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王子様はゴミ屋敷の引きこもり住人  作者: 加阪あおか
第一章:私掃除婦になる!
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休日

翌日は明け方近くからしとしとと弱い雨粒が降り始めていた。フォザリアは徹夜で一階の玄関の扉を開き、自分が寝るスペースをかろうじて確保することができていた。幸い、一階は生もののゴミはないようで匂いはそれほどひどくはなかったが、かび臭いにおいが充満していた。明け方木箱を中に入れその上に横になると、玄関のドアを開けたまま仮眠をとった。


再び意識を取り戻したのはお昼になっていた。慌てて飛び起きて表にでてみるとまだ雨が降っていて朝食の入った木箱が玄関の前に置かれていた。フォザリアは入り口の扉の前で大きなあくびをしながら、寝過ごしたことを悔やんでいると、傘をさしたロンダとその後ろにバスケットを手に持ったピオレが現れた。


「すごいねフォザリアは、十日でこんなに綺麗に片付くなんて」


「あらおはようございますロンダ様、昨夜は遅くまで館に灯りがともっている様子でしたけれど、隣の館でお休みになられたのですか?」


「ああ・・・昨夜は気になる本があってつい遅くなったんだ。ピオレもうたた寝しちゃっててね。僕気が付いたら朝食の時間が過ぎてて、朝と昼が一緒になっちゃったんだ。だから母上に叱られちゃったよ」


ロンダは頭をかきながら苦笑いした。


「そうでしたか、夜更かしはよくないですよ」


フォザリアは入り口をふさいでいる朝食用の箱を館の中にいれながら言った。


「フォザリア、さっきそこでビゴーラに会ってね、フォザリアが朝寝てて起きそうになかったから、お昼も軽くでいいかなってバスケットを預かってきたんだ」


「あっすみません、明け方まで作業していたものですから」


いつも昼過ぎに隣の館にやってきて、大好きな読書をするのだというロンダとはすっかり顔なじみになっていた。気さくに話しかけてくるロンダにフォザリアも笑顔で挨拶を交わすようになっていた。


「うん、今日はね、母上がぜひ話が聞きたいって言っていたよ」

「えっ?」


フォザリアはすぐに昨日の事だとピンときた。王子の部屋に不法侵入したあげく、地面に落ちたパンを口に放りこんだのだから牢獄行きかなあ・・・などと頭をよぎった。だけど後悔はしていなかった。食べ物を粗末にする人間はたとえ王子であろうとゆるせなかったからだ。ただ少々やり過ぎた感は否めなかった。


牢獄に入れられるまではやるべき仕事はこなそうと寝ずに作業をしていたのだが、いつの間にか寝てしまっていた。雨が降っていても関係ない暖かい毛布もある。目が覚めたら朝食が用意されている。フォザリアにとってここはまさに天国だった。


(最後にこんな経験ができたんだからもういいかな)


そんな風に思っていると意外な言葉が返ってきた。


「母上に、昨日のルカルナ叔父様とフォザリアの事を話してあげたらすっごく興奮しちゃって、是非再現して見せてほしいって言うんだよ」


「えっ」


フォザリアは慌てて首を横に振った。


「だよね、だから僕が無理だよって言っといてあげたよ。叔父様はいつもはロープをたらしたままにしてるのに、さっきみたらロープを上にあげてたからさ、よほどはいられたくないんだね」


「はあ・・・やっぱりまずいことをしちゃったですよね」

「そうだね・・・ビゴーラも感心してたよ。凄いってね」


フォザリアは力なくよろよろと後ろのベッド替わりの箱の上に腰かけて首をさげてもう一度大きなため息をついた。


「はあ・・・せっかくいい仕事にありつけたのにな…なんであんなことしちゃったんだろ」


そう小さく呟いたフォザリアの言葉が聞こえていないかのようにロンダもフォザリが腰かけている箱の隣に腰かけて、ぎっしり積みあがっているゴミの山を見上げながら言った。


「ねえフォザリア、今日は一日雨だしさっ、ゴミの整理をしても焼却炉使えないから作業できないでしょ。だからさ、昼食を食べ終わったら僕の館に来てくれないかな。あそこならゴミを焼却炉に持っていく以外で境界線を出たことにはならないでしょ」


「えっ?あの・・・私牢屋に入れられるんじゃ・・・」

「どうして?」


ロンダは不思議そうに首を傾げて聞き返した。


「だって・・・私王子様の部屋に無断で侵入してしまったし・・・そのパンを口に・・・」


そこまでいって口ごもってしまった。


「ああ、そのこと・・・すごかったね。僕ね昨日はたまたま本を読んでいて、容器が割れる音がしたから窓の外をのぞきに行ったんだ。また叔父様の嫌いなものがあったのかなあ・・・って、ほら僕の部屋の窓って、伯父様の部屋の窓の真正面だからさ、部屋の中まで良く見えるんだ。僕こう見えても視力すごくいいんだ」


「あっあの・・・ではロンダ様は昨日のことを・・・」


「うん、バッチリ見ていたんだ。すごいビックリしちゃったよ。窓をけって中に入っていくんだもの。かっこよかったあ~、僕にはあの高さまでよじ登ってあんなことできないもん。尊敬しちゃうよ」


「あっあれはつい腹が立ってしまって、してはいけないことをしてしまったんじゃないかって反省しているんですよ。ルカルナ様もさぞお怒りになっていらっしゃるのではないかと・・・サルデーニャ様の耳には既に入っていらっしゃるのでしょうし、私は死罪でしょうか・・・」


シュンとなって反省の言葉を言ったフォザリアにロンダが言った。


「死罪って、どうしてそうなるの?母上にはみたままを話したけど喜んでいたみたいだったよ。叔父様はどう思っているか知らないけど今朝になっても何も文句を言ってきていないみたいだよ。叔父様が何か文句がある時は、夜中に叔父様の元の部屋の扉の前に紙が挟んであるんだ」


「え?」


想像していなかった答えが返ってきてフォザリアは驚いた。


「あんなことしちゃったのに、私なんのお咎めもないのですか?」


「だってあそこにいるのは一応たて前では管理人だもん。ルカルナ叔父様は病気療養中で王宮にはいないことになっているしね。ただの管理人の口にパンを入れただけで、捕まることはないと思うよ」


「そっそうなんですか?じゃあ私はまだこの生活を続けていいのですか?」

「もちろんだよ」


その言葉を聞いたフォザリアはご機嫌で朝食と昼食を食べ始めた。


「ねえ、だからさっ、息抜きに僕の部屋に来てよ。僕誘いに来たんだ」


「無理ですよ、今日はそれでなくても寝坊をしてしまいましたし」


「外回りは終わったでしょ。母上に言ったら、一日ぐらい休むように言ってあげてって頼まれたんだ。城に勤めている使用人でも一週間に一度はお休みがあるんだよ。ビゴーラみたいに料理作りが好きでほとんど休まない使用人もいるけどね」


「お休み・・・」


フォザリアにとっては始めての言葉だった。だが華緒の記憶では休日という感覚は懐かしい感覚だった。日本で生活した人生では日曜日は休むというのが当たり前にあったが、この世界にはそういう習慣はないようだった。住んでいた場所でも色んな店があるが、みんな定休日はまちまちだった気がする。休みたい日に休むというようだった。


「そうですね・・・仕事には休養日も必要ですよね」


そう言いながら、休日に朝寝坊するという懐かしい感覚を思い出したフォザリアは自然と口元がほころぶのを感じた。


「じゃあさっ遊びにおいでよ」


ロンダは嬉しそうに誘ったが、フォザリアは丁重にその申し出を断った。

「どうして?」


「実は、休日があったら一日中寝て過ごしてみたかったんですよ。今は食事の心配もありませんし、雨をしのげる建物の中で寝られますし、こうして立派なベッドもありますし」


そういって草を詰め込んだ継ぎはぎだらけの敷布団とビゴーラからもらったお古の毛布を撫でながら言った。


「そっか・・・じゃあ次の休日は七日後だから、次は僕の館に来てよね。頼みたいことがあるんだ」

「あらなんでしょうか?」

「内緒、気になるんだったら、来てよね」


ロンダは得意げにフォザリアに言うと、立ち上がりピオレを伴って出て行った。


「じゃあ、ゆっくり休んでね」

「ありがとうございます。ロンダ様」


フォザリアも立ち上がると、雨の中、隣の館に入って行くロンダとピオレを見送った。そして公言通り、朝食と昼食を平らげると三度寝をすることにした。本当に寝るつもりはなかったのだが、体は疲れが貯まっていたのか、気が付くと夜になっていた。そして、きちんと扉の前には夕食の箱が置かれていた。


「私・・・なんて幸せなんだろ。自分で用意しなくてもおいしい食事が食べられるなんて、前世でも何十年も経験してこなかった気がするな・・・なんて贅沢なんだろう」


フォザリアは両手を上にぐぐっと押しあげると大きく伸びをし肩をまわした。疲れが完全に取れて体が軽くなった気がした。


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