第21話 予期せぬ来訪者
第21話 予期せぬ来訪者
【魔力視覚化装置】の開発を始めて一週間が過ぎようとしていた頃、工房に予期せぬ来訪者があった。
朝の静けさを破って響いたのは、急かすようなノック音。しかもそれは一度ではなく、何度も執拗に続いた。
「誰でしょう?」エリアが不安そうに呟く。
アルベルトのような王国関係者なら、もっと品のある訪問をするはずだ。セレスが慎重に扉に近づく。
「どちら様でしょうか?」
「魔道具工房はこちらですか?緊急事態なんです!」
扉の向こうから聞こえてきたのは、若い男性の切羽詰まった声だった。
「レンズの配置を変えてみましょうか」
セレスが設計図を見ながら提案する。
「もう少し広角にできれば」
「いえ、問題はレンズじゃないかもしれません」
レオンが【古代視】で装置の内部を確認する。
「魔力の収束範囲が狭すぎるかもしれないんです」
「収束範囲?」
アルカナが首をかしげる。
「どういうこと?」
「クリスタルが特定の方向の魔力しか感知できてないようです」
レオンが申し訳なさそうに説明する。
「全方位対応にするには、クリスタルの配置を変える必要があるかもしれません」
「なるほど」
アルカナが理解する。
「それなら、クリスタルを複数使えばいいのね」
「複数?」
「三個のクリスタルを三角形に配置するの」
アルカナが手を動かしながら説明する。
「それぞれが120度ずつカバーすれば、全方位対応になるはず」
「なるほど!」
レオンが目を輝かせる。
「それは良いアイデアかもしれませんね」
「でも、三個も使ったら装置が大きくなりませんか?」
エリアが心配する。
「クリスタルを小さくすればいいのよ」
アルカナが控えめに考える。
「純度を上げれば、サイズは半分でも同じ効果が得られるかもしれません」
「じゃあ、早速やってみましょう」
レオンが作業台に向かう。
「うまくいくといいですが……」
その時、工房の扉がノックされた。
「どなたでしょう?」
セレスが扉に向かう。
「お客様でしょうか?」
レオンが【魔核炉心】から離れ、警戒した表情で扉の方を見る。最近、外部からの注目が高まっていることを彼も感じ取っていた。
「緊急事態って…?」セレスが扉越しに聞き返す。
「お願いします!仲間が危険な状態なんです!魔道具の専門家じゃないと助けられない!」
声に込められた切迫感は明らかに演技ではなかった。エリアとセレスが顔を見合わせる。
「どうしましょう?」エリアが小声で尋ねる。
レオンは【古代視】を発動し、扉の向こうの人物を探ろうとした。しかし、相手の魔力はごく普通の若い男性のもので、特に危険は感じられない。
「…開けてみましょう」レオンが決断する。
慎重に扉を開けると、そこには息を切らした若い男性が立っていた。トーマス・グレイと名乗ったその男は、見るからに駆け出しの冒険者という風貌で、装備も安物ばかりだった。
「トーマスさんですね。どうぞ、中へ」
セレスが案内する。
「お茶をお出ししますね」
トーマスが工房内を見回して、目を丸くする。
「すごい……本格的な工房ですね」
「ありがとうございます」
レオンが作業の手を止めて振り返る。
「どのようなご相談でしょうか?」
「実は……」
トーマスが恥ずかしそうに説明し始める。
「冒険者になったばかりなんですが、魔力の扱いが下手で」
「魔力の扱い?」
エリアが興味深そうに聞く。
「どんな風に?」
「魔法を使うとき、いつも魔力を使いすぎてしまうんです」
トーマスが困った顔をする。
「仲間に迷惑をかけてばかりで……」
「それは確かに困りますね」
セレスが同情する。
「魔力の無駄遣いは危険ですから」
「何か解決策はありませんか?」
トーマスが縋るような目で見る。
「魔力を節約できる魔道具とか……」
レオンとアルカナが顔を見合わせる。
「ちょうどいいタイミングかもしれませんね」
レオンが作業台の装置を指差す。
「実は、魔力を可視化する装置を開発してるんです」
「可視化?」
トーマスが首をかしげる。
「魔力が目で見えるということですか?」
「そうです」
アルカナが説明する。
「自分の魔力の流れが見えれば、無駄遣いも防げるかもしれません」
「本当ですか?」
トーマスの表情が明るくなる。
「それは素晴らしい!」
「ただし、まだ試作段階なんです」
エリアが正直に説明する。
「視野が狭いという問題があって」
「でも、効果は確認済みです」
レオンが控えめに答える。
「試してみませんか?」
「ぜひお願いします!」
トーマスが身を乗り出す。
「お役に立てるかもしれません」
レオンが装置を手に取る。
「では、装着してください」
トーマスが装置を頭に着けた瞬間、その表情が一変した。
「うわあ……すごい」
彼が感動の声を上げる。
「本当に見えます」
「何が見えますか?」
アルカナが期待を込めて聞く。
「皆さんから色とりどりの光が出てます」
トーマスが詳細に報告する。
「レオンさんからは金色、エリアさんからは緑色……」
「素晴らしい」
セレスが満足そうに微笑む。
「期待通りの効果のようですね」
「でも、確かに視野は狭いですね」
トーマスが率直な感想を述べる。
「真正面しか見えません」
「やっぱりそうですか」
エリアがため息をつく。
「実用化にはまだ改良が必要ですね」
「でも、十分すごいです!」
トーマスが興奮している。
「これがあれば、魔力の無駄遣いを確実に防げます」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
レオンが照れくさそうに答える。
「でも、もっと良いものを作りたいんです」
「もっと良いもの?」
「視野を広げて、より実用的にするんです」
アルカナが技術者の情熱で説明する。
「全方位対応の改良版を開発中なのよ」
「それはいつ頃完成しますか?」
トーマスが期待を込めて聞く。
「一週間ほどでしょうか」
レオンが【古代視】で作業工程を確認する。
「うまくいけばですが……」
「本当にすごいですね」
トーマスが感心する。
「こんな技術、他では見たことありません」
「ありがとうございます」
エリアが嬉しそうに答える。
「私たちも頑張って開発してます」
「もしよろしければ」
セレスが提案する。
「改良版が完成したら、また試していただけませんか?」
「もちろんです!」
トーマスが即答する。
「ぜひお願いします」
「それまでは、基本的な魔力制御の練習をしてください」
アルカナがアドバイスする。
「装置に頼るだけでなく、基礎も大切よ」
「分かりました」
トーマスが真剣に頷く。
「頑張って練習します」
トーマスが帰った後、工房には新たな活気が生まれていた。
「初めてのお客様でしたね」
エリアが感慨深そうに言う。
「実際に困ってる人の役に立てそうです」
「やりがいを感じますね」
セレスが満足そうに微笑む。
「技術開発の意味が実感できました」
「これからもっと多くの人に使ってもらいたいです」
レオンが決意を新たにする。
「そのためにも、改良版を完成させましょう」
「そうね」
アルカナが希望を込める。
「期待を裏切るわけにはいかないもの」
「それじゃあ、三個クリスタル方式で改良開始ですね」
エリアが作業再開を提案する。
「トーマスさんのためにも頑張りましょう」
午後から、改良作業が本格化した。
三個のクリスタルを使った新設計は、予想以上に複雑だった。
「バランスが難しいですね」
セレスが設計図と格闘している。
「三個のクリスタルの出力を均等にしないと」
「魔力回路の配置も重要よ」
アルカナが指導する。
「少しでもズレると、全体のバランスが崩れるの」
「でも、きっと何とかなるでしょう」
レオンが【古代視】で細部を確認する。
「見えてますから」
「その自信、どこから来るんですか?」
エリアが呆れる。
「まあ、でも確かに頼りになりますね」
夕方までの作業で、新型装置の基本部分が完成した。
「明日、最終調整をして完成ですね」
セレスが進捗を確認する。
「トーマスさんに良い報告ができそうです」
「楽しみですね」
エリアが期待を込める。
「今度は満足してもらえるはず」
『君たちの技術は、確実に人の役に立っている』
【魔核炉心】が評価する。
『これが本当の技術者の使命だ』
「ありがとうございます」
レオンが感謝する。
「これからも、人を幸せにする技術を作り続けます」
「明日はトーマスさんに改良版を見せられるのね」
アルカナが楽しそうに言う。
「きっと驚くわよ」
「そうですね」
エリアが微笑む。
「喜んでもらえそうで、私も楽しみです」
「改良版、絶対に成功させましょうね」
セレスが決意を込めて言った。




