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2.救いの手

・・・・・・



そして、現在、狼に取り囲まれている状況に至ったわけですけれども。意味がわからないです……



光の輪に入ったわたしを待っていた、不思議な森。


それにしても、忙しい夢だなぁ……


寧ろ夢であって……!


そういえば、なんで暗い森の中で、狼がいるとわかるんだろう?


ふと感じた疑問の答えはすぐにわかった。周囲が明るいからだ。目の前の花畑が淡い光を放ってその場全体を照らしている。


なにこれ!蛍……ではないみたい。幻想的だな。


「おい、人間!」


「なんでこの森にいる!?」


「なあ、食ってもいいだろ?」


ああ、狼達が喋ってる。幻想的だな~


「なんだ、こいつ何の反応もないぞ!」


「だめだ!こいつ。恐怖で頭でもおかしくなったか?」


ゲンソウテキダナ~~


現実逃避はわたしを助けてはくれなかった。


最初はわたしを遠巻きに取り囲んで威嚇していた狼たちだったが、そのうちの一匹がしびれをきらしたように飛び出してきた。噛みつかれると思った瞬間、全力で避ける。


「……っ!!」


体に痛みはない。服の裾を噛みちぎられただけで済んだようだ。


「こいつ……まさか?」


「――……か?」


狼たちは何やら話している。


「いいから、やっちまえ!」


堰を切ったように、狼たちが一斉に襲い掛かってくる。


それ以上考える間もなく、わたしは木々の間に向けて走り出した。




どれだけ逃げたのか。


体は枝にひっかかり、転び、傷だらけでもう痛みも感じない。とっくに限界は来ているが、こんな訳の分からない状況で死ぬのはごめんだ。わたしはもうとっくに感覚のない身体を動かし続けた。


狼たちが飛び掛かってくることもあったが、なぜか少し距離を取られている気がした。いや、そう思っているだけで、ここまで逃げて来られたのがむしろ奇跡だったのかもしれない。


「くっ……!」


何度目かの木の根に足をとられ転んだ時、ついにわたしは動けなくなった。


荒い息をしていても感じる、周りを取り囲むたくさんの気配。


目をつぶり、これから襲ってくるであろう痛みに耐える。



1秒……2秒……


――……


あれ?

何も起きない?


わたしが再び目を開けると、そこにはついさっきまでの光景とは違うものが映った。

人間……男の人がいる。


炎みたい……



馬に乗ったその男性は、燃え盛る炎のようだった。髪と瞳の色が赤いからというだけでない。目には見えない、炎から出る熱のような威圧感に圧倒される。


一瞬、時が止まったように感じた。


わたしの周りに集まっていた狼たちは、いつの間にか数メートル離れたところに転がっていた。吹き飛ばされた?暗闇の中で、ひときわ輝きを放って燃えているような彼から目が離せない。


その人物を前に、ざわつく狼たち。


「領主か……」


「ちっ、人間風情が」


どうも狼たちはこの人物に気圧されている様子だった。


その人がわたしにゆっくり近づいてくる。状況が分からず、思わず身構える。


片手でひょいと抱えられたと思った瞬間、馬の上に乗せられているのだと気付いた。


「大丈夫か?」


「えっ、あ……はい」

(この人、助けてくれたんだ)


とりあえず危機から脱したのだとわかると、それまでの張りつめた緊張が緩んだ気がした。

わたしと話している間も、その男の人は狼に向かって剣を構え続けている。


「なんでまた、こんな所に?」


「ええと……自分でもよくわからないんですが、気付いたらここに来てました」

(こんな怪しい説明、自分がされても信じられないだろうな~…)


近くで見るその男の人は、20代前半といったところだろうか。端正な顔立ちをしている

……つまり、かなりイケメンだ。不思議そうな顔をしていたが、すぐに困ったように笑顔になった。


……どんな表情でも……きれいな顔だ。


「どういうことかわからないが…まあ、話は後だ。とりあえずこの森から出よう」


「あの……ありがとうございます」


「ダイアウルフ達!このまま森に帰るのであれば危害は加えない。直ちに立ち去れ!」


その人の一声で、その場から狼たちの気配がなくなった。なんだか、すごい人なんだろう。


自分で逃げながら走ってきた道のりは全然覚えていない。でも、馬に揺られているとすぐに森から抜けたようだった。


その男の人と会ったのはだいぶ森の浅い場所なんだろうと分かる。


もしかして自分ではずいぶん逃げたと思っていても、たいした距離ではなかったのかもしれない。


「あの……」


「どうした?」


……しまった、会話の続きを特に考えずに話しかけてしまった。ここはまずお礼かな?何か聞きたいけど、分からないことだらけでまずは何を質問していいかもわからないし……


わたしが一人で焦っていると、気を遣ってくれたのか男の人が話し出した。


「俺はアレクス。この近くのオークっていう村に住んでる」


「アレクスさん、ですか」

人名も地名も絶対的に日本ではない。そもそも、馬に乗って剣で助けてくれるイケメンは現実世界に存在するものなのか……?


「俺、堅苦しいの苦手だし、もっと気軽に話してくれていいよ。アレクスって呼んで」


「じ、じゃあアレクス……あの、助けてくれてありがとうござ……ありがとう。わたしは、月代結名」


我ながらすごくぎこちなくなってしまった。それに……もしかして日本式で名乗ってもここでは分からないのか?


「ツキ……シロ?」


「えっと、名前が『ゆうな』……だからそっちで呼んでください」


「そうか!ユーナか、珍しい名前だな」

(なんだかおしゃれに呼んでもらえている気がする…)


「ユーナがいた森……あの辺りは最近物騒だから、たまに見回りをしていたんだ。たまたま通りかかってよかった」


「いやぁ、気付いたら突然狼に囲まれていたときは、わたしもどうなるかと、ハハハ」


「そうか。よく、逃げられたな。」


あまり深く聞いてこないのは、彼の優しさなのかもしれない。


まあ、深く聞かれても自分でも分かっていないことだらけで答えられないんだけど。


そのまま、わたしはアレクスに身を任せて、馬に揺られているしかなかった……。



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