥かに硬く、加工には高度な技術が必要だった。


「やってみます」


レオンが【古代視】を発動させる。


「金属の内部構造が見えるので、なんとかなるかもしれません」


レオンの手にした工具が、慎重に金属を削っていく。


通常なら数時間かかる作業が、わずか30分で完了した。


「すごい……」


エリアが見とれている。


「まるで金属の気持ちが分かってるみたいです」


「気持ちって……」


セレスが苦笑いする。


「でも、確かに綺麗な仕上がりですね」


完成したフレームは、工芸品のような美しさだった。


三個のクリスタルが収まる部分は、ミリ単位で正確に削り出されている。


「次は、クリスタルの固定ですね」


アルカナが慎重にクリスタルを手に取る。


「一個ずつ、丁寧に設置しましょう」


最初のクリスタルを固定する作業から、予想外の現象が発生した。


「あれ?」


エリアが困惑の声を上げる。


「クリスタル同士が共鳴してるみたいです」


三個のクリスタルが近づくと、それぞれが微細に振動し始めたのだ。


「これは……」


セレスが測定器で振動を確認する。


「共鳴周波数が一致してるようですね」


「問題でしょうか?」


アルカナが心配そうに眉をひそめる。


「古代の記録には、こんな現象の記載がないわ」


「【古代視】で確認してみます」


レオンがクリスタルに集中する。


瞬間、三個のクリスタルの内部構造が、複雑な立体図として頭に浮かんだ。


「分かったかもしれません」


レオンが目を開ける。


「問題は共鳴じゃなくて、同調のようです」


「同調?」


「三個のクリスタルが、お互いの魔力パターンに合わせようとしてるんです」


レオンが説明する。


「まるで三人で歌を歌うとき、自然にハーモニーを作ろうとするように」


「それは良いことなんですか?」


エリアが恐る恐る聞く。


「たぶん、良いことだと思います」


レオンが控えめに答える。


「うまくいけば、予想以上の結果になるかもしれません」


アルカナが古代の知識で納得する。


「そういえば、古代技術に【自律同調】という概念があったわ」


「自律同調?」


「複数の魔導装置が、自動的に最適化を図る現象よ」


アルカナが技術者としての興味を示す。


「現代では再現困難とされていた技術」


「つまり、僕たちの装置は古代技術に近い性能を持つかもしれないということですか?」


セレスが期待を込めて聞く。


「可能性はあるかもしれません」


アルカナが控えめに答える。


「レオンの【古代視】と現代の技術が融合した結果かも」


三個のクリスタルの固定作業は、慎重に進められた。


わずかな振動も逃さないよう、一つ一つの工程を確認しながら作業する。


「一個目、固定完了です」


エリアが報告する。


「振動は安定してるようです」


「二個目も問題なさそうですね」


アルカナが二番目のクリスタルを設置する。


「綺麗なハーモニーを奏でてるわ」


実際、三個のクリスタルからは微かな音楽のような響きが聞こえていた。


「三個目……」


セレスが最後のクリスタルを慎重に近づける。


三個目が所定の位置に収まった瞬間、工房全体が柔らかい光に包まれた。


「うわあ……」


エリアが感嘆の声を上げる。


「すごく綺麗」


三個のクリスタルが完璧なハーモニーを奏でながら、虹色の光を放っている。


『素晴らしい』


【魔核炉心】の声にも感動が込められていた。


『これほど美しい同調現象は、古代でも稀だった』


「成功でしょうか」


レオンが希望を込めて装置を見つめる。


「でも、まだ魔力回路の接続が残ってます」


次の工程は、三個のクリスタルを繋ぐ魔力回路の構築だった。


髪の毛ほど細い銀線を、複雑なパターンで配線していく作業。


「回路図はこうなってるけど……」


エリアが設計図と実物を見比べる。


「実際にやってみると、すごく難しいですね」


「特に交差部分が問題ですね」


セレスが拡大鏡を使いながら作業する。


「少しでもズレると、魔力の流れが乱れてしまいそう」


四人が協力して、慎重に配線作業を進める。


レオンが【古代視】で全体を監視し、三人が実際の作業を担当する。


「エリアさん、そこをもう少し左にお願いします」


「セレスさん、その銀線、半ミリ下げていただけますか?」


「アルカナさん、交差部分の固定をお願いします」


まるでオーケストラの指揮者のように、レオンが全体をコーディネートしていく。


「レオンって、こういう時は頼りになりますね」


エリアが感心しながら作業を続ける。


「普段は控えめなのに、技術の時は的確で冷静」


「技術に対する真摯な姿勢は、変わらないわね」


アルカナが微笑む。


「それがレオンの一番の魅力よ」


「聞こえてますよ」


レオンが照れくさそうに答える。


「でも、ありがとうございます」


昼食を挟んで、配線作業は順調に進んだ。


午後二時頃、ついに全ての配線が完了する。


「最後の固定をしますね」


セレスが特殊な接着剤で、配線を完全に固定していく。


「これで動かなくなります」


「慎重にお願いします」


アルカナが見守る。


「一度固定したら、修正は難しいかもしれませんから」


固定作業が完了すると、装置の外観も大きく変わった。


三個のクリスタルが美しい三角形を描き、その間を銀色の回路が複雑に繋いでいる。


まるで精密な工芸品のような、芸術的な美しさを持つ装置。


「綺麗ですね」


エリアが見とれる。


「実用品というより、美術品みたい」


「古代の魔導装置は、美しさも重視していたのよ」


アルカナが誇らしげに説明する。


「技術と芸術の融合が、古代文明の特徴だった」


「それでは、動作テストをしてみましょうか」


レオンが装置を手に取る。


「ドキドキしますね」


最初のテストは、レオン自身が行った。


装置を頭に装着すると、瞬間的に視界が変化する。


「おお……」


レオンが驚嘆の声を上げる。


「視野が格段に広がってます」


従来の装置では、真正面の狭い範囲しか見えなかった。


しかし改良版では、ほぼ180度の範囲で魔力が視覚化されている。


「どんな風に見えますか?」


エリアが期待を込めて聞く。


「全方位から、色とりどりの光が見えます」


レオンが詳細に報告する。


「エリアさんからは緑色、セレスさんからは青色、アルカナさんからは銀色の光」


「解像度はどうですか?」


セレスが技術的な質問をする。


「前回より鮮明かもしれません」


レオンが感動を込めて答える。


「魔力の細かい流れまで、はっきりと見えます」


「私も試してみたいです」


エリアが装置を受け取る。


装着した瞬間、彼女の表情が驚きに変わった。


「すごい……本当にすごいです」


エリアが興奮する。


「工房全体の魔力の流れが、立体的に見えてます」


【魔核炉心】からの青い光、壁に設置された魔導装置からの光、そして四人それぞれの魔力。


全てが美しい光の模様となって、エリアの視界に映っていた。


「【魔核炉心】の光が特に美しいです」


エリアが感動する。


「まるで光の噴水のよう」


『恥ずかしいな』


【魔核炉心】が照れたような声を出す。


『そんな風に見えているのか』


セレスとアルカナも、順番に装置を試した。


二人とも、その性能に深く感動している。


「これは間違いなく成功ですね」


セレスが確信を持って言う。


「トーマスさんも満足してくれるはず」


「問題は量産化ですね」


アルカナが現実的な課題を指摘する。


「これだけ精密な装置を、どうやって量産するか」


「一個ずつ手作りするしかないでしょうね」


レオンが考え込む。


「でも、それでも価値はあると思います」


「そうですね」


アルカナが同意する。


「本当に必要な人に届けることができれば」


夕方、装置の最終調整が完了した。


細かいバランス調整、感度調整、そして安全性の確認。


全ての工程を終えて、ついに改良版【魔力視覚化装置】が完成する。


「やりましたね」


エリアが嬉しそうに手を叩く。


「本当に素晴らしい装置ができました」


「みんなで協力した結果ですね」


セレスが仲間たちを見回す。


「一人じゃ絶対に無理でした」


「チームワークの勝利よ」


アルカナが満足そうに微笑む。


「これが本当の技術開発ね」


『君たちの技術は、また一歩進歩した』


【魔核炉心】が評価する。


『きっと多くの人の役に立つだろう』


「ところで」


レオンが思い出したように言う。


「トーマスさんに連絡しましょうか」


「そうですね」


エリアが賛成する。


「予定より早く完成したことを伝えましょう」


セレスが通信用の魔導装置を取り出す。


「冒険者ギルド経由で連絡できますね」


短いメッセージを送ると、すぐに返事が返ってきた。


『本当ですか!明日にでも伺いたいです!』


興奮が伝わってくるような文面だった。


「明日来るそうです」


セレスが報告する。


「楽しみですね」


「ちゃんと期待に応えられるでしょうか」


アルカナが少し不安そうに言う。


「きっと大丈夫だと思います」


レオンが希望を込めて答える。


「この装置なら、満足してもらえるかもしれません」


夜、四人は完成した装置を囲んで夕食を取っていた。


「今日は本当にお疲れ様でした」


セレスが労いの言葉をかける。


「朝から晩まで、集中した作業でしたね」


「でも、充実感がありますね」


エリアが満足そうに呟く。


「技術で何かを作り上げる喜びを実感できました」


「これが技術者の醍醐味よ」


アルカナが教えるように言う。


「困難を乗り越えて、新しいものを生み出す」


「明日のトーマスさんの反応が楽しみです」


レオンが期待を込める。


「きっと驚いてくれるでしょうね」


『君たちの技術は、確実に人を幸せにしている』


【魔核炉心】が暖かい声で言う。


『それを忘れずに、これからも頑張ってほしい』


「はい」


四人が声を揃えて答える。


「技術で人を幸せにする。それが僕たちの使命です」


「明日も頑張りましょう」


エリアが前向きに言う。


「もっと多くの人に、この技術を届けましょう」


「そうですね」


レオンが頷く。


「僕たちの技術で、世界をもっと良くしていけたらいいですね」


「トーマスさん、きっと驚くわよ」


アルカナが楽しそうに言う。


「前回とは比べ物にならないくらい良くなったもの」


「楽しみですね」


セレスが微笑む。


「お客様に喜んでもらえるのが、一番嬉しいです」

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