第三話 狂気の始まり
俺とルナ姉はしばらく歩いた。朝、昼、晩いつでも人だらけの電車のホームに入る。スーツやら私服やらの人たちの行列が出来上がっている。
子供の頃はこれを見て、AIが養ってくれる社会なのに、この人達は何故働きにでるのかと考えた。家でゴロゴロしていても暮らしていけるのにと。
その疑問にルナ姉は教えてくれた。
働くこと。それは一世代前の話で、現代人は趣味を楽しむ為に使っているのだと気づいた。
彼等は、人の手だけでどれだけの事が出来るのか。そう言った向上心を持つ人や、AIでは出来ない、全く新しいものを作り出そうとしているクリエイティブな人の集まりだったり。サッカークラブや野球クラブと似たようなものだ。皆、じっとしていられないのだ。
しかし、いくら働くことが一世代前の話とはいえ、職場が全く無いわけではない。ごく少数だが、働いている人も存在する。
それは警察関係者だ。彼等はこのネットワーク社会でのセキュリティを守る要でもあり、暴走したアンドロイドを壊すものでもある。そんなこともルナ姉に教えられた気がする。物知りだなホント。いや、ネットから引っ張ってきたじゃないかこれ。
【閑話休題】
ルナ姉と共に電車が来るのを待っていると、辺りに
『ジリリィィィ』
という気づくか気づかないぐらいの音が聞こえた。それから少し遅れて、周りが更に騒がしくなる。
「いやぁぁぁぁ」
「痛い!助け……」
「逃げろぉぉぉ!!!」
突然それらの声が響き渡ると、俺達は人混みによってエスカレータの方へ押されてしまう。向かっているのは改札の方だ。
「ルナ姉、手!」
とっさにルナ姉の手を握る。危ないところだった。あと一瞬でも遅ければ離れ離れになっていたかもしれない。それぐらいの勢いだった。
「大丈夫か?!怪我してないか!」
「うん、大丈夫……。それよりも……血の臭いがしない」
「そうか?」
言われて、鼻に集中すると確かに血のような臭いが感じられる。それに人混みが向かう逆の方向に目を向けると紅い液体をぽたぽたと垂らす人物がいた。さっきの悲鳴といい臭いといい、この状況といい、だいたい何が起きたのか察しがつく。殺傷だ。
俺はルナ姉の手を強引に引いて動こうとするが、うまく足を動かせない。周りの力が強すぎる。火事場の馬鹿力なのだろう。改札の方へ流されるのはいいが、体勢が整えられない。とても危ない状況だ。
次の瞬間、ルナ姉の手を離してしまう。俺はエスカレーターの方へ押される中、ルナ姉は階段の方へ押し流されていく。そして一瞬にしてルナ姉が見えなくなった。
「ルナ姉ぇぇぇ!!!」
「蒼汰!っ!逃げなさい私は何とかするから」
「できるわけねえだろ!今いくから一緒に逃げるぞ!」
ルナ姉を一人にするわけにはいかない。何としてでも人混みの流れから逆らおうと、もがく。しかし無駄なあがきであった。結局、俺はエスカレーター、改札そして出口の方まで押し流されてしまった。
人混みがなくなってきた頃、ルナ姉を探し出すが見当たらない。
俺は流された方向を見る。改札周辺は誰も被害者らしきものはいなかった。きっとその奥に被害者はいるのだろう。もしかしたらそこにルナ姉がいるのかもしれない。
「ッ!戻らないと!」
心臓の鼓動が早くなると同時に過呼吸になってしまう。恐怖心で足を持ち上げながら駅のホームに向かう。すると誰かが俺の方に手をかけ低い声で呼び止めてくる。
「君!逃げるぞ!戻ったら死ぬぞ!」
「姉がいるんだ!」
手を振りほどいて走る。ルナ姉から別れて3分は立っている。襲われていたとしたらもう……。そう暗い気持ちになりながら、辺りを見回す。
そこは大量の血を流す人々が横たわっていた。少し前までとは比べものにならないぐらいの血の臭いが充満している。過呼吸をしている様子から、まだ死んではいないのであろう。
俺はルナ姉がいないか見渡す。
「どこだ……何処にルナ姉は……」
しかし、見つかることはなかった。つまり、どこかで生きている可能性があるということだ。または、少し離れたところで死にかけているか。
俺はその少し離れたところ。トイレや、駅員室、コンビニの中を見て回った。だが、結果は変わらず。意味がわからなかった。普通、ここまで探せば見つかるだろというぐらい、探した。なのにどこにもいない。
不安に思いながら、駅のホームまで行く。すると、線路に多数の倒れた人がいた。まさか、あそこにいるのではないか。そう考えたが、遠目から見て学生服らしきものを着ている人はいなかった。つまり、ルナ姉はいない。
ちなみにGPSも試したが電波障害が起きているからか使えなかった。そこら中で連絡をしている人がいるのだろう。
「はぁ……どこにいるんだよ。ルナ姉……」
何か見落としているような気がする。
「あれ?この状況を起こしたやつはどこだ?」
ちょうどその時、線路の方からゴンゴンと鳴り響く音がした。それは電車が通る音ではなかった。
リズミカルであり、複数聞こえてくる。俺は線路の方をもう一度覗き込んだ。
「人……?違うあれは……アンドロイド」
それらを見た瞬間、音の正体がわかった。足音であった。彼等が足を地面につける瞬間、ゴンゴンとした音が聞こえた。それは人間では明らかに鳴らすことのできない足音だからだ。
彼等は赤かった。通ったところも少し赤くなっていた。まるで、そこら中に流れている血のように。いや、ようではない。血だ。あれは血だ!
「まさかあいつらが……これを……」
ホームに転がっている死体や死体になる者達を見る。すると、とてつもない悪寒で鳥肌が立ってしまった。ルナ姉は死んだのか生きているのか。確認している暇は無い。すぐに逃げろ……そう頭が警告音を鳴らす。
「!」
足のふみ場があまりないホームを走って駅を出る。もしかしたら、それらを踏んでいたかもしれないが必死過ぎて覚えていない。
運が良かったからなのか、彼らは追っては来なかった。見失ったのだろう。
俺は息を切らしながら、ゆっくりと歩く。そして頭を落ち着かせる。このまま、ルナ姉を探すのは危険だ。"準備"を揃えてからにするべきだ。
そのためには、まず向かうのは安全だと思われるところ。そこで情報を集めるしか無い。
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