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第2話 古代遺跡への興味

第2話 古代遺跡への興味


「あいつ、本当に大丈夫なのか?」


グランツ工房の作業場で、ダミアンがマルコスに心配そうに相談している。エリアが【強化魔石】を購入してから三日。工房では「常識外れ」な職人について、連日議論が続いていた。


「技術は確かなんだが……」


マルコスが困ったように頭を掻く。


「あの自信はどこから来るんだろうな」


作業台で新しい魔道具の設計図を描きながら、レオンは彼らの会話を聞き流していた。


「レオン」


マルコスの声が響く。


「今日は王都図書館に行って、基礎理論の復習をしてこい」


「基礎理論ですか?」


レオンが顔を上げる。


「一応は理解してるつもりですが……」


「理解していると思っているだけだ」


マルコスが腕組みをする。


「お前の技術は確かに独創的だが、理論的な裏付けが薄い」


「理論的な裏付けは……あると思うんですが」


レオンがペンを置く。


「魔力伝達効率の計算式も、エネルギー保存の法則も――」


「それは基礎の基礎だ!」


マルコスの声が大きくなる。


「もっと深い理論、古代魔導工学の文献も読め」


「古代魔導工学?」


レオンの耳がぴくりと反応した。


「面白そうですね」


「面白いだけじゃダメだ。勉強しろ」


王都図書館は石造りの立派な建物だった。中に入ると、魔法学院の学生や研究者たちが静かに本を読んでいる。


受付で古代魔導工学関連の文献の場所を聞いた。


「古代魔導工学でしたら、三階の特別書庫になります」


受付の女性が答える。


「ただし、利用には推薦状が必要で――」


「推薦状?」


レオンが首を傾げる。


「なぜ推薦状が必要なんですか?」


「貴重な文献ばかりでして……」


「そうなんですか。読んでみたかったんですが」


受付の女性が困った表情を浮かべた時、後ろから聞き覚えのある声がした。


「あら、レオンさん?」


振り返ると、エリアが立っていた。今日は冒険者装備ではなく、知的な印象の深緑のローブを着ている。図書館の雰囲気によく似合って、とても上品に見える。


「エリアさん?」


レオンが驚いて目を丸くする。


「こんなところで何を?」


「魔法学院時代の友人に会いに来たんです」


エリアが優雅に微笑む。


「レオンさんは?」


「古代魔導工学の勉強です。師匠に言われまして」


「古代魔導工学?」


エリアの表情に興味が浮かぶ。


「珍しいですね。職人さんで古代理論に興味を持つ方は少ないんですが」


「そうなんですか?でも面白そうで」


レオンが困ったように笑う。


「ただ、推薦状が必要みたいで困ってます」


エリアがくすりと笑った。三日前の出会いで、レオンの性格を理解したようだ。


「推薦状の件でしたら、私が保証人になりましょうか?」


「本当ですか?」


「魔法学院の卒業生なので、図書館利用の権限があります」


「助かります!ありがとうございます」


エリアの手続きのおかげで、特別書庫に入ることができた。そこには古い羊皮紙の本や、魔法で保存された文献がずらりと並んでいる。


「すごいですね」


レオンが見回す。


「こんなにたくさんの古代文献が」


「でも、解読できるものは限られているんです」


エリアがため息をつく。


「古代文字の解読技術が失われていて……」


レオンは適当に一冊の本を手に取った。表紙には見慣れない文字が刻まれているが、なぜか意味が分かる。


『魔導回路設計における効率化理論』


「へー、面白そうな内容ですね」


「え?」


エリアが振り返る。


「レオンさん、古代文字が読めるんですか?」


「読める……というか」


レオンが本をぱらぱらとめくる。


「なんとなく意味が分かるような気がします。あー、これは普段やってることと似てるかも」


「似てるって……」


エリアの声が震えた。


「これは三千年前の古代魔導工学の最高傑作と言われている文献ですよ?」


「三千年前?」


レオンが驚いて首を傾げる。


「そんなに古いんですか。でも理論は今でも使えそうです。むしろ、現代の技術より効率的かもしれません」


エリアはレオンの顔をじっと見つめた。その表情は、三日前とは全く違う種類の困惑と、何か大きな発見への予感を浮かべている。


「レオンさん、あなた本当に普通の職人なんですか?」


「うーん、普通かどうかは分かりませんが……」


レオンが困ったように頭を掻く。


「ただ、技術のことを考えるのが好きなだけです」


レオンは他の文献も次々と手に取った。どれも古代文字で書かれているが、内容は直感的に理解できる。


魔導回路の最適化、エネルギー効率の向上、新しい魔石の精製法……。


「これ、全部実用的な技術ですね」


レオンが感心する。


「なぜ現代では使われてないんでしょう?」


「失われた技術だからです」


エリアが本を見つめる。


「古代文明の崩壊と共に、多くの技術が消失して……」


「もったいないですね」


レオンが首を振る。


「これだけ良い技術があるのに」


ふと、ある文献に目を止めた。そこには古代遺跡の地図のようなものが描かれている。


地図の一部に、見覚えのある地形があった。


「これ、【忘却の森】じゃありませんか?」


「忘却の森?」


エリアが覗き込む。


「確かに似てますね。でも、ここに描かれているのは『技術者の試練場』となっています」


「試練場?」


「古代文明では、優秀な技術者を選抜するための特別な施設があったそうです」


エリアが説明する。


「現代では都市伝説みたいなものですが……」


レオンは地図をじっくりと見つめた。描かれた地形と、知っている【忘却の森】はほぼ一致している。


特に、森の奥にある『封印された聖域』の部分が、なぜか気になった。


「とても興味深いですね」


レオンが目を輝かせて顔を上げる。


「もしかしたら、本当にそういう場所があるのかもしれませんね」


「まさか……」


エリアの顔が青ざめた。


「レオンさん、まさか行ってみようとか考えてませんよね?忘却の森は冒険者でも避ける危険地帯ですよ?」


「危険なんですか?」


レオンが心配そうに首を傾げる。


「でも、もし本当に古代の技術が残ってるなら……」


「残ってるとしても危険すぎます」


エリアの声が裏返る。


「普通の人は、まず安全性を考えるものなんですが」


「そうですね。でも、知らないままでいるのももったいないような」


レオンが困ったように呟く。


エリアは深いため息をついた。しかし、その表情には呆れだけでなく、微かな興味も混じっているように見えた。


「……もし、本当に調べるとしたら」


エリアがぽつりと呟く。


「十分な準備と、安全対策が必要です」


「準備ですか?」


レオンが真剣な表情になる。


「どんな準備がいるでしょうか?」


「準備って……」


エリアが頭を抱える。


「レオンさんと一緒にいると、常識的な感覚が麻痺しそうです」

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