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傷の跡が穏やかに咲いていく。  作者: 神崎蒼葉
二章 少年と出発したまじめで愉快な精霊
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暗黙

 発車した馬車内で魔王と対面して、目を瞑る銀髪の男は隣に座っていた。


「改めまして魔王のシンクです」


「ども…シオンと申します」


「シオンさん。ご趣味はありますか」


「趣味は読書。です」


 視界にはしとやかな印象の奥に少女の様な情緒を感じつつ、宿屋の外で不穏な魔力が漂っていた人物達。


「魔王。おたわむれは。所で貴殿きでんは」


 さっきまで目を瞑っていた男の声、姿勢はこちらにあった。


「シオン殿。俺は魔王の側近だ、護衛を預ける前にいささか気になっていた」


 視界がかすむ。耳にふたをされてるかの聴力となって筋肉の強張りが映る。


「魔力が感じ得ないのだが、その身で何ができる?」


不躾ぶしつけよ、私が決めた事に不服でも?」


「いえ。ですがの者は武器を所持していないどころか戦士特有の痕跡こんせきが見受けられない。服装は薄着で装備とも呼び難い」


 そう側近と魔王の会話は理解より早く進んでおり、俺は声を上げた。

 それは魔力を抑えてと言った所で体が崩れていく。

 一面は真っ暗で静かになった。

 頭には意識が流れてきて、俺は魔力をめていた。

 魔力が青になる感覚が気掛かりで、その事を思い出す。

 なんだが走馬灯の様な意識から目を覚ました。

 カーテンのあるベッドでふぁぁと伸びてたらそばに手紙があり、体調は如何いかがでしょうか。具合が良くなってる事を願います。魔王より。

 との事で、周りを見るとシャンデリアに照らされる緋色ひいろ絨毯じゅうたんや羽根ペンが立て掛けてある机に数冊の恋愛本が並ぶここは──魔王城?

 ドクロ飾ってあるし。

 何でこうなってるか分からない。

 確か魔王の護衛とかで連れて来られ、それで今こうなって。


シイナ(アイツ)……!」


 部屋の扉が開く。

 体が震える俺は机で水を注ぐ魔王の所に向かった。


「なんのつもりですか」


「いえ。お水です…」


 コップを差し出す魔王へ口にしていた。

 二の舞を起こさないよう、これら動機に反して音がした。

 コップの水面が揺れており、魔王から魔力は垂れ流れている。

 また、暗い表情と垂れ流れる魔力が相応に一致しない、そう思っていたら水を喉に通していた。


「体調が悪いと聞いていましたので」


 故意的な支配でなく文化の違いなのか。

 綺麗な目と合わすと震えが増す。

 目を瞑った。


「好調です」


 そう言って気を緩めれば震えてしまう。

 薄目に映る魔王は紡ぎ出した。


「昨日来たばかりと伺っています」


「…この地の事は…分かっていない所存です」


 漠然とした不安、これらが積み重なった結果が今なんだと感じるし、意識し出す程本質に迫るという間違い探しの様に抽象的な恐れや、漠然と砂漠の上にいる儚さすら控えめな虚無感に苛まれる。

 本心では懸命に生きてるつもりが失敗だった。


「ある程度の事情はシイナさんから、きっと慌てると思いますと…魔王城に来て頂いた理由は私から説明するつもりです」


「あの。ここに来る前、シイナは貴女の護衛と言っていました」


 俺は小声で聞いた。

 冷静にいればいる程聞き間違いに感じるし、失礼かもしれないし、でもみんな言ってるから関心があるんだと思うし、見れば見るほど綺麗な容姿だし。

 とことん苦手だと意識してると淑やかに「そうお伝えしています」との事。

 また、勇者により壊滅状態と補足され、話題の誘導は成功した。

 成功とは見知らぬ土地で役に立つ重要な事と友達が言っていた。

 確か格上の存在は貪欲に知るべし、らしく。

 俺は続けた。


「貴女に対抗出来る勇者はどれ程の強さですか?」


「……それは、勇者特有のスキルが最近になって強力に。いえ、進化の方が正しく。魔物は未知のスキルで絶えていき、私が出張った結果は追い返すのが限界でした」


 魔王はひしひしと情緒を押し込めながら話していた。

 その中で震えが止まった。

 今対面してる相手を理解できた気がした。

 悪人は嘘が方便だし、食い違いを如何に許容し利用し合うかが生き残る秘訣だった。

 ただ魔王という呼称に悪と認識していたからか、悪だから魔王となるのか、この人を意識すると混乱する。

 落ち着こう。

 元は勇者の追求で身の危険に対応すべく情報を収集、拠点の確保だったり今後の生活水準と生存率の向上。

 あと仲間も欲しいな。

 ああ。そういうことか。


 ──今の向き合い方が変わった──


 頭がすうっとする。

 この後の未来を考えると。


 ◆あの頃のように◆


「失礼。手を出して頂けますか?」


 切り替えた表情が映る。

 以降。微量に揺れて伝う魔力と共に、幽玄ゆうげんとした声で魔王は唱えていった。


(かえ)()け、馴化(じゅんか)変幻(へんげん)せよ。脈動(みゃくどう)(うつ)りゆけ、風見鶏(かざみどり)のよう一度(ひとたび)優越(ゆうえつ)(われ)のマナをわけ(あた)()(あふ)れよ〟


 声に作用する魔力が風を創り、オーロラの背景を持って差し出す手に手を添える魔王。

 オーロラが青に変わる。

 魔王の魔力は闇の系統。

 それが手を通し変換され、青い魔力がみる様に満たされる。

 見開いて、戸惑いつつも全身を見つめる目頭が熱くなっていく。


「やはり、シオンさんから魔力を感じないんですね」


 魔王に涙が零れた。

 満タンの魔力が全身を駆けて、自分の魔力が肌で感じる。

 無理と思っていた。

 疑っても肌で感じ取れて、それで、一体どうして。


「私の魔力を変換して与える二重言霊にじゅうえいしょうです。多少私色の魔力が含まれていますから扱いには気を付けて下さいね?」


 俺は人差し指を口に添える魔王に感謝した。

 全身に駆ける無邪気さに灯される様だった。


「シオンさんは笑顔が似合いますし、同じ碧眼同士。睨まれると怖いのです」


「あっ…はい」


「間も無く奥の間で食事会があります、そこでお話を聞いて頂けますか?」


「はい」


「それと、さっきのシオンさんはかなり恐ろしかったです。それでは」


「はい?」


 淑やかに席を外した魔王に首を傾げていた。

 それに、さっき何か大事なもので満ちていた気がしたが、いっか。

 いや…。


 ◆これが本当の魔力だったのか?◆


 そう思うと、ぐるぐる回ってるかの視界や知らない声達から聞いた事ある声が掛かった。

 剣を床に置いている側近だった。


「シオン殿。先程は無礼を申してすまない、体調不良とは知らなかった」


「あの。意識が無くてほとんど記憶にないですし看病して頂けて助かりました」


「はっ。それと申し遅れた、俺はシュタラ。好きなように呼んでくれ」


「分かりましたシュタラさん…聞きたい事があります」


「うん、食事なら直ぐだ、案内し……?」


 俺のお腹からゴロゴロと鳴り、シュタラさんは続けた。


「早ければ惣菜の盛り合わせが済んでいる」


「ええ」


「その後に主食を一番に出す様頼んでおこう」


「ありがとうごさいます、それで」


「苦手なものはあるか?」


「い、いえ」


「緑の惣菜か?」


「こう見えて大食いなので、大…丈夫…それで」


「飲み物に好みがあればシェフが用意してくれる。何かあるか?」


「えと、えと、乳製品以外であれば!」


「うむ、承った。所でお腹を摩っているのはどうした? 結構な響きに聴こえるが。落ち着かないなら急いだ方がいい」


「だから急いでトイレの場所教えてよ‼︎ 漏れるて‼︎ 何で気遣い出来る紳士が分からないんだよ‼︎‼︎」


 そうして聞き出した道を疾走した。


◇◇◇


 奥行きのあるテーブルが沢山ある料理一杯の広間で魔物達とすれ違う。

 迷いなく着席したり周回する魔物を観察してると指定席なんだと思い、空席を頼りに歩いてると大きい影に覆われた。


「おい。新入り」


 …。

 ……。


「でか⁉︎ 」


 人の形をした大岩、ゴーレムという種だろうか。

 また俺の事か聞くと「ああそうだ、新しい奴が来るって伝達合ったし見かけない顔だ」との太い声に魔物の視線が集まる。


「そこ。肉料理の席が空いてるだろ? 食おうぜ!」


 テーブルに湯気の立ったステーキが並ぶ。

 椅子を引くゴーレム?に聞いたら自由席の様でお礼を言い座った。


「おうよ。今日はサプライズがあるってらしいぜ。俺はアメジストってんだ、よろしくな」


 アメジストの気さくな振る舞いに名を返していたら隣の椅子がきしんでる。


「サプライズって何?」


「おう? ええっと。んん。うん。あんま分からないけどよ、そこの広場で力を披露するって奴だな」


 目線に石を埋め込んだステージが全席から観戦できる形であった。


「度胸すご…」


「他人事じゃないかもしれないぞ?」


「指名制なの?」


「そうだ」


「新人いびられるの?」


「ああ」


「帰っていいですか…」


 そうは言ったが家はないと実感する。


「昔の話しだ。それにみんな可愛がってくれるはずだ。まああそこに立つ機会は来ないと思うぜ?ここでやっていくからには要らん心配は体に毒ってもんよ! 飯食おう……ぜ?」


「よかった」


「凄ッ」


 俺は五皿目の肉を口の前で止めていた。

 ホークに刺す柔らかい赤身を観察した。


「美味いねこれ? 何の肉?」


「なんだろうな…!」


 広間の灯りが弱くなる。「食休みには丁度いい頃合いだ」と小声のアメジストに習って広間の奥を迎えると「今日は私の意に集まってくれて感謝する。途中名を呼ぶ者があるが、食事しながら聞いてくれ」との魔王やシュタラさんの登場で忠実な魔物達の中に俺はいる。

 今、魔王城に居ることを実感した。

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