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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
95/109

亡霊達

 凛界へ青い欠片が降る。

 俺はそれらを体に引き入れ青い冷気が吹き抜けると降霊術師こうれいじゅつしの要領で背中の虚空から邪神を口寄せした。

 ユダは「最高の呪縛を頼む」と杖を使いゼウスへ牽制。

 邪神は「呪縛は施したが、保って十秒か…」と消失。

 黒い紋様がゼウスの体に刻まれ、エネルギーをトライデントへ送り、ゼウスを貫いた。

 体内に衝撃波が拡散、ゼウスが宙に倒れる。

 息切れのユダが「どうだ、収まったか?」と伺い「いや。叔父の能力は未知数だし、離れた方がいい」と、仲間の方へ戻るとゼウスの容体を視察する天使達。

 片や「よくお戻りに」とエルヴィ。

 膝を付いて「ご無事で」と震えていた。

 心細い思いをさせてしまった。


「私はこの日をどれだけ願ったか」


「そうか」


 復興の道が大変だったんだと、そう感じる。


「お疲れでしょう」


「ふふん、自分を表現すると公表した以上。疲れてないよ。エルヴィ」


 辞任の事やオルトロスから戦争の準備と聞いてるが、みながいて粛清を止められた。

 凛界の軍事力に耐え抜いたみなに少しでも安らぎを優先したい。


「みんなをレリアスへ」


 青いエネルギーが宙を奔り、送ると言うはずが「相棒」との声にみなが包まれる暗澹な空気。

 立ち上がるゼウスに「ま…そりゃ宙に倒れるってのがおかしいわな」とユダ。

 そんな準備していた転移が消し去られ「神の叛逆が何故最上の罪か、分かるかメイミア?」と激昂の声が走った。

 ミグサとヒビキ先生はメイミアをかくまう。


「神を殺す。これは継承の儀式よ。儂を含め絶対支配くじげんに立つものは長い時を重ね、必ず老いる。子が子を産み、子孫が繁栄される様に。儂らの領域は自ら生命へ尊厳を残せる。よって凛界と同じ仕組みよ。秀逸なものが上に立ち、それら威厳は自然へ通じ作用する。叛逆とは、軽弾みな野心で受け継がれると世を絶滅させるに等しく言語道断であり、なぜ加減した?」


 歯を立てる形相は俺に向いた。


「叔父様、継承というのは一度でいいのです。そして加減をしたと思われるなら、その意志から本気で立ち向かった敬意です」


「屁理屈を…」


「ええそうです。けれど人生で学びました。実行する意欲が今を前進させる、そうやって行動し結果を受け入れてきた。支配が嫌いなのは、この部分に干渉されて、失敗の反省が出来ず不幸を呼ぶ。これは理屈や正論に萎縮せず、気力が無くならない様後天的に培った後付けです」


「では封印されていたアルタイルのふこうをどう説明するか?」


「説明というのは、弱いじぶんに絶望の日々でした。叔父様の洞察通り不幸と思っていたし、組織を担う行動で親しい人を失いもがいていました。人と比較し劣等感を抱いて、学校じゃ卑屈でいて友達付き合いなんて無理難題です。そんな魅力もない自分にミグサが友情を与えてくれました。こんな素敵な人の約束を果たさず別の世界に行っても彼は絶望しませんでした。それが彼の影響力で、行動力をもたらしてくれて、ヴァレンと再会したり、ユキ君と交わる事ができました。次第に心が豊かになって、翔と出会います。その時はがむしゃらながら、友達になりたいと精一杯頑張れました。したら心が豊かになり過ぎて悩みが発生します、今まで見れなかった視野です。同時に背きたい過去でもあって、シイナが助言するんです。気が付けば友達の窮地に駆け付けていて、守っていた。それら体験は弱い心でしか培われない宝物しあわせです」


「お前の話には偶然の主張が大きく、己の指標が定まっていない。幸福を目的とするならば視察、判断、意思決定、迅速な行動を繰り返しに渡り遂行する。偶然の幸せに紆余曲折せず、自らが掴み取る自己成長が要よ」


「ええ。俺は計画性がなく、流され易い体質です。主体性のない立場において叔父様に提唱する愚かさも知ってます」


「なら視察は持ち合わせているだろう」


「はい。自分を受け入れる中で、自己分析が出来るのです。その仕組みは保守的な尊厳に依存してると思われ、恵まれているとも捉えられる」


 俺は活動領域を高め警戒態勢を強める天使側、活気と高揚に溢れていく地獄側、騎士団の生命力に目を通して「本気が見たいと言っていたな」とエルヴィに確認する。


「ええ」


 俺は騎士団に促す。

 この状態は生命力を抽出する方角で、生命が根絶しない限り永久にエネルギーの補給が可能。

 それは生命を平等と捉え何者も補給対象と見做される。


「十分」


 みなの生命力からそう見定め「叔父様。転移の破棄を無くして下されば心ゆくまでお相手出来ます」と黒い長剣を精製。


「実行には、タイムリミットを設ける事こそ更なる向上を高める。死に近ければ近い程」


 体を鳴らすゼウス。

 こちらに向かって来る。

 長剣から雷が伝ってきて、師だった頃はいつも叱ってくる。


「そうよ」


 まるで時代を辿るかの声。

 雷霆やプラズマの残留を靡かせ、懸命に対抗する俺に「それが最上の生命力だ」とゼウス。

 天使達から至高の眼差しを浴び「お前は歩みの方角を見誤ったのだ」と溶岩と化す半身。

 俺は真っ赤な拳に腹を撃ち抜かれ、幾多の負傷を治し、ゼウスに長剣が当たり出す。


「我らの最高神が…」


「…押されてる」


 熾天使達からそう聞こえ「叔父様」と口頭した。

 一連の粛清に相関する罪を再審してくれと、みなの生命力から残りの活動が二分を切っている所に、勢いの増す戦線に焦る。


「自己犠牲は善に入らぬ」


「自分を無碍にしていない」


「違う…」


 ゼウスから金色の冷気が吹き抜ける。


「儂は全知全能よ。影響を受けるも叛くも己で決め、万物となる。再審を望むなら分かるはずだ」


 大地震の様な揺れが空気を振動させ、ゼウスが絶対支配くじげんの活動領域となり。


 ──残り一分──


 ここままでは自分の手でみなを。

 暗闇の頭に、エルヴィとぶっ倒れる日々に、エルヴィが愚れると言ったが、オルトロスは特にヤバかった。餓鬼大将と親しまれていた由縁はシャレにならん位に学校を破壊された。

 エルヴィに怒鳴り散らされていたが、エルヴィに似たんだと思う。

 そのオルトロスが教師となって、担任を受けもった生徒がメイミア。

 生きてると達成や失敗の積み重ねで、些細な思い出って結構忘れがちだけど、なんかいいな。

 ここに居る一人一人から沢山のものが生まれて、振り返ってる内に能力を弱めていった。

 もはや呆れ顔で「自己犠牲で現実が変わらぬというのがまだ分からぬか…」とゼウス。

 俺は人には向き不向きがあると口頭した。

 ゼウスの理念は確かに、手放すという選択が有効的かもしれない。

 頭を費やす労力や時間を目標に当てられるのだから。

 でもこれは短い言葉で心に響かせる弁論術。

 例え全知全能で未来を見据えていたとしても、選択と行動は自分以外の何者でもない。

 個性や環境の違う者が言われた通りに実行し成果が出るなら、とっくにアトランティスで報われて、きっとみんなと出会えていないのだ。

 それは王子としての失敗だし、それが俺の真実だった。


「叔父様の存在は唯一無二です。大衆の秩序であり、善で大勢を救う。それは悪人が裁かれる様に、善人が生きやすい世を築き上げる象徴です。一方で俺は裁く事に向いていない。裁かれる側の理念で、悪人になる理由の方に理を感じる。きっと自分の失敗と照らしているのだと思います、だから切り捨てる選択なんて毛頭ない。弱った俺を離れても迷っても離さずにみながいてくれて、ここにいるのです」


「減らず口で恥を晒すか」


「恥とは、生命の行動概念を萎縮する働きがある。生命の可能性に希望と反する俺からすれば、従順なロボットの作り方と変わらない。またロボットには柔軟や発想力がない。我々は難題と向き合い、知恵をひねり出し生命として発展を乗り越える本能があります」


 風が吹く。

 それが俯いていた体を冷まし出す様に、歯を掻き立てる形相が上がる。

 

「よかろう…この儂に万物を説きたいのであれば、全知全能。その身で喰らうがよい」


 凛界が紙の様に収縮、戻ると三つ、五つ、九つと噴火が起こり、灼熱の風が吹き荒れる。

 天使側は紛糾ふんきゅうと化しラム、ルシフェルから白い冷気が吹き抜けていく。

 ラムは「あたしはメイミアちゃんの指導者です。熱誠に全うする天使へ救済を、どうか」と、慎んで「同じく。レナをアレイオン様に派遣した指示はあなたじゃ。天使を全うする結末が極刑と、納得するとお思いか…」とルシフェル。

 束の間の遺憾は「真に気遣うべきは味方の情勢にして、儂がいつ裏切っていいと言った」と唸り声が続いた。


「メイミアが儂に刃物をたて、レナの定期申告は嘘を交えたものだった。裏切る可能性を余地した判決に、熱誠だの、天使を全うだの、領域文明を背負う御大が軽率に振る舞うか」


 沈黙。

 その中に喝采するユダ。


「いい粋だ。その上大衆の面前で王座に歯向かう器ときたら、ずば抜けて神に向いている」


「ああ」


 きっと疑問を怒りとして打つけたのだろう、片や『ビッグバン』と聞こえる。

 俺は目を瞑って視界を遮ろと叫んだ。

 ゼウス自身から蹂躙かの光が溢れ出し、凛界は、八次元で観測される最大の熱容量を発現した。

 その時「光度カンデラはお任せあれ」と王位側近デネブ。

 天に顕現する円状の棒が魔法陣を公転し、光を吸収していく。

 快適な明るさになり、目を開けていいと続いた。


「このエネルギーをどうしましょう?」


「流石だデネブ。それを贈りたい人がいるんだ」


 大事にとっておいてと伝え、息を吸う。


「これで最後だ、必ず守って見せる」

 

 ──最終段階レベル十・創生の遡り──


 尊厳到達。慈悲は無し。亡霊達の指針となりこれを革命という。

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