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相愛煉獄  作者: 虹野 遵
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収監

 雨が降ってきた。

 石レンガの外壁が濡れ、白熱灯の無機質な明かりを滑らかに反射している。足元はぬかるんで、擦り切れた靴とも相乗して気を抜けば天地がひっくり返りそうだ。それなのに前を歩く肩幅の広いデカブツは早足で歩く。その手に持つ鎖が、背後のフラフラと歩く華奢な罪人の両腕、両足、腰、首……に繋がっているのを知らないとでも言わんばかりだ。更にそのまた後ろには複数人が、歩調を揃えて同速で歩いている。繋がれた罪人が足を留めかける度、その背後からはチャキという得体の知れない金属音が一斉に鳴った。

 



 罪人は牢で目を覚ました。未だ拘束具は全て取り付けられていて、手枷には36の数字が刻印されている。鎖を目で追うと、牢の外へと繫がっているようだった。そのまま視線を上げその末を追っていく。すると、格子の向こうから声がした。廊下に響いたその声は、鉄と石のみから成り立っている世界には、実に不似合いな甲高い少女の声だ。男は鎖の音と共に反射的に顔を確認した。

 「目を覚ましたか、36番。調子はどうだ? フフ……」少女は歪んだ笑みを浮かべ、腕と足を組み、座り心地の悪そうなパイプ椅子に腰掛けている。黒いゆららかな髪と、全身黒ずくめの服装に、頭には片目にかかる程の大きさの帽子を乗せている。

 男は深みのあるわずかな間を空けこう答える。

 「まぁまぁだぜ嬢ちゃん。ところで親御さんはどこにお行きで? 」

 「親などもう……」少女は眉をひそめ広角を下げた、かのように見えたが、途端「ハッ」と口に出すと表情はコロリと変わり、帽子を整え始めた。

 「看守から情報を引き出せると思うな。我々は常に貴様を見ているのだ。余りにしつこい詮索は懲罰の対象だ。」少女は震える声で淡々と言った。男は俯いていたが、それを聞くと吹き出した。

 「懲罰? おぉ怖いねぇ! 嬢ちゃん一人で俺を見張ろうってのか。大人しく看守さんを呼んできたほうが身のためだぜ! 」男は罪人らしく鎖を鳴らして笑う。

 「看守はこの私だ!! 」まだ幼い怒声が、再び廊下に響く。男は静止して少女を見上げる。少女の帽子には確かに銀の勲章が輝いていた。

 「な、何だよそれ、早く大人の人に返して来いよ!」虚勢めいた声で男が吠える。

 「貴様……この私を侮辱するのか?」少女は小刻みに震え腰のベルトからなにか取り出そうとしている。

 「ああするぜ! さっさと大人を呼べって……」少女が何かの鍵を取り出した途端、男は吠えるのを止めた。だが、依然として獣のような目つきであった。

少女は澄ました顔で格子に近付き、気付くとその内側に立っていた。そして男を見下し、言い放つ。

 「今何を考えているか知らないが、私はお前を逃がすつもりなんて毛頭無い。私の監視対象はお前しかいない。つまり逃げる隙など無い。」少女はそう言いながら拘束具に触れた。またもや、気付くと拘束具は跡形なく消えた。

 「おいおい……嘘だろ……! 」男は少女を睨んでいる。

 (これは間違いなく魔法の類だ。こりゃとんでもねぇとこにブチ込まれたな。)そんな事を思っていると

 「ん! 」少女はムスッとした顔で、黒の革手袋が包む手を突き出した。その手はどう見ても握れと言っているようだ。

 「は……? 」到底理解の及ばない少女の行動にたじろいだ男は、無意識のうちに一歩後ろへ距離をとった。その瞬間、少女は飛び上がり男の額を片手で押さえ、そのまま地面へ打ち付けた!

 「ガッハッ……!」男は気を失いそのまま倒れ込んだ。




 罪人は再び牢で、目を覚ました。

 「おーい起きろー。36ー。」少女は男の頬を人差し指でつついている。

 男の目に光が戻った。すると独房の壁際にいた少女の近くの壁を叩きつけもたれ掛かる。が、しばらくして男は事の重大さに気づく。

 (やっべぇ反射的に追い詰めちまった……! こいつの腕っぷしと喧嘩強さには敵わねぇし、まずい……殺される!! )男は少女の顔を恐る恐る確認した。少女は少し俯いている。

 (怒ってるよこれ。間違いなく死んだよ俺! )少女が顔を上げ始め男の顔を見上げた。少女の、色白の頬は血の色が通い火照っていて、口角が不自然に上がっているが唇をかんで堪えているようだ。

 (それどういう顔?! 表情が読めん!!)

 男はゆっくりと腕を戻し直立する。

 「ご、ごめん……。」力なく男が謝罪する。少女は黙ったまま、顔を両手で抑えうずくまった。

 (何よこれ何よこれ! こんな……! 看守失格よぉぉぉ……。)

 「お、おい……本当悪かったって……。」暫時、沈黙が独房ごと二人を包んだ。

 フッと、少女の息が聞こえた。

 「諦めたようだな。残念だが私に体術で勝つのは不可能だ。特にお前のその貧相な肉体ではな! 」とやたら早口で得意そうに言った。

 「貧相って……。」

 「さ、行くぞ! 」少女が遮るように言うと、また手を差し出してきた。

 (おっと……ここで選択を誤れば今度こそ死ぬ……ここは、こっちから逃げるつもりは無い、という意思表示が必要だ。よし! )

 男は力強く、その黒い手を握り返した。手袋の中には細くしなやかな指の感覚がある。

 「キャッ! 」少女はまた顔を赤らめる。困っているような表情にも近い。

 「キャ……? 」

 「違う! 何でもない! さっさと行くぞノロマ! 」

 (びっくりしたなぁーもう! あぁーもう!)看守は罪人の手を引き、二人は牢から出た。その表情は凛としている。その隠された表情を罪人、いや男が見逃すハズがなかった。

 (これは使える……! )男の口角が引き上がった。


 

構想自体は、中学の時に考えてたんですが、全くそのまま、と言うわけでもないので、まぁその、個人的な趣味とか、その、あの


黒髪ロングっていいよね。

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