運動の会①
いよいよ運動の会の当日がやってきた。
心配されていた天気も雲がどこかに移動したのかまれにみる晴天だった。
「どうしよう叔父様やっぱり降りてこないよ」
運動の会の準備は全て終了していて、既にほとんどの参加者が今日のメイン会場である広場に集合していて、開催を待っている状態だった。だが約束していた時間になってもルカルナは降りてこなかったのだ。館の閉ざされた窓を見上げながらロンダがいうとフォザリアはロンダの耳に何かを囁いた。
「わかった」
そういうとロンダは使用人たちが既に集まり始めて準備をしている広場に走って行き、大きな手作りの掲示板に貼られていた進行表を持って数人を引き連れて戻ってきた。
「持ってきたよ」
ロンダが戻ってくるとフォザリアはその進行表を受け取ると、器用に半分におり何かを折り始めた。そして折り終わると、その紙を手に持つと館の反対側に走りだした。フォザリアはちょうど館の真後ろに当たる場所につくとそこから館を見上げた。
「やっぱり、ここの窓は空いていたわ」
この窓がある目の前は背の高い大きな木が何本か生えていて、いい風が吹き抜けていた。
フォザリアは窓が開いているのを確認したかと思うと、突然手に持っていた大きく何かの形に折られた紙の端を口に加えると木に登り始めた。二階の窓の高さまで登ると、枝の分かれ目に足をかけると体制を整え右手を離すと折った紙を右手で持つと、三階の開いている窓に向かってそれを飛ばした。
そうフォザリアが飛ばしたのは紙飛行機だった。おそらくこの世界には存在しない飛行機の形に折った折り紙だ。前世では良く孫を相手にいろんな紙飛行機を折っていたのを思い出したのだ。この世界の紙は割とごついので、頑丈な紙飛行機が折れた。
「わあ~、ねえねえ、何今の、紙が鳥みたいに飛んだよ。ねえ、フォザリア何、今のどうやったの?」
ロンダが木の下に来ていて興奮したように叫んだ。
「また機会があったらお教えしてあげますよ」
フォザリアはそういうとスルスルと下におりて行った。そして上に向かって叫んだ。
「ルカルナ様~。早く降りてきてください。今日が約束の日ですよ。分かってますよね。今進行表を投げ入れましたから、それがないと運動の会が開けないですから、それを持って早く降りてきてください。ルカルナ様が参加するのも決まっているんですよ。王子であるあなたが約束を放棄するのですかー!あなたが勝つと信じてあなたのチームに志願した仲間をあなたは裏切るつもりなんですか?」
フォザリアが叫ぶと、空いた窓からルカルナが顔をだした。手には今飛ばしてばかりの紙飛行機が握られていた。ルカルナはそれを投げ返すと、突然吹いてきた風によって紙飛行機は空中を右に旋回し、館から離れ、運動の会が開かれている方角へと飛んで行ってしまった。その様子を投げた本人も下にいたフォザリア以外全員驚いている様子だった。
「すごーい、ねえどうやって折ったらあんなに紙が空を飛ぶの?ねえ本当に教えてよね。僕も折ってみた~い」
ロンダは興味深々で興奮しながら飛んでいく進行表を眺めていた。集まっていたスタッフも同様な様子だったがスタッフたちは顔を出したルカルナに向かって叫んだ。
「ルカルナ様、早く降りてきてください!」
「我々はルカルナ様のチームの者です。ルカルナ様に参戦して頂かないと敵チームに勝てません」
そうロンダが連れてきたのはルカルナのチームに志願した者たちだった。その様子を見て固まったままのルカルナの目の前にいつの間にのぼったのか、二メートルぐらい離れた高い木の上にフォザリアが昇ってきていた。しかも、自分の立っている木の枝の上の枝に縄をくくりつけて、どうやらこっちに飛び込んでくる気満々のような体制だった。
「やめろ、落ちても知らないぞ!」
そう叫んだルカルナだったが、時既に遅く、フォザリアはロープを手に持って窓の中に飛び込んで来たのだ。ルカルナはとっさに飛び込んできたフォザリアを受けとめ、床に尻もちをついてしまった。ルカルナはフォザリアを受けとめたまま叫んだ。
「馬鹿やろー、落ちていたら死んでたんだぞ!お前は何者なんだ。さては人間じゃないだろ!」
「落ちなかったのだからいいではありませんか。何を寝言言ってるんですか?さあ、時間がないんですからね。下を見たでしょ」
フォザリアは落ち着いて立ち上がると、驚きと怒りでまだ体制を整えていないルカルナを見下ろしながら言った。
「どうせいやいや僕のチームに入ったんだろう。僕がいなくたって全然平気だろ」
そう言いながらルカルナがよろよろと立ち上がった。
〝パァーン‶
ルカルナが言った瞬間、フォザリアの手の平がルカルナの頬をはたいた。
「ごちゃごちゃうるさいのよ。あなたがいいって頼ってきた人達から逃げてんじゃないわよ。あなたそれでも男なの!」
突然の事であっけに取られて茫然としているルカルナだったが、更に、窓にロンダを背負ったピオレが同じように飛び込んできた。
「フォザリア道具持ってきたよ。僕こんなことをしたの初めてだよ。ドキドキしちゃった」
興奮したようにピオレの背中からロンダが言った。ロンダの背中には何か布を背負っていた。
それを見たフォザリアはロンダに近づくと、おんぶ紐で固定していたピオレの背中からロンダをおろした。床におりたロンダが背中の荷物をおろすと言った。
「叔父様は知らないと思うけど、今日の運動の会のチーム分け、みんなの希望制にしたんだよ。そしたら、誰が一番人気があったと思う?」
そう言ったが何も返事をしなかった。ロンダは気にせず話を続けた。
「一番はね叔父様だったんだよ。僕なんか13人だけだったんだよ。でもそれじゃあ競走にならないから、大半の人はしぶしぶ僕のチームに入り直してくれたんだ。叔父様人気者なんだよ。叔父様が参加してくれなきゃ盛り上がらないじゃないか!」
「しかし、僕には・・・あざが」
「あのね、この間フォザリアが叔父様のあざを見に来たでしょ。あの後ねフォザリアから僕にも聞かれたから僕、自分のや母上やおじい様にも聞いてきたんだ。そしたらみんなあったよ」
「何があったっていうんだ!」
「叔父様のそれと同じあざだよ」
「なんだと!そんな馬鹿な」
ロンダの言葉に驚いているルカルナに返答したのはピオレだった。
「本当の事でございますよ。ルカルナ様はご存知かと思っておりましたが誰も話してはいなかったのですね。そのあざはトルマーバルト王国の王家の証なのですよ」
「そうだよ、そのあざの模様は鷲に見えたってフォザリアから聞いてピンときたんだ。母上の胸にも鷲みたいなあざがあるんだよ。母上は胸首元まで布地があるドレスしか着ないからほとんどの人間はしらないって言ってたけど、ちなみにおじい様は背中にあったよ。叔父様がうらやましいよ。だって、みんなに見てもらえるじゃないか、僕なんかね、僕なんかどこにあったと思う?お尻だよお尻、さすがの僕でもお尻はみんなに見せられないでしょ。王家の証だって自慢できないんだから、叔父様はいいなあ」
その言葉に一番驚いたのはルカルナだった。
「王家の証・・・この醜いあざが・・・」
放心状態のルカルナにフォザリアはロンダが背負っていた袋を床に置くと、ほどいて中から布や紐が出てきた。その間にピオレが放心状態のルカルナをその部屋にあった椅子に座らすと、手際よく大きな布をルカルナの首に巻き付けると、ロンダの持ってきた布の中に入っていた縄を取り出すと、部屋に置かれている机を窓辺に移動させ、テーブルの足に縄をくくりつけると、戸の下に合図を送り、縄を降ろした。そして水の入った桶を上に引き上げた。
「なっ何をするつもりだ!」
正気になったルカルナが立ち上がろとしたが、フォザリアがルカルナを椅子に縄で縛りつけた後だった。
「何って髭をそって、髪のカットをするんですよ。その後で顔に、ほらロンダ様も描いてあるでしょ。今日は王族の皆様は皆頬にペイントしてあるんでけど、それを私が描きますので、その後着替えて準備万端ですよ」
そう言って再び下に縄を降ろすと、動きやすい服の入った布を引き上げて机の上に置いた。
「これがルカルナ様の衣装です。ルカルナ様のチームカラーは星ですから黄色のこの布を額に巻いて
くださいね。誰がどのチームなのか分かりやすくするためですから」
「僕も鷲がよかったんだけど、同じものは駄目だっていうから僕は鷹にしたんだ」
「ご心配なく絵は私得意ですから」
「そうだよ、この鷹の絵もフォザリアが描いてくれたんだよ。格好いいでしょ」
そうして自分の右頬に描いてある鷹の絵を見せて言った。それをみたルカルナが大人しくなった。
「ロンダ様の髪はピオレ様が切ってるってお聞きしていたのでピオレ様にお願いすることにしたんです。人前にでるんですからきちんとした方がいいでしょ」
返事はなかったが暴れることはなかった。ピオレはルカルナに一礼すると手際よく伸び放題になっていた髪を懐にしまっていたハサミと櫛でカットし始めた。そして最後にひげをそると、見違えるような仕上がりになった。
「さすがピオレ様ですね、髪切り屋さんができそうですね」
「おや、この仕事を首になりましたら考えます」
そう言って一礼すると、桶の水を下に捨てると空になった桶に切って床に散らばった髪をかき集めると、ルカルナの首に巻いていた布を取りのぞき、その布事桶を包み、縄に結ぶと先に下に降ろした。それと引き換えに、別の白い布が下から登ってきた。
ピオレが受け取ると、テーブルの上にそれを乗せると、ルカルナの顔に絵を描き始めたフォザリアを興味深げにみていたロンダに言った。
「ロンダ様、我々も着替えをいたしませんと」
「え~僕見ていたい」
「いけません。リーダーが遅れては示しがつきませんよ」
「仕方ないな・・・じゃあ叔父様後でね」
ロンダはあきらめて、ピオレの背中に乗ると、ピオレは器用にロンダと自分を縄で縛るとロンダが落ちないように慎重に縄を伝って下におりて行ってしまった。
それを確認してからルカルナがつぶやいた。
「お前、頬の絵はお前のアイデアか?」
「はい、使用人たちも自分の好きな所にチームのマークを自分で描いているんですよ。ちなみにルカルナ様のチームは星でチームカラー黄色、サルデーニャ様のチームはハートでチームカラーは赤、ロンダ様のチームはクローバーなのでチームカラーは緑ですよ。まだ私は見ていませんがサルデーニャ様の頬にはバラの花が描かれているらしいですよ。この国の国花だそうですね。陛下と王妃様はお揃いに飼われている猫の絵を描かれているようですよ。ちなみに私はサルデーニャ様のチームですから、ルカルナ様とは敵になりますね」
「そうか・・・僕は走りなら負けないからな」
「あら受けて立ちますよ。最終レースはリレーですから、確か私とルカルナ様、それにピオレ様が最終走者ですから勝負ですね」
「ああ・・・楽しみだな」
ルカルナがそういうと微かにほほ笑みを浮かべたのをフォザリアは見逃さなかった。




