6.村の子どもたち
突然の衝撃に、つい変な声を出してしまった。
後ろを振り返ると、小さな子供が立っている。気の強そうな男の子だ。どうやら、わたしに体当たりをかましてきたようだ。
「なんだお前」
「それはこっちのセリフ。ちょっと、突然何するのよ」
「ここから追い出そうなんて考えても無駄だからな!」
「……??なんの話?」
「は?じゃあお前一体なんでここにいるの?」
「なんでも何も……ただ考え事をしてふらりと立ち寄っただけなんだけど」
「ほんと……か?」
男の子としばらく無言で顔をあわせていたが、祠の陰から別の子供が出てきた。
「ねえ、この人、アレクス様が森から連れてきたっていう女の人じゃない?」
「確かに……見たことない顔だな」
なんとなく場の雰囲気が変わると、周りに隠れていたのか、数人の子供たちが出てきた。
「おねーさん、どこから来たの?」
「北の森から現れたって本当?」
「う、うん」
「すげー!やっぱり父さんの言ってた通りだ」
「ダイアウルフからアレクスが助けてくれたって本当?」
「アレクスのお嫁さんになるの?」
急に質問攻め来たっ。
さっきのデジャヴを感じつつ、同じように答えられる範囲で話した。数分前まで警戒心丸出しだった男の子も、すっかり興味津々でいろいろ話しかけてくる。
それにしても……アレクスはじめこの村の人々は、こんな見ず知らずの人間によくもこんなに警戒心なく接することができるな……だって絶対あやしいよね、わたし。
土地柄なのかしら。
なんてことを思いつつ会話しているうちに、何となくみんなで遊ぶ流れになり、そのままずるずるとわたしも参加することになった。
「ロン、見っけ!」
「そこにいるのは……エミリーちゃん!!」
「くそっ、ユーナかくれんぼ強すぎ」
「はははっ、子供の遊びといえど、容赦なく勝たせてもらおう。」
世界が違えど、子供の遊びは大まかなルールで言うとほとんどわたしの知っているものと変わりなかった。
隠れている子供たちを、鋭い観察力で次々に仕留めていく。
「これはマジで鬼だ……」
「おい、ユーナ、大人げないぞ!」
などと楽しく会話しながらも(?)全力で遊んでいると、気づかないうちに相当時間が経っていたようだ。
「そろそろ、終わりにしようか」
「うん、またね、ユーナ」
ほんの数時間遊んだだけだったけど、みんなわたしのことをばっちり仲間として受け入れてくれたみたい。
気心の知れた友達とするように、また遊ぶ約束をして、みんなその場から元気に走り去っていった。
残されたのは、わたし……
と一人の男の子。
子どもたちの中では一番控えめなテオという子だ。
(どうしたんだろう?帰りたくないのかな?)
「ユーナから出てるこのキラキラ……何?」
少しの間をおいて、テオが話しかけてきた。
「え?キラキラ……」
確かに、言われてみるとわたしの動きまわったところには光の糸がこんがらがっていた。これ、わたしから出ているのか……?
でも、さっきまで遊んでいるときには、他の子たちには特に何も言われなかった。
朝、アレクスに聞いた時も見えていないようだったし……
「テオには、見えるの?」
「うん、でも普段はあまり言わないようにしてる。変だと思われるし」
見えるのは変……なのか。というかこんなの出してる時点でわたし相当変か。
「じゃあ、あの森に続いているのは?」
テオの指さした方を見る。
村の中心から祠まで来ているのはさっきわたしが通った道だとして。
「たぶん、最初にわたしがいた森……アレクスに連れてきてもらったから光の糸がつながったんだと思う」
わたしから出ている光、というならそう考えるしかない。
「森の中って危険?ダイアウルフは狂暴なのかな?」
テオの話題が少しずれたような気がする。
わたしは昨日の夜のことを思い出してぞっとした。
「うん、すごく怖かったよ。偶然アレクスに助けてもらわなかったら、死んでたかもしれないもの」
「そう……」
それ以上テオは深く訊いてくることもなかったし、特にそれ以上の話もなく、別れた。