参の章〜激闘の始まりと、召喚されし者たち〜
〜時間は少し遡る〜
萃香と勇儀がギュオーと接触、戦闘になった辺りで現場に来た二人の天狗は…少し距離を取った木陰でその様子を見ながら、ただ唖然とするしかなかった…。
椛「な…なんなんですか、あの化物(戦慄)…!?」
文「さぁ…としか言えませんね。まさか…萃香様に勇儀様が、二人がかりで追い払われるとは(同じく戦慄)…」
文(あの二人があっさり退いた…とすると、相当危険な相手ですね。しかも…気配からしても妖怪の類じゃない、何者…いや、なんでしょう…アレは)
直後…僅かに考え込んだ文と、その様子を伺いつつ警戒していた椛は、一瞬で戦慄する羽目になる…。
ギュオー(頭部3次元レーダーを稼働させつつ)『…そこに隠れている女二匹、素直に出て来い。さもなくば…炙り出すぞ?』
文&椛「な!?」
文「う…嘘でしょ!?」
椛「大天狗様から【姿隠しの符】を貰って使ってるのに…なんでこっちに気付いたの!?」
ギュオー『ふん…聞こえんようだな。ならば、これでも試すか…確か、【重圧砲】だったな!』
そう言うなり、ギュオーが左手を二人の隠れている辺りに向けた瞬間…凄まじい勢いで衝撃波が迸る…!!
二人「!?!?(慌てて回避)」
間一髪で回避した二人の背後で、轟音と共に隠れていた大木が粉砕される!
その威力の痕跡を見て、改めて二人は戦慄していた。
文「まさか、こんな威力の攻撃を放ってくるなんて…!?」
椛「本気で…冗談じゃ済まないですね、これは」
ギュオー『ふん…コソコソと探るような真似をしているようだが…それなりの組織がある、ということか。ならばその組織について、ゆっくり聞かせてもらうとしよう…逆らうと、痛い目に遭うどころではすまんぞ?』
ギュオーはゆっくりと歩みを進めつつ、二人に声をかける。ただ…近づいてくるだけでも、その威圧感や殺気は凄まじい圧となっていくのが分かるためか、二人の背中…いや、全身から冷たい汗が噴き出していた。
椛(こ…こんな凄まじい殺気の持ち主なんて、見たことがない…怖い!け、けど…ここで挫ける訳にはいかない!)
椛「止まりなさい…むしろ、こちらの方が貴方に対して聞きたいことがあります!」
椛の叫びに、興味をそそられた様子でギュオーが足を止め、そして…感情の読み辛い目を椛に向けると、金属質で耳障りな声で話しかけてきた…。
ギュオー『…この俺に対して、いい度胸だ。先ほどの女の仲間…というわけでもなさそうだが、一つだけ答えてやる。何が聞きたい…?』
椛「貴方が…いや、お前がここに来た目的はなんです!?」
ギュオー『俺がここへ来た目的、か…そんなモノは知らん。気づいたらここにいた…この力を得て、な。丁度いいから適当に力試しをするつもりでいたら、さっきの女どもが襲ってきた、それだけだ』
文「…冗談じゃありませんね、そんな訳の分からない屁理屈で、こちらが納得できるはずないでしょう!まして…そんな殺気や悪意を始終丸出しにしておいて、何をしでかすつもりですか!?」
ギュオーの言葉に反応した文が、恐怖を振り払うように叫んだものの、ギュオーは文へ目線を向けたかと思うと…刹那、眉間の上辺りにある、小さな宝玉のようなものが閃光を放つ!!
文「うわっ!?(回避)」
自分に向けて放たれた閃光…【ヘッドビーム】をすれすれで回避した文は。地面を抉り溶かすその着弾痕を見て…改めて眼前の存在、ギュオーの危険性を確信していた。
文(相当まずい相手ですね…見た目と口調に反して、かなり頭の切れるタイプと見ました。ただ…本当になんですかね、コイツ…人間の気配は間違いないのに、こんなのは見たことも聞いたこともありませんよ…)
ギュオー『ほう…反応速度はなかなか早いな。面白い、もう少し遊んでやるとしよう…対価は貴様らの命だがな!!』
椛(抜刀と同時に背負っていた盾を構える)
文「簡単に言ってくれますね…気に入りませんよ、その物言いは!」
文の憤慨した叫びに合わせるかのように、剣と盾を構えた椛は低い姿勢から一息で間合いを詰め…そのまま斬りかかる…が!
ギュオー『ふん…見え見えだ』
露骨に嘲りを滲ませた口調でギュオーが椛を見やり、そして…右肘の突起を伸ばしたかと思うと、そのまま逆袈裟に斬り上げる!
椛「っ…!?」
間一髪で盾で受け、ギュオーの膂力を利用して飛び退き、間合いを離す椛。
椛(アイツのあの『見えている』という口調、こっちの知らない何かがある…けど、分からなさ過ぎる…!)
文(アイツ…こちらの予想以上に戦闘に慣れてる。まるで動じてないのもあるけど、まだ何か隠してるようですね、面倒な…)
文と椛…天狗の中でも動きや身のこなしの速さには定評がある二人だが、その速さに余裕綽々で対応されたことは、かえって二人の意識を引き締める形となった…。
ギュオー『しかし、貴様…まだ命拾いしたと気づかんか。その盾がなければ…貴様は今頃真っ二つだったのだがな?』
椛「…えっ!?」
文「…嘘!?」
次の瞬間…ギュオーの言葉と重なるように、椛の盾が真っ二つに割れて地面に落ちた。
その切り口は力で切り砕いたものではなく…まるで自ら二つに切り分かれたかのように、見事な断面を見せていた。
椛「そんな…馬鹿な!?」
文「あ、あり得ません…あの盾が、こんなあっさりと…?」
愕然とした二人の様子に、嫌らしい笑い声を上げながらギュオーが答える。
ギュオー『ふふふ…貴様らに一つ、種明かしをしてやろう。この俺の両肘にある刃…【高周波ソード】はな、触れたものの分子結合を解く性能を持つ。簡単に言えば、形ある物はこの刀身に触れたが最後…全て切断されるのだ。その盾にはおかしな力場があったようだが…それがなければ、今頃貴様は盾ごと真っ二つになっていたのだぞ?』
椛(まさか、あんな能力まで持ってるなんて…!?とすれば、どう攻める…?)
文(本当に冗談では済まない相手です…。まだまだ能力を隠しているようですが、なんとかこのことを伝えないとなりませんね…!)
ギュオー『さて…そろそろ遊びは終わりとしようか、覚悟してもらおう』
文&椛「…っ!?」
二人の戦慄を嘲笑うかのごとく、ギュオーの宣告が響き渡った…!
〜同時刻、空中〜
魔理沙「お…あそこだ、なんか閃光が見えてきた!」
ゼクトール(カブトムシ人間)『そのようだが、誰かいるようだな…』
魔理沙「え…?こ、この距離でもう分かるのか?」
ゼクトール『この姿になれば、五感を始めとする能力もかなり増幅されるのでな。後はレーダー…簡単に言えばコウモリのそれに近いこともできる、それだけだ』
魔理沙「な、なんか凄いな…」
ゼクトールの説明に唖然とする魔理沙だった…。
??「…ちょっと、そこの二人…少し待ちなさい!」
魔理沙&ゼクトール「へ?」『ん…?』
斜め後ろあたりからか誰かが呼ぶ声を聞き、二人は空中で静止する。
そして姿を見せたのは…自前で空を飛ぶ霊夢と、箒に跨ったアリスの二人である。
霊夢「全く…二人で先走らないでよね」
アリス「貴方達だけでどうにかなる、なんて甘い事態じゃなさそうなんだし、少しは落ち着きなさいよ…って、(ゼクトールを見て)え〜、と…?」
ゼクトール『俺はゼクトールだ。で…お前は誰だ?』
アリス「あ…アリス、【アリス•マーガトロイド】よ…ご丁寧にどうも(一礼)」
魔理沙「ちぇ…私らでどうにかしようと思ったのに…」
霊夢「(ため息をつきながら)そんな簡単にどうにかなる異変…いえ、相手なら私たち以外の誰かが片付けてるわよ。だいたいゼクトールさん、貴方が変身か何かをしてる時点で異様なのよ?」
ゼクトール『…察しが良いな、流石だ。で…霊夢、お前達も来るのか』
霊夢「その通りよ、巫女としての直感もあるし…今の時点ですら、辺りに異様な気配が満ち溢れてるもの」
ゼクトール『…なら、一つ警告しておく。あそこにいる異変、というか災厄…その正体に、俺は心当たりがある』
霊夢&魔理沙&アリス「え…!?」
魔理沙「やっぱり、か…。あんたの様子からそうかも、とは思ったけど…」
アリス「ち…ちょっと、どういうことよそれ!?」
霊夢「落ち着きなさいよ、アリス…。で、ゼクトールさん…知ってることは教えてもらえるのよね?」
ゼクトール『(頷く)そのつもりだ…恐らく、あそこにいるのは『リヒャルト•ギュオー』…。俺がここに来る前にいた組織、【クロノス】で【十二神将】と呼ばれる幹部グループに在籍していた人物だ。最も…ある事件を起こして粛清されたと聞いたが…まさか生きていたとはな』
魔理沙「え…え〜と、その『りひゃると•なんとか』…は、要するにあんたの関係者ってこと?」
アリス「『元』関係者、でしょ…しっかりなさいな、魔理沙。で、貴方みたいに変身するの…その人も?」
ゼクトール『ああ(頷く)…俺より強いはずだ。しかし…』
霊夢「しかし…なに?」
ゼクトール『俺が覚えている限りでは、ギュオー総司令の力の反応は、こんな強烈なものじゃないはずでな…そこが引っかかる。それで何が起きているのか…気になってな』
ゼクトールの言葉に、三人はしばし沈黙する…。
霊夢「…とりあえず、行ってみるしかないわね」
アリス「そうね…相手が何か、少しわかっただけでも収穫よ。訳の分からない異変でないなら…」
魔理沙「解決手段はある…ってことだしな!」
ゼクトール『…最悪、死ぬかもしれんぞ…?』
霊夢「(微笑)その時は…素直に逃げるわ。死ぬ前にね…貴女もそうして、いいわね?」
魔理沙「そういうことだな…無理、しないでくれよ(微笑)」
アリス「全く…頼むわよ、本当に(微笑)」
ゼクトール(大したものだ…彼女らには、覚悟と決意がある。ならば…俺も死力を尽くすだけだ、何故かは知らんが拾ったこの命。使い所は、間違いなくここだ…)
魔理沙「よし…ならさっさと行こうぜ、異変解決は迅速にって…な!」
アリス「全く、脳筋も大概にしなさいよ(苦笑)…」
霊夢「やれやれ…じゃ、行きましょ」
ゼクトール『うむ…!』
合流した4人は向かう…戦場へ…!
〜同時刻、紅魔館の地下室〜
召喚陣の描かれた地下室、その一角に『スキマ』が開き…そこから八雲紫ともう一人、緑なす黒髪の巫女『東風谷早苗』が現れた。
紫「パチュリー…連れてきたわ、早速始めてちょうだい」
早苗「…え、と…神奈子さまと諏訪子さまから一応話は聞いてはいるんですが、とにかく私は何をすれば良いんでしょうか?」
パチュリー「…そばでお祈りしててくれれば良いわ。丁度…レミリア達も来たし」
軽く咳き込みながらパチュリーが答えると…反対側からこの紅魔館の主であるレミリアと、長身の美女〜命蓮寺の住職でもある魔法使い『聖白蓮』〜…がその背後からやってくるのが分かった。
紫「聖…なぜここに?」
聖「幻想郷の危機…という話を聞きましたので、私にもできることがあると思いまして。寺の方では避難する人々の受け入れを始めています…私はむしろ、魔法使いとしての方が力を貸しやすい、と思いまして…お邪魔致しました」
紫「なるほど、確かにそうね…助かるわ。なら、速やかに始めましょう…霊夢達と迷い人が向かってるから、多少の時間は稼げるはず。そのうちに…!」
パチュリー「…始めるわ…」
早苗「は…はい!(慌てた様子で祈り始める)」
聖(黙って合掌し、精神統一を開始…呪文の詠唱を開始する)
レミリア「(小声で)咲夜…」
咲夜(音もなくレミリアの背後に出現)「(小声)こちらに…」
レミリア「(小声)フランの様子は?」
咲夜「(小声)つい先ほど、起きられました。そのまま美鈴が側についております。そのままお相手しておくよう、伝えてありますが…?」
レミリア「(小声)ならいいわ…あと、小悪魔もついでにフランたちに付けておいてあげて」
咲夜「(小声)承知致しました、では…」
そのやり取りをしたあと、咲夜は音もなく消えた…。
レミリア(さて…こちらもどうにかしないと、ね…)
〜再び、戦場〜
爆発の衝撃と、閃光が辺りを満たす…。
【超存在】ギュオーの苛烈な攻撃に、文と椛は打つ手を無くして追い詰められつつあった…というのも、接近すれば【高周波ソード】と鬼をも凌駕する怪力、更には自身に匹敵する反応速度による攻撃が襲いかかり、遠距離攻撃を放てばバリアで弾かれて通じない…しかも信じられない程の体力差がある…そのため、二人はジリ貧になりつつあったのだ。
ギュオー『フハハハ…先刻までの威勢の良さはどうした、もう終わりか…?』
文「く…まさかあんな障壁まで完備してるなんて、ホントに聞いてませんよ!?」
椛「それになんなんですかアイツ…勇儀様や巨大化した萃香様より、力があの大きさのままで凌駕するなんて!?」
かなり焦った様子の二人を尻目に、ギュオーは嘲笑のような気配を放つ。
ギュオー『さて…そろそろ終わりにするか、お前たちの相手も飽きた。これは駄賃だ…死ね』
ギュオーの手が二人に向けられる…構えから【重圧砲】と見たか、一瞬で二人は回避行動を取る、が…!
ギュオー『甘いわ!』
ギュオーの手から放たれたのは【重力指弾】だった!
複数の光弾が二人を襲い…文は右の翼を消し飛ばされ、椛は左足を抉られて転倒してしまう。
文「あう…っ!?」
椛「く…っ!?」
ギュオー『しぶといな…が、それも終わりにしてやろう…む?』
刹那、ギュオーの頭部の金属球(三次元レーダー)が忙しなく動き、彼の脳に直接情報を流し込むと…一瞬の間を置かず、ギュオーめがけて無数の【生体ミサイル】が雨霰の如く降り注ぐ!!
椛「…え?」
文「な…なんですか、今の…?」
唖然とする二人を尻目に、バリアを瞬時に展開して凌いだギュオーはミサイルの飛来した方〜上空〜を見やる。
するとそこには、霊夢達と肩を並べる形で…肩部装甲を展開してミサイルを斉射したゼクトールがいた。
ゼクトールのその姿を見て、ギュオーはかなり驚いた様子で叫んでいた。
ギュオー『貴様…ゼクトールか?なぜここにいる…いや、そもそも何故、貴様が生きているのだ!?』
ゼクトール『それはこちらの台詞ですな…総司令、いや…元総司令。そもそも生きていたのなら、Dr.バルカスなり他の神将の方々に連絡するべきなのでは…?』
ギュオー『…貴様、それは俺の境遇を知っていての暴言か?俺がどうなったかは、知っているだろう(憤怒)…』
ゼクトール『ええ…ドクターから細かいところはともかく、話として聞いてはいましたので』
ギュオー『…ちぃ、貴様…その様子からすると【損種実験体】になったようだな。さっきから思念波が通じんし、思考が読めん…』
ゼクトール『その通り…おかげで、こうして渡り合えるのですからな。まさか【損種実験体】と化した身体がこんな形で役立つとは、俺も流石に思わなかったが…』
ゼクトールとギュオーのやり取りを側で聞き…霊夢達は唖然としながらも文と椛に近づいていく。
アリス(本当に知り合い…みたいね、あの二人)
魔理沙(ああ…けど、なんか様子がおかしくないか?)
霊夢(あとで聞けばいいわ、まずは文たちをどうにかしないと…)
ギュオー『まぁいい、ならば…【獣神将】として改めて命ずる。俺に従え、ゼクトール』
ゼクトール『…断る。まず、ここにいる連中には生命を救われた恩義がある。それに…元総司令、いや…ギュオー。貴様は既に【十二神将】の座を剥奪され、粛清された存在…たとえ【獣神将】とて、命令に従う謂れはない。なにより…』
ゼクトールは静かに答えながら、ギュオーを指さして吠える!
ゼクトール『貴様は…ただ悪戯に破壊を撒き散らす怪物と成り果てた。ならば…この場で同じく怪物である俺が、貴様を仕留める!』
霊夢•魔理沙•アリス「な…!?」(×3)
ギュオー『貴様…【損種実験体】になった事で狂ったか?まぁいい…なら、手始めに貴様から始末してやろう…この俺、【獣神将】いや…【超存在】リヒャルト•ギュオーがなぁ!!』
ゼクトール『やってみろ…できるものならばな!!』
二人は互いに咆哮を挙げ…全速力で激突!!
こうして、異形同士の死闘が幕を開けた!!
〜同時刻、紅魔館の地下室〜
一方、地下室の召喚陣は異様な様相を呈していた…。
パチュリーと聖、二人の魔法使いが精神を集中させつつ呪文を唱え…傍らでは巫女(早苗)も祈りを捧げている…傍から観れば、「なんだこれ」としか思えぬ状況である…床に輝く魔法陣がなければ、だが。
紫「…急いだ方がいいけど、うまくいくかしらね…」
レミリア「私と早苗を集めたのなら、運命は傾くわ…問題は、この召喚魔術で何が来るのか…そちらでしょ?」
レミリアと紫は静かに…だが、互いに若干の焦りがこもっている。
どうやら『迷い人』と『災厄』…ゼクトールとギュオーが激突した、との情報が入ったせいだろう。
その結果、何が起きるのか…それが全く分からないからだ。
紫(あの災厄…想像より危険ね、本当に人間なのかしら…?)
レミリア(…あの災厄、相当な殺気と悪意ね…人間って噂があるけど、本当なのかしら…?)
紫とレミリアが災厄に思考を馳せていると…召喚陣に変化が起きた。
淡い緑の光を放っていた陣が、突然激しいブルーの閃光を放ち始め、脈動するかのごとく明滅を繰り返し始めたのだ…!
レミリア•紫「きた…!?」「…!!」
驚く二人、いや…その部屋にいた全員を強烈な閃光が飲み込んでいく…!
…数瞬の後、光は徐々に収まり…召喚陣の中心には二人の人物〜黒髪の若い男と、顔に大きな傷痕のある男〜が立ち尽くしていた。
黒髪「…ん、こ、ここは…?」
傷痕「…一体なんだ、ここはどこだ…?」
紫「驚かせて、申し訳ありません…私の言葉が聞こえますか?」
二人「!?(驚いた様子で振り向く)」
紫が静かに声をかけると、二人はほぼ同じタイミングで反応し、慌てた様子で身構えると…紫に向かって声を発した。
黒髪「あ、貴女は…?」
傷痕「…貴様、何者だ?見た目に反して人間ではないようだが」
黒髪「に…人間じゃない、って…まさか!?」
傷痕「落ち着け…【獣化兵】や【超獣化兵】の類じゃない、というだけだ…気配が違いすぎる」
黒髪「……」
紫「…まずは、いきなりこんな真似をしたことをお詫びします。私の名は『八雲紫』…この幻想郷に住む、妖怪です(礼)」
黒髪&傷痕「な…(驚愕)!?」
紫の自己紹介に、明らかに二人は面食らって硬直した様子だった…まぁ、目の前の存在にいきなり妖怪と名乗られれば無理もないのだが。
傷痕「…おい晶、『ヨウカイ』とはなんだ?」
黒髪「確か、昔からあちこちにいた…っていう不思議な存在らしいけど…まさか、実際にいるなんて…」
傷痕(こちらを騙している様子はない。しかも…人間のそれとはかけ離れた気配をさせているとなれば…信じざるを得ん、か)
紫「とりあえず…話をしてもよろしいでしょうか?」
黒髪「は…はい、どうぞ…」
傷痕「……」
それぞれの反応を見て、紫は内心考えていた。
紫(こういう手合いに嘘は厳禁、話すべき事はきっちり話しておかないと、ね…。けど、傷痕の方はかなり鋭いようだけど…隣の黒髪の子、何を隠してるのかしら…)
紫は一瞬思考を巡らせたが、正直に話すことにした…こんな時に嘘をついて事態をややこしくする必要はない、との判断からだ。
紫「実は今、幻想郷は外からの侵入者の手により壊滅の危機に瀕しています。外からの侵入者…我々はそれを『災厄』もしくは『異変』と呼んでいます」
傷痕「…それに、俺達の何が関係している?」
紫「あなたの疑問は仰るとおり…私たちでは対処しきれないのが原因なのですが…。その『災厄』に縁がある存在を召喚して、対処してもらうことに決めて実行したところ…貴方がた二人が召喚されたのです」
黒髪「…俺達が、その『災厄』だか『異変』に縁がある、と…どうして分かったんですか?」
紫「その縁が良いもの、悪いものに関わりなく…縁がある存在同士は引き合うものです。その縁がある当人同士からすれば、困ったモノでもありましょうが…」
黒髪&傷痕「……(複雑な表情)」
紫「言葉だけでは信用しづらい、というのは理解できるつもりです…こちらをご覧ください(指を鳴らす)」
紫が指を鳴らすと…空間が突然開き、何処かの景色〜ギュオーと戦闘中の文と椛のそれ〜が映し出された…そして、それを見た二人の表情が一変する!!
黒髪「あ…あれは、ギュオー!?」
傷痕「馬鹿な…ギュオーが、ヤツが生きているだと!?」
紫「貴方がたは…あれが何者かを知っているのですね。私の、いえ…私たちの願いは、あのギュオーという存在の討伐です…お願いできますでしょうか(深々と頭を下げる)?」
黒髪「まさか…とは思うけど、この人が嘘をついて俺たちを騙す意味も理由もない。それに…」
傷痕「ああ…間違いない、アレは本物のギュオーだ。それに…気づいたか、晶?奴の額…」
黒髪「(映像を凝視して)…あ、アレはまさか…!?」
傷痕「そういう事だ。まさか、アイツが【強殖装甲】を殖装していやがるとは…!」
映像を見た二人の声と表情に戦慄が走るのを、紫は静かに見つめて考えていた…。
紫(この二人、相当あのギュオーとやらに対して悪縁があるみたいね…。なら、こちらもできる限りは協力しましょう…)
黒髪「…やろう、アプトム。今度こそ確実にヤツを…ギュオーを倒さないと!」
傷痕「ああ…なんとしても、俺たちの手でヤツを地獄へ叩き落とさなければならん!!」
断固たる決意を固めた様子の二人に、静かに紫が声をかける。
紫「…相談は終わりましたか、お二方?」
傷痕「ああ…ヤツは俺たちが叩き潰す…!」
黒髪「協力します!」
紫「…ありがとうございます(深々と礼)。では、改めてお名前をお聞かせくださいますか…?」
黒髪「俺は…『深町晶』といいます」
傷痕「…アプトムだ」
晶とアプトムが名乗ると…静かに召喚陣が輝いた。
これにより契約が成立した…この幻想郷で動くために必要な『誓約』が、今ここに為されたのだ。
紫「改めて、そちらの都合を無視して召喚してしまったことをお詫びします…そして、協力してくれることに感謝します(静かに一礼)…」
アプトム「とりあえず…ヤツは、ギュオーは何処にいる?やるなら急がんとならん」
晶「さっきの映像からすると…誰かが戦ってるようだし、急がないと…!」
レミリア「少しお待ちなさい…。貴方たちに渡しておきたいものがあるのよ、それが届くまでで良いから…待っててもらえるかしら」
逸る二人に声をかけてきたのはレミリアだったが、二人はレミリアの姿を見て…一瞬硬直した。
晶「…え?お、女の…子(唖然)?」
アプトム(…な、なんだ…さっきの紫とかいう女と同等…いや、下手をすればそれ以上に危険だと本能が訴えている…!?)
レミリア「名乗るのが遅れたわね、私はレミリア•スカーレット…ここ、幻想郷にある【紅魔館】の主よ。宜しく…深町晶さん、アプトムさん(優雅に一礼)」
晶「あ…はい、どうも…」
アプトム「……」
レミリア「今、私の従者に荷物を少し取りに行かせているわ…それを、さっきの者たちに渡して欲しいのよ。中身は貴方たちにも有用だと思うから、もう少しだけ待っててもらえるかしら…」
晶「荷物…?」
アプトム「爆弾でも使え、というのか?【獣神将】相手にそんなものは…」
レミリア「(苦笑)そんなモノは渡さないわ…それで通じるなら、とっくにこちらでもやってるもの。あちらへ行った時に霊夢達に渡して欲しいもの、よ…」
晶&アプトム(顔を見合わせる)
しばし後…彼らは戦場へ向かう…!