4話
俺は剣を突きつけたまま、少女を観察した。
見た目は10代後半といったところか。
長い金髪が月明かりを受けて揺れ、透き通るような白い肌が浮かび上がる。
人間として見れば美しい少女だ。だが、その耳が違和感を生んでいた。
明らかに尖っている。
やはりエルフか。
俺は無言のまま思考を巡らせた。
(異世界にエルフ……。となると、よくあるファンタジー世界ってことか?)
情報が少なすぎる。
彼女が敵か味方かもわからない。
とりあえず、慎重にいくべきだろう。
そんなことを考えている間も、少女は何かを言っていた。
「……エル・アシェル・ミア……?」
聞き慣れない言葉。
(言語が違うのか)
当然といえば当然だ。
異世界なのだから、共通の言語を話せるはずがない。
俺はとりあえず、剣先を軽く動かし、立ち上がるように指示する。
少女は一瞬、俺を見上げ、観念したように小さく息を吐いた。
そして、おそるおそる手を頭に乗せながら、ゆっくりと立ち上がる。
こうして、俺たちはしばし睨み合う形になった。
沈黙が続く。
少女は時折、視線を逸らしながら、何かを呟いている。
(なんだ? 何か言ってるのか?)
言語が違うせいで、すぐには理解できない。
だが、繰り返し発せられる単語の響きを聞いているうちに、俺はようやく聞き取ることができた。
「……服を……着てください……」
「……」
俺は一瞬、反応に迷った。
そういえば今の俺は、上半身裸だったな。
少女の視線が微妙に泳いでいるのを見るに、相当気まずいらしい。
(よし、学習成功)
異世界の言葉でも、ある程度の推測は可能。
ならば、こっちも試してみるか。
俺は内心で小さく笑い、考える。
言葉の構造がどうなっているかはわからないが……単語を並べれば、意思は通じるか?
少し間違えるかもしれないが……
「コトワル」
少女の目が見開かれた。
どうやら、意味は伝わったらしい。
だが、その顔は一瞬で赤く染まり――
次の瞬間、思いきり睨まれた。