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5,ついにネタばらしの日

 どこまでネタばらしを引っ張るつもりなのかと、ドロシーは周りの祝福に戸惑いながら、来たる日を待っていた。


 両家の顔合わせの食事会で「やっぱり結婚やめまーす!」とか言われるのかと思って身構えていたが、それもなごやかなうちに無事終わった。


「どういうことなの、ミレーユ。ルークス様はいつになったらネタばらしをするつもりなの? このままでは本当に結婚してしまうわよ」


「それならそれで、結婚してしまわれてはいかがですか?」


 ミレーユはしれっとそんなことを言い出した。


「バ、バカなこと言わないで。あのルークス様が本気で私と結婚するわけないでしょう? 絶対なにか裏があるに決まっているわ」


 十五回も振られ続けたドロシーは、どうしても振られない自分というものを信じることができなかった。


 まして、ルークス公爵は、少しばかり変人だが、いい人だった。


 ドロシーの意見を女だからと無視することもなく、それどころか面白い発想だといって積極的に聞いてくれる。時には辛辣しんらつな意見をしても、素直に反省する柔軟さも持ち合わせている。


 そんな相手が十五回も振られた自分を選ぶというのが、どうしても信じられない。


 だからどこまでいっても振られるネタばらしが待っているのだと思い込んでいた。


 それはウエディングドレスに身をつつんだ結婚式の日まで続いた。


 そしてルークスは純白のドレスに身を包んだドロシーのもとにやってきて告げた。


「ドロシー。とうとうこの日がきたようだ。君に言わなければならないことがある」


「ルークス様」


 ついにこの日が来たのだな、とドロシーは思った。


「何度も君に言おうと思っていたけれど、君の顔を見ていると言い出せなくなっていた。今日まで黙っていてすまなかった」


 まさに何度も経験した、振られる前触れだ。もう慣れている。


 ドロシーは大きく深呼吸をして、静かに受け止めることにした。


 だが、少しぐらい愚痴ぐちってもいいだろう。

 さすがに結婚式当日に振るなんてひどすぎる話だ。


「ずっと分かっていましたわ。それにしても結婚式の日まで引き延ばすだなんて、ずいぶん意地悪な方ですわね。よほど私のことを笑い者にしたかったのですね。でも、残念でしたわね。私はすべてお見通しで……最初からルークス様がネタばらしをする日を待っていましたのよ。だから、全然傷ついたりなどしませんわ。ええ、ええ。私はルークス様に振られても全然なんとも……。まったくさっぱり傷ついたり……うう……ううう……」


 嘘だった。


 この数か月で、ドロシーはルークスの優しさにいやされ、自分の意見をきちんと聞いてくれる誠実さにかれていた。


 こんな人と生涯共に過ごせたらと、いつしか夢見るようになっていた。


 ドロシーの完全敗北だった。

 

「私の負けですわ。これで満足ですか? さあ、もういいでしょう? ネタばらしをしてくださいませ」


「そうか。君は気付いていたのだね。いつから知っていたのだろう?」


「指輪を受け取った時から分かっていましたわ」


「なんだ。そうだったのか。私はいつ言うべきかと、本当はずっと苦しかったのだ」


「できればもっと早く言って欲しかったですわ。そうすれば、兄のヨハンもあなたのお母様も、大勢の人を巻き込んでがっかりさせないで済みましたのに」


 しかしルークスは、ふと首を傾げた。


「ん? 何の話だ? 大勢の人を巻き込む? 確かに君の侍女と私の侍女レイナは巻き込んだが……」


「え?」


「確かに私は侍女レイナが『結婚に不向きな主人に愛想を尽かす侍女の会』に入っていることを聞いて、くだらぬ会に顔を出すなと厳しく叱った。そしてその会は解散させたのだ。しかしその後、君の侍女のミレーユと共謀して別の会を秘密裡に発足させていることに気付いた」


「別の会?」


 ルークスは肩をすくめて微笑んだ。


「『結婚に不向きな主人をなんとしても結婚させる侍女の会』だそうだ。私はすぐに言いなりになる女性というのが苦手でね。だがお見合い相手はみんな従順で大人しくてつまらない女性ばかりだった。私にびることなく対等に語り合えるような女性を探していたのだ。そうして君に出会った」


 壁際に立つミレーユは、肩をすくめて微笑んでいる。


「最初は十五回もお見合いを断られているなんて、面白い女性だと思った。何をしでかして断られているのだろうと興味を持った。会ってみると必死に断られようとする可愛い人だった。私は一目で君を気に入ったんだ。媚びないところも、堂々と自分の意見を言うところも、まさに私の理想だった」


「わ、私が? 十五回も断られた、こんな私が理想だというのですか?」


 ルークスは肯いた。


「ええ。十回目のお見合いでようやく見つけた理想の女性です」


「まさか……。そんなわけ……」


「その後はミレーユ嬢にも協力してもらい『結婚に不向きな主人をなんとしても結婚させる侍女の会』を大いに利用させてもらったのです」


「では……、いずれ破談にするつもりでいたわけじゃ……」


「いや、いくら変人の私でも、そんな面倒な嫌がらせはしないよ。ミレーユから君がいまだに私との結婚を疑っていると聞いた時は驚いたけどね」


「では、ルークス様は……本当に私と結婚するつもりで……?」


「もちろんだ。いいかげん信じてもらおうと思って、ネタばらしをすることにしたのだ」


「でも私は……可愛げがなく、ずけずけ本音を言い、金儲けの算段で殿方を言い負かすような出しゃばりで……十五回もお見合いを断られた女ですよ。いいのですか?」


 ドロシーは以前言われたミレーユの言葉を結構気にしていた。

 しかし、そんなドロシーにルークスは微笑んだ。


「そんなあなたがいいのです。まさに私の理想です」


 捨てる神があれば拾う神がある。


 ドロシーは十六回目にして拾う神に出会っただけだ。


 運がないから時間がかかったのか、運があるから十六回目で出会えたのか。


 ともかく、お互いに苦労して出会えた相手だった。

 

「君となら共に生きていきたいと思ったんだ。どうか私と結婚してくれ。ドロシー」


 ドロシーはようやく晴れやかな笑顔になって答えた。


「はい。喜んで」


 ルークスは純白姿のドロシーを力いっぱい抱きしめた。



 そんな二人を見届け、ミレーユはそっと部屋を出た。

 廊下ではルークスの侍女のレイナが待っていた。


「やれやれ、手のかかる主人でしたわね」

「本当に、お互い苦労が絶えませんわ」


「ですがこれで『結婚に不向きな主人をなんとしても結婚させる侍女の会』は解散ということになりますわね」


「ええ。次は『奥手な主人の萌えを演出する侍女の会』なんてどうかしら?」


「あら、いいわね。『主人の胸きゅんシーンを企画する侍女の会』なんていうのもいいわ」


 こうして最強の二人が手を結び、侍女の会の輪はひそかに広まっていくのであった。



                            END




完結です。

こちらは短編用に書いたものだったのですが、ラブコメにしては字数が多すぎて一気に読むのは疲れるかもということで5話に分けさせてもらいました。一気に出すつもりが遅れてしまいました。そして期待頂いた方には長編ではなくてすみません(>_<)


明日(9/25)より異世界恋愛ジャンルではありませんが、『婚姻届を出す朝に』を連載予定です。

こちらは『離婚届を出す朝に』の続編というか、シリーズ物です。

長編ですが、ゆっくり更新の予定です。

そちらも良かったら覗いてくださいませ。


お読みくださりありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ミレーユがいいキャラでした
[良い点] 侍女ズがいい味出してました!
[一言] その『侍女の会』、会員は2名しかいないのでは…… もしかしたら他の会も?(はじめの一つ二つはそこそこ会員がいるかも)
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