表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

田中、はぐれる

 鶴岡八幡宮を出る前に、田中が持ってきた自撮り棒を使って本殿前で記念写真を撮った。

「よし、ええ感じやん!」

 田中が、撮った写真を確認しながら言った。

 

 鶴岡八幡宮は、想像以上に広く、見どころもたくさんあった。


「さて、そろそろお昼ご飯にしようか」

 時計を確認した田中が、そう言った。時刻は、午後1時を少し回っていた。


「お腹空いたね。どこで食べようか」

 一条さんも賛成した。


「小町通りで何か食べるのはどう?」

 僕がそう提案すると、2人は顔を見合わせて頷いた。


「小町通り!いいね!色々お店がありそう!」

「じゃあ、小町通りに行ってみよう」


 ◆◇◆◇


 若宮大路から一本路地を入ると、そこは人でごった返していた。

 両脇には所狭しとお店が並び、食べ歩きをする人や、お土産を選ぶ人で溢れかえっている。


「うわー、すごい人!」

 一条さんが、口に手をあてて言った。

 

 いくつかのお店を覗き込みながら歩いていると、田中が足を止めた。

「おー、しらす丼!ええやん!」


 そこは、白い暖簾が印象的な、いかにも鎌倉らしいお店だった。入り口には、「しらす丼」と書かれた大きな看板が出ている。


「しらす丼!いいね!鎌倉といえばしらすだよねー」

 一条さんが目を輝かせた。


「じゃあ、ここで食べようか」

 元々鎌倉に来たらしらすを食べたいと思っていたので、僕はすぐに同意した。


 店内に入ると、活気のある声が飛び交っていた。テーブル席に案内され、メニューを開く。

 生しらす丼、釜揚げしらす丼、しらすと他の海鮮の組み合わせなど、様々な種類のしらす丼が並んでいる。


「俺、生しらすと釜揚げしらすのハーフ&ハーフ丼にする!」

 田中が即決した。


 僕は生しらす丼、一条さんは釜揚げしらす丼を注文した。


「鷹司くんは、しらす好きなの?」

「鎌倉に来たら毎回食べてるかも」

「毎回!?そんなに好きなんだ!」

 他愛もない会話をしながら、しらす丼が運ばれてくるのを待った。


「鷹司くんは、今回のフォトコンテスト、どんな写真を撮ろうと思ってるの?」

「うーん、まだ全然考えてない……というか写真撮るとき事前に撮りたいものとかあまり考えてないかな?」


「鷹司くんは感覚派なんだね」

 感覚派といえば聞こえはいいけど本当に何も考えてないだけなんだよなぁ。


「一条さんはどんな写真撮るつもりなの?」


「私は、鎌倉の風景とか、人々の暮らしとか、そういうのを撮りたいなと思ってる。この街の空気感みたいなのを、写真で表現できたらいいなって」

 一条さんは、窓の外を見ながら、穏やかな表情で言った。


「一条さんらしいね」

「そうかな?……うん、でも言われると確かにこれが私なりの写真の向き合い方なのかも!」


「俺は、この旅の思い出を全部写真に収めるで!」

 田中がそう力強く宣言した瞬間、注文したしらす丼が運ばれてきて、僕たちは食事を始めた。


 ハーフ&ハーフ丼をあっという間に平らげた田中が、僕の丼を覗き込んできたので、軽く睨み付けた。


 食事を終え、店を出ると、僕たちは建長寺へと向かった。

 建長寺の境内は、静かで落ち着いた空気に包まれていた。立派な山門をくぐり、仏殿や法堂などを見学した。

 田中は、あちこちで写真を撮りまくっていた。「これもええやん!あれもええやん!」と、相変わらず騒がしい。


 僕は、庭園の写真を何枚か撮った。緑豊かな庭園は、心が安らぐようだった。


 一条さんは、熱心に仏像の写真を撮っていた。


 建長寺を後にして、僕たちは再び小町通りに戻ってきた。時刻は午後3時を回っていた。


「そろそろ、お土産でも見ていこうか」

 僕が提案すると、2人は賛成した。


 小町通りは、相変わらず多くの人で賑わっていた。いくつかのお店に顔を覗かせた後、僕たちはある土産物屋に入った。

 店内には、鎌倉彫の小物や、お菓子、キーホルダーなど、様々なお土産が並んでいる。


「あ、これ、可愛い!」

 一条さんが、小さなガラス細工の置物を手に取った。


「ほんまや!綺麗やな!」

 田中も、一条さんの隣で、ガラス細工に見入っている。


 僕は、特に欲しいものもなかったので、店内をぶらぶらと見て回っていた。


 (あ、これ、陽菜にいいかも)


 小さな鈴のついたキーホルダーを見つけた。鈴の音が、陽菜の明るいイメージに合う気がした。

 キーホルダーを手に取って見ていると、田中が僕に話しかけてきた。

「飛鳥、これ、どう思う?」

 田中が手に持っていたのは、木彫りの熊の置物だった。


「いや、なんで鎌倉で熊なんだよ……」


「だって、なんか、ご利益ありそうじゃん?」

 田中らしい発想に、僕はため息をついた。


「ちょっと、あそこのお菓子見てくるわ!」

 田中はそう言うと、奥へと歩いて行った。


 7月の陽菜の誕生日プレゼントに良いかもしれないと思いながらキーホルダーを見ていると、一条さんが話しかけてきた。


「そのキーホルダー可愛いね。誰かのお土産?」

 一条さんは、首をこてんと倒し僕に尋ねた。


「いや、これは……」

「ちょっと、あっちの店でもお菓子見てくるわぁ~」

 田中の声で僕の言葉はかき消された。


「すぐに買うからちょっと待ってよー」

 一条さんはそう言うと、小さなガラス細工を抱えレジへ運んだ。


 キーホルダーの会計を済ませて、あたりを見まわすと田中の姿が消えていた。

「あれ?田中は?」

「田中くん、さっきまでそこにいたのに……」


 僕たちは、慌てて店内を見回した。しかし、田中の姿はどこにもなかった。


「……はぐれた?」


 

 僕がそう呟くと、一条さんは少し困ったように笑った。

拙作を読んでいただき、ありがとうございます!


よろしければ、ブックマークの追加と広告の下にある☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして『ポイント評価』をお願いします!


あなた様の応援が私のモチベーションに繋がります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ