3話
「さて……」
戦闘スーツは水を吸って少し重たくなっていた。
俺は上半身のスーツを脱ぎ、軽く絞る。
水滴がぽたぽたと地面に落ち、森の静寂に微かな音を響かせる。
しばらく、その動作を反復する。
上の戦闘スーツは、そろそろいいか。
ある程度水を絞り、俺は上の戦闘スーツを地面の上に置く。
そして、いよいよ下の戦闘スーツに手をかけるべく腰の剣を外そうとした時だった──
ピシッ
木の枝を踏んだような小さな音が背後から聞こえた。
「っ……!」
俺は素早く振り返り周囲を見渡す。
だが、そこには誰もいなかった。
風が木々を揺らすだけの、静かな森。
しかし、確かに何かがいた。
俺の視線は、音がした方向から少し左の小さな茂みで止まった。
俺は静かに剣を抜き、慎重に歩を進める。
何か得体の知れないものかもしれないな……。
そんなことを思いながら、茂みの前で立ち止まる。
ゆっくりと上から覗き込むと――
そこには、奇妙な姿勢で身を潜める少女がいた。
四つん這いになり、頭を地面に伏せ、お尻を突き出した格好。
まるで「頭隠して尻隠さず」という言葉を体現したかのような姿だ。
……なんだこれは?
俺は剣を横向きにし、軽く腰のあたりを叩いくことにした。
「ひゃう!」
ぴくり、と少女の身体が震え、ゆっくりと顔を上げる。
その瞬間、俺の視線は彼女の耳に引き寄せられた。
尖っている。
明らかに、人間のものではない。
それはまるで、ゲームやファンタジー小説に出てくるような種族。
エルフ……なのか?
俺は、つい思考した結果を頭の中で半信半疑になりながらも呟いていた。
未知の異世界で、初めて亜人という存在に出会った瞬間だった。