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貞操逆転世界の戦闘員  作者: 聖淫
8/13

8話

そんなこんなで、エリシアからこの世界の硬貨を受け取った俺は、彼女の案内でしばらく森を歩くことにした。


ざっと、1時間ほど歩いただろうか。


ようやく森を抜けた俺たちは、目の前に広がる街道へと出た。


遮るもののない街道の空は綺麗に晴れ渡り、太陽の光がじりじりと肌を刺す。


道の両脇には草原が広がり、風に揺れる草花の匂いが鼻をかすめる。


そんな中、俺は手の中で一枚の銀貨を弄んでいた。


……これが、この世界の貨幣か


命を助けたお礼として、エリシアから貰ったフィメリア銀貨。


真ん中に刻まれた独特の紋様が、やけに目につく。


しばらく貨幣を眺めていると、エリシアがふと口を開いた。


「そういえば、ゼロさん。帝都へ用があるんでしたよね?」


「まぁ、そうだな」


俺の目的は異世界征服だ。


だが、それを正直に話すわけにはいかない。


適当に相槌を打つと、エリシアは少し考え込むように首を傾げた。


「……ゼロさんって、何か身分を証明できるものって持ってますか?」


「いや、持ってないな」


そもそも、この世界に来たばかりの俺が、そんなものを持っているはずもない。


「もしかして、帝都へ入るには、身分証が必要なのか?」


俺が尋ねると、エリシアは真剣な表情で頷いた。


「はい。帝都には厳しい身分管理があって、身元不明の人は入れません」


なるほど。


何も考えずに帝都へ向かっていたが、どうやら適当な理由で通してもらえるほど甘い世界ではないらしい。


「……面倒なことになったな」


俺が小さくため息をつくと、エリシアが慌てて手を振った。


「大丈夫ですよ!」


「?」


「この先の町にある冒険者ギルドで冒険者登録をすれば、身分証代わりになるプレートが発行されるんです」


「なるほど、それを持っていれば帝都にも入れるってことか」


「そうです!」


エリシアは自信満々に頷く。


「じゃあ、俺も冒険者登録をすればいいわけか。助かったよ」


「えへへ、お役に立ててよかったです!」


エリシアが満面の笑みを浮かべる。


(……異世界にも身分証明の仕組みがあるのは助かるな)


そんなことを考えていると、後ろからガタゴトと車輪の音が聞こえてきた。


振り返ると、そこには一台の荷馬車。


御者台には、ふっくらとした30代半ばくらいの女性が座っていた。


もっちりとした肌に、丸みを帯びた優しそうな顔。


平凡な衣服を見につけたその姿は、まるで農村の母親のような雰囲気を醸し出している。


馬の歩みは緩やかで、立ち止まる俺たちの横をゆっくりと通り過ぎようとしていた。


しかし、俺とエリシアが並んで眺めていると、何故か馬車が目の前で止まった。


「……?」


御者台の方を見上げると、女性が俺たちをじっと見つめていた。


「お二人さん、旅の途中かい?」


おばさんは、にっこりと微笑みながら声をかけてきた。


どうにも、温厚そうな心優しいおばさんにしか見えない。


「はい。そうですけど……」


隣に立つエリシアが、俺の代わりに答える。


「それなら、ちょうどよかった!」


おばさんはさらに笑顔を深め、さっと御者台を降り、俺たちの前に立った。


見た目に反して、妙に軽やかな動作だった。


「近くの町まで行くんだけど、良かったら一緒にどうだい?」


「えっ? いいんですか?」


エリシアは驚いたように目を丸くする。


俺は黙ってそのやり取りを見守る。


(……妙に親切だな)


何か裏があるのか?


そんな警戒心が頭をよぎった瞬間、おばさんの視線が俺に向いた。


「うんうん。いやぁ、お兄さん、それにしても若くてイケメンだねぇ。どこかの貴族のお抱えかい? とっても目の保養になるよ」


「は?」


俺は思わず聞き返した。


「嫌だねぇ、そんなかっこいい顔して、そんな魅惑的な格好で歩いてるんだから。そう思うのは当然じゃないか」


魅惑的?


いやこれ、ただの戦闘スーツだぞ?


確かに体のラインはくっきりと出ているが、そもそも俺は男で……。


「もしかして……私を誘ってるのかい?」


おばさんは、そう言うと腕を胸の下で組み、軽く持ち上げてみせた。


「誘ってねぇよ」


なんだこのおばさん……。


一見、ただの陽気な人間にも思えるが、発言がやけに突っ込んでくる。


エリシアが苦笑しながら口を挟む。


「あはは……ゼロさん、こういうの苦手なんですね」


「いや、苦手とかじゃなくてだな……」


ただのセクハラだろ。


俺が内心でそうツッコミを入れていると、おばさんは大きく口を開く。


「冗談、冗談よ。あははは」


おばさんは、俺の反応を楽しむように手を腰に当て、豪快に笑った。


いや、マジで何なんだこの人。


「さ、荷台の空いてるところに、乗ってちょうだい!」


おばさんは、ぐいっと親指で荷台を指した。


「どうせ、こんな暑い中を歩くのは大変だろう? 乗ったほうが楽だよ」


俺がどう返すか迷っていると、エリシアがぱっと嬉しそうな顔になり──


「助かります!」


と、さっと荷台に乗り込んでしまった。


「さ、ゼロさんも!」


「……はぁ。分かったよ」


俺は小さく息を吐き、おばさんを一瞥する。


おばさんはニコニコとしたまま、俺の乗り込みを待っている。


「ほらほら、早くしなさいな! かっこいいお兄さんが乗ると、馬車も華やかになるからねぇ」


まぁ、ここは素直に親切に甘えておくか。


こうして俺とエリシアは、馬車に乗せてもらい、町へと向かうことになった。

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