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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
90/109

前夜

 気が付けば部屋で頭を抑えながら。


「うっ」


「聞いてる?」


 修行の成果を見せたいとの内容は朦朧と耳に入っていた。


「二日酔いの真っ只中戦わせようとしている…」


 そう言って顔を洗った。

 思い返すとホーロラルラムから戦いを教わったそうで、生命力と共に熾天使なんだと実感する。


 ──領域文明凛界──


 ──善の権限所持──


 ──部隊名和魁玖歌──


 ──世界階級第一位──


 凛界の功績が浮かぶ。

 また第二位の指南者の元で教わったんだと、向上の意欲が湧く感覚は、流石は文明の頂点だと二日酔いが覚めてきた。


 倒して欲しいか…。


 蛇口の水を見つめ、教師が蘇る。

 その始まりから領域文明入りし、国の価値を主張した。

 それまでの小さい規模から大きい侵略を警戒しなければならない。

 今まで以上に軍事力を見直す段階に、俺の理念も古くなって来た。

 レリアスが得意を活かして発展して来た様に、やはり力を持つものは選別しなければならない。

 多くの人が身の丈以上の力を持って不幸になる歴史から火種は小さい方がよく、その根源は今でも変わらず。

 それはアトランティスのチンピラと遭遇した経験が活きていて、本能の拘束が強まればストレスが高まり、吐口が肥大化する。

 それが客観視へ繋がった。

 一見唯の短所に感じたが、普通に振る舞えている分実感し辛く、才能に通ずる認識まで時間が掛かった。

 それらは今の基盤となり、財政も才能を持つ人に任せ、その実行を俺とエルヴィが目を通す。

 民達へ還元の形は様々だが、その時にしか体験出来ないインスピレーションの働き掛けが喜ばれたりと、時代に応じて変化していく。

 恐らく短所とはその時代によりけりで、悪い所を克服する試みより、活かせる団結力が個人の自由を飛躍させて来た。

 豊かな心が育まれる様に務めていた事や、そのストレスが俺に向けられれば後継者が現れるものと、軋轢に対しては俺を『倒してみろ』と言っていた。

 それがいつかエルヴィだと望んだ。

 その本人にも断られたし最近は意識しなくなった。


「倒してくれるか?」


「もちろん!」


「森行くか?」


「うん!」


 やはり改める。

 一体誰を後継者へしたいのかを。

 国を育み、しかし国というのは多種多彩。

 教育上は各々が旅立てる準備のため、その中に国の本質は学べない。

 レリアスが組織として成り立つ様に、他の世界では仮想的に生きる居場所を創り、個人の生きやすいを追求している方針も珍しくない。

 片や理論や技術を提唱し、治療術者が病気や怪我を治す働き然り、歴然とした知恵をレリアスへ貢献し成り立っていたり、エルヴィに国王を継いでくれてから任せっきり。

 色々考えてしまったが、二日酔いに心がやられてる。

 異界の書はシイナに任せているし、実際に訪れるのはその後になる。

 国王の辞任後にあれこれ手を出すのは敬意に欠ける、困ってる時に駆け付けられる様、今出来る事を──


「ではシオン君。私が本気になれる様頑張りたまえー」


「…」


 対立の中、手をお腹の横にして胸を張っていた。


「ふふん。もうシオンに守られる立場ではなくなったのだ!」


 なるほど。

 思慮が足らなかったと反省する。

 俺は武器を起こし、メイミアが片足を引っ込めた。


「なに…それ…」


「トライデントだ」


「その…私…武器に関する成績が悪くて」


「いきなり畏縮してくれるな」


「だって知らないものと戦うとすれば、基本的に死ぬと思えって教わったもの」


「そうか。素敵な心掛けだが、今は気にしなくていいのと。国内でこれを見せたのはエルヴィとリオン、そしてシイナの三人が知っている」


「何で悪魔が?」


「俺が秘書になって欲しいと頼んだ」


「何で…私より…」


「ん?」


「何でいつも本心を隠すの?」


「いつも、というのは、おおよそ悪い影響を受けて欲しく無いから」


「未だに分からない事は沢山あるよ。でも凛界で教わる度に実感する。隠し事は私にとって嘘と同義なの」


「すまない。足手纏いになってしまう可能性を恐れていた」


「もうしない?」


「ああ。由緒正しき熾天使に隠し事はしない」


「許しましょう」


「はい。それでみんなにも公表しているがシイナの事は前々から一目置いていた。やっと報われて嬉しいんだが、まずはレリアスの文化を知りつつ身近な事を」


 説明してると目つきが強張っていく。

 思わず不機嫌にしてしまったと、言葉を思い返していたら剣が顕現している。


「惚気んな!」


 フェイント上手すぎて髪が斬られた。


「なッ⁉︎」


「そんな顔見たく無いよ!」


「失敬な!」


 飛んでくる斬撃をかわした。

 束の間に急所を狙ってくる連撃や次の手に繋げる戦術、既に幻想で創る重力グラビティを駆使し、身体能力の明らかな上昇も、体感中に声が混じる。


「…実力も隠していたんだね?」


「待て待て、メイミアの願いを叶えられるとすれば、逐一過去を話さないといけないじゃないか」


「まずは親の名前と兄弟から!」


「んな説明してくる奴うざいわ!」


「いいから!」


「ど忘れした」


「は?」


 メイミアの生命力が上昇した。

 それは尊厳の方角が定まる時、白い冷気が吹き抜ける八次元の活動領域。

 一体メイミアの尊厳は、これは?


「嘘ッだろ…」


 俺に呼応するかの膂力りょりょくが飛躍していくメイミア、その活性はエルヴィと同じ誅殺ちゅうさつに達し。

 …ちょっと、待って、そんなに激しいと酔いが…まわ…。


「⁉︎」


 メイミアの剣を飛ばしたトライデントの刃先から七色の光が噴出し宙を跳ね上げ消えていく。


「何今の。カオスだし心眼で干渉…不能」


 幾何学紋様の目でメイミアが気を取られているもの、その事象で休憩が生まれた。


「光の破棄。下手くそだと今みたいに七色の光が出る」


「光の法則って破棄できるものなの?」


 肩を揺さぶられる。


「吐きそう…」


「あごめん」


「…ふう。で。記憶が飛んだ」


「嘘でしょ? 光の法則の破棄!」


「…あ」


 最近、何でだろう、物忘れみたいな軽いものでなく、部分的にしっかり忘れる時がある。


「光の法則の…」


 またこれも忘れる。


「最終定理!」


「何言ってんの?」


「ふふふ♪」


「ふふふ?」


「ふふふ♪ ふぶぶッン‼︎」


 めちゃくちゃに揺らされた。


「フェルマーの最終定理なら知ってる」


「それだ」


「隠さないって言ったよね?」


「…」


「あと倒して欲しいの意味教えてよ!」


「…」


「シイナとデートしてた事リオンに言うよ?」


「分かった。心して聞いてくれ」


「うむ」


「レリアスが誕生して間も無くの時、シイナの事をずっと考えていたんだ」


「あっリオン!」


「ああああああああああああああああああ」


「嘘だよ」


「でね、どうすればレリアスが豊かになるか、それには秘書が必要だと思っていたんだ」


「ねえシオン。やっぱりご先祖様から説明してくれないと」


「忘れた」


「…はあ。もういい、ケチ!」


 プンプン歩いて行くメイミア。

 一体なんで気になるのか、機嫌を損ねた背が遠くなっていった。


「シオン様」


 振り向くと「メイミアの指南ですか?」とリオンが居た。


「その気だったんだが、嫌われてしまった…」


「先生らしいですね」


 そう言って「ユダ様に負けてしまいました」と暗澹な様子。

 会談で軍事力に対する指摘や自身の立場について絶望したと。

 領域文明達の付き添い人は、長の役目を引き立て、その時の自分は役に立てなかったと。


「修行を付けて頂けませんか?」


 磨いて来た剣術の誇りに対する悔しさだと思う。

 同時にその姿勢を見て思い出す。


 ──授業を通さず戦い方を教わりに来たのがリオンだった──


 そして力に支配されない逸材だと悟って頭を撫でていた。


「よく聞きなさい。強くなるには怪我するしその先は何回死に掛けたか覚えてない。もの凄い辛い上に歳と共に衰えるのが力というものだ」


「はい。シオン様にも戦いを教わった人がいましたか?」


 ぎく…。


「…いい…質問だ。ゼウスという人が会談に居たそうだが、あの人が俺の叔父で、短い期間だが俺の師だった。師は戦いと同時に領域文明の知恵を授けてくれた。結果的にレリアスの軍事力は領域文明ギリギリ入れる位の証明であればいい指標も、叔父の教えだった」


「あの人が叔父⁉︎ 確かイオ様も話されていた様な…」


「イオは俺の兄にあたる、付き添い人は妹と聞いてる」


「ディア様ですね」


「そうそう随分会っていないが、似てたろ?」


「そうなんです! 場の雰囲気に流されてしまって報告するの忘れてました」


「俺もエルヴィから聞いたよ。それで思い出した。トトやフェレットルはユダと恒例の様に怒鳴り合っていたな…」


「ユダ様は相棒と呼んでいました」


「ああ…なんて言ったらいいか、幼馴染なんだ」


「それで長い付き合いだったんですね」


「ああ、その、なんだ。軍事力に対して意識が低かった指摘は俺にあり、俺がいれば守護できると思っていたんだ」


 俺は木陰の幹に背を預け「少し昔話をしよう、アトランティスの王子だった古い記憶だ」とリオンと似た境遇を話していった。

 王位継承権の二位だった事や、民達の支持が無かった事、当時は自分の進む方角が望まれない事へ絶望していたと。


「王位継承権の二位として勉強していたのは、何処かで選んで欲しいと思っていたんだ」


 その頃にユダと会い、希望に聞こえたのは、選ばれないなら選べばいいと気付かせてくれた尊厳の原点だった。


「想像できるか分からないが、当時は負けず嫌いで、戦いにおいて絶対の勝利を掴んできた」


 それは確率の世界や、運であろうと、倫理をねじ伏せ勝利する。

 そうしていると、ルールってものが如何に抽象的で、作った本人の無機質な秩序に過ぎないって思い知る。


「会談で俺の名を出したという事は、まあ…相手にしたくない空気になったんだろう…独裁者みたいなもんだ」


「いいえ独裁者なんて誰も口にしていません」


「そうか。もっと早くにリオンの様な養う心があったらな、ユダが連れ出してくれたお陰だ」


「ユダ様のお陰…ですか? シオン様には慈愛があったのではないですか?」


「俺は元来破壊の方角を持って生まれ、ユダにより尊厳に達した。残念ながらそれすらユダに会わなければ知る事は無かった」


「逆鱗の活動領域を小耳に挟みました。シオン様は何故お怒りになられたのですか?」


「ん…誇りを汚された位に留めてくれるか?」


「さぞ大事なものだったと」


「はっは。気にしてくれるな、逆鱗なんてものは自爆みたいなものだ。それに力を引き継いでくれる嬉しさは知ってるつもりだ」


「はい」


「俺はいつだってみんなの幸せを望んでる。王位側近の浄階になってくれるか?」


「はい!」


 俺は手にトライデントを顕現した。

 トライデントとは、それは敬意の示しであると親父から引き継いだのはここだけの話。

 この日から後の尊厳となる剣豪の手助けが続いた。

 自身の役割を果たせる日々に幸せを感じながら、悲劇を迎える前夜まで。

 守護神の尊厳を失ったのは、そう、けしてシイナでも、メイミアでも、エルヴィが罪悪感を抱いていい領域じゃないんだ。

 もし、あの時出来るとすれば…。

 いや、その前にこの世界は広い。

 一例として、生命を情報と視る概念では、意識をプログラムに、仮想の場所に覚えさせるという。

 この場合、生きている時と変わらない返事や身振り、知性も成長する永遠の確立が成立している。

 この技術は一般的な死を、抽象的な事象に捉えられるのを親父は反対だった。

 俺もこの技術や輸出もしない方向で定めているが世界規模でみれば価値は高い。

 永遠の天才達が有益な提唱をしてくれて、その上成長も自動。

 国の発展に有利となり、片や未来は予測不能。

 操作側の知能を超えて、自然障害をほいほい突破する手法が必要となってくるので、情報という成長はそこが限界。

 ただ本来倫理観というのは戦略の過程に生まれる。

 論理的に実行する情報とあらば、尚更長い生命を桜花する神の基本理念に辿り着いていると思う。

 またそれは神に近付く無数の一例。

 ユダの様にアポフィスを討ち取り、まんま神の座を奪った例や、両親から受け継がれる肉体や尊厳に依存している神の座は俺に当たる。

 一時は親の力を借りている様な感覚で甚だしかったが、実際は破壊の方角から来る力だった。

 それでいて力に支配されなかったのはユダの存在が大きく、あの独創的なユダでも、神々でも、全ての死に精通は出来ない。

 この世は皮肉なもので、失敗から成功へ繋がる法則が必ず存在する。

 しかし声を大にして言えないのは、事実上の死を呼び寄せてしまう恐れがあるからして、諸刃の剣。

 即ち知恵というのは、目標達成の筋道を導き出す防衛本能であり、現実を相手にするとなれば結果という事象はカオスとなる。

 それは誰しもが生まれる選択がない起源を辿っている、絶対支配くじげんの住人達を神と崇める、我々の王座なのだから──


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