5話
エリシアは俺を見上げたまま、顔を赤くしながら口を開いた。
「ど、どうしてですか?」
「どうしても何も、この状況でなぜ服を着ないといけないのかが分からないからな」
俺は淡々と答える。
湖から上がったばかりで体はまだ乾いていないし、戦闘スーツの素材上、濡れたまま着るのは快適とは言い難い。ならば、自然乾燥させるのが合理的だろう。
だが、エリシアは俺の返答に驚愕したように目を見開いた。
「……あ、あなたは……」
言葉を詰まらせ、口元を覆うように手を当てる。
「変態なんですか?」
「違うが」
即答する。
「っ……!」
エリシアは何かを言おうとして口を開きかけたが、結局言葉を飲み込み、そっと視線を逸らした。
(……なぜ、そんなに狼狽えている?)
この世界の文化的な違いか?
それとも、単に俺の態度が異常なのか?
いずれにせよ、今は言葉の壁がある以上、詳しい説明は難しい。
仕方がない。
俺はエリシアに向き直り、できるだけ穏やかに言った。
「とにかく、話がしたい」
しかし、エリシアは首を横に振る。
「む、無理です!」
即答だった。
そんなに拒否しなくてもいいだろうと思うが、これ以上強引に聞き出すのも得策ではない。
「……分かった」
俺はそう呟き、腰の剣をゆっくりと納めた。
エリシアの警戒心を少しでも和らげるためだ。
すると、彼女は小さく息を吐き、若干肩の力を抜いた。
今が隙だ。
俺は地面に放り出していた上着を拾い上げ、背を向けたまま素早く戦闘スーツを着直す。
湿ったスーツが肌に張りつくが、仕方がない。
一瞬で着替えを終え、俺は再びエリシアの方を向いた。
「これでいいか?」
そう言うと、エリシアは再びこちらを見た。
しばらく俺の姿を確認するように見つめ――
「……はぁ」
どこか疲れたようにため息をついた。