5.村人とのひと時
「アレクス様――!!」
駆け寄ってきたのは、5人の男性だった。年代はいろいろのようだが、みんな逞しい感じがする。
手にはそれぞれ農機具を持っているし、村の人かな?
「聞きましたよ!また勝手に森に入られたとか!」
「一人では危険だと、何度も申し上げていますよね!?」
一気に捲し立てられ、アレクスがたじたじとなっている。
「うっ……まあ、無事だったんだからいいだろ」
「たまたま今回は何ともなかったということですよね」
「それに――……」
アレクスはわたしのほうに目線を向けた。
「この女性は、『聖女』とされるユーナ様だ。この方にお会いできたのも、俺が森に入ったからだ」
「ちょっと、わたしは聖女なんて……」
アレクスがちらりと目配せしてくる。どうやら、この場を取り繕うために話しているのだろう。
なんか口調もやけに丁寧だし。まあ……うそ、というわけではないけど。
「それは……」
「しかしですな!!」
「というわけで、大切なお客人のユーナ様に村の案内をしているところだから、お前たちは文句があるなら後で俺の屋敷に来るように!じゃっ」
まだなにか話しかけている男の人たちを尻目に、アレクスはわたしの手をとって足早に立ち去った。
「ちょっと、いいの?あの人たち、アレクスの心配をしているんでしょ?」
「いいの、いいの。さっ、気を取り直して村まで歩こう!」
村の一番大きな通りまでは、(とは言っても、数軒の家と小さな店が並んでいる程度だったけど)歩いて15分ほどで着いた。わたしたちの姿を見かけるとすぐに、たくさんの村の人たちが取り囲んできた。ここにくるまで、最初にあった男の人たち以外にはほとんど人に会わなかったけれど、いったいみんなどこから現れたんだろう。
「アレクス様、おはようございます」
「うちのじいさんが夜中に誰か連れてくるのを見たっていうけど、本当だったんだなぁ」
「こんなかわいいお嬢さんがどうして森の中にいたんだい?」
「あら、クラリッサ様のお洋服ぴったりだねぇ」
・・・・・・
村の人たちは興味深々に次々と聞いてくる。そんなに矢継ぎ早に話しかけられても、何から答えていいか言葉に詰まる。
村の前で会った男の人たちと違って、興味はわたしに向けられているようだったし、アレクスが森に入ったことについては特に誰も話題にしなかった。
「ほらほら、あんまりユーナを困らせるなよ」
「ユーナ様、っていうのか」
「森から出てくるなんて、本当に不思議だねぇ」
「最初に会ったのがアレクス様だったなんて、ラッキーだよ!」
「だーかーら、あんまりみんなで一斉に話しかけても、ユーナが返事する間がないだろ」
アレクスはきっと身分の高い人なんだろうけど、村の人たちと気さくに笑いあっている。みんなに慕われている人なんだな。
わたしはみんなの会話の合間をぬって、簡単に自分のことを話した。
といっても、なんでここにいるかもよくわからない、という程度の話だったけど。
「そろそろ、仕事に戻らないとな」
しばらく話していると、アレクスが帰る時間を告げてきた。
でも、まだ遅くないし、もう少し村の様子を知りたい。
「忙しいのにありがとう。後で戻るから、しばらくここにいてもいいかな」
「そうか?じゃあ……後で迎えにくるから」
「ううん、アレクスのお屋敷の場所はわかったから、自分で帰れるよ」
「……でも、やっぱり危なくないか?」
「大丈夫、この辺からは離れないし、森にも近寄らないから!」
「わかった。じゃあ。また後でな」
アレクスが屋敷の方へ戻っていくのを、村の人たちと見送った。
「どうじゃ、あいつ。いい男じゃろ」
そういってにやりと目配せしてきたのは……サイラスさんというおじいさんだ。
「アレクスのことですか?はい。すごく優しい人ですね。こんな見ず知らずのわたしにもものすごく親切にしてくれて」
「アレクスはな、誰に対してもああなんじゃ。ここに来てから、この村を守るためにいつも忙しく走り回っておるよ」
(『ここに来てから……?』ということはアレクスは他所から来たんだな)
「アレクスはこの村で一番偉い人なんですか?」
「村も何も、アレクス様はこの辺りノースデールを治める領主様じゃよ」
アレクス、そんなにすごい人なんだ……!
後で、本人にいろいろ聞いてみよう。
その後もしばらく村の人たちと楽しく世間話をしたわたしは、それ以上みなさんのお仕事を邪魔するのも悪いので、村の中を探索してみることにした。
ここに住んでいる人たちは何もないところだと話していたけど、わたしの目に映る景色はどれも物珍しかった。おそらくこの近辺から採れた木材で作られた建物は、ヨーロッパ風でおしゃれな感じ。
畑の作物や、遠くで放牧されている家畜は……なんだろう?やはり自分の知らないものだ。
そして、森の境に建てられた『大壁』がさっき見ていた場所よりも近づいたからか、けっこうな威圧感を感じた。
ふと、木々が生い茂る中に、小さな祠のようなものを見つけた。祠までの細い道は綺麗に掃除されていて、きちんと手入れされた場所のようだ。何となく気になって近づいてみる。
わたしの知っている和風のものとはやっぱり違うけど、石できたその祠は、どこか懐かしい気分になる。色とりどりの花が供えられ、今も人々の信仰を集めているのだろう。
「ん……?」
しばらくそこに佇んでいると、建物の陰に何か動くものが?
覗き込もうとすると……
「ぐあっ」
突然背中に衝撃を受けたわたしは、思わずのけ反った。