仮面舞踏会③
フォザリアがルカルナ奪還に向かおうとしたその時、バルコニーから大広間に入る扉付近で誰かと危うくぶつかりそうになってしまった。
「あのすみません」
「いえいえお嬢さん、お怪我はありませんか?」
フォザリアがぶつかった相手にお詫びをしようと顔を上げるとそこに立っていたのは、金髪で背の高いどこか気品が漂っている感じのよさそうな男性だった。
フォザリアが驚いていると後ろでサルデーニャの叫び声に近い声が響いた。
「ジル!どうしてあなたがこの国にいるのよ!」
「よ~久しぶりだなサルデーニャ」
明らかに動揺している様子のサルデーニャにジルと呼ばれた男性が近づくと、立ち上がっているサルデーニャの腰を掴んで自分の所に引き寄せながらサルデーニャに囁いた。
「こいつは俺だけの特権だったのにな、ちょっと目を離したすきにこんなことになっていたとは、今夜はお仕置きが必要だな」
ジースはサルデーニャの胸元のあざにキスをしながら言った。
「まあ、あなたにそんな権利はないはずよ」
急いでその場を離れようとするサルデーニャの腕を掴んで自分の元に再びひきつけた。
「はっ離しなしなさい!ここはあなたの国ではないのですよ無礼者」
離れようともがくサルデーニャをあっさり離すと、フォザリアとロンダを交互に視線を移してまず最初にぶつかったフォザリアに話しかけた。
「そちらのお嬢さんは初めてですね」
そう言ってフォザリアに近づき、フォザリアの手を取ると手の甲にキスをした。
「あっあの、すみませんどちら様でしょうか?」
「おやこれは失礼、ジル・ルーセンデリン、ロンダの実の父親ですよ可愛いお嬢さん」
そういうとウインクしてみせた。そしてロンダに視線を向けた。驚きで言葉をなくしているフォザリアに対して、ロンダは笑顔でその男性に駆け寄って行った。
「元気だったかロンダ、しばらく見ない間にずいぶん背が高くなったな」
「父上!どうしてここにいるのですか?」
「な~にお前と愛する妻に会いにきたんだよ。お前が国を出た時は俺が留守の時だったからな、来るのに時間がかかってな、だけどこれからはずっと一緒にいれれるぞ」
「本当!僕ジル父様大好き!」
「おや嬉しいことを言ってくれるな」
ジルがロンダの頭を撫でながらサルデーニャに視線を向けた。
「実は今着いたばかりなんだが、いろいろ話したいことがあるから、どこかで話さないかサルデーニャ」
「あら、わたくしは話すことは何もなくてよ、もう終わったことですし、それにこの子の本当の父親はあなたでも、わたくしが婚姻していたのはあなたのお父様なのだし、あの方がわたくしを離縁したのですから、もうあなたとも縁が切れておりますわ。ジル王子」
「おっとようやくあ会えた愛しい人をそう簡単に放すほど俺は人間ができていないんだ。それに、今日で王子は辞める予定なんでね。これからはこの国に移住しようかと考えているんだよ。ここには可愛い息子もいるしな、五年の島暮らしで王宮に戻ってみたら、離宮はもぬけの殻、親父を問い詰めたら、不貞を働いたお前は国の事情で離縁して戻したというもんだから、ぶっ飛ばして、王子の地位を捨ててきたから、今は肩書は何もないんだけどな。さっき陛下に挨拶をしに言ったら快く滞在を許可してくださったよ」
「はあ?あなた馬鹿なんじゃないの?なんの為に五年も島に幽閉されていたのよ。あそこで五年我慢したら王子の地位に戻れるからでしょ。義理の母親に手を出して子どもまでできちゃった馬鹿王子なんだから」
「ははは、たいがいな言われようだな。だけど、最初に誘惑したのは確か母上でしたよね。元ですけど」
「あらそうだったかしら」
二人の所から離れたロンダが再びベンチに腰かけ、ちょうどピオレが持ってきたジュースを受け取り飲み始めたのでフォザリアが近づいて小声で言った。
「あのロンダ様、あの方って本当にお父様なのですか?」
「そうだよ、母上が嫁いだ国では王族は5人まで妻を持てるんだ。母上はその5番目でかなり歳が離れているんだよ。それに本当のおじい様は酒癖が悪かったらしくて、母上との婚姻式が終わって最初の夜からかなり酒を飲んでよっぱらっていたみたいで、そういう行為はしなかったんだって、だけどすぐに懐妊したからまったく疑っていなかったみたいなんだ。なんか、一番目の人がすごく嫉妬深い人なんだって」
「あら、何だか王宮のドロドロの愛憎劇ができそうですね。じゃあ、サルデーニャ様は義理の息子さんといい仲になってしまったんですね」
「うん、だけど、ジルお父様は一番目のお妃様の次男で王位継承順位は確か二番目だったかな?母上と確か同い年だよ。五年前にバレちゃったみたいで、本当の父上は王位継承権を5年間はく奪されて島に幽閉されたんだ。母上と僕の処遇も危なかったみたいなんだけど、ほら一応母上は隣国の王女でしょ、処分もできずに保留になっていたんだけど、3年前に叔父さんが引きこもって戻ることになったから、今の僕はこうして楽しく生きてるってわけ」
「そうなんですか・・・大変だったんですね」
フォザリアは目の前で息子や自分がいるのも関わらず口論しながらも体を密着させながらいちゃいちゃしているサルデーニャとジルという男性を眺めながら、まだ8歳の少年が平然と語るすごい王宮スキャンダルの話を聞きいっていた。そこになんとルカルナが入ってきた。
「姉上、いい加減観念したらどうですか?」
「あら、ようやく自力で抜け出してきたのね。遅かったじゃない!それより・・・もしかしてジルを今夜引き入れたのはあなたね」
「そうですよ。入城許可がとれなくて困っているとピオレから聞いていたものですから」
「ピオレ・・・そうだったわ。うかつだったわあなたはピオレと仲がよかったのよね。ああ~、うかつだったわ。ジル!いいことわたくしはもうルーファウスには戻りませんからね」
「ああ、その点なら大丈夫だ、さっきもいったろ、王位継承権を放棄してきたからな」
「そんなことできるわけないでしょ、あなたは王位継承権二位なのよ。許婚だって5人いるじゃない」
「君も知ってるだろ、君との真実の愛の証が公になった時点で全て婚約は解消になって俺は完全なフリーになってるしね。次期王には兄のビービスが喜んでなる予定だし、他にも兄弟がたくさんいるからな一人いなくなっても何もかわらないよ。母上もお気に入りのビービス兄上さえいたら文句ないみたいだしね。親父ももう歳だしね。せっかく手に入れた人形のようなお前が俺のお手付きになっていたことがまだショックみたいで、まっ君がタイミングよく引きこもってくれたおかげで、こうして元気なサルデーニャと息子に会うことができたばかりか、災害で財政危機だったルーファウスも復興資金が入って親父以外はみんなほくほくなんだよ」
「そうでしたか、それは何よりです。どうです五年ぶりの再会なんですから親子でゆっくりなさって今後の事を話しあってください。それと姉上、父との賭けは姉上の勝ちで終わらせますので、姉上の好きなように生きてください。この国の事は任せてください。もう引きこもったりしませんから安心してください」
ルカルナはそういうと、ジルが突然フォザリアの隣にいたロンダを軽く持ち上げると肩車し、もう片方の手でサルデーニャの腰に手をあてると言った。
「お言葉に甘えさせてもらうとしようじゃないか」
「どうぞどうぞ、ピオレ、ロンダの屋敷に案内してさしあげろ」
ピオレはその言葉で頭をさげると、外に繋がる階段を先に歩き始めた。
「ちょっと、わたくしはいくとは言っていないわよ!」
「ぼっ僕は遠慮するよ。父上おろしてよ!話なら母上と二人ですればいいじゃないか!やっぱり僕はもっとフォザリアと話しがしたいし」
ジルの上で暴れて降りようとするロンダにフォザリアが言った。
「ロンダ様、お話はまた後日にしましょう。久しぶりの親子の再会なんですもの。ごゆっくり楽しんできてくださいませ。サルデーニャ様、今日はありがとうございました」
フォザリアはサルデーニャに頭をさげながら一礼すると、嫌がっている二人に手を振って笑顔で見送った。
「いいなあ・・・家族って」
ポツリとつぶやくフォザリアにルカルナがいつの間にか隣にきて言った。
「家族ならこれから作ればいいじゃないか」
「そうですよね。私ももうすぐ17歳だもん、行き遅れではまだないはずよね。よ~し頑張るかあ!」
「あっフォザリア、僕が言いたいのは、その」
口をもごもご言っているルカルナにフォザリアは笑顔で近づくとダンスを申し込んだ。
「ルカルナ様、私もそろそろ店に帰りますので最後にダンスを一曲お願いできませんか?最後の記念に」
「あっああ、最後にはしないけどな」
ルカルナの言葉は聞き取れなかった。その二人は人がいないバルコニーで、中から漏れ聞こえる軽快な音楽に合わせてダンスを楽しんだ。フォザリアはその後、そっと王宮からロンダの屋敷に着替えと荷物を取りに戻った。ルカルナは店の前まで強引に送ってきた後、店の中に入ろうとするフォザリアを後ろから一瞬だけ抱きしめると、馬車に乗り込み去って行った。
その夜ロンダの屋敷の三階からは笑い声と叫び声が交互に遅くまで響いていた。




