第15話 選択の時
第15話 選択の時
「他の組織の人々ですって?」
エリアの声が完全に上ずった。彼女の顔から最後の血色も失われている。
「はい。この地区に向かっているようです」
アルベルトの部下が緊迫した声で報告を続ける。
「予想では、あと六時間で到着するかもしれません」
アルベルトが困った表情でレオンたちを見る。
「状況が変わりました。のんびり交渉している時間がないかもしれません」
「どういうことですか?」
レオンの声にも緊張が混じってきた。
「その組織は古代技術に非常に関心が高いと聞いています」
セレスの美しい顔が青ざめる。その瞳に心配が宿っていた。
「彼らがあなた方を確保すれば、技術を悪用される可能性があります」
レオンが【魔核炉心】を見上げる。その瞳に、古代の知恵への助言を求める気持ちが込められていた。
『レオン、決断の時だ』
古代の声が重々しく響く。
『このまま逃げるか、この男と手を組むか』
「手を組むって……」
『どちらにせよ、平和な日々は終わったかもしれない』
【魔核炉心】の言葉が、現実の重さで三人の心に響いた。
アルベルトが一歩前に出る。その動きに、責任ある立場の者の決意が込められていた。
「提案があります」
「提案?」
「王国の保護下に入ってください。技術の平和利用という条件は受け入れます」
「本当ですか?」
エリアが希望の光を見つけたように驚く。
「本当です。他の組織に渡すよりは、はるかにましだと思います」
セレスがレオンの腕を強く掴む。その手に、切迫した状況への理解が込められていた。
「レオンさん、決めなさい。時間がない」
レオンが深く、決意を固めるような呼吸をする。
「分かりました」
「レオンさん?」
エリアが不安そうに見つめる。
「王国と協力してみます。ただし条件があります」
アルベルトが身を乗り出す。その瞳に、期待と緊張が混じっていた。
「条件とは?」
「研究の自由と、技術の軍事転用禁止を法的に保証してください」
「法的に?」
「正式な文書にしていただけませんか?」
レオンが遠慮がちに頼む。
アルベルトが責任の重さを感じながら考え込む。
「……分かりました。上層部と交渉してみます」
その時、また部下が慌てて駆け込んできた。
「技師団長!その組織の人々が予定より早く移動しているようです!」
「どのくらい早く?」
「三時間後には到着する見込みです!」
「三時間?」
アルベルトの顔が心配で青ざめる。
「準備が間に合いません!」
「どうしましょう?」
エリアが今にも泣き出しそうな震え声で聞く。
「逃げるしかないかもしれないわね」
セレスが冷静な判断力で提案する。
「転移魔法で遠くに逃げましょう」
「待ってください」
アルベルトが手を上げて止める。
「逃げても追跡される可能性があります。その組織の技術は優秀だと聞いています」
『レオン』
【魔核炉心】が警告するような声で呼びかける。
『逃げても無駄かもしれない。この遺跡を放棄するつもりか?』
「遺跡を放棄?」
「そうです」
アルベルトが深刻な顔で現実を説明する。
「その組織は遺跡ごと確保するつもりかもしれません。逃げても、帰る場所がなくなる可能性があります」
レオンが苦悩する表情で考え込む。
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「防御するしかないかもしれません」
「防御?」
レオンが困ったように聞く。
「防御システムで何とかするんです」
セレスが現実的な判断で首を振る。
「昨夜の人々とは規模が違うかもしれないわ。本格的な組織よ」
「でも……」
アルベルトが希望を込めて前に出る。
「私たちと協力しませんか?」
「協力?」
「技師団の人々と共同で対応するんです」
エリアが驚きと希望を混ぜた表情で聞く。
「技師団の方々と?」
「はい。私たちにも経験がありますし、必要なら他の人々にも相談できます」
レオンが最後の判断を求めて【魔核炉心】を見上げる。
「どうしましょう?」
『選択肢は二つだ』
古代の声が運命を告げるように静かに響く。
『対応するか、全てを失うか』
「全てを失う?」
『この遺跡、技術、そして君たちの自由も』
セレスがレオンの肩に支えるような手を置く。
「レオンさん、決めて」
「僕は……」
レオンが全ての覚悟を決めるように深呼吸する。
「何とかしてみます。この工房を守りたいです」
アルベルトが心からの安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます。すぐに準備を始めます」
その時、工房の外から雷のような爆発音が響いた。
ドーン!
「何ですか、今の音は?」
「探知魔法です!」
アルベルトの部下が顔を青くして駆け込んでくる。
「その組織の探知魔法が工房を見つけたようです!」
「もう見つかったの?」
エリアの声が絶望的に震える。
「予定より遥かに早い!彼らはもうすぐそこまで来ているようです!」