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2,ルークス・ウィンザー公爵

 兄が部屋を出ると、ドロシーは侍女のミレーユと目を見合わせた。


「ウィンザー公爵様ですって。何か噂は聞いている?」


 ミレーユは待ってましたとうなずいた。


「もちろん知っています。ウィンザー公爵様の侍女レイナとは、以前よりあるじの破談回数を競っていた旧知きゅうちの仲でございます。いえ、ご安心ください。もちろんドロシー様のぶっちぎり勝利でございます」


 勝った顔の侍女に対して、ドロシーはばつの悪い顔になった。


「あまり嬉しくない勝利だわね」


「そもそもレイナとは『変わり者の主人につかえる侍女の会』で出会いました。その後『手のかかる主人に困る侍女の会』で再会し、さらに『結婚に不向きな主人に愛想を尽かす侍女の会』で三度みたび会うことになりました」


 ミレーユは得意げに言い募る。


「……。あなた、そんな会にも入っていたの?」


 ドロシーはひたいをぴくぴくさせながらたずねた。


「はい。侍女の横のつながりを広げるためでございます」


「そう。そうね。それで仕方なく入ったのね。仕方がないことだわね」


 ドロシーは自分に言い聞かせるように肯いた。


「はい。おかげでウィンザー公爵の侍女とも懇意こんいにしております」


「そうね。あなたの判断は正しかったわ。それで公爵様とはどんな方なの?」


「はい。レイナの話では、非常に見目麗しく、頭の切れる有能な方であられるようです。父上がお亡くなりになり、若くして公爵を継がれたのですが、お父上よりも更に事業を発展させ、領地をまとめていると、その手腕は誰もが認めるところのようです」


 良い侍女というものは主人を実際以上に高く評価するものだ。

 話半分ぐらいに聞いてちょうどいい。


「それで、そんな方がなぜ二十九にもなって結婚できないの?」


「それが分からないと言うのです。過去のお見合い相手として、スカラ家のダイアナ様に、デビス家のオードリー様、それにホーリス家のアマンダ様などがお見合いをして、ことごとく断られています」


「まあ! 三人共、社交界では有名な人気の美女ではないの。家柄も良く愛らしく、殿方は誰でも一刻共に過ごしただけでメロメロになると聞いたわ」


 三人共、気位の高いつんつんした美女というわけではなく、気さくで可愛らしく、身分を鼻にかけたところもないため人気があり、お見合い話がひっきりなしだと聞いた。


 よりどりみどりの中から選び取ったお見合い相手がウィンザー公爵だったはずだが、まさか断られるとは本人達も思っていなかっただろう。


「ショックを受けた三人はウィンザー公爵を見返すつもりで、もっと良い縁談を探しているみたいですが、公爵様を見返すほどの相手が中々見つからないようでございます。結果としてドロシー様ほどではございませんが、みな行き遅れております」


「なんて罪なことを。それなら最初からお見合いなどしなければ良いのにね」


「公爵様もドロシー様と同じですわ。お母上が独断で申し込んでしまわれるようです。今回もおそらくお母上の独断でドロシー様に申し込んでこられたのでしょう」


「なるほどね。でも話を聞く限り、今回は楽勝で断られそうね。このままの私でいいのではないかしら?」


「はい。ただ、レイナが言うには、もしかして公爵様はその……とても女性を見る目がある方なのではないかしらと……」


「女性を見る目がある?」


「はい。レイナはお見合いの席にも侍女として出入りしているのですが、どの方も、それはもう可愛らしく、守ってあげたくなるような愛らしい方々で、男性なら誰でも瞬殺されるであろう美女揃いだったそうです。ぶっちゃけて言うとぶりっ子(はなは)だしく、同性から見るとあざとさが見え見えの、び丸出し腹黒女だったそうでございます」


「……。随分ずいぶんぶっちゃけたわね」


 ドロシーはレイナという侍女の洞察力に感心した。


「公爵様がもしも、そのような腹黒女性を見抜く眼力をお持ちであるなら、ドロシー様のような方は、かえって気に入られてしまうかもしれませんわ」


「私が気に入られる? つまり私は正直であざとくない良い女だと。女性の本質を見抜く公爵様なら気に入ってしまうかもと、そう言いたいのね?」


 ドロシーは初めて褒められたような気分になった。


「はい。ドロシー様のように可愛げがなく、ずけずけ本音を言い、金儲かねもうけの算段で殿方を言い負かすような出しゃばり女性が好みという可能性は充分あります」


「……。ミレーユ、あなた……。最近少し口が悪くなったのではなくて?」


 ドロシーは少し気を悪くしてミレーユをにらんだ。


「これは、少し正直に言い過ぎました。失礼致しました」

「ま、まあ、いいわ。それでは、私はどうすればいいと思うの?」


「簡単でございます。公爵様が苦手な媚び媚びのあざとぶりっ子令嬢を演じればいいのでございます」


「あざとぶりっ子令嬢? この私が媚び媚びのぶりっ子令嬢になれると思う? 自慢じゃないけれど、そんな男性受けする愛らしさがあれば十五回もお見合いを断られなかったわよ。後半は自分から断られにいってるけれど、前半は正真正銘、全力でのぞんで全滅したのよ?」


 お見合い相手に議論をふっかけ、嫌がられたのがほとんどの敗因だ。

 それで断られるなら余裕で楽勝なのだが……。


「そのままのドロシー様でも九割がた断られるだろうとは思いますが、お相手の侍女は『変わり者の主人に仕える侍女の会』のメンバーでもありますし、万一のことを考えて、ここはこれまで断られたご令嬢と同じくあざとぶりっ子路線でのぞまれる方が無難かと……」


「わ、分かったわ。出来るかどうか分からないけどやってみるわ。でもミレーユ、あなたは入るべき『侍女の会』を少し選んだ方がいいわね。それか、もう少しマイルドな会名に変えた方がいいわよ。公爵様がその会の存在を知ったら、きっとお怒りになるはずよ」


かしこまりました。会員の皆様と相談してみます」


 こうして、ドロシーはお見合いの日まで、ミレーユと共にあざといぶりっ子の練習にいそしんだ。


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