2話
転移は成功……したのか?
そんなことを内心呟き、瞼の裏でようやく光が消えたのを感じた俺は、恐る恐る目を開けた。
しかし、次の瞬間──視界に映ったのは、どこまでも広がる青空と一面の景色だった。
……え?空中?
そんなセリフが俺の脳裏を埋め尽くすと同時、ふわりとした浮遊感が再び体を襲う。
あ……これ、普通にマズイかも……。
俺は思わず、こんな場所に転移させたポンコツ転移装置に悪態をつきたくなった。
ごうっ!と、耳元で風が唸る。
とりあえず落ち着け、俺。
何か手段はあるはずだ。
俺は、とにかく自由落下する体のバランスを保つことを優先し視線を彷徨わせた。
「……!?」
下に広がるのは深い森。
だが、その中央には湖が小さく見えた。
俺は、ひとまず冷静に状況を整理する。
これに賭けるしかないか……。
僅かばかりの生きる希望を見出した俺は、息を吐き身体を軽く捻る。
「ふっ……!」
落下中の空気抵抗を利用し、なるべく安全な姿勢で、湖の上空付近へと移動する。
よし、あとは着水だけだ。
確認する限り、落下地点は湖の中央付近。
もし地面だったら即死だったが、まだ生き延びる余地はある。
空中で手足を広げたまま落下速度を調整。水面との衝撃を和らげるため、ギリギリのタイミングで足を下に向け体を垂直にする。
……入る!
ドボォンッ!
水面を突き破り、俺は湖へと突入した。
水中に入った瞬間、全身を包む冷たい感触。
だが、想定内だ。
湖の底に向かって真っ直ぐ沈んでいく。
問題は着地だな
地面と違い、水の中では動きが鈍る。とはいえ、無防備に底へ激突するわけにはいかない。
俺は沈んでいく自分の身体を調整し、着地の体勢を取った。
足裏、膝、腰そして肩。
湖底に向かって、最後にそっと頭を接地する。
「……ふっ」
上出来だ……。
軽く息を吐き、高所からの着水成功に安堵する。
そして、俺は水の中でゆっくりと視線を動かした。
視界に映るのは、淡く揺れる光の波紋。
水の色は無色透明。温度は冷たすぎず、心地よい程度。
俺のいた世界と、ほぼ同じ自然環境か……?
この世界が未知の異世界であることは確実。だが、少なくとも水の性質に大きな違いはなさそうだった。
さてと……そろそろ上がるか。
俺は湖底で仰向けになった姿勢から、軽く身体をお越し、立ち上がる。
湖の底を蹴り、上へと向かって泳ぎ出す。
水の抵抗を最小限に抑え、一直線に浮上。
やがて、光が強くなる。
水面が近い――
俺は最後にもう一度水を蹴り、一気に浮上した。
バシャァッ!
「……ぷはっ」
水面から顔を出し、大きく息を吸う。
一度周りを見回し危険がないことを確認した俺は、ゆっくりと岸へと向かい湖から這い上がることにした。
ここが、俺の新しい戦場か……。
そんなことを思いながら、俺は濡れる自身の戦闘スーツを一瞥する。
悪の組織の戦闘スーツとはいえ、防水機能とかは特についていないのでしっかり水を吸っていた。
「⋯⋯とりあえず、絞っておくか」