親睦会と慰労会
キュナの父親が乱入してきたことで、店の陶器でできた商品は全滅となり、パッチワークや布でできた商品もかなり汚れてしまった為に店をしばらくの間休業とすることをフォザリアは決めた。
その日の午後は、台所では大量の食材を使った親睦会と慰労会を兼ねたパーティーを開催すべく準備をすることになった。新しい食材の買い出しや、店内の掃除も含めて、従業員一同は仕事を中断して夕刻から始まるパーティーの準備に取り掛かった。
フォザリアは仕事終わりに立ち寄るようにと、生地屋のカーラや招き猫の服をお願いする予定の針子たちにもパーティーへ招待することにした。もちろん、リューアの祖母と母親も招待して、荒らされた店を片づけ、真ん中に大きなテーブルを置き、様々な料理を並べた。そして、部屋のあちこちにランプを置き、部屋を明るくし、パーティーが始まった。
「今日はお集まり頂きありがとうございました。今日はハプニングがありましたが、明日から新規一転、九日後の締切りに間にあうよう皆さん力を貸してください。店はこの通り、しばらくの間営業を中止することになりましたので、この場所を縫製の場所にして、招き猫の衣装やパッチワークと動物のミニストラップの制作の場所にすることにしましたので、手伝っていただける方は明日からここに来てください。報酬は全て完成したのちの支払いになりますが、こちらで作業してくださる方には昼食のご用意はさせていただきますのでお昼の準備は必要ありません。今夜はささやかながら明日から頑張っていただくためにおいしい物をたくさん食べてください」
フォザリアは従業員の子達以外にも5人のベテランの針子たちに向かってそう言った。その場にいた二人は心よく明日から出勤することを約束してくれた。その後、乾杯の合図をして立食パーティーが開始され子どもたちやお針子さんたちも珍しい料理を夢中で食べ始めた。しばらく和やかなムードが続き、みんなが満足して帰り、フォザリアとルカルナが入り口で見送っていると、最後まで残っていたリューアの母親と祖母が顔を見合わせ、フォザリアに話しかけてきた。
「あの、フォザリアさん、いつも娘がお世話になっている上に今夜は私らまで招待してくださってありがとうございました」
頭をさげていう母親にフォザリアは笑顔で返した。
「いえ、楽しんでいただけましたか?こちらこそリューアちゃんにはお世話になってますから、今ではお店も任せられるようになって、お客様の対応や質問にもテキパキ答えてくれてすごく助かってるんですよ」
フォザリアはそういいながら、リューアに視線を落として言った。リューアは照れくさそうにしていた。
「話はいつもリューアから聞いていて、それでさっき、リューアから聞いて、とても急ぎの仕事だと聞いたんですけれど、実は私が今している仕事先の店長が病気になってしまっていつ再開するか分からないので新しい仕事を探しているところだったんです。裁縫なら得意なので、ご迷惑でなかったら、雇っていただけませんか?」
「え~っと確かお名前はマルザさんでしたよね」
「はい」
「リューアちゃんからお噂は聞いてますよ。リューアちゃんの着ている服は全てお母さんの手作りだって、こちらこそお手伝いしていただけるならお願いしたいところですけれど、今回の依頼されている分に関しての作業代金は支払えるのですけれど、それ以降の分は支払えるかわかりませんから、お針子さんたちにもひとまず今回だけという契約にさせて頂いているんです。私の店の仕事は高額なお給金はだせませんから、マルザさんほどの腕がおありなら他の店の仕事をお探しになる方がお給料は稼げると思うんです。もちろんリューアちゃんの分のお給料も順次支払っていくつもりですけれど、とても大人の方を雇えるほどはまだ稼げる見込みが立っていないんです」
フォザリアがそうと、マルザが首を横に振った。
「では今回の依頼分だけでもお手伝いさせてくださいませんか?お給料はいただきませんわ。母から余分にこの店の売買代金を支払って下さったと聞いています。おかげで借金もなくなりましたし、10日だけでもお手伝いさせていただきたいんです。今後食事ももう結構ですので、今までのお礼をさせていただきたいんです」
マルザの方も一歩も引かない様子だった。フォザリアはしばらく考えてから言った。
「正直、経験者がは一人でも多い方が助かります。ではとりあえず・・・今回の依頼されている商品の期日までという契約でもいいでしょうか?その後、店で売る商品作りも必要になるんですけれど、店を再開できる商品作りが間に合うかわかりませんし、家の子達を養っていけるほどの商売ができるかまだ分からないので、お店が軌道に乗ってきましたらまた依頼させていただくということでよろしいでしょうか?食事はビゴーラさんがいる間はお裾分けはさせていただきますから、作り過ぎてあまって捨ててしまうのももったいないですから」
「ありがとうございます。明日からよろしくお願いいたします」
「こちらこそ、あっ、ローザンさんもよかったらお昼食べに来ませんか?大勢で食べた方が楽しいですから」
「おやおやありがとうございます。じゃあ、私も座ってでしたらまだまだ裁縫とか裁断ができますからお手伝いをさせていただきますよ。昔はここで貴族御用達の礼服の仕立て屋を旦那としていたんですよ。話を聞いていたら、招き猫に着せる服も縫うってことですからお手伝いできると思いますよ」
「あら、本当ですか?助かります。今回のお針子さんたちはドレスが専門らしくて、招き猫は男性バージョンも作りたいと思っていたので、どうしようかと困っていたんですよ。こちらのほうこそお体の無理のない範囲で結構なのでお手伝いお願いいたします」
「あら嬉しいねえ、あんたに食事を分けてもらってから体力がついてきたみたいで最近では調子がいいんですよ。この年寄りになってもできることがあるなんて、今日はごちそう様でした。明日から三人で来ますよ」
「お待ちしてます。おやすみなさい」
フォザリアはそういうと三人を見送った。従業員の子達もほとんど自分の部屋がある寮に戻って行った。ビゴーラとリアムスが食器の片づけを初めていたのでフォザリアも手伝うことにした。どうやらルカルナは自分の部屋で招き猫のデザインを考えるとかで、早々に二階へあがったとのことだった。
三人で片付けをしていると、店の戸を叩く音が聞こえた。フォザリアは誰か忘れ物でもしたのかと店の戸を開けると、そこにはキュナが立っていた。
「あらキュナどうしたの?忘れ物でもしたの?」
フォザリアがたずねると、キュナは懐から大切そうに小さな巾着袋を取り出し、フォザリアに差し出した。
「あの、今日はご迷惑をかけてしまってすみませんでした」
「どうしたの?今日のことはあなたも被害者でしょ」
「だけど、私がここにいなければ店の中がぐちゃぐちゃになることもなかったのに・・・私がもっているのは今まで頂いたお給金だけだから、全然たりないけど、受け取ってください。たりないものは一生かかっても働いて返しますから」
そう言って、キュナはその場に正座すると頭を床について土下座しながら言った。
「キュナ、そんなことしなくていいのよ。今もいったけど、今日のことはあなたは被害者、あなたに弁償してもらおうなんて思ってないわ」
フォザリアはキュナを立たせようとしゃがみ込み優しく話したが、キュナは土下座を止めようとせず言った。
「でも・・・私が抵抗せずにあいつのいう通りに家に戻っていれば、大切な店の商品も壊れることはなかったんです。私のせいなんです。私の・・・」
キュナの渡してきたお給料が入った袋の中は今まで渡したお給金のほぼ全額入っているようだった。他の子達はもらったお給料は好きな物を買ったりしてすぐになくなっていたようだったが、キュナは休みでも買い物に行く様子もなく、商品制作であまったたさらなる端切れを集めて自分が使う小物類を作っている様子だった。それを知っているフォザリアはその差し出されたお金をキュナの元に押し戻した。
「これは受け取れないわ、今日の事はあなたが悪いわけじゃないでしょ。暴れたあの人は捕まったんだから、キュナはあの人と血がつながっているってだけじゃない。あなたはあの人の分身でもないし、あの人の奴隷でもないんだから、今日の事はあなたは関係ないわ。あなたが気に病む必要もないし、あなたを首にする気もないわ。だけど、こんな怖い思いをした店で働きたくないっていうのなら話は別だけど」
フォザリアがそういうと、キュナは大粒の涙を浮かべて大きく首を横に振った。
「私、ここを辞めたくない」
「そう、よかったわ。私もまだまだ未熟だし、この店もどうなるかわからないけど、これからも私を助けてね」
フォザリアはそっとキュナを抱きしめた。キュナは小さく頷いた。フォザリアはキュナを立たせると言った。
「ほらみんなも心配して戻ってきたみたいじゃない。本当に今日の事は気にしないで、またどんどん新しいもっといいものを作りましょう。大丈夫よ、明日から作る商品の代金は前金で既に頂いてるから、みんなに渡す給金も支払えるし、当分の材料費や食費も大丈夫よ。頑張って仕上げたら貴族の方たちからも注文が入るかも知れないでしょ。それに、あなたのお父さんは多分当分出てこれないわ。きっちり、お店を壊した賠償金を支払う代わりに牢屋に入ってもらうことになったから、安心していいわよ。私お役人に知り合いがいるの、その人にお父さんが牢屋を出る時はあなたに報告の知らせをくれるように頼んであるから」
「ほっ本当ですか?」
「ええ、だから安心して仕事に励んでちょうだいね。あなたのデザインも裁縫技術も最高だから頼りにしてるのよ」
ウインクしてみせるフォザリアにキュナもつられてようやく笑顔になった。フォザリアは建物の影に隠れて店の入り口にいるフォザリアとキュナの様子をうかがっている三人に向かって手招きした。駆け寄ってきた四人とキュナの五人をまとめてみんなを抱きしめた。
「みんなありがとう。みんなが路頭に迷わないように私頑張っていい商品を開発して、売りまくるから、みんなも手伝ってね」
「はい!」
五人は笑顔で返事をした。そして仲良く寮へ戻っていく五人を手を振って見送った。その後、店の中に入ろうとしたその時、ビゴーラが近づいてきてフォザリアを抱きしめた。温かい懐かしい香りがした。それはこの世界では味わえなかった母の匂いだった。
「あんたはなんて子だろうね、あんたを見てるととても16歳には見えないね。よく頑張ってるよ、子どもたちを養うなんて義理はないのにさ」
「ビゴーラさんだってそうでしょ。あなたの仕事はルカルナ様の食事を作ることでしょ。この店の人気商品を作ることでも私たちの食事を作ることでもないのに」
「おや、あたしゃ料理を作ることが好きなんだよ。それにルカルナ様の命令だからね、高級食材を使うより、庶民の料理でいいから、予算内でみんなが食べられる料理を作ってくれってね」
「ルカルナ様が・・・でも・・・そろそろ自立しなきゃね、私も時間を見つけて料理をするようにするわ。ビゴーラさんのようなおいしい料理はつくれないだろうけど、頼ることをやめなきゃ、こんな生活がいつまでも続いちゃいけないものね」
「フォザリアあんた・・・」
ビゴーラは何かいいたそうだったが何も言わなかった。その代わりにギュッとフォザリアを抱きしめた。
「ビゴーラさんはお母さんの匂いがするわ。いつもありがとう」
「なっ何を言ってるんだかこの子は、だけど、あんたが私の娘だったらいいのにね」
「ふふっ、じゃあ私ビゴーラさんとリアムスさんの娘になっちゃおうかな」
「ああ、そうしな!」
そう言って二人は笑いながら店の中に入って行った。




