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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
88/109

革命

 夜景の中ユダが焦っていた。


 ──輪廻の権限ってユダ様が持っていますよね?──


 リオンの声が聴こえる。

 視界が水面みたいに揺れて室内に変わった。


「…よく知って…るな…」


「精霊の大図書館の権限所持者って辞書に載ってたんです。それでアポフィスっていう死の神を討ったのがユダ様と、もう一人いるんです」


「…へ〜」


「髪が青かったって!」


「…うん」


「それはそれは美しかったそうです!」


「そうなのか! でも剣士との関連性が無さそうだし、他に居ないか?」


「守護の権限って知ってます?」


「ううん」


「ポセイドンって名前だそうで、水を司るらしいんです。アポフィス戦で水の痕跡が発見されたらしいんですが、時代が違うんですよね。心当たりありません?」


「ありません」


「本当に?」


「うん」


「嘘付いてませんか?」


「付いてない」


「シオン様の出身って何処ですか?」


「教会です」


「シイル様に似てません?」


「似てないよ」


「シイル様ご存じなんですね?」


「聖書で」


「アトランティスって知ってます?」


「はい」


「アレイオンって知ってます?」


「最近物忘れが酷くて」


「お幾つですか?」


「みんなで言う二十六歳かな」


「高い所は時間の進みが早いそうです、シオン様って全然変わらない気がするんです」


「長寿の実食べてるからね!」


「僕も小さい頃から食べてますが、成長しましたよ?」


「成長の形は人それぞれなんだ」


「ですね。所でレリアスの水は無限大に創生されてますが、取引先はアトランティスですか?」


「精霊の知恵で培養してるよ」


「誰が?」


「もう止めよう。質問ばかりで悪人みたいだ」


「いいえ、フラれた要因を分析するには、やはり相手の事をよく知る所からと恋愛攻略本に載っております」


「いいか、何事も上手くいくかは運に左右される。運とは新しいものに挑戦する行いから呼応し易い。諦め方から学びなさい」


「嫌だ‼︎ 大体嘘ばっかじゃないですか! 一つ位ちゃんと答えて!」


「これから地獄に向かわないといけない、落ち着いたら応えるから」


「また未来の事なんですね、これだけ懸命なら休んだってバチ当たりませんよ」


「リオン。俺の務めも残り僅かだ。レリアスが安らぎを保てる様に、平穏の権限所持まで少し、そして必ず応えるから」


 俺はリオンに青い光を残していった。

 久しぶり、でも無いが地獄へ向かいながら整理する。

 まずユダに渡す招請と、秘書の勧誘。

 ポケットから封筒を確認して。


「何て言おう」


 思い付く限りに伝えたが、どれもご無沙汰無し。

 最初の頃は間髪入れずに襲われ、話せる様になるまで進展して低迷していた。


「よ!」


 白骨の地に降り立つ俺は赤い髪の少女へ声掛けした。

 大地が真っ赤に染まり、噛み殺されるかの印象やいい顔で告げられる。


「遊びましょう」


「今日は国の用で来た」


「何ですか?」


「秘書になろう?」


「聞き飽きました」


「頼む!」


 途端に興醒めしている赤い髪の少女、当時のシイナだった。


「ですから、咎人が娑婆しゃばに出るって事は善悪を重んじる世界にとって脅威だと断ります」


「償い終わる遍歴は希少だ」


「…」


「破壊の方角は一人でに生まれない。軋轢が呼び覚ます尊厳なんだ。卑屈にならないでくれ」


「ええ、しかし領域文明に反感を持たれるのご存知でしょ?」


「いずれ承認する平穏の権限で覆せる。あとユダに用事が」


「ユダは居ませんよ」


 俺は招請をシイナに預かって貰った。

 というのは異界の書が完成間近となり、レリアスを世界階級として進出させる平穏の権限所持の許可が下った事と、とは言っても完成したらとお話をした。


「はあ〜憂鬱なんですが、出席するの…」


「時間を奪ってすまない」


「それは構いませんが、枷付けて会談へ行くのも出席するのも、嫌だな…」


「付けなくていいよ?」


「…あのですね、領域文明舐め過ぎですよ? 起源の権限所持者だらけなんですよ? 気を引き締めて挑んだ方がいいですって」


「ああ。その洞察力で未来の政策に携わってくれたら嬉しいな〜」


「軽いですね?」


「またな!」


 用を終え宮殿に帰還。

 会談当日。

 国王の責務は今日を以て終わりを迎える。

 継承は深夜零時に、その行事とレリアスを領域文明へ推薦する大切な朝は余り眠れなかった。

 宮殿に招集したのは付き人のエルヴィ、リオン、ハイロンの三名。

 事前に説明しているのは以下の通りで、レリアスの功績を提唱する。

 投票が半数を超えたら領域文明へ進出できるが、その効果は、貿易や他国への移住のし易さ。

 最も先進国みたいなもので、生活、健康、教育的水準が高く、国際的な政治に介入し易い。正確には、政治の介入が目的でなく、発信力がある証明に繋がり、侵略の可能性が減り、結果的に人権の水準が高くなる。


「…ふう」


 エルヴィの緊張感が部屋を通った。

 リオンはのほほんとしていて、ハイロンはふらついている。

 俺は「魂のドーパミンだ。アドレナリンとエンドルフィンが促進される」と少量のエネルギーをエルヴィに施す。

 また付き添いとして出席するリオンは高圧的な耐性があり、ハイロンも必要無さそう。


「出席なされないのですか…私でいいのですか…」


「俺が居ても役に立てない。それに継承する宴でこの経験話したら楽しいじゃん」


「承認されなければ吐きながら継承する事になるんですが…」


「落ちたら改めて挑戦していこう」


「そうなのですが、権限者達にレリアスの顔が私であって失言とかしてしまったら」


「それはそれで盛り上がるな!」


「国王の名に何かあっては…」


「ま気持ちは分かるが、上にいる者達と話す経験を知って欲しいんだ。あと想像通りに領域文明入りでの失言はまずいが、いつも通りでいれば大丈夫さ」


 俺は時間まで緊張を解く事に専念した。

 会場は精霊位にある神殿。

 エルヴィに付くリオンとハイロンは支配人に案内され廊下を歩いていく。


「レリアスの王エルヴィ様。首位リオン様、王位側近ハイロン様の御到着です」


 支配人はそう断って扉を開ける。

 室内に導かれるエルヴィ、リオン、ハイロンは一通り神々が鎮座する領域を眺めていった。


「エルヴィ様。どうぞ御着席を」


 支配人に誘導される。

 十一の王座に空席が三つ、内の一つはエルヴィによって埋められると、主催の幕開けとなった。


「この度は先進を開拓し領域文明へ推薦されたレリアスの功績は、我々精霊位が受理しています。伴ってお集まりの皆々様へ、起源の会談へ一任される御紹介から託からせて頂きます」


 古代魔術及び古代兵器の権限所持。

 ルテイナの王オーディン様。

 元帥ローズル様

 大隊長ルクレーネ様。


 創造主文明。

 王妃エル様。

 侯爵こうしゃくグラガルガー様。

 伯爵はくしゃくコルネスタ様。


 事象の領域権限所持。

 トト様。

 フェレットル様。

 ホーマ様。


 遺伝子領域権限所持。

 最高責任者イブ様。

 ガレス様。


 自然学の中枢ちゅうすう

 及び生物学権限所持。

 メラク様。

 ロイス様。

 リウス様。


 光の権限所持。

 恒星領域。

 ラー様。

 リザ様。


 意識の権限所持。

 ∞Simulation。

 最高位アイ様。

 ベータ様。


 輪廻の権限所持。

 地獄の王ユダ様。

 第一階級の帝王シイナ様。


 守護の権限所持。

 アトランティスの王イオ様。

 大司教ディア様。


 善の権限所持。

 凛界の創始者ゼウス様。

 御大ルシフェル様。


「欠席は二つ。ユダ様とイオ様並びに付き添い人。以上によって進めさせて頂きます」


 会談は進行人が功績を説明していく。

 創設期から今に至る人口、健康の水準、豊かさ、軍事力の指標を幻想で見せる。

 続いて提唱されるのは治安、幸福度、精神の開放性、知性の向上率といったり。


「長寿の実といえば最高難易度であるが、殺人率がない国など存在するのか…」


「文明としては若いが成長力が高いのか」


 などの対談が飛び交う。

 またこういった意見もあった。


「軍事力は二百八位。これでは同盟として如何なものか? 侵略され助けて下さいじゃ領域文明の風上にも置けない」


「しかし侵略に対応する術は素晴らしい。平穏を象徴する実績があると感じるが、はてどうやって?」


 恒星領域のラーがエルヴィに尋ねている。

 それは構成されている軍事力の規模から算出される人員の少なさに目を配った問いであった。


「私の付き添い人に当たりますリオンは王位側近の指導を任せています。気配りが効く優しさが抑止に繋がっていると実感している次第です」


「ほう、侵略に慈愛が勝ると、その様に受け取ってよいのだろうか?」


「私はそう信じております」


 落ち着いて応えるエルヴィ。

 また「メラク。レリアスの民達からどう感じる? アイ。レリアスの滅亡確率を導いてくれないか?」とオーディン。

 メラクは「各々の長所が両立して豊かな心が育まれている」と応える。

 片や「滅亡確率が分かりません。また検出されたエラーから説明にないものを感じます」とアイ。


「詳しく聞きたい」


「国の年齢から成長率が飛躍しているため、他の国と比較が困難であり、説明された事実が立証されません。事実であれば隠されている真相が求められます」


 場が静まり出す。

 そうして「新たな開拓には攻めの姿勢が肝心だ。守りには停滞させる作用がある」とエル。


「同感。事象には進化を含め相互作用する。この場合、レリアスの民達が何らかの影響を受けて、劇的な進化を遂げたとして、事象に叛く。つまりスコアを推薦した人物の虚言か、精霊位の質が下がったとしか言いようがない」


 トトの主張に「遺伝子にはまだ見ぬ可能性が眠っているが、残念ながら夢に浸れる情熱がなくてな」とイブが続け「私は国の成長に誇りすら抱いています。虚言かどうかは証明出来ずとも、その様な言葉を口にするのが領域文明ならば、私はあなた方に思い違いをしていた様だ」とエルヴィ。


「すまないが付き添い人が泥酔している時点で、会談の意識が低いと伺える」


「同意見ですが、今になってハイロンの有志を讃えます。付き添い人として素晴らしいと伝えますとも…!」


「わりぃ。寝てた」


 トトとイブへ啖呵を切る所にユダが現れた。

 瞬間にトトとイブのエネルギーが室内を支配。


「…それが起源の会談に対する態度か…キメて出席するアホがどこに居る」


「あ? 地獄の王に態度の指南ってか? クソ笑えるなーシイナ?」


 ユダの着席と同時に周囲の形相が捉える。

 ユダの席に赴くシイナの存在にだった。


「枷はどうした?」


 そう言ってゼウスの眼孔が際立つ。


「ああゼウス様」


 ユダは咲いながら足を組み、特別招待だと告げてこの場の怒りを収めていったが、ほぼ説明を聞いていないであろう合否の判断に移っていく。

 進行人はゼウスを指名した。


「否。アイ、トト、イブの主張は正しい。故に推薦者の虚言、もとい匿名とあらば決断の余地なし」


 続いてアイ、トト、イブ、エルの判断もゼウスに習う。

 この時点で九つの票の内、五つの否決に吐息を漏らすリオン。

 既に決まった判決に進行は続く。


「優しいとは実に抽象的だ。半端な粋では国を衰退させる要因となるだろう…だが啖呵を切った懐に好感があった。情熱には良くも悪くも前進のエネルギーが込められる。相手を思いやる優しさと受け止めこのオーディンが賛成だ」


 朗らかに笑うオーディンにエルヴィの目が潤む。

 リオンは号泣した。


「我はラー。いかなる時にも人々を照らす知恵が好きだ。レリアスを領域文明へ推す」


「私はメラク。感情の視る自然的光景に心地良さを感じた。上に立つ資質が培われているし、いい影響を齎して欲しい」


 オーディン、ラー、メラクの支持によって三つの票がレリアスへ与えられた。

 噛み締めるかのエルヴィにユダが一言。


「賛成」


 刹那。否決側から遺憾の念が降り注ぐ。


「いい加減にせんか…会談を聞いていない愚かものに…票を入れる資格がどこにある」


「ほら、熾天使になった実績あるだろ? あんな難関突破出来る環境なら、オーケーしょ」


 ゼウスにユダ。

 更には「遅刻然り失礼が過ぎている。極めて不快だ」とフェレットルがテーブルへ乗り上げそうになると、トトが不本意にも止めに入りながら。


「安らかな眠りはユダの機嫌に掛かってると言っていい」


 トトによって収まる。

 が、フェレットルのエネルギーがテーブルに亀裂を生む。

 物質的に存在する最高の強度が、レリアスという国家単位でお目にかかれないそのテーブルに背筋が凍るエルヴィ、リオン、また目が覚めそうになっていたハイロンに進行人は愛嬌を込め。


「四票の獲得です」


 エルヴィが苦い笑顔で返していた。

 まるでこれでいいのかと顔に書いてあるみたいで、可決がされないのだと肩を落とした。

 しかし「四票」と呟くあたり、支持を得ていた実感に満たされていた。


「遅れました、ゴボ」


 イオ、ディアが現れる。


「イオ…」


「叔父様、この度は誠に反省しております」


「よい。多忙な者に全てを完璧にこなせと言う方が無理ある。しかし体調には気を遣え」


「心得ます。皆様にも深くお詫び申し上げます」


「いえ、水が行き届くよう大変でしょうに」


 エルに気遣われながらイオ、並びにディアの出席で十一の王座が揃う。

 領域文明として投票権を獲得するイオに、ゼウスとユダの一連然りレリアスの功績を説明する訳にはいかず。


「イオ様、投票をお願い致します」


 進行人が続ける。

 何も知らされずに票を入れるというのは、王として、アトランティス全体の責任を伴うという状況。

 とはいえ初めて伺うレリアスの三名に、一人は泥酔している。

 本来なら迷わず指摘し、会談を乗り切るのが無難だが。


「なあゼウス様。アトランティスの一票が入った場合、五対五で新たに議論が進む。けれど我々の大事な資源の在りかに議論が長引けば体に響いちまう。領域文明入りの議決はこの一票で決めないか?」


 ユダのそのような提唱に権限者達の火が走る。

 長年の会談をよりにもよって礼儀知らずが異議してると、取り返しのつかない事態に発展し。


「よかろう。だが進行人よ。イオにこの会談の経歴を簡単に教えてやりたい。票の合否と名を伝えては貰えぬか? みなもどうか?」


 数多の火が団結力を生み、語り掛けるゼウスを支持した。

 進行人がイオに現状の票、合否を唱える。

 こうしてユダの軋轢を活かすゼウスには、絶対の支配欲がある。

 人が集まり、熱が篭れば理があると気付かれる事なく、意のままに操る術は既に完成され。

 それがゼウスの尊厳。

 全知全能とは、何も知らないものはない完璧の存在にして、反抗など以ての外だと、誇りを踏みにじるユダに敗北を知らしめる動機がある。

 現にゼウスには多数の支持が上がり、ゼウスの票はレリアスを領域文明へ入れないと示している。

 この場合、レリアスを領域文明へ上げるユダの意志が皆に強調され、進行人の説明はイオに後押しする。

 半数がレリアスの領域文明入りを望まないのだと、加えてゼウスはイオの叔父。

 可愛がって来たこの叔父に叛くなど、無いと思っている。

 イオは泥酔のハイロンを眺め、リオンへ、そしてエルヴィに目を配った。


「何故か懐かしいものが感じられる。貴殿達をその様に導いた師を名乗ってはくれないか?」


 イオが着眼するエルヴィへみなの注目が集まった。


「アレイオン様です」


 刹那。場が凍り付いた。


「ブッ。ハハハ!」


 ユダの高揚が室内に馳せ、ローズルがオーディンに尋ねた。


「アレイオンという人を私は知らない」


「ポセイドンのせがれだ」


「ではアトランティスの権限を支配している?」


「介入はしていないと聞くが?」


「ええ」


「何を凍り付く理由が…」


「ポセイドンの後継者にし、全ての能力を有している。一説には大地が消滅する、八次元げんてんまでの生命権限者と謳われる。神の領域では眠られた暗黙となっているが、逆鱗の活動領域に達すれば自然的起源の半分が崩壊する」


「…めちゃくちゃ怖わ‼︎」


 ローズルに言い聞かせるオーディンの説明は、史上唯一黙認された叛逆を彷彿させる。

 更にダメ押しが加わる。


「理屈ばかり翳していると、地雷踏むぞ」


 ユダの声に真っ向からトトが告げ出す。


「ゼウスの勝利だ。揺るぎない真実である」


「ッハ。その割にテメーら様は調和の相棒に瀕死だったよな?」


「誰が、瀕死だ…」


「だから…起源共の風情に生きてるつう革命きせきなんだ。最高神…俺らにはその老いが一目瞭然だぜ」


 ゼウスの髪が靡く。

 最も大衆よりも尊厳に関わるこの場に、皮膚が真っ赤に染まっていた。

 また、負が負を呼ぶ様に、誰しもが遭遇する不幸の追い討ちは、最高神でさえ血走った。

 それはシイナの罪に対する枷の話し、


「シイナ様は今後生命に仇なすもので無いと我々精霊位が正式に下し、枷を外す決断となりました」


 枷とはゼウスの取り決めにより、恥として抑圧していたものやイオの投票はレリアスの領域文明入りを支持し、


「では無数的広大な方角の活躍によりよい尊厳へあらんことを」


 会談は幕引きした。

 それら話を、ハイロンを介護しながら宮殿で聞いた。

 リオンは民達に伝え回ってる様で、俺は安心して継承できると喜んだ。


「ですが、決め手はアレイオン様の名を告げた所にあります」


「本当に大丈夫だったか?」


「もちろんです。あとユダ様が異様に怖かった、何というか…かっこいいんです」


「エルヴィだって男前じゃん」


「えと、意思の恐怖と言いますか…あの会談を通じて分かったのが、私なんか手も足も及ばない領域なんだと」


「ん。ま確かにユダは熱い奴だ。けど手も足も及ばないは違うぞ? 上にいる者達と話す経験を知って欲しいっていうのは、上にいる者は細分化に長けている。成果を出す必要な分析なんだが、つい権力者に口頭されると萎縮させられたりするものだし。ユダの様に一見自由に君臨してる裏には、思慮深い理念の持ち主だったり。逆に広い視野に優れていたり、透視に長けていたり、一概にこれが正解とは言えない領域なんだ」


「実感致しました。それで継承の件につきまして…」


「ん?」


「この度。私は神々に喰らい付いてしまいました。到底勝てないであろう神の領域に…そしてこう思うのです。アレイオン様から力を譲り受ける今宵、長である私はもっと強くあらねばと」


「うん!」


「国王を心して全うさせて頂きます。付きましては、尊厳の継承を辞退致します」


「…」


「…」


「へ?」


 聞くとこの会談を通し、俺の力を振るえる器ではないと痛感したと。

 またリオンと既に話し合ったらしく、民達にもそう伝えて貰ってるそうで。


「いやいやいや…」


 諦め切れず、今一度俺目線で伝え直していた。

 尊厳の継承とは、神々と渡り合うには、どこまでいっても力が支配している事実について、一杯話して深夜になった。

 七色の灯りが立ち込め、祝福の酒が交わされる民達と共にエルヴィの演説を眺めていると、ニヤニヤしながらリオンが迫ってくる、から。


「そんな訳で、俺の行いは至る所で黙認されてるが、憶測は合ってる。知らなくていいものを…」


「しっし!」


「母から聞いたろう?」


「さあどうでしょう?」


「大図書館の出没情報が時折耳に入る」


「確かめに行きませんか?」


「行く目的がない」


「デートしましょ」


「想像すると地獄だ…」


「シオン様のお母様に助言されました。諦めなければ恋は実ると!」


「実らすな。てかどんな話ししたらそういう展開になるんだよ」


「孫が見たいの〜って言われまして、僕の長所は健康ですと緑茶をすすりました」


「なあ、縁を逃す人生を送って欲しくない」


「いいえ、死ぬ前に後悔したくありません」


「だから活動の生命が違うし結婚出来ない! 異種なの異種!」


「いつか剣士の神になります」


「あーそうかい…もういいわ! 勝手にしてくれ!」


「あられもないお婿の姿にしてみせます」


「どうやって…」


「調教本に飴と鞭の使い方が大事と知りました」


「ね? そういう本がある事自体誰に教わった?」


「お母様です」


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