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第17話 困難な状況

第17話 困難な状況


調査機関の人々と王国魔導兵団の対峙が続いている。レオンは震える手で監視用の魔導スクリーンを操作しながら、外の緊迫した状況に困ってしまっていた。


「これが…現実なんでしょうか」レオンが呟く。技術者として魔道具を作ってきた彼にとって、目の前の対立は理解を超えていた。


「レオン!」エリアの心配そうな声が彼を現実に引き戻す。「第三層の魔力供給が不安定になってるわ!このままじゃシステムが上手く動かないかもしれない!」


彼女の顔は蒼白で、額には冷たい汗が滲んでいる。手にした魔力測定器の針が心配な範囲で揺れ動いていた。


防御システムの制御盤では、黄色いランプが不安定に明滅を繰り返している。


「大丈夫でしょうか?」


「よく分からない!こんな状況は初めてだから!」


レオンが慌ててシステムを調整する。その手が緊張で小刻みに震えていた。古代の技術とはいえ、これほど多くの人々との対峙は想定していなかった。


外では、アルベルトの指揮下にある王国魔導兵団とドラゴフ率いる調査機関が緊張状態を続けている。


「魔導兵器、準備しろ!」


「対魔法結界、展開準備!」


双方の指示が工房内にも聞こえてくる。その声には、深刻な状況への対応が込められていた。


セレスが美しい体を震わせながら呟いた。


「これが……本格的な対立なのね」


「対立?」


エリアが不安そうに聞き返す。


「二つの組織が直接対峙してる。もう話し合いの範囲を超えてるかもしれないわ」


セレスの知的な瞳に、現実の重さへの心配が宿っていた。


画面越しに見える光景は、確かに深刻な対立だった。魔法の準備が整えられ、緊迫した空気が続いている。


レオンは膝に手をつき、震え声で呟いた。「僕のせいかも…僕が古代技術なんて扱わなければ、こんなことには…」


自責の念が胸を締め付ける。静かな工房で魔道具を作っていた日々が、どれほど平和だったか今になって思い知らされた。


「違う!」エリアが激しく首を振る。涙が頬を伝って落ちた。「レオンのせいじゃない!技術そのものに罪はないのよ!」


彼女はレオンの肩を掴み、必死に訴えかける。「あなたの技術で助かる人だってたくさんいるはず。それを奪い合おうとする人たちの方に問題があるの!」


「エリア…」レオンが顔を上げる。彼女の瞳には涙と共に、確固たる信念が宿っていた。


その時、【魔核炉心】の声が工房に響いた。古代の叡智を感じさせる、深く落ち着いた調子だった。


『レオン。三千年前、古代文明が困難に直面した時も同じことがあった』


『技術を作り出した者が自分を責め、困ってしまう。しかし、それは間違いだ』


「でも……」


『今は自分たちの安全を守ることを考えろ』


【魔核炉心】の言葉に、レオンがはっと我に返る。


「そうですね。まずは現状を何とかしないと」


外の対峙は続いていく一方だった。


「隊長!相手の魔導装備が充実しています!」


「こちらも警戒を続けろ!」


アルベルトの部下が心配そうに報告する。調査機関の装備が予想以上に整っている。


「技師団長、どうしましょうか?」


「まずは相手の出方を見てみます!それ以上の行動は危険かもしれません!」


アルベルトが責任の重さに困ったような表情を見せる。


王国軍は二十名、調査機関も二十名程度。数はほぼ互角だった。


「膠着状態ですね……」


セレスが心配そうに美しい眉をひそめる。


「このままでは解決しそうにありません」


「どうなってしまうんでしょうか?」


エリアが今にも泣き出しそうな震え声で聞く。


「分からないわ。でも、きっと誰かが折れないと終わらない」


その時、画面の中でドラゴフが強い調子で叫んだ。


「グランディア軍!これ以上の抵抗は意味がない!技術者を引き渡せ!」


「引き渡すことなど!」


アルベルトが王国の威厳を込めて答える。


「彼らの安全は我々が守る!」


「頑固な……」


ドラゴフが困ったような表情で呟いた。


「では、もう少し圧力をかけるしかないようだ!」


状況がさらに心配になっていく。


王国軍の魔導兵が装備を整え、対する調査機関も準備を進める。


「装備の性能が互角のようですね……」


レオンが心配そうな表情で画面を見つめて呟く。


どちらの装備も相当高性能のようだった。特に魔法防御装置の性能は似たようなレベルに見える。


「どうしましょう?」


エリアが不安そうな声で聞く。その瞳に涙が溜まっていた。


「アルベルトさんたちを見捨てるわけにはいかないです」


「でも、僕たちに何ができるでしょうか?」


その時、セレスが知的な決意を込めて立ち上がった。


「レオン、第四層は使えないの?」


「第四層?」


「もっと強力な防御システム。この状況に対応できるような」


「あるにはありますが……」


レオンが困ったような表情で躊躇する。


「でも、危険すぎるかもしれません。第四層は攻撃的なシステムなんです」


「攻撃的?」


「はい。相手を無力化するための古代防衛システムです」


エリアが心配で息を呑む。


「古代防衛システムって……」


「致命的ではないはずです。でも……」


レオンが責任の重さに言いよどむ。


「でも?」


「一度使えば、もう隠すことはできなくなります。この技術の存在が、もっと多くの人に知られてしまう」


『レオン』


【魔核炉心】が運命を告げるように静かに語りかける。


『選択の時だ』


「選択?」


『技術を隠して平穏を保つか、技術を使って仲間を助けるか』


工房の外では、アルベルトの部下がさらに心配そうになって後退していく。


状況は王国軍にとって厳しくなりつつあった。


「技師団長!これ以上は難しいかもしれません!」


「まだです!まだ何とかなります!」


アルベルトが困りながらも責任感で答える。その姿に、王国軍人としての誇りが込められていた。


しかし、もはや時間の問題のようだった。


「レオン……」


エリアがレオンの腕を両手で掴む。


「決めて」


「僕は……」


レオンが最後の判断を求めて【魔核炉心】を見上げる。


「どうすればいいんでしょうか?」


『君の心に従え』


【魔核炉心】が古代の知恵で答える。


『技術は使われるためにある。人を助けるためにある』


レオンの中で何かが音を立てて変わった。技術者としての責任感、平穏な日常への憧れ、全てを考慮しての決意が固まる。


「…第四層を起動してみます」


震える声で呟いた。その言葉に込められた重さに、エリアとセレスの表情が緊張する。


「レオン、それは…」セレスが青ざめて声を絞り出す。「もう後戻りできなくなるかもしれないのよ?」


レオンは制御パネルの前に立ち、古代文字の警告表示を見つめた。最終承認が必要という表示だった。


「分かってます」彼の声に迷いはなかった。「でも、目の前で困っている人たちを、ただ見ているだけなんて僕にはできません」


外の緊迫した状況では、アルベルトの心配な声が響いている。「何とか持ちこたえろ!」


レオンの手が制御パネルに向かってゆっくりと伸びていく。


古代の文字が神々しく浮かび上がり、警告メッセージが表示される。


【第四層起動には最高権限が必要です】

【継承者認証を行いますか?】


「継承者認証?」


『君が真の継承者かどうかの最終確認だ』


【魔核炉心】が厳かに説明する。


『これを行えば、君は完全に古代技術の管理者となる』


「つまり?」


『もう普通の職人には戻れない』


レオンが人生を変える選択に一瞬躊躇する。


外では、ついにアルベルトも困った表情を見せていた。


「技師団長!」


部下たちが心配そうに集まってくるが、状況は厳しくなっている。


「これ以上は……」


ドラゴフが勝利を確信したような声で叫ぶ。


「これで古代遺跡は我々の組織のものだ!」


その瞬間、レオンが運命を変える認証ボタンを押した。


「継承者認証、開始」


工房全体が眩い光に包まれる。


【継承者:レオン・アークライト 認証完了】

【第四層:古代防衛システム 起動】


外の対峙している場所に、突然巨大な魔法陣が出現した。


「何だ、これは!」


ドラゴフが初めて驚きの表情で驚愕する。


魔法陣から放たれた光の束が、調査機関全体を包み込む。


「うわあああ!」


調査機関の人々が次々と倒れていく。致命傷ではないが、完全に戦闘不能になっていく。


「ま、まさか……これが古代防衛システム!」


ドラゴフも膝をつく。


二十名の調査機関が、一瞬で無力化された。


対峙していた場所に静寂が訪れる。


「す、すごい……」


アルベルトが困惑したまま呆然と呟く。


「これが……真の古代技術……」


工房の中では、三人が画面を見つめて言葉を失っていた。


「やりすぎてしまったでしょうか……」


レオンが心配そうに呟く。


「いえ、必要なことでした」


エリアが涙を拭いながら答える。


「でも、これで……」


セレスが深刻な表情を浮かべる。


「もう隠すことはできません。レオンの技術の存在が、もっと多くの人に知られてしまいます」


【魔核炉心】が責任の重さを込めて静かに語りかける。


『新たな段階の始まりだ』


「新たな段階?」


『君は選択した。技術を困っている人のために使うことを』


『ならば、その責任も受け入れなければならない』


外では、アルベルトが心配そうに工房に向かって歩いてくる。


無事だった王国軍の兵士たちも、困惑しながら後に続いている。


「来ますね……」


エリアが緊張する。


「アルベルトさんと、ちゃんと話をしましょう」


レオンが新たな運命への決意を固める。


「もう逃げることはできませんから」


工房の扉に、重いノックの音が響いた。


「レオンさん、お話があります」


アルベルトの声だった。

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