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わたしの王子様

「はぁ、お腹いっぱい。ごちそうさま」

 数学のワークを終え、僕と陽菜はリビングで夕食を囲んでいた。

 

 時刻は19時。あれから僕の母からの連絡は途絶えたままだ。

 父の帰宅はいつも22時を過ぎる。2人きりの時間が静かに流れていく。


「あすかのママ、まだ帰ってこないね」

「保護者会の後、陽菜のお母さんと飲みに行ってるんじゃないかな」

 

「うーん、じゃあ何しようか」

「うちにはそんな面白いもの、ないぞ」

 リビングにはテレビがあるくらい。

 SwitchやPS4といったゲーム類は、先日すべて自分の部屋に移したばかりだ。

 勉強以外の理由で陽菜を部屋に誘うのは、何となく気が引けた。


「じゃあさ、お話しよっ」

「話って……別に面白い話題なんてないぞ」

「えー、せっかく久しぶりにあすかと2人きりになれたんだから、話したいよ」

 陽菜は時折、そうやって思わせぶりな態度を見せる。

 できれば、僕以外の男子にはそんな顔を見せないでほしい。

 独占欲、ではない。たぶん。男子は単純な生き物なのだ。

 これ以上、無用な被害者を増やしたくなかった。


「教室に飾ってあった桜の写真、あれ、あすかが撮った写真でしょ」

 今日の授業参観で、誰の目にも留まらなかったと思っていたあの写真……陽菜は見ていてくれたのか。

 ただ、一条さん曰く、あの写真からは寂しさが滲み出ているらしい。陽菜には、気づかれたくなかった。


「なんで分かったんだ?」

「だって、女体像はどうせ田中君でしょ」

 田中の女好きというイメージが、陽菜にもあったことに内心安堵する。

 まあ、陽菜が田中を好きになることは、まずないと思うが……。


「それで、部活の写真は女の子ばかりだし。あすかは絶対に女の子の写真なんて撮れないもん」

「……まあ、そうだな」

 反論する気にもなれず、陽菜の言葉を素直に受け止めた。


「というか、あの写真、今のあすかっぽいなって思ったんだよね」

 今の僕っぽい……?陽菜には、今の僕がどう映っているのだろう。

 聞きたいような、聞けないような、複雑な感情が胸の奥で渦巻いた。


「ところでさ、一条さんってどんな人なの?」

「え?」

 自分らしさとは何か、そんなことを考えていた矢先に陽菜からいきなり質問され、戸惑いを隠せない。

 一条さん……綺麗な人だということは、誰の目にも明らかだ。

 そんなことを陽菜に言うのは、気が進まなかった。


「部活では、そんなに一緒に行動しているわけじゃないから、よく分からない」

 それは、嘘ではない。僕はまだ、一条さんのことをよく知らない。


「ふーん。まあ、一条さんって美人だよね。髪も艶々だし、大人っぽくて羨ましい……」

 こんな時、恋人同士なら「陽菜の方が綺麗だよ」と言うべきなのだろうか。

 いや、もし陽菜と付き合えたとしても、そんなことを面と向かって言うのは、きっと照れくさい。


「写真を撮るのが好きなだけあって、少し詩的なところがあるかな」

 さすがに『ポエマー』と言うのは失礼だと思い、『詩的』と表現した。


「あすかもポエマーなところあるからお似合いじゃん!」

「やかましい」

 好きな子に他の女の子と「お似合い」と言われるのは、胸が締め付けられるような気がした。

 だから、反発するように、聞きたくもないことを口にしてしまった。


「陽菜も近衛先輩とお似合いだよ。サッカー部のエースとマネージャーだろ?中学の頃からの付き合いだし、告白すればいいじゃないか」

 口に出した瞬間、後悔が津波のように押し寄せた。

 その返事を聞きたくない。でも、聞きたい。そんな矛盾した感情が、僕の中でせめぎ合っていた。


 陽菜は一瞬黙り込み、僕の顔を見ずに、静かに答えた。


「近衛先輩は……近衛先輩は、わたしの王子様なの」

 僕はその言葉を聞き取り、耳鳴りがした。頭の中が真っ白になる。


「王子様だから、私は……」

 陽菜は口を動かしていたが耳鳴りのせいでうまく聞き取れなかった。


 それから数分、陽菜とたわいもない話をしたはずだが、ほとんど覚えていない。

 

 それはまるで、夢のようであった。

拙作を読んでいただき、ありがとうございます!


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