第20話 技術への想い
第20話 技術への想い
アルカナとの邂逅から三日が過ぎた。
レオンは以前にも増して【魔核炉心】の前で長時間を過ごすようになっていた。アルカナの記憶を通じて、古代技術の真の奥深さを学ぼうとしているのだ。
「レオン、また徹夜?」
エリアが心配そうに声をかけると、レオンは振り返らずに答えた。
「アルカナが教えてくれるんだ。古代の技術者たちがどれだけの情熱を注いで技術を発展させてきたか」
彼の声には、今まで聞いたことのない深い感動が込められていた。
「でも、体を壊しちゃだめよ」セレスが作業台にお茶を置く。「技術を学ぶのも大切だけど、まずは健康でいてくれないと」
作業台には、古代文字で書かれた精密な設計図が広げられている。
「これが【魔力視覚化装置】の設計図?」
レオンが【古代視】で文字を読み取る。
「すごく複雑ですね」
「そうね」
アルカナが申し訳なさそうに説明する。
「魔力を可視光に変換するなんて、現代技術では困難とされている技術だもの」
「でも…本当にこんなものが作れるんでしょうか?」エリアが設計図を見つめながら不安そうに呟く。
レオンは【古代視】で図面の詳細を読み取りながら答えた。「理論的には可能かもしれません。でも…」
「でも?」セレスが身を乗り出す。
「これだけ複雑な構造だと、少しでもバランスが崩れれば装置全体が機能しなくなってしまいます。失敗のリスクが高すぎるかもしれません」
以前の自信に満ちたレオンとは明らかに違っていた。アルカナから学んだ古代技術の奥深さが、彼に慎重さをもたらしていたのだ。
「魔力共鳴クリスタルの精製だけでも、通常なら数ヶ月はかかる作業です」
レオンが設計図の中央部分を指差す。
「この部分が装置の心臓部。魔力を可視光に変換する最も重要なパーツですが、純度99.8%以上のクリスタルが必要で…」
「それって、現代技術では不可能なレベルよね?」セレスが眉をひそめる。
「僕にできるかどうか……」
エリアが心配そうな顔をする。
「でも、やってみる価値はありそうですね」
「それじゃあ、早速始めましょう」
アルカナが手を叩く。
「まずは材料集めから」
必要な材料は意外にシンプルだった。
基本的な魔導金属、普通のクリスタル、そして魔力を通しやすい特殊な銀線。
「これだけで本当に作れるんでしょうか?」
セレスが疑問を示す。
「材料は普通だけど、加工方法が特殊なの」
アルカナが説明する。
「古代の精製技術を使って、純度を極限まで高めるのよ」
「精製技術……」
レオンが【古代視】を発動させる。
瞬間、頭の中に精製プロセスの映像が浮かんだ。
「見えたかもしれません。まず、クリスタルを特定の温度で加熱して……」
レオンが見えた手順を詳しく説明していく。
「よく見えてるわね」
アルカナが感心する。
「本当に【古代視】は便利な能力だわ」
作業開始から二時間。
精製炉で加熱されたクリスタルが、見る見るうちに透明度を増していく。
「すごい……」
エリアが息を呑む。
「本当に純度が上がってます」
「うまくいってるようですね」
レオンが控えめに答える。
「古代技術のおかげでしょうか」
「でも、まだ序の口よ」
アルカナが次の工程を指示する。
「今度は魔力回路の刻印」
これが最も難しい作業だった。
髪の毛ほど細い銀線を、クリスタル内部に巻き込むように配置していく。
「手が震えちゃう……」
エリアが細かい作業に苦戦している。
「大丈夫。ゆっくりで構わないわ」
アルカナが優しく指導する。
「精度が大事だから、急がなくていいの」
セレスも慎重に作業を進める。
「こんな細かい作業、初めてです」
「でも、面白いですね」
三人が作業に集中する中、レオンは【古代視】で全体の進行をチェックしていた。
「エリアさん、そこをもう少し右に」
「セレスさん、その銀線、もう一巻き必要かもしれません」
「分かりました」
「了解です」
まるで指揮者のように、レオンが全体をコーディネートしている。
「レオンって、こういう時すごく頼りになりますね」
エリアが感心する。
「普段は控えめなのに、技術の時は的確で冷静」
「技術は僕の得意分野ですから」
レオンが照れくさそうに答える。
「でも、皆さんの協力がないと何もできません」
「また始まった……」
アルカナが苦笑いする。
「でも、その謙虚さが技術力の源なのかもしれないわね」
昼食を挟んで、作業は順調に進んだ。
夕方になって、ついに【魔力視覚化装置】の試作品が完成する。
「できました!」
レオンが装置を掲げる。
手のひらサイズの小さな装置。一見すると、ただの魔導器具にしか見えない。
「本当に魔力が見えるようになるんでしょうか?」
エリアが半信半疑で装置を受け取る。
「試してみましょう」
アルカナが期待を込めて見守る。
「頭に装着して、魔力を少し流してみて」
エリアが装置を額に当てると、突然表情が変わった。
「あ……見える」
彼女が驚きの声を上げる。
「本当に見えてます!」
「何が見えますか?」
セレスが興味深そうに聞く。
「レオンさんから金色の光が……アルカナさんからは青い光が出てます」
エリアが興奮して報告する。
「【魔核炉心】からは、すごく強い青い光が」
「成功ね!」
アルカナが喜びで飛び跳ねる。
「やりました!」
レオンも思わず喜ぶ。
「僕たちの初めての共同制作、成功したようです」
「すごいですね」
セレスが装置を受け取って試してみる。
「確かに魔力の流れが見えます。これは革命的な技術ですよ」
『素晴らしい成果だ』
【魔核炉心】も評価する。
『君たちの協力により、失われた技術が蘇った』
「みんなで作ったから成功したんです」
レオンが仲間たちを見回す。
「一人じゃ絶対に無理でした」
「そうね」
アルカナが満足そうに微笑む。
「これが本当のチームワークよ」
「でも、まだ改良の余地がありますね」
エリアが技術者らしい指摘をする。
「視野がちょっと狭いような」
「確かに」
セレスも同意する。
「もう少し広範囲が見えると便利ですね」
「次のバージョンで改良してみましょう」
レオンが前向きに提案する。
「今日は記念すべき第一号機の完成を祝いましょう」
「賛成!」
アルカナが手を叩く。
「お祝いの夕食にしましょう」
夜、四人は完成した【魔力視覚化装置】を囲んで食事をしていた。
「本当にすごいものができましたね」
エリアが感慨深そうに呟く。
「こんな技術、世界中探してもないんじゃないでしょうか?」
「だからこそ価値があるのよ」
アルカナが誇らしげに答える。
「私たちにしか作れない、特別な技術」
「でも、独り占めはしません」
レオンが真剣な表情になる。
「この技術で、多くの人を助けたいです」
「どんな風に?」
セレスが質問する。
「冒険者の安全確保、研究者の実験精度向上、医療現場での診断支援……」
レオンが具体例を挙げていく。
「用途は色々ありそうです」
「素晴らしい理念ね」
アルカナが感動する。
「技術は人を幸せにするためにある」
「僕たちの基本理念です」
「それが、本当の技術者の心よ」
アルカナが胸に手を当てる。
「古代の技術者たちも、きっと同じ気持ちだった」
「明日からは、さらに多くの人に技術を届けられそうですね」
エリアが希望を込めて呟く。
「楽しみです」
「そうですね」
レオンが【魔力視覚化装置】を手に取る。
「この小さな装置が、きっと多くの人の役に立つでしょう」
「絶対に役に立つわ」
アルカナが希望を込めて答える。
「だって、私たちが心を込めて作ったんだもの」
「今度はどんな技術に挑戦しましょうか?」
セレスが次への期待を込めて尋ねる。
「さあ、何を作りましょうかね」
レオンが楽しそうに微笑んだ。




