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【短編】悪逆王に嫁がされました……が、ただの強面で小声でしたの!?〜本当は優しい陛下の汚名返上したいのです〜


「悪逆陛下に悪役令嬢がご挨拶申し上げますわ。……お顔が怖すぎじゃありませんこと?」


        *

        

 こんなことになった経緯は、ある出来事が原因でございました。


 最南に位置する大国、グローリア王国の公爵令嬢兼元第一王子の婚約者こと(わたくし)、アレッタ・フォーサイスは聖女を害したことでつい先週断罪されたのです。


 正直微塵も納得いってません。そもそも国が危機に陥ってるわけでもないのに、聖女ってなんですの?

 害したって……そんなの私の婚約者を、正式な手続きなしに奪ったのだから当たり前でしょう。おかげで第一王子の元婚約者なんていう嫌なレッテル貼られる羽目になったわ。

 というか聖女であろうがなんであろうが、私はあの元凶に往復ビンタしただけですし。三発ほど。言わせて貰えばこんなの報復には足りないくらいですわよ。



「アレッタ・フォーサイス嬢、そなたには北の悪逆王の元へ嫁いでもらう」


 ところが、学園の卒業パーティーで罪として告発されてしまいましたの。

 最北の強国、グレイシャルの国王、ダグラス・グレイシャル陛下、通称悪逆王の元に嫁げと宣告されたのです。なんでも少しでも気に入らなければ即死刑にするくらい悪逆非道な人で、眼光だけで人を失神させるとかなんとか。


「あれだけ散々手だけは出していけないと言っていたのに。反省しなさい。まあ……、お前なら逃亡だってなんだってできるだろう」


 と、父母、長兄、次兄、三兄、末の兄にまで言われてしまい、とにもかくにも嫁ぐことに。全く、信頼して下さっているのか放任主義なのか。

 とりあえず元凶そのニである元婚約者の第一王子の阿保面もむかついたので、出発する前にもう一発殴ってきました。


 まあ、今思えば、私は物語なら悪役だったということなのでしょうね。悪役令嬢だわ!


 こうして、侍女のクロエ一人を連れてほぼ単身でこの国へやって来ましたの。

 クロエは馬車の中でずっと胃が痛かったらしく、ちょっとグロッキーだと言っていたのだけど、時間が惜しいのでさっさとご挨拶申し上げました。終わったらとっとと逃亡するつもりなのだから。

 そう、終わったら……というかなんですのその怖いお顔は!?

 ……そうして今に至るのです。


         *


    ( 「あ、悪逆……?)   ( と、とりあえずアレ)    (ッタ嬢、歓迎しよう)  (……」)

 は? え、今、歓迎って言いました?

 もーーーーのすごく小さなお声で。私は陰口などで耳が慣れていますからどれだけ小さくても聞こえますけど、他の方には聞こえませんわよ?


「なんと、無礼な!」

「貴様、不敬だぞ!」


 ほら、他のお方に聞こえてないようですけど。声小さすぎて。


「陛下は不敬だとは一言も仰っていないようですけど?」


    ( 「場所を変えよう。)   (応接間へ……」)

 はーーーー。言動が顔に似合わないお方ですわね。


「応接間はどこですの?」

「な、何を偉そうに!」

「私は一応嫁いで来た時点で王妃なのですが?」


 まあ、王妃になる気ありませんけど。嘘も方便ですわ。予想外なことはあるけれど、逃げようと思っているのは変わらないもの。


「っ王妃だt……ヒッ」

「……宰相が失礼致しました、アレッタ様。応接間にご案内致します」


 先ほどから不敬だとか言って騒々しかったのですが、老執事が現れると皆様スッとお黙りになられました。この執事……何者かしら。

 そのまま老執事の方に案内されるように謁見室を出ると、扉の横で待っていたクロエが頭を抱えていて……。


「お、お嬢様……やって下さいましたね……」

「何がですの? ああ、そういえば、執事さんのお名前を聞いていなかったわ」

「私はジェームスと申します。ダグラス様の専属執事でございます」

「ジェームス、よろしくお願いします。私はアレッタ・フォーサイスですわ。こちらは侍女のクロエ」


 そう伝えると、ジェームスは「ほほ、存じ上げております」と目を細めた。

 クロエは慌てて「よろしくお願い致します」と深ーーく頭を下げている。

 それにしても、なんというか、簡素なお城ね。調度品が少なすぎるわ。


「ダグラス様、アレッタ嬢をお連れ致しましたぞ」


    ( 「ありがとう……」)

 応接間にはすでにお茶の用意ができていて、先ほどまで王座にいらっしゃった悪逆陛下がソファに腰をかけていらっしゃいました。

 え……これって……。


「ま、魔法か何かですの??」


 思わずそう言うと、陛下とジェームスは目が点のように。クロエは頭を抱えました。


「お嬢様。お嬢様が宰相様と“お話”されている間に国王陛下はもう謁見室を退室しておられましたよ。国王陛下自ら案内しようとして下さっていたのにお嬢様ときたらそのご厚意を……」


 どうやら私が少々周りを見ていなかったのが原因なようで……その……ごめんなさい。わざとじゃなくってよ……。

 ああ、もう、クロエ。そんな目で見ないで頂戴。わかるわよ、言いたいことは!


「とても愉快なお方ですね、ダグラス様」


    ( 「ああ。くるくると)    (表情が変わって愛らし)   (いな。彼女は」)

 愉快だなんて! というか愛らしいってなんですの!?


「ちょ、ちょっとそこ! 聞こえてましゅのひょ!」


 うぅぅ……。舌が痛いですわ……。


「お嬢様……」


    ( 「今噛んで……」)

「ましぇん!!」


 私は完璧な令嬢だと自負しておりますの。自分でも蜂蜜のような金髪と世界樹のような緑眼を誇りに思っていますし、王妃教育を受けていたこともあって文武両道と学園で名を馳せておりました。

 ただ、少々欠点としては、思っていたことがすぐ口に出て、しかも大事な時に限って噛んでしまうのです。


「噛んだ噛まないなんて、そんなことどうでもいいじゃないの!」

「ほほ、ダグラス様、女性……特に妻となる方の機嫌を損ねてはなりませんよ。しかも、ダグラス様の声が聞き取れる方なんてそうそういません」

「国王陛下は何も仰っていないような……」

「あらクロエ、貴女も聞こえていないの?」


 クロエは何が何だかわからない様子。まあ、私くらい耳がよくなければ無理よね。


「ダグラス様の御声はとても小さく……私も最近耳が遠くなっているものですから、アレッタ様が御耳の良い方で嬉しい限りでございます」

「ふふん! 私は悪役ですもの! 小さな声だなんて陰口で慣れっこですわ! って笑うところですのよ」


 自虐なんですから。


    ( 「慣れてはいけない)    (と、俺は思うんだが…)    (…。アレッタ嬢は強い) (のだな」)

 ……納得するのではなく、同情してくださるなんて。私は最初、この方をなんて呼んだの?

 薄々思っていたけれど、この人絶対悪逆王じゃないわ。むしろ心優しい善人じゃないの。


「いいえ、私は陰口を仰っていた方々と同じだわ……。ごめんなさい。貴方は絶対悪逆王なんかじゃないのに、デマを鵜呑みにした上にあんな風に言ってしまって……」


    ( 「……いや、アレ)    (ッタ嬢は強い。己を信)    (じ、謝罪のできる人は)    (、なかなかいない。こ)    (んな所に無理やり嫁が)    (されて嫌だろうに) (……」)

 このお方……陛下はどうしてこんなにも寛大なのかしら。まさしく王に相応しい。なんならあの浮気王子の方がよっぽど向いてませんわ。

 悪逆王からなんて逃げてしまおうと思っていたけれど……。


「決めましたわ! 私、貴方の妻になりひゅわ」

「お嬢様……」


    ( 「ふふっ……またっ)    (……噛んでっ……」)

「ませんったらません!! 私が妻になるからには、その怖ーいお顔と小さすぎる声を直して頂きますわよ!」


 陛下の、雪のように美しい銀髪に氷のように冷たい碧眼、高い身長に筋肉質な体はとてもかっこいいのですが、この怖いお顔では長所は一転。悪人面というか、人殺してそうな目つきですもの。

 

    ( 「プッ……ハハハッ)   (!! フハハッ!!」)

 陛下はクツクツと笑い始め、いつのまにか爆笑なさっていた。な、何が面白いんですの! 何が!

 と、いいますか……そ!


「それですわ陛下! そのお顔です!」

「ダグラス様のこのような顔……私久々にお見受けしました……」

「とてもいい笑顔ですね……」

「あぁまた険しくなられましたわ! ダメです!! 眉間の皺をこう、伸ばして!!」


 思わず、陛下の眉間の皺を物理的に伸ばそうとしたけれど……なんて硬いのかしら。

 ああもうテーブルが邪魔だわ。もっと力を入れないと。


「側から見たら嫁いできたご令嬢が国王陛下の眉間の皺を伸ばそうとしてる変な図ですよ、お嬢様」

「ほほ、頼りになりそうな方で私めは嬉しい限りでございます」


 

 こうして、私の、陛下汚名返上計画が始まりましたの。


         *

 

「陛下、おはようございます」


    ( 「ああ、おはよう…) (…」)

 陛下は今日も朝から酷く怖い顔ですわね。声も小さすぎですし。

 あれから、私と陛下は簡単に婚約を結びました。私は結婚でも良かったのですが、無理やり嫁がされて結婚なんて酷すぎる、いざとなったら逃げられるように、と陛下が譲りませんでしたの。私はもう逃げる気はないと散々申し上げましたのに。


    ( 「……よく、眠れた) (か」)

「ええとても。私寝具が変わっても熟睡できますの!」


    ( 「……そうか」)

 というか私は同じ寝室でもよかったですのに。ほんと、配慮の魔王か何かなのかしら、陛下って。まあおかげでゆっくりできましたけれども。


 しばらく城内であれば好きにしていていいと言われましたので、今日も好きに陛下を観察しているのでした。声は声帯の問題もあるかもしれませんが、表情は違うもの。絶対に原因をつきとめて見せましょうと意気込んだはいいものの……。


「……これは難問ですわ」


 陛下は、食事中も、鍛錬中も、公務中も、謁見中も、休憩時間すら全て表情が一切変わりません。眉を寄せてしかめっ面で……なんですの!

 もう我慢できませんわ!


「陛下、陛下! 何をそんなに怒っていらっしゃるのです?」


    ( 「……怒ってはいな) (いが」)

 この顔で怒っていないなんて表情筋がおかしくなっているのかしら! もうこうなったら意地でも笑わせて差し上げますわ……!


「バァ!」

 

 ご覧になりまして? 私一番の変顔を!

 ご令嬢には相応しくないと、後でクロエどころか家族全員に怒られますが、これをすれば皆様笑ってくださるほどの破壊力ですわよ!


    ( 「……どうした?」)

「わ、私の変顔が通じないですって?」


 ま、眉すらぴくりとも動かさないなんて……。そんなの……。


「悲ししゅぎましゅわ゛」


   ( 「プッ……」)

「噛んでません!!」


    ( 「まだ何も言ってな) (い」)

 そう優しく呟くと、陛下はまたクツクツと笑い始めました。眉間の皺は取れ、眉は下がり、目尻が低く。思わず守りたいと思ってしまうようなお顔。

 ……なんですのなんですの! もうなんですの! 私の変顔では笑わないのに!


「……お嬢様」

「ヒィッ! ク、クロエ……これは深い訳が……」

「ご実家の奥様に報告ですね」

「ご、ご勘弁してくださいましーーー!!」


 もう本当に焦っていますのに、陛下ときたら私の懇願を見て今度はクスクスと……!

 いつもその顔でいて欲しいものだわ。

 

         *


    ( 「何か……困ってい)    (ることはないか?」)

「ええ全く……と言いたいところですが一つだけありますわ! 陛下が笑わないことでひゅほ!」


    ( 「……舌は怪我して)    (いないか?」)

「噛んでませんの!!」


 こういう時にばっかり笑って……んもう!

 気がつけばもう嫁いできて半年が経っているなんて……。まだ嫁いでないですけど、婚約状態のままですけど。


    ( 「美味しいケーキを)    (献上品で貰ったんだ…)    (…お茶でもどうだろ) (うか?」)

「まぁ! もしかして……」


    ( 「ああ、クランベリ)   (ーのケーキだ」)

 私がこちらにきて好きになったもの、それがクランベリージャムのケーキ。初めて食べた時には甘酸っぱさに感動しましたわ。ティータイムということは陛下の好きな紅茶も新しいのが入ったのかしら。

 ほとんど何も変わってないけれど、以前に比べればほんの少しだけ、朗らかになってきた気もするのです。


「さあ、いきましょう! ティータイムはどこでするのでしょう?」


    ( 「……すまない、ま)    (だ考えていなかった」)

「そ、そう落ち込まないでくださいまし……って表情はまるで変わってませんわね」


 なぜでしょう、最近陛下の後ろに喜怒哀楽の陛下が見えるですの……。無自覚に疲れでもあるのかしら、私ったら。

 というか、もはや押しかけ女房ならぬ押し付け女房として我が国から無理やり娶らされたようなものなのに、ずっと丁重に扱ってくださって……。


「しっかりしすぎ陛下、お気楽令嬢が申し上げますわ。そんなに肩を張らなくていいのではなくて?」


  ( 「……?」)

「国王だからって何もかも気負う必要はございませんわ。威厳も大事ですが、一番は、自分と民が笑って過ごせるかどうかですの」


  ( 「……!」)

 まあ、威厳というか高圧的を固めたような私の言えることではないですが。

 私がそういうと、陛下は憑き物が落ちたような、少年のような表情をされました。やっと私が怒ってなんかいないことに気づいたのかしら。


「お茶会は私の部屋なんてどうですの? クロエが淹れる紅茶はそれはもう絶品ですのよ」


   ( 「……ああ、いいと) (思う」)

「国王といえば、寛容で朗らかでいらっしゃった前王様が大好きで、前王様のお願いで殿下と婚約を〜」


 その後、そのままの流れで浮気の件を思い出し、陛下が私の愚痴に付き合う羽目になったのは言うまでもないのでした。


        *


 もう一年が経ったでしょうか。陛下は少しずつですが、顰めっ面でいることが少なくなってきましたの。

 今日もお話がしたくて探していると、陛下は中庭の木陰で気持ちよさそうに眠っておられました。

 

「あら、陛下。そこにいたのですか」

「……アレッタ嬢?」

「お昼寝中に起こしてしまって申し訳ないでs……今お声が大きくなってましたわ!」


 え、今普通に喋って……陛下が喋った!? 嘘ですの! いいえ、私の耳はとても良いのですからありえないわ!

 しかもび……美声ですの。す、すごくかっこいいですの。耳に響くようで、それでいて安心感のある低さで、よく通って……。


「はわ……はわわ……ひゃっ!」


 あまりの美声さに思わず後ずさった私を見て、陛下は絶望にも近い顔をなさりました。酷く狼狽していて、顔が青く……。


「陛下、どうしましたの? 悪い夢でも見たのです? それともお加減でも悪いのですか?」


 さっきまでの感動はどこにいったのやら。私が駆け寄って体をペタペタ触って確かめていると、陛下は拒絶するように私の手を振り払いましたの。

 今まで、このような態度は一度もとられたことはなかったですのに……。


    ( 「……アレッタ嬢“)    (も”、俺の声が醜いと)    (、悍ましいというの)  (だろう?」)

「っ誰がそんなこと言ったのです!? この美声を!?」


 “も”ということは誰かに言われたということでしょう?? 誰ですのその耳垢の溜まっていらっしゃる方は!?


    ( 「嘘はつかなくてい)    (い。俺の声は醜い」)

「陛下も耳垢が溜まってらっしゃいますの!?」


   ( 「は、耳、垢?」)


 ちょっと待ってくださいまし。陛下のお声が小さかったのってこんなことが理由でしたの? 私の聴力の無駄遣いでしてよ!?


「お耳孕ませ陛下、悪役令嬢が申し上げますわ。陛下のお声はとっても美しいですの」


 この声を聞いてときめかない女性なんていないのではと思うほどに。喋る媚薬ですわね。


「ほら、もっと聞かせてくださいまし!」


   ( 「ほ……本当、か?)     ( 元婚約者なんて、泣)    (き出していたとい)  (うのに……」)

「それいつの話ですの!?」


 ジェームスがいうことには、陛下が元婚約者様と婚約破棄されたのは14歳の頃のはずですが……。


「大方、変声期か何かだったのでは? 兄様方もお年頃の時は変な感じでしたわよ?」

「へん……せい……き……?」

「知らなかったですの!?」


 というか、元婚約者様許せませんわ。陛下にトラウマを植え付けて、あまつさえ婚約破棄ですって? 普通王族の方からはあっても臣下からはしませんことよ? お顔の皮が厚すぎますわ。


「陛下、私は陛下の笑ったお顔も大きなお声も大好きですわ。もっと見せて、聞かせてくだしゃいまじ!」

「……噛んでないんだな?」

「噛んでませんのぉーーーー!!」 


 当初お話しする予定だった陛下のゴシップ記事についてはすっかり忘れてしまったのでした。


         *


 私が自室でため息をついていると、クロエがあからさまに嫌な顔をしましたの。


「どうかなさいましたか、お嬢様」

「クロエ……どうしましょう……」

「何がです? というか嫌な顔してるのですから、手短にお願いしますね」

「わざとなところが貴女らしいですわ」


 外を見れば、雪がちらついていますわ。ああ、私の心もあれくらい真っ白であればよかったのに。


「最近陛下は表情も朗らかで声も通って、悪逆王なんて言われなくなってきたでしょう?」

「ええ、そうですね」

「陛下に奥方ができてしまったらどうしましょう。私、もう国に戻りたくなんてないわ。……あの方をどなりで支えだいの゛ぉ……うぅ……」


 いつも泣き言を言うのはクロエの前だけなせいか、涙がボロボロ溢れてきましたの。

 クロエがギョッとした顔でエプロンで私の涙を拭ってくれます。それはもうゴシゴシと。


「急にどうしたのですか?」

「あんな魅力的な方、引く手数多でずわ。そもそもわだくじはおじづげられだ嫁であっでぇ……」


 前に城下街で聞いた話では熱愛とか言われてましたし。最近では舞踏会や謁見にいらっしゃったご令嬢方の黄色いお声が聞こえますし。おまけにひそひそと昨日結婚の儀とかジェームスと陛下が話してましたし。


「お嬢様は婚約者でしょう?」

「ごんやぐなんいぇ、破棄されるためのものでじでよ!?」

「いや、それ勘違いですから。世の中の婚約して結婚した方に謝って下さい」

「……ごべんなびゃい」


 鼻水も垂れてきましたの。というか私はどうして謝っているのでしょう?

 そんな時、ドアがノックされる音が部屋に響き渡りましたの。


「アレッタ嬢、入ってもいいだろうか?」


 陛下……。明日のお祭りのために狩りに行っていたはずですのに。どうして……?

 クロエが対応しようとしていたのを、止めて。涙を拭い、頬を叩きますの。淑女たるものみっともない姿を見せるわけにはいきませんわ。


「ええ、大丈夫ですわ……ってえぇ!?」


 思わず驚いて変な声が!

 陛下が持ってきたのは、大きな牡鹿。これは明日のお祭りで話題になること間違いなしなほどに。


「一番大きな獲物は、一番見せたい人に見せようと思っていたんだ」

「す……凄いですわ! これを陛下が!?」

「ああ!」


 どうだと言わんばかりの満面の笑み。ああ、なんてかっこよくて可愛いらしいのでしょう?

 ふと見た陛下の手は霜焼けで暖炉の火くらい真っ赤ですの。


「陛下、手が真っ赤ですわ。私、今あったかいですの。ほら」


 泣いて暴れていたから、と付け足すのが正しいですが、そんなこと言えるわけありません。

 そっと、包むと氷以上に冷たいのでした。お祭りのプレゼントは手袋にしましょうと決めるほどに。今日から夜なべして間に合うかしら。


「あ……あの……アレッタ嬢……その……」

「陛下?」


 陛下の顔が手と同じくらい真っ赤ですの。もしやお顔も霜焼けに!?

 

「アレッタ嬢に触られると……動悸が凄くて……手汗が……すまない」

「……それって」


 後ろからひょこっとジェームスが出てきて、陛下を揶揄うような目で見てますの。


「陛下、ですから婚姻の儀は来年の春でいかがですかな?」

「ジェームス、だからなんでその話になるんだ? ア、アレッタ嬢、その、俺は少々おかしいのかもしれない。手を離してもらっても……」


 もう全身が真っ赤な、少年みたいに陛下は搾り出すようにそう言いました。

 これは私にだってわかりますの。私が今史上最大に悩まされている事ですもの。



初心(うぶ)陛下、貴女の婚約者が申し上げますの。それ「恋」ですわよ」


 その後、クロエに泣いていたことを暴露された私は恥ずかしくて、何を喋ろうにもまた舌を噛んでしまうのでした。


 読んで頂きありがとうございました!

 ブクマや評価など飛び跳ねるほど嬉しいです。感想、ご指摘、ツッコミ、キャラへの一言お待ちしております!

 長編ver連載開始しました!こちらとは少々内容が違くなります! 良ければそちらも読んで頂けると!

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